プロダクトハンターあかねさんと考える、これからのテクノロジーと私たちの生活 vol.1
生活者目線で新しいプロダクトやサービスを語ってみたい。このコラムは、「プロダクトハンターあかね」さんに、米国で登場している新しいプロダクトやサービスについて、メディア環境研究所が日米の比較を交えながら、根ほり葉ほり、お聞きしてみるシリーズです。(不定期更新)
今回のテーマ「2018年、一周まわって新しくなった生活者体験とは?」
聞き手 メディア環境研究所 加藤
-メディア環境研究所 加藤 あかねさん、こんにちは。どうぞよろしくお願いいたします。今回のテーマなのですが、「2018年、一周まわって新しくなった生活者体験とは?」というのは、どういう意味ですか?
-プロダクトハンターあかねさん ジェネレーションXからすると懐かしいアイテムが、ジェネレーションYやZにとっては一周まわって新しくなっているようなんです。今日はそんな体験についてお話したいと思っています。
-メディア環境研究所 加藤 ジェネレーションYやZというのは、米国だと1980年代から2000年代に生まれた若い世代の呼び名で、「ミレニアル世代」なんて言い方もしますね。ジェネレーションXは、1960年代~1970年代生まれを指します。X世代と違って、YやZ世代は、物心ついたときにインターネットが当たり前にあった世代です。最近、私たちメディア環境研究所が、日本の生活者を取材していて特に感じるのが、スマートフォンが生活に入ってきて10年が過ぎたとことによって、「スマートフォンのサービスがすべての基準になっている」という感覚の若年層が増えている印象がありますね。
-プロダクトハンターあかねさん 例えば、日本では使い捨てカメラが人気だと聞きました。スマホでの写真撮影が当たり前のミレニアル世代にとっては、仕上がりがすぐに確認できないこと、そして枚数が限られていることが新鮮にうつる。また昨年Netflixで話題となった「13 reasons why」というドラマでは、カセットテープがキーアイテムとして登場しました。手に入れにくい、コピーしにくい。そして手渡しできるデータとして利用されてたんです。私の世代からすると、懐かしいアイテムなんですが、ミレニアル世代にとってはコピーできないって新しい感覚なんですよね。
-メディア環境研究所 加藤 スマートフォンが基準になったからこそ、生まれてきている感覚なんですね。では、米国の最近の暮らしの中で、あかねさんが「一周まわって新しくなったと思うもの」は何でしょう?
-プロダクトハンターあかねさん 最近新しいと感じたのは本屋さんです。アマゾンはアメリカでアマゾン・ブックスという実店舗の本屋を展開しています。本屋をディスラプトしたアマゾンがショッピングモールなどに本屋を出店してるってなんか変な感じですが。2015年に1号店がオープンし、現在は全米に15店舗を展開しています。日本ではまだ駅構内や大きなショッピングモールに本屋があるので、私も日本帰国の際にはよく本屋さんに立ち寄ります。でもサンフランシスコではほぼ本屋に立ち寄ることはありません。そもそも本屋がないんです。全国に約500店舗を有していたBorders Groupは、2011年に破産。全米第1位のBarnes & Nobleの店舗数は減少傾向で、サンフランシスコにあった店舗も閉店してしまいました。
私はジェネレーションXですので、もちろん以前は本屋さんで書籍を買っていました。ですが、ここ10年ぐらいは、オンラインでKindle版を買うことがほとんどです。友達に勧められた本、ブログやSNSで紹介されていた本、また自分の購入&閲覧履歴からのレコメンデーションから選ぶことが大半。そんななか、久しぶりにアマゾン・ブックスを訪れたのですが、自分が普段見ないカテゴリの本との出合いがあり、なんだか懐かしいような、それが逆に新しいような感じがしました。私でもそう思うぐらいなので、本はネットで買うのが当たり前なミレニアル世代にとっては、さらに新しい存在なのではないかと。
-メディア環境研究所 加藤 興味深いですね。あかねさんに教えて頂いて、私もサンノゼにあるアマゾン・ブックスを先日訪問してみたのですが、店内のPOPが大変面白いんです。「ベイエリアで売れているノンフィクション」「レビューが10,000個以上ついた名著」「よく引用される本」など、POPの作り方がECのデータに基づいているんです。
-プロダクトハンターあかねさん アマゾンが本屋を出すということで、オンラインから実店舗に原点回帰したように最初は思ったのですが、しばらく滞在して店舗作りが従来のものとは全く違うことに気づきました。アマゾン・ブックスでは全て表紙が前を向いて並んでいます。そして必ずレビューが付いている。ユーザーインターフェースが、オンラインショップと同じなんです。
-メディア環境研究所 加藤 ユーザーインタフェースが、リアルの書店で一緒というのは面白いですね!日本だと店員さんの思い入れたっぷりのPOPが一般的ですが、そうした光景とはまた異なる、強いファクトに基づくオススメの仕方が新鮮ですね。
-プロダクトハンターあかねさん もう一つ私が直近で一周まわって新しい!と感じたのが、テレビ的な同時視聴です。アメリカではHQ Triviaというクイズアプリが大人気で、毎日約100万人がこのクイズに参加しています。同時に100万人ですよ!クイズは毎日12時と18時(米国太平洋標準時)から開催されています。日本でもLINEの「LIVEトリビア」、「グノシーQ」や「MyQ トリビア」など類似のサービスがはじまっていると聞きました。おそらくこのHQ Triviaの人気を受けてだと思います。中国でも類似のサービスがはじまっているそうです。
