定点調査コラム「生活者のメディアを見る目とこれからの関係性」~新美上席研究員

フェイクニュース、ポスト・トゥルースが社会問題化して以来、生活者はメディアから発信される情報をどのようにとらえ、どのようなメディア行動をしているのだろうか。

「情報は無料であればよい」とは思わない

まず「気になるニュースは複数の情報源で確かめる」を見てみよう。東京では約7割(65.5%)、大阪・愛知では約6割(大阪55.9%、愛知55.3%)、高知でも半数近くが(48.3%)「気になるニュースは複数の情報源で確かめる」と答えている【図1】。

【図1】

生活者は複数のメディアを使い分け、あるいは組み合わせて情報を収集し、自分自身で情報の真偽を確かめているようだ。生活者のメディアを見る目が厳しくなり、情報を吟味するようになったことより、生活者にメッセージを届けるメディアや企業など情報の送り手にとって緊張感のある時代になってきたと言える。

生活者はメディアからの情報を冷静な目で見ている

次に、メディア定点調査のやや刺激的なデータをご紹介しよう。「マスコミが伝えないことをインターネットは明らかにしてくれると思う」人は、東京では約4割(39.3%)、東京以外の地域でも3割前後(大阪33.9%、愛知34.1%、高知28.6%)いる。但し、これはマスコミの情報の真偽はインターネットが明らかにしてくれるという単純な構図ではないようだ。何故なら、「インターネットの情報は、うのみにはできない」と考える人は、東京では8割、東京以外の地域でも7割前後(東京79.3%、大阪71.7%、愛知74.2%、高知67.2%)と多いからである。

フェイクニュースがSNSを中心に発信・拡散されることを考えると、この結果はごく自然なことだと頷ける。「メディアを通じて報道された誤った情報を、信じてしまったことがある」人は3~4割(東京40.0%、大阪35.7%、愛知38.0%、高知27.5%)。

マスメディア発であれ、インターネット発であれ、生活者は情報をうのみにしないで、冷静にとらえようとしているようだ。インターネットに対する猜疑心やメディアの誤報を信じた経験はいずれも東京が最も高い。都市部で高く地方で低い傾向にあり、地域によってメディアとの関係が異なる様子が伺える。しかし玉石混淆の情報が溢れる現在、情報の真贋を見分ける目を養い始めたことはメディアにとってのチャンスになりうる。「情報やコンテンツは無料で手に入るものだけで十分だ」がいずれの地域でも年々減少していることが示すように、生活者は自分にとって価値ある情報に対価を払うのはあたりまえだと思い始めているようだ【図2】。

【図2】

生活者に真摯に向き合い、情報を選ぶ決定権を持っているのは生活者であるということを念頭におくことによって、メディアや企業など情報の送り手は更に生活者と良い関係を築いていけるのではないだろうか。

新美 妙子
上席研究員
1989年博報堂入社。メディアプラナー、メディアマーケターとしてメディアの価値研究、新聞広告効果測定の業界標準プラットフォーム構築などに従事。2013年4月より現職。メディア定点調査や各種定性調査など生活者のメディア行動を研究している。「広告ビジネスに関わる人のメディアガイド2015」(宣伝会議) 編集長。

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