作品の新旧より、「好き」が重要! 新メディア行動欲求とは? @メ環研の部屋
メディア環境研究所の研究員が日々追いかけているトレンドや調査速報などを発表し、ご関心をお持ちの皆さまとカジュアルに意見交換・議論をするオンラインイベント「メ環研の部屋」。
9月16日、「メ環研のメからウロコ」の第3回として行ったのが、「新メディア行動欲求調査」の結果報告と考察です。全国の15~69歳、計1407名に、新たなメディア行動45項目を提示し、「やりたい?」「やりたくない?」を聞いてみました。
メディアDXが進む中、生活者のメディア行動にも「変化の兆し」が生まれています。今後、生活者に広がり浸透しうる行動とは? 野田上席研究員と山本グループマネージャー(以下、山本GM)が調査結果を考察します。
見たいコンテンツは新作とは限らない。面白ければ旧作でもOK
新メディア行動の「やりたい」ランキングで全体の1位となったのは「ドラマや映画などコンテンツが面白ければ数十年前の旧作でも気にせずみる」で、56.4%でした。50~60代では66.2%、10~20代でも半数近くの生活者が賛同し、すべての年代で1位になっています。
野田上席研究員は「定額制の動画配信サービスやTVerが普及し、旧作へ気軽にアクセスできる環境が整ってきた。それが生活者の楽しさを広げるポイントになっている」と説明しました。
「YouTubeを活用したい」という欲求は、すべての年代で高い
上位にはYouTubeの項目が2つあります。「『勉強や趣味』などYouTubeで学ぶ」が43.1%で2位。エンタメだけではなく、勉強や趣味など幅広い用途でYouTubeを活用したいと考えているようです。また「YouTubeを『テレビ(受像機)』でみる」が39.4%で4位でした。
こちらも年代別の傾向をみてみましょう。「YouTubeをみる=若い世代の行動」かと思いきや、そうではありません。実は年代による差は少なく、いずれの年代でも約4割が「YouTubeで学ぶ」「YouTubeをテレビ(受像機)でみる」と回答しています。
「自分の好きな情報だけをみたい」という気持ちの高まり
「好きな情報」関連の項目もやりたいランキング上位に挙がっています。「自分の好きな情報だけみる」はやりたいランキング5位。「流行りの情報より、『自分の好きな情報』ばかり気にする」が10位に入りました。
「『自分の好きな情報』だけみる」という回答は、年代別では30~40代がもっとも高く、42.3%。また「流行りの情報より、自分の好きな情報ばかり気にする」も、10~40代で約34%でした。
山本GMは「50~60代の数字も高く出たので、すでにこの考え方がキャズムも越えつつあるのではないか。今後、さらに勢いが強まっていきそうだ」と分析。
野田上席研究員は、「『好きな情報ばかりみていてはダメ』と言われて育った人は、『もっと他に知っておくべきことがあるのではないか』という気持ちをもっていると思う。しかし、今回の調査結果を見るかぎり、好きな情報だけみたい気持ちが強くなっているようだ」と話しました。
旧作を見てもらうには、適切な「ガイド」が必要
新メディア行動欲求のポイントをまとめましょう。1つ目が「新旧よりも自分価値。面白ければ気にしない」。コンテンツの発信者側としては、過去のコンテンツも資産になることが分かりました。
一方で、テレビ局に勤める参加者からは「実際に旧作を見てもらうためには、さまざまな条件が必要だ。数十年前の番組をただ放映するだけでは、簡単には見てもらえない実感がある」という意見も。
山本GMは、「最近、20代の女性インフルエンサーが、1987年のある映画がめちゃくちゃ面白いと発信し、若者の間で話題になった。彼女いわく『メイクや着ている物のセンスが最高だ』、と。つまり、どういう視点で過去の作品を面白がればいいのか、というガイドがあるのが大切なのではないか」と考察しました。
野田上席研究員も「こういう見方をすると面白いよ、という説明があれば、視聴をするきっかけになる。例えば、『この時代は○○が流行っていた』と解説することで、このコンテンツを見ても失敗せずに楽しめそうだという期待が持てるのでは」と話しました。
2つ目は、YouTubeの存在感が増していくこと。エンタメだけでなく学びにも使いたい、スマホだけでなくテレビでも見たいという欲求が高まっています。そして、自分が欲しいと思ったときに、好きな情報を取りたい意識が高くなってきているようです。
野田上席研究員は、「(メディアは)楽しい時間を提供する『味方』になれるかどうかがポイント。さまざまなプラットフォームから自由にコンテンツを選び取れる中で、できるだけ時間のパフォーマンスを高めたい。新旧関係なく、好きな情報だけを選び取りたいという意識が高くなっているのではないか」と話しました。
ながら聴き、ビデオ通話、バーチャル空間――10~20代の欲求
さらに、10~20代の「やりたい」ランキングを詳しく掘り下げていきましょう。特徴的なのは、3位の「リモートワーク中にテレビやラジオ、YouTubeなどを『ながら聴き』する」。全体では上位に入っていないため、10~20代に好まれる行動と言えるでしょう。
野田上席研究員は「リモートワークの『人寂しさ』を紛らわすために人の声が聞きたい、集中モードに切り替えるときに聴きたい、耳で情報収集したい、といった理由が考えられるのではないか」と推測します。
