【メ環研の部屋】「メディア定点2021」~コロナ禍で、メディア環境はどう変化したのか?

メディア環境研究所の研究員が日々追いかけているメディアや情報環境に関するトレンドや、変化の兆し、調査速報等を発表し、ご関心をお持ちの皆さまとカジュアルに意見交換・議論をするオンラインイベント「メ環研の部屋」。

5月27日のテーマは「緊急速報 メディア定点2021」。メディアの接触時間・イメージ・サービスの利用実態など、生活者がどのようなメディア生活を送っているのか、毎年定点観測している「メディア定点調査」の最新版のご紹介です。

「メディア定点調査」は毎年1月下旬〜2月上旬にかけて実施していて、2021年はコロナ禍による変化が初めて反映されました。コロナ禍で、メディア環境にはどんな影響があったのでしょうか? 新美上席研究員、小林上席研究員の報告を、注目ポイントに絞ってご紹介をします。

ポイント1:メディア総接触時間が450.9分になり、過去最高に

メディア総接触時間は、各メディアに一日あたりどれだけ接しているか、生活者の実感値を調べたもので、2006年からデータを取り続け、今回で16回目になります。

調査項目は、
〇テレビ 〇ラジオ 〇新聞 〇雑誌 〇パソコン 〇タブレット(2014年から追加) 〇携帯電話/スマートフォン
の7メディア。「メディア総接触時間」は、同時メディア接触、いわゆる「ながら利用」を考慮せず、延べ利用時間を示しています。

2020年調査から39.2分伸びて450.9分(1日あたり/週平均)と過去最高を記録しました。総接触時間が伸長するのは5年連続、中でも前年比39.2分という伸びは、2006年の調査開始以来、最大の伸びとなりました。

メディア総接触時間の推移



「2021年1月末~2月上旬は、2回目の緊急事態宣言発令中の調査というタイミングでしたが、メディア総接触時間もついに450分台と大幅に伸長しました」と新美研究員。

続いて、「メディア総接触時間のメディア別シェア」を見ていきます。注目ポイントは、「パソコン」「タブレット」「携帯電話/スマートフォン」をあわせた「デジタル」のシェアが55.2%に到達したこと。この数年の中でも最も大きく伸びました。「携帯電話/スマートフォン」が3割を超えたほか、「タブレット」「パソコン」の存在感が増しました。

メディア総接触時間のシェア



一方、マスメディアのシェアはいずれも減少。テレビは視聴時間でみると、5.8分増加したものの、シェアとしては1.7ポイント低下して33.3%に。ただし、テレビの視聴時間をどう捉えるかは考慮が必要です。

「民放テレビ局のポータルサイト『TVer』をスマートフォンで見ている生活者には、『テレビ』と答える人もいれば『携帯/スマートフォン』と答える人もいます。どちらかに入っているということですので、必ずしもテレビのシェアが下がったとは言いきれません」(新美)

性年代別メディア総接触時間



また、性年代別の総接触時間を確認すると、全性年代で400分超えに。2021年は老若男女を問わず長時間メディアに接していることがあることが分かります。さらに、20代と60代の男性では、初めて500分を超えました。

性年代別のシェアを見ると、若年層以外にもデジタルの存在感が増してきていることがわかります。女性40・50代で約半数、男性60代でも4割を超えています。

「デジタルはすでに調査対象である10〜60代の全世代に広がっており、年代による差も縮まっています。若年層がデジタルをけん引しているという見方は、すでに過去の話になったと言えるでしょう」(新美)

ポイント2:動画視聴を「テレビ視聴」と捉える生活者が2割超

また今回の調査で大きく伸びたのが、定額制動画配信サービスの利用。9.7ポイント増で、46.6%が利用していると回答するなど、一昨年から伸長していましたが、一層存在感を増しつつあります。


このように動画配信環境やテレビを中心に家の中のデジタル環境が整備されている現在。

しかし、見逃したテレビ番組を視聴できるオンラインサービスをスマホで利用するとき、これは「テレビを見る」のでしょうか? それとも、「スマホを見る」のでしょうか? この「そもそもテレビとは何なのか?」という疑問についても、データを元に考えてみましょう。

メディア定点調査では『テレビを何分くらい見ているのか?』だけではなく、その『テレビ』には何が含まれているのかを確認しています。

「『テレビ』を見る時間にしたもの」の内訳としては、
〇見逃し視聴サービス(15.3% 前年比4.0ポイント増)
〇有料動画(21.8% 同8.4ポイント増)
〇無料動画(22.6% 同3.6ポイント増)
と動画配信サービスに関する項目が大きく伸びていました。動画視聴を「テレビを見る」と認識している生活者が増えていることが分かります。