HQ Triviaアプリの内容はいたってシンプルです。昔、クイズミリオネアというテレビ番組がありましたが、それに100万人が同時に参加しているようなイメージ。みのもんたさんならぬスコットさんが次々にクイズを出題していきます。クイズは全部で12問で、間違えたら次の問題には進めません。最後まで残ったら、全員で賞金を山分けできます。
-プロダクトハンターあかねさん 回答までの時間が10秒しかないので、グーグルで検索すればわかるような内容でも、検索している暇はありません。そうなると、知恵を持ち寄るため会社の同僚や家族と一緒に参加することになります。それがなんだかすごく懐かしくて、でも新しいと思うんです。今は1人1スクリーン、みんなが異なるものを見ているのが普通の時代に、HQ Triviaはみんなが同じアプリの画面を見ているんです。私の世代だと、家族みんなで同じテレビ番組を見ていた、そんな懐かしい思い出がよみがえってきます。でもミレニアル世代にとってはそれが新しいのではないかと。またミレニアル世代は、インターネットの登場により非同期コミュニケーションに慣れている。だから同期しているというのも新しいのかもしれません。テレビではなくYouTubeで育った世代には、こんなテレビ的な体験が新しい。
-メディア環境研究所 加藤 このテレビ的な体験は、広告とも相性が良さそうですね
-プロダクトハンターあかねさん 早速ナイキやワーナー・ブラザーズといった大手ブランドがスポンサーになっています。ナイキは、Air Max Dayにスポンサーとなり話題になりました。賞金を提供するだけでなく、ナイキはこの日賞品としてHQ TriviaバージョンのAir Maxを提供しています。そしてクイズもAir Maxと関連するものに。
-メディア環境研究所 加藤 ブランドや製品にまつわる意外なトリビアなど、企業が既に持っているコンテンツを、このクイズのフォーマットにしていくことは、かなりたくさんできそうです。また、回答者である生活者からすると、自然な形で、企業にまつわる様々な情報を知ったり、理解したりできそうですね。
一周まわって新しくなった生活者体験をつくるには
-プロダクトハンターあかねさん 一周して新しくなることはファッションの世界などではよくあることだと思います。サービス設計においても、ジェネレーションXにとっては既視感があっても新しくなることが今後増えるのではないかと思います。例えば、アプリによって数え切れないほどの人と知り合えるようになったミレニアル世代にとって、仲人を通じたお見合いのような体験は、改めて新しくなるのかも?とか。またみんながスマホでタイプする時代には、手書きが新しくなるのかも?なんて予想しています。
-メディア環境研究所 加藤 「一周まわって新しくなった生活者体験」についてお伺いしてきましたが、こうした体験を設計していくには、何が重要だと思いますか?
-プロダクトハンターあかねさん 一周まわって新しいものは、既視感はあるものの、ただのリバイバルではなく、一方で本当に斬新でもあります。例えばアマゾン・ブックスのように、全ての本を面で置くなんて、既存の本屋さん目線で考えたらありえなくないですか?本屋はオススメの本を売るだけでなく、品揃えも大事。品揃えのためには平積みするのではなく、棚にさすのが既存の考え方だと思います。アマゾン・ブックスはそこを割り切っている。品揃えはオンラインに任せて、アマゾンと同じ体験ができるオフライン店舗を作っています。HQ Triviaもテレビ的です。約100万人が見ているテレビ番組は珍しくないかもしれません。でも最後まで残った人全員に賞金を山分けする。今までだったら、どうやって払うの?というものが、いまならペイパルがある。
懐かしいけど改めて新しいものは、「なんだ、昔も流行ったよ」と軽く見がちなのですが、そこに必ず斬新な何かがある。私自身はそういった要素を見逃さないようにしたいと思っています。また経験がある社会人の方は、「昔やったけどうまくいかなかった企画と同じ」とか「過去にあった」という議論になりがち。時代背景の変化や環境によって、改めて新しくなることもあるということを受け入れ、経験にとらわれすぎないことも大事だと思います。
メディア環境研究所からまとめ
「2018年、一周まわって新しくなった生活者体験とは?」いかがでしたでしょうか?あかねさん、興味深いお話をありがとうございました。メディアと生活者との関係を考える際に、特にこの「新しい同期」というのが、今のメディアやブランド体験をつくる上で、大きなヒントになりそうだと感じました。スマートデバイスによって、時間もスクリーンも皆バラバラの「非同期の体験」が当たり前になったからこそ、リアルタイムやリアルプレイスで同期する体験がかえって新鮮になっていく、ということ。ただし、それは単純に過去のメディア体験への「揺り戻し」ということではない、という点が重要です。現在のテクノロジーだからこそ可能になった一周回って「新しい同期」が、生活者にとって魅力的なメディアやコンテンツの開発のヒントとなれば幸いです。
「プロダクトハンターあかねさんと考える、これからのテクノロジーと私たちの生活」 2018年度、不定期更新で続けていく予定です。こんなテーマや領域が気になる、などありましたら、こちらまでご意見をお寄せ下さい。
※掲載している情報/見解、研究員や執筆者の所属/経歴/肩書などは掲載当時のものです。