「メディアイノベーション調査2018」からみる、日本と各国の比較【2】前編 ~博報堂生活綜研(上海) 包さんと考える、日本と中国の比較~

生活者目線で新しいプロダクトやサービスを語ってみたい。このコラムでは、メディア環境研究所が2018年に日米中タイの4カ国で調査を行った「メディアイノベーション調査2018」(ご参考:プレスリリース)の結果について、各国に詳しい方に語っていただきます。第2回は上海在住、博報堂生活綜研(上海)の主任研究員、包 旭(ホウ キョク)さんに、メディア環境研究所の小林が中国の結果について日中比較も交えてお聞きしてみます。

中国の社会問題をテクノロジーで解決したい

メディア環境研究所 小林(以下、小林)
包さん、こんにちは。どうぞよろしくお願いいたします。今日は、「メディアイノベーション調査2018」で行った「生活を変える55のサービス」について、各国の興味度ランキングをベースにお話しをうかがいたいと思います(図1)。
前回、日米比較を行ったのですが、今回、日中については10位以内にランクインしている項目が結構違うなと感じています。日米では「VR×医師の診断」はランクインしていましたが、中国では1位により専門的な「VR×高度な手術」が入っています。2位には、日米ではランクの低かった「支出動向を予測し、自動的に口座移動」。そして3位には「ドローンによる高齢者・子供の見守り」が入っています。ドローンが10位以内に2件ランクインしたのは4カ国で中国のみです。初めてこのランキングを見てどう感じられましたか?

■図1:生活を変える55の新しいサービスに対する各国の興味度ランキング トップ10

※「生活を変える55のサービス」各国ランキングはこちら

博報堂生活綜研(上海) 包(以下、包)
まず、リアルだなと思いました。中国では、さまざまな社会問題に対して今のサービスをテクノロジーで解決しようという意識がみえます。特に、医療、高齢者の面倒、教育などが関心の高い3つかと思います。
はじめに医療ですが、中国には日本のような個人経営なクリニックがあまりなく、国が運営している大きな綜合病院がほとんどです。そうすると何が起こるかというと、リソースは限られているので、1級都市(※)はまだ良いですが、2級、3級都市に行くと良い先生が少ないです。すると、2級、3級都市の人でも1級都市の病院を受診しにきます。それが病院内の混雑を招き、病院が回らなくなっています。なぜ地元の病院を受診しないのかと、地元の人と都市部の人がライバル関係になっています。そこで、遠隔手術が実現できれば解決できるのではと思われています。
※1級都市…北京、上海、広州などの大都市

小林
風邪などの症状では病院に行かないのですか?それは診療代も関係しているのでしょうか。また、薬の24時間宅配が行われているとも聞いたのですが、日本のように処方箋は必要ないのでしょうか?


風邪では病院には行かないですね。病院は基本2~3時間待って、先生とは3分だけ話して帰るみたいな感じなので、先生が日々診ている患者数は相当多いはずです。また、診療代は保険に入っていれば高くはありません。がんの薬などは輸入品が多く保険対象外なので、そこはお金がかかりますが、やはり時間の問題が大きいと思います。薬は、日本のように厳しくないので処方箋や診断書がなくても買える状態です。日本だとまず一回、先生に診てもらい処方してもらう必要がありますが、中国だとそこまで重症な病気でなければ必要ありません。中国のドラッグストアは配達サービスと連携しているので、アプリで最寄りの薬局から届けてもらえます。熱が出たときや、おなかが痛いときなどはみんな使っています。赤ちゃんの薬が夜中に必要になって届けてもらったこともあります。

中国のドラッグストアは配達サービスと連携。アプリで最寄りの薬局から届けてもらえる。

小林
24時間、処方箋なく薬が届くのは便利ですね。日本ですと薬機法(旧薬事法)の規制があって難しいかもしれませんが、軽い風邪だと病院に行って逆に病気をもらってしまうこともあるので、しんどいなか診察の必要もなく家まで届けてもらえるシステムがあればとても便利だと思います。

高齢者や子どもの見守りは切実

小林
次に高齢者のお世話や介護も、関心の高い社会問題とのことでしたが、こちらはどういう状況なのでしょうか?


高齢者のお世話については、直接そばにいてあげたいけれど、実際には遠隔カメラやGPS付きの腕時計などの新しいサービスがよく使われています。日本と違い、中国では一人っ子政策が長らく行われてきたので、2人の夫婦が4人の高齢者の面倒を見なければならず、自分たちだけで介護するのが大変な状況になってきています。介護施設に入れるのもよいですが、数が全然足りていないし、保険も効かず、施設の質が今ひとつです。例えば、質の良いおむつは日本製で高いので、施設ではもっと安いものが使われていたりします。質が良いといわれる個人経営の介護施設もできてきていますが、こちらも高いです。

小林
中国では核家族が多いのでしょうか?それとも親世代も一緒に住んでいるのでしょうか?