「メディアそのものの捉え方が変化し、生活者側のテレビが拡張している。この変化を、今後どのように追っていくのかは、これからきちんと考える必要がある。同様にネットでの視聴や閲覧ができる、ラジオ、雑誌、新聞でも同じことを考えていく必要がある」と新美研究員は話します。

この調査結果に、テレビ局に勤める参加者から「SNSにあがっているテレビ視聴」の今後についての質問が投げかけられ、新美研究員は「特に若年層は、SNSをきっかけにテレビを視聴する機会が今後も増えていくのではないか」と回答。さらに、「録画」や「見逃し」という言葉をめぐる意味についても、議論がかわされました。

ポイント3:「携帯電話/スマートフォン」にメディアイメージが集中

最後にこの記事でご紹介するのが、「各メディアに対して、生活者がどんなイメージを持っているのか?」というものです。

テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・パソコン・タブレット・携帯電話/スマートフォンの6つに対して、生活者が持っているイメージを聞きました。

「情報が信頼できる」「情報が速くて新しい」などの機能的なイメージから、「癒される」「センスがいい・カッコいい」といった情緒的なイメージまで多岐にわたります

この調査の結果、42項目中27項目で「携帯電話/スマートフォン」が首位になりました。2019年に、はじめて全項目中の半数に21項目になったのですが、2年間でさらに6項目でポジティブなイメージを伸ばした形です。

スマートフォンが普及しはじめた頃は、情報の早さ・新しさ・手早くわかる、といった機能的な項目が評価されていましたが、近年は「癒やされる」「気分転換になる」などの情緒的な価値でも首位になっています。

今年は、携帯電話/スマートフォンにメディアイメージが一層集中するという結果になりました。それでは、ほかのメディアが首位を取っているメディアイメージの傾向はどうでしょうか。


各メディアが首位のイメージを持っていても昨年からスコアを落としているものが少なくありません。その中でスコアを上げているのはテレビの「感動や興奮を覚える情報が多い」、ラジオの「気持ちが落ち着く情報が多い」、雑誌の「明確な個性や特徴を持つ」「センスがいい・カッコいい」など。

「マスメディアに対して生活者が感じている『固有の価値』は変わらずに存在していることが明らかになったと言えそうです。マスメディアのデジタル化が進む中、現在の生活者を取り巻く環境の中でどのように対策を打っていくのかを考えていかなければなりません」(新美)

また新聞について「『勉強になる』『世の中の出来事が分かる』『情報が信頼できる』『社会に提言する役割がある』『質の高い情報が多い』がトップ5である点は変わっていませんが、スコアは全体的に下がっています。」と新美研究員は危惧しています。

また情報の「たしからしさ」を確保する行動も定着しています。「ネットの情報は、うのみにはできない」という項目は84.3%と昨年から高止まり。ネットの情報をそのまま信じず、「複数の情報源で確かめる」という人も7割を超えています。

「メディアの誤った情報を信じたことがある」も4割を超え、新美研究員は「自分なりの『たしからしさ』は確保しているけれど、それが絶対なもので安心できるかと言うと、そうでもないのではないか」と読み取っています。

そのほか、小林研究員によるSNS利用状況についてのレポートで、「SNSが生活に定着した、なくてはならない情報源になっていること」も報告されました。

まとめ:情報やコンテンツをこれからどのように届けるか

コロナ禍でメディアの総接触時間が大きく伸びたことが明らかになった、今回のメディア定点調査。

デジタル化が進み、テレビ番組のネット配信や定額制オンライン動画配信サービスの利用増加に伴い、「好きなコンテンツを好きな時に見たい」という意識の高まりも感じられました。

「好きなコンテンツを好きなときに見られる状態」が当たり前になったときに、どんな風に情報やコンテンツを届けるのか。情報の届け手としては、こうした特性・ニーズの変化を把握していく重要性が高まっています。

今回紹介しきれなかった調査結果については、7月7日(水)13時30分〜15時00分に開催するメディア環境研究所ウェビナー2021夏「Picky Audience~始まったメディア生活の問い直し~」でも解説予定です。

(編集協力=奥野大児+鬼頭佳代/ノオト)

登壇者プロフィール

新美妙子
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員
1989年博報堂入社。メディアプラナー、メディアマーケターとしてメディアの価値研究、新聞広告効果測定の業界標準プラットフォーム構築などに従事。2013年4月より現職。メディア定点調査や各種定性調査など生活者のメディア行動を研究している。
小林上席研究員
小林舞花
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員
2004年博報堂入社。トイレタリー、飲料、電子マネー、新聞社、嗜好品などの担当営業を経て2010年より博報堂生活総合研究所に3年半所属。 2013年、再び営業としてIR/MICE推進を担当し、2014年より1年間内閣府政策調査員として消費者庁に出向。2018年10月より現職。

※掲載している情報/見解、研究員や執筆者の所属/経歴/肩書などは掲載当時のものです。