「メディアイノベーション調査2019」からみる、日本と各国の比較②後編~プロダクトハンターあかねさんと考える、日本とアメリカの比較~
生活者目線で新しいプロダクトやサービスを語ってみたい。昨年から続けているこのコラムでは、メディア環境研究所が日米中タイの4カ国で調査を行った「メディアイノベーション調査2019」(ご参考:プレスリリース)の結果について、各国に詳しい方に調査結果について語っていただきます。第2回はシリコンバレー在住の「プロダクトハンターあかね」さんに、メディア環境研究所の小林がアメリカの結果について日米比較も交えてお聞きします。
★前編はこちら
常に会話を聞かれているのではないかという不安
小林
今年はこのランキングで昨年のような各国毎の特徴があまり出てこなかったのですが、この先各国の生活潮流はどうなっていくのかというのを見るために、「科学技術は人間の生活や社会にとって重要なものだ」や「常に新しいテクノロジーを使った商品やサービスを取り入れたいと思っている」など16の意識項目に対して12項目以上で「とてもそう思う」と回答した人を抽出し、新しいサービスや暮らしに対する受容の高い層として「未来生活イノベーター」と名付けました。
この「未来生活イノベーター」について見ていきたいのですが、各国の割合はこのようになっています(図1)。アメリカは思ったほど多くないなというのが私の印象なのですが、あかねさんはいかがでしょうか?
あかね
アメリカはエリアによって数字が大きく変わりそうですね。今回の調査はロサンゼルスとのことなので、であればこのくらいの数字になるかもしれません。シリコンバレーに近いサンフランシスコであればもっと高いだろうし、中西部であればもっと低い結果となると思います。
私はシリコンバレーに住んでいますが、テスラが当たり前に走っているこの地域では、周りのママと話していても、テクノロジーについてみんなよく知っています。赤ちゃんのスマートベッドや、つけたまま歩けるスマート搾乳機などもみんな普通に使っているんです。
小林
みなさん新しいものは積極的に取り入れる方たちばかりなのですね。地域性が出ていそうですね。
ところで、今回情報提供に関する質問への回答で、「どちらともいえない」と回答する「未来生活イノベーター」の割合がアメリカだけ全体と比較してほとんどの項目で高く出ました(図2)。
便利と回答する人の割合も全体より高いのですが、他の国では、日本も含めて個人情報や決済情報、位置情報などを提供することに対して便利か不安か、わりとどちらかはっきりと回答しているのに対して、アメリカだけが迷っている人も多い印象です。シリコンバレーには「未来生活イノベーター」が多いと思いますが、実際にどのような印象をお持ちでしょうか?
あかね
そうですね、個人情報の提供は便利な反面、怖さもあり、それぞれ複雑な心境なのではないかと思います。いまさら提供しないことはできないし、大きなうねりとしてはどうしようもないと感じているのではないでしょうか。Netflixでもソーシャルメディアによる情報操作のドキュメンタリーが作られるなど、ネット時代の情報セキュリティについては興味の高さがうかがえます。
そんな中、私の周りにもスマートスピーカーは絶対に置かないというテクノロジーに詳しい人が出てきているのも事実ですね。アメリカに住んでいると、会話を聞かれているのではないかというくらいにドンピシャな商品訴求をされることがあるんです。日本のように、自分で検索したものや見たものについて提案されるのではなくて、「これって検索もしてないし、話していただけのことなのに…」と思うようなものも突然訴求されるのです。
そうすると、便利のレベルではなく次のアクションを読まれているような感じがしてきます。たまたまちょうど思っていたものが訴求されたのか、はたまたそう思うように仕向けられたのか、複雑な心境になるのではないかなと思います。
小林
たしかに私のアメリカ人の知人も以前facebookに同じような投稿をしていたのを覚えています。実際に会話上でしか触れていない内容について提案されるようになってくると、便利もすでに享受しているけれど不安な気持ちもぬぐい切れず、このような結果になるのでしょうね。
次に、各国の「未来生活イノベーター」を見ることで、各国ごとの「次の生活」潮流が見えてくるのではないかと、回答者全体と「未来生活イノベーター」の81のサービスに対する興味度の差分を見てみたところ、各国それぞれ違う領域に反応していることがわかりました。
日本は「家」、中国は「健康」、タイは「食」、そしてアメリカは「移動」でした(図3)。各国の生活の在り方がここから変わっていくのではないか、という領域なのですが、アメリカの「移動」への反応についてどのようにお感じになりますか?
