コロナ禍で加速する産業の機能の「分解」と「再結合」
メディア産業をはじめ、様々な産業で広がりつつある、産業の機能の「分解」と「再結合」の動向をレポートします。ビジネスプロセスにおける各機能が一度「分解」され、本質的でなかったものが外され、より社会に有用な要素で「再結合」されるようになってきています。
新型コロナの影響を受け、これまで進行しつつあった、「分解」と「再結合」の動きが加速しています。
産業の機能の「分解」と「再結合」とは何なのか
従来のビジネスプロセスは、近年デジタルテクノロジーを取り入れたビジネスの発展により、その機能の一部を分解・取り外し、置き換えが可能になってきています。要するに、バリューチェーンの組み替えですが、これまでその産業と縁のなかった企業が参入し、分解・取り外された機能を、より高度な機能に置き換え、バリューチェーンを再結合させ、産業構造を変えつつあります。
緊急事態宣言下で変化を余儀なくされた外食産業のケースで、バリューチェーンにおける機能の「分解」と「再結合」について説明します。
【従来の外食産業のビジネスプロセス】
(1)評判・集客→(2)食材の仕入れ→(3)調理→(4)接客→(5)集金
良い評判を広げて集客を増やし、また再び、食材を仕入れ、調理、接客、集金、という流れで、(1)評判・集客のループに戻っていきます。
このコロナ禍では営業・外出自粛によって(4)接客の部分が無くなり、バリューチェーンの一部が分断されてしまいました。その代わりに、オンライン注文を前提としたフードデリバリーサービスやお取り寄せサービスが台頭し、外食産業の機能が再結合しなおされました。
複数の機能を組み合わせた動きが活発
分断されたフローのみを補うデジタルサービスのほか、複数の機能を組み合わせて新たなビジネスチャンスが生まれています。大規模イベントの事例で説明します。
【大規模イベント】
(1)告知→(2)出演者ブッキング→(3)チケット販売→(4)本番(→オンライン配信)→(5)物販→(6)収録・番販
コロナ禍によって、(4)本番がリアルからオンライン配信になったことで、(3)チケット販売→(4)オンライン配信がセットになったり、(6)収録・番販が様々なサービスに組み込まれやすくなったりしています。例えば、ビデオ会議サービス、定額動画配信サービスなど、様々なプレイヤーが参入してきました。
元々のビジネスプロセスにあった複数の機能を再結合させ、パッケージ化されたサービスとして提供する動向に注目です。さらに、コンテンツに適した、新たな課金手段を提供するプレイヤーも数多く登場しています。一例として、投げ銭機能を導入したライブストリーミング配信サービスがあります。
エッセンシャルではない機能がバリューチェーンから外れた
変化を余儀なくされた時に、複数の機能を再結合する動きもあれば、もっとシンプルに、エッセンシャルではない機能が従来のバリューチェーンから外されるケースもあります。コロナ禍の影響が急速に出始めた頃の放送局収録の事例で説明します。
【放送局収録】
(1)企画→(2)MC、キャスター→(3)ゲスト、出演者→(4)番組観覧客→(5)収録→(6)編集・配信
以前、ある放送局の情報番組のプロデューサーの方とお話したところ、「大人数で集まることが難しくなり、ミニマムなプロセスで収録せざるを得なくなってしまったことで、図らずもMCやキャスターを始め、ゲスト、出演者、それから番組観覧客がスタジオに全員で集まって収録する意味が薄れてきている」という感想を伺いました。
今までのように、都内のスタジオに来てもらう前提でキャスティングする必要がなくなり、自宅や遠隔地から参加してもらって収録することが多くなりました。さらに、今まで番組の雰囲気を作るために入れていたゲスト、大勢の出演者と番組観覧者といった番組を作る時にエッセンシャルではないものがバリューチェーンから外れ、機能が絞られた、と言えるでしょう。
オンライン体験に基づくコト消費と再結合した動向に注目
こうした動きは、従来のビジネスプロセスにあった機能を再結合するだけでなく、オンライン体験を中心に、新たなコト消費を生み出すケースも多くなりました。旅行業界のケースでご説明します。
【旅行産業】
(1)評判・集客→(2)事業企画→(3)予約→(4)旅行体験(→オンラインツアー)→(5)物販
長距離の移動がためらわれ(4)リアルでの旅行体験の提供が難しくなりました。そんな中で旅行の予約サイトが「オンラインツアー」と「物販」をパッケージ化して売り始めています。
単純に観光地のオンラインストリーミング配信とお土産を通販で購入できるようにするということではなく、事前か事後にご当地名物を届け、オンラインで現地の方や生産者さんと直に話ができるツアーなど、旅行体験自体がオンラインに移行することで新しい付加価値を生み出していることがポイントです。
まとめ
リモートワークを始め、生活者がオンライン空間に居続けることが常態化しつつあります。従来のビジネスプロセスにおける一機能をデジタル化させるだけでなく、自社の強みを見極めた上で複数の機能を「再結合」させ、新たな価値を付加するビジネスの創出が大事ではないでしょうか。
※掲載している情報/見解、研究員や執筆者の所属/経歴/肩書などは掲載当時のものです。