上海だと80后(80年代生まれ)において、親と一緒に住んでいる人が約6割、地方だと感覚的にもう少し一緒に住む傾向が高いですね。価値観が変わってきているので、親世代は一緒に住みたいけれど、子どもたちは別々でいいのではないかという意識をもっています。

小林
それが、高齢者の見守りにつながるのですね。介護の一歩手前のようなサービスが求められているのでしょうか。


遠隔カメラで常に監視できる状態にないと、鍵を忘れたり迷子になってしまう高齢者は実際にいます。また、子どもに関しても、幼稚園に監視カメラがないと先生が子どもをいじめる事件があったりと社会問題になっていました。なので、今は監視カメラを設置する幼稚園が多く、親がアプリで見られるような状態になっています。監視カメラの設置が生存に関わる問題なので、ふつうのことになってきています。

小林
日本は離れていても子どもやペットなどを見ていたいという理由で遠隔カメラを設置する人が多いですが、中国では切実な問題なんですね。中国で新しいサービスに対する興味度がこれほど高い理由もやはり社会問題に直結するからということかもしれませんね。

新しいものは、取り入れなければ、取り残される


社会問題に関わらず中国では新しいサービスへの興味度が高いです。3つ切り口がありまして、1つ目は、生活者の意識がそもそも違うということです。データから見ても、自分の将来が明るいと思う人は中国では99%です。日本では60%です(図2)。

■図2:自分の将来イメージ:明るい(中国、日本)

出典:博報堂Global HABIT 2017(中国)、博報堂生活総合研究所「生活定点」調査2018(日本)

なぜかというと、中国はこの20年間ですごく発展し、毎年給料が上がり、生活が改善されていくので、新しいものに対して関心が高くなる傾向があります。新しいものを取り入れなければ、生活が改善しないとみんな思っているのだと思います。経済が上昇してからなので、この20年間くらいで特に強まってきた傾向ですね。
また商品やサービスだけでなく、世の中の新しいことに常に関心をもっています。昔は計画経済だったので、決められたものしかなく、あまり差がなかったのですが、今は新しいものを自分の力で手に入れられるようになったので、みんな頑張って新しいものを買おうという感じになっています。
株や不動産も“早いもの勝ち”という意識があり、市場が未成熟な状態で参入すれば、成熟したときに利益が出て儲かりますが、だんだんチャンスがなくなります。

小林
株や不動産だけでなく、新しいサービスはとりあえず何でも取り入れた方がよく、どうなるか様子をうかがっていてはもう遅いということなのですね。


そうです。中国には、「撑死胆大的,饿死胆小的」という“度胸があるひとは儲かる”ということわざがあり、常に前向きでいようという意識があります。最近の不動産でいえば、5年前に買っていなければ、2~3年後にはもう買えなくなっているという…リアルですよね。
次に2つ目の切り口は企業です。例えば、配車アプリは1~2年前まで2~30社あり、各社、約30元の料金が3-4元になる割引クーポンを配布していました。そのため早く普及したものの、企業が儲かるビジネスモデルになっていません。今では配車アプリは一番有名なDIDIを含め2社しか残っていませんし、シェアバイクの大手MOBIKEも去年買収されました。こういうことがたった1、2年で起きています。
企業や経営者の目的は、まずユーザーを増やすことで、ファンを増やしたら買収口を探します。自分のサービスでは儲かると思っていないなか、どう消費者を見つけて確保するか、そこでうまくいけば、企業が買収しにくるという世界です。

小林
株や不動産は早いもの勝ちというのが、2位にランクインしている「支出動向を予測し自動的に口座移動」にも直結しているのでしょうか?


中国ではそのようなサービスが既にあるので、実感があるのだと思います。「余额宝(ユエバオ)」というAlipayの預金サービスは、チャージしておくだけで利息がつきます。一般の投資サービスだと、1か月~1年と長期の期限設定があると思うのですが、「余额宝」だと3日間で利息がもらえるんですよ。給料の自動振り込みとも連携していて、みんな給料をまずAlipayに振り込み、ある残高を超えたら「余额宝」に振り込むというシステムがもうできているので、みんなわりと簡単に使えるんです。中国人は投資に対しての意識が高く、仕事をせず投資して儲かりたい人が多い。極端にいうと、理想の生活は利息で生きていくことです。日本だとみんな60歳くらいまで働きたいじゃないですか。データ(図3)で見ても、日本と中国は真逆で、日本は60歳でも働きたいのに対して、中国は早めに退職したいという違いが出ています。何もしなくてもお金が入ってくるのがいいという意識が強いことの現れですね。

■図3:希望リタイア年齢(中国、日本)

出典:博報堂Global HABIT 2017(中国)、博報堂生活総合研究所「生活定点」調査2018(日本)

小林
Alipayのサービスは、今月は余裕があるから投資しようというのが自動でできるものなのですか?
日本だと投資をしようとすると口座開設にはじまり、手数料もかかるのでハードルが高いですよね。中国ではそこにAlipayが入ってきている点が、ハードルを下げているんですね。

★後編へつづく

プロフィール

包 旭
生活綜研(上海) 主任研究員
2013年日本の大学院を卒業後、中国へ帰国し、その後博報堂生活綜研(上海)に入社。社会環境の変化が激しい中国における生活者の行動、欲求を中心に、日々の研究活動を行っている。コンセプト開発、市場調査、書籍制作などの業務を担当。
小林上席研究員
小林 舞花
メディア環境研究所 上席研究員
2004年博報堂入社。トイレタリー、飲料、電子マネー、新聞社、嗜好品などの担当営業を経て2010年より博報堂生活総合研究所に3年半所属。 2013年、再び営業としてIR/MICE推進を担当し、2014年より1年間内閣府政策調査員として消費者庁に出向。2018年10月より現職。

※掲載している情報/見解、研究員や執筆者の所属/経歴/肩書などは掲載当時のものです。