また、ランキング10位以降になりますが、16位は「ゲームなどバーチャル空間にアバターで入り、そこにいる人たちと交流する」、18位には「ゲームなどバーチャル空間でコンサートや演劇、テレビ番組等をみる」が入りました。バーチャル空間でのコミュニケーションやエンタメ体験への欲求は、10~20代の「やりたい」ランキングの特徴といえます。
次に、ニュースや情報の取り方です。同率16位の「ランキング上位のニュースだけ目を通す」が27.5%、22位「ニュースはSNSのタイムラインに流れてくるものだけを読む」は25.3%でした。知るべき情報は、使い慣れたプラットフォームで自然と入ってくる、と捉えているようです。
22位には「友人や離れて住む家族とビデオ通話をつなぎっぱなしにし、話せるようにする」。コロナ禍でのコミュニケーション問題を解決する、さまざまな方法がランクインしています。
コロナ禍2年目、より自然な「人との繋がり方」を模索
10~20代で特徴的なポイントを3つにまとめました。1つ目は「少し孤独なリモートワークもコンテンツの『ながら聴き』で快適にしたい」。
2つ目が「離れて過ごす友人・家族も『ビデオ通話つなぎっぱなし』のオンライン同期で話したい」。あたかもそばにいる感覚、バーチャルリビングのように話したい欲求があるようです。
そして3つ目は「自分自身もバーチャル空間に入り込み、コミュニケーションやエンタメ体験に没入したい」。リアルな旅行ができない中で、メタバース領域の体験にも期待が高まっているという結果でした。
「2020年はオンライン飲みが流行るなど、団結してコロナ禍を乗り越えようという雰囲気があった。しかし、コロナ禍2年目の夏を過ぎ、より自然な形で人と寄り添いたい気分が出てきたのではないか」と野田上席研究員。
手軽に「人の存在」が感じられる手段として、ラジオやYouTubeの「ながら聴き」と、親しい人と一緒にいる感覚を得られる「ビデオ通話つなぎっぱなし」「バーチャル空間」が求められているようです。
一方、山本GMは「コロナ禍で、若い世代の感覚が変化している。効率だけを重視してたくさんの情報を摂取するのはつらい。それゆえに、『ながら聴き』が選ばれているのではないか」と分析しました。
最後に、何をやりたいかではなく「世の中に今後広がり、当たり前になる行動は?」という質問の結果を紹介します。
1位はYouTubeを勉強や趣味に活用すること、2位はYouTubeをテレビ(受像機)でみること。さらに4位にも「子育てにYouTubeを活用する」が入りました。生活者は子育て含め、今後YouTubeがもっと当たり前に活用されると予測しているようです。
心を開きやすいコミュニティ、心地よい環境をどう作るか
これまで挙がったキーワードの中で、メディア環境研究所が特に注目したのが「ながら聴き」。耳の可処分時間をどう捉えるのか、生活者が「ながら聴き」したいものは何なのか。そして、これからどのプレイヤーが選ばれていくのか。
山本GMは「ながら聴きはラジオが取り組んできた領域だが、近年はスマホ音声読み上げ機能でテキストも読むのが簡単になった。今後、さらに競合が発生しそうだ」と話します。
しかし、耳から情報をインプットするのは効率的なのか? それとも快適性を求めているのか? という疑問もわきます。果たして、耳時間のインサイトとは? 参加者からは「自分にとって快適で推している場所(メディア・コンテンツ)に、情報(ニュースなど)がスッと入ってくれば、効率よく入手できる。そんな感覚かも」というコメントが。
野田上席研究員は、「お気に入りのPodcastを聴きながら夕飯の支度をすると、やりたくない億劫なことでも楽しい時間に変えてくれる。『ながら聴きの効用』をひしひしと感じる」と実感を込めて経験を共有。「どうやって効率的かつ心地良い環境を作るのか、どうすれば快適な情報プールを作っていけるのか。みんな模索している気がする」という考察も。
一方で、興味・関心のある情報だけでは物足りなくなる、という話も出ました。「自分の興味の外から新しい水を入れてくれそうな人を探して、好きな情報を更新していく感じが近いのではないか」と野田上席研究員。
山本GMは「『フィルターバブル』の先について、そろそろちゃんと議論しなければいけない。フィルターバブルを健全化させる手段の一つが、楽に新たな情報と出会える『ながら聴き』なのかもしれない」と分析しました。
野田上席研究員は「目で見ているときは、急に興味のない情報が入ってくると邪魔だなと思う。でも耳なら自然と入ってきて、興味がなければスッと流せる。しかも、アンテナに引っかかる情報であれば入ってくる不思議な器官だ。アンテナとして、耳の機能がちょうどいいのでは」と話します。
参加者からは「SpotifyでPodcastを聴いている学生が増えているようだ。耳で聴いて、気になったら検索して情報を手に入れる。Spotifyが心地よい空間であることが前提で、そこに少し違和感のある情報が入ってくると『出会った』と思うのではないか」とのコメントが寄せられました。
まとめ
YouTubeの活用、旧作を見てもらうためのガイド、バーチャル空間など、さまざまなキーワードが飛び出した今回の「メ環研のメからウロコ」。
生活者のメディアに対する新たな行動欲求が見えてきた一方、「ながら聴きされるプラットフォームの取捨選択」「生活者にとって心地よい空間をどう作るか」といった、メディア側の課題も浮かび上がってきました。
今後の調査と、次回以降の「メ環研のメからウロコ」にもご期待ください。
(編集協力=村中貴士+鬼頭佳代/ノオト)
登壇者プロフィール
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