みんなのスマホ生活コラム<第1回>

日本、そしてアセアンでも!スマホで広がる「情報引き寄せ」

メディア環境研究所の野田です。本コラムでは、今や誰もが当たり前にもつようになり、コミュニケーション、情報収集、そして生活ツールとして幅広く活用するようになった「スマホと生活者」をテーマに連載します。

第1回目のテーマは、スマホ・ネイティブの新しい情報のとり方「情報引き寄せ」について、日本とアセアンの動向を取材しました。

興味のある情報が“必要になる前に”手元にあるようにする =「情報引き寄せ」

日本では、情報が多すぎる世の中を賢く生きる10~20代のいわゆるスマホ・ネイティブたちを中心に新しい情報のとり方が生まれていることがわかりました。彼らは、都度必要な情報を検索するのをやめました。そして、わざわざ探さなくても、自分に興味のある情報・必要な情報が自然と入ってくるように巧みにスマホを活用しはじめています。この行動を私たちメディア環境研究所は「情報引き寄せ」と名付けました。
情報引き寄せには大きく2つの方法があります。

「とりあえずためる」

気になる情報は忘れないように、スクリーンショットやSNSの保存機能などを活用してとりあえず手元にためています(図1)。街中のイベントやポスターなどスマホの外の情報も気になれば写真にとって保存することも多いようです。この「とりあえずためる」行動は若者に限らず幅広い年代層がすでにスマホでやっている情報のとり方です。スマホ・ネイティブのインタビューでは「大事な情報はすべて画像フォルダにためています。オフラインでも見返せるし、これ1つで複数のアプリを探し回らなくていいから便利!」と情報収集の知恵として話してくれる人もいました。

「自然にたまるようにする」

もう一つが、自分の興味のあることの最新情報が「自然にたまるようにする」という行動です(図2)。自分のこれまでの視聴履歴やSNSで「いいね」した履歴に基づいて、表示される情報が最適化されるアルゴリズムを逆手にとって活用しています。これは今若者から始まりだしている行動です。

スマホ・ネイティブたちのインタビューの中でこんな話をしてくれた人がいました。「私は、かき氷に興味があって、その最新情報を効率的に集めるためにやっていることがあります。インスタグラムで投稿されているかき氷の画像をとにかくたくさん“いね”するんです!するとフィードに自然に集まってくるようになるんです。」

必死に情報を集めるのではなく、軽やかにタップして引き寄せる姿はまさにスマホ・ネイティブのスマートな情報過多時代の知恵といえます。


では、アセアンの生活者も「情報引き寄せ」をしているのでしょうか?

アセアンの生活者の様子を「博報堂生活総合研究所アセアン(以下HILL ASEAN) 伊藤祐子研究員」に伺いました。

野田:伊藤さん、こんにちは。日本ではスマホ・ネイティブを中心に、自分にとって興味
味のある情報が自然と集まるようにする「情報引き寄せ」の動きが見受けられます。
アセアンの生活者はどうですか?

伊藤:こんにちは。もちろん「情報引き寄せ」はしています。HILL ASEANからは、特にアセアン生活者ならではの「情報引き寄せ」についてお話します。
先日までアセアン6か国(タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、ベトナム、フィリピン)のHomeVisit調査を行ったのですが、各国の生活者も「情報引き寄せ」を実際に行っていました。

ほしい商品はとにかくクリック!お買い得情報を引き寄せるアセアン生活者

日本との違いは、ずばり「プロモーションや”Flash sale”(タイムセール)」などの「お買い得情報狙いの引き寄せ」が多い、ということです。

インドネシアでインタビューをした、旅行が大好きな専業主婦。
彼女は、FacebookやInstagramで出てくる「旅行」に関する広告(広告主は旅行代理店や航空会社など)を日頃からクリックをしたり「いいね」を押すことで、自分が行きたい旅先のツアーのプロモーションや、航空券の値引きセールなどの広告を頻出させることを狙っています。実際に彼女は、割引航空券の広告を「引き寄せ」、その広告から航空券を購入したことがあるそうです。

マレーシアでインタビューをした、オンラインショッピングを頻繁にしている子持ちの有職女性。家庭で頻繁に買う日用品は「底値で買いたい」という気持ちが強いため、オンラインストアの「ウィシュリスト(または「買い物カゴ」)」によく買う商品を入れておき、店舗からの「値引き通知」を待ちます。この時に、ウィッシュリストに入れていた商品の「類似新商品のプロモーション」にも期待しているそう。
新商品を知ってお買い得に試してみたい、気に入ったらまた使うかもしれない。新商品にも門戸を開き、積極的にトライアルしています。
彼女のスマホの画面には、沢山のプロモーション通知が表示されていました。Flash saleの通知が来れば、時計のアラームをかけてセール開始の時間を待つこともあるそうです。

以上に挙げたように、彼らは広告をクリックしたり、ウィッシュリストに商品を加えることで、「私はこの商品が欲しいんです!」と、広告主側や店側にアピールする行為を意識的に行っています。日本とは異なり、まだまだ欲しいものが沢山ある、購買意欲が高いアセアン生活者。「お買い得なものが欲しい」という欲求ベースではありますが、彼らは広告や企業側からの情報を「自分たちにとって有益なもの」として利用かつ享受し、上手に付き合っている様子が伺えます。

野田:日本とアセアンでみてみると興味がある情報であれば広告も積極的にクリックして「こういう情報をください!」と主張し、情報を引き寄せることは共通していますね。さらに「情報」だけではなく、買い物のお得な「時」までも逃さずに引き寄せているんですね。以上、デジタル化が進むアセアンの「情報引き寄せ」でした。


 

 

野田 絵美EMI NODA
博報堂DYMP メディア環境研究所 上席研究員
2003年、博報堂入社。マーケティングプラナーとして、食品やトイレタリー、自動車など消費財から耐久財まで幅広く、得意先企業のブランディング、商品開発、コミュニケーション戦略立案に携わる。生活密着やインタビューなど様々な調査を通じて、生活者の行動の裏にあるインサイトを探るのが得意。 2017年4月より現職。生活者のメディア生活の動向を研究する。
伊藤 祐子 YUKO ITO
博報堂生活総合研究所アセアン ストラテジックプラニングディレクター
2003年博報堂入社。マーケティングプラナーとして、トイレタリー、自動車、飲料、食品、教育など幅広いクライアントを担当。生活者を深く見つめるインサイト発掘起点でのコミュニケーションデザインに加え、データマーケティング業務も多数実施。また、「働く女性」を研究対象とした社内シンクタンク機関「キャリジョ研」を発足し、社内外に女性マーケティングに関するナレッジを提供している。2018年4月より現職。

※掲載している情報/見解、研究員や執筆者の所属/経歴/肩書などは掲載当時のものです。