■図3:生活を変える81の新しいサービスに対する各国全体と「未来生活イノベーター」の興味度差分ランキング トップ20
自動運転への関心は高いが期待値は低い
あかね
アメリカは車社会で、車内で過ごす時間が長いので、無人・自動運転に関する関心はやはり高いですね。ただし、期待していると同時に、なかなか実現せず、待たされすぎて以前ほどのワクワク感がないのも事実です。シリコンバレー周辺では、GoogleのWaymoのテスト走行を毎日、何台も見ます。
でも、それだけ身近にいる人でも、実際に自分たちが利用できるのはまだまだ先だと感じています。生活の中にはまだ入ってきていないんですね。来て欲しい未来であることは確実なのですが。ちなみにテスラは日常的に見かけますが、あれはみんなが買えるものではないと思いますので…。
小林
ありがとうございます。それでは、自動運転はまだとして、「車載スピーカー×検索」など移動時間を快適にするようなサービスは取り入れられている方も多いのでしょうか?
あかね
家でスマートスピーカーを使っている人が多いので、そういう人はどのシチュエーションでも使いたいと思います。特に、手がふさがっている車の中でも使いたくなるのは自然な流れですね。Amazonは車の中で使えるAlexaのEcho AutoやAlexa内蔵メガネなども開発しています。私はiPhoneなので車の中ではSiriを使うことが多いです。「VR×車内」に関しては、コンセプトとしてはよく聞きますが、本当に自動運転が実現した後のことなので、まだまだ先のことだと思います。
小林
そうなのですね。やはり移動時間の快適化は毎日のことなので関心は高いけれど、なかなか実現しない現状にジレンマというか諦めも少し感じられるのでしょうか。しかし、走行実験中の自動運転車を一日に何台も見かけるということは、時間はかかっているのかもしれませんが、移動を変えて行きたいという意気込みは感じられますね。
それでは最後になりますが、そのほかこの1年ほどで、アメリカで変わってきたなということがあれば教えてください。
あかね
いくつかありまして、一つ目は、身近なハンバーガーチェーンなどでも代替肉の提供が始まったことですね。ベジタリアンやビーガンでなくても、人口増で確実に食料が足りなくなるといわれる中、地球にやさしく栄養価が高いならと取り入れる人もいます。また次々と大手チェーンが提供を始めているのは、環境に無関心ではないというスタンスを打ち出すため、マーケティング上必要という側面もありそうです。
2つ目は、PelotonやMIRRORといった家でのフィットネス系のスタートアップが台頭している印象です。フィットネス系のサブスクリプションモデルです。ジムにいかなくても本格的なフィットネスのクラスが受けられて、家なので移動の必要もなくちょっとした空き時間でできて続けやすい。継続率も高いようです。サブスクリプションモデルでいうと、大手ブランドがファッションレンタルサービスに乗り出しているのもここ1年の話ですね。
小林
ファッションレンタルサービスは少し前からあったように感じますがこれまでのものと何か違うのでしょうか?
あかね
2018年まではこうしたサービスはスタートアップが行っていたのですが、最近では百貨店や大手ブランドなども参入し、新しい販売モデルになってきていますね。ファッションに敏感な人ほど利用しているようです。
小林
これまでにも出てきていたサービスがじわじわと浸透して一般化してきているのですね。あかねさん、昨年に引き続き、今年もアメリカの状況についてお話いただきどうもありがとうございました。また一年後、次はどのサービスが一般化するのか、はたまた消えていくのか、またお話伺えればと思います。
メディア環境研究所 まとめ
中国の生活がどんどんアップデートされていくのとはまた違い、アメリカはじわじわとこれまでの生活が変わってきている感じを受けました。すでに変えなくてもよいある程度便利な生活、しかし、その中でも新しいことを少しずつ体験することで浮き彫りになるこれまで当たり前と思っていた不便点の改善。中国はまわりのスピードに乗るために自発的に変わっているのに対し、アメリカは体験してみたら便利だったから、とどちらかというと受動的に変化が起きているようです。
しかし、そんな中、一日に何台も自動運転の走行実験が行われている様子などからアメリカでは確実に「移動」が変わっていきそうな火種が感じられました。5年後なのか10年後なのか現時点ではわかりませんが、アメリカの「移動」については今後の法整備なども含め、注目しておきたいと思います。
また、代替肉を発売する店舗やブランドが次々に出てきているなど、これまでともまた少し毛色の違う変化が起こりそうな予感もします。次回は「食」を起点に生活が変わっていきそうなタイに話を聞いていきたいと思います。
プロフィール
※掲載している情報/見解、研究員や執筆者の所属/経歴/肩書などは掲載当時のものです。