メディア定点調査連載コラム2021-⑧メディア定点から見る生活者と広告
メディア環境研究所が2006年から実施しているメディア定点調査。「メディア定点2021」は初めてコロナ禍のメディア環境をとらえた。コロナ禍でメディア環境はどう変化しているのか、生活者のメディア意識や行動にはどんな兆しが見えてきているのか、本連載コラムでご報告していく。
3人に1人が「最近、広告がキッカケで買い物をした」
「日常生活で広告の影響を受けていると思うことがある」人は4割近い(37.9%)。この項目を聴取し始めた2018年から4ポイント増加している。また、「最近、広告がキッカケで何かを買ったことがある」人は3割強(33.6%)。3人に1人が、直近の経験として買い物のキッカケが広告であったと答えている。これも2018年から5.5ポイント増と増加傾向にある。(図1)
図1
現代は情報過多社会である。メディア定点調査2021によると、「世の中の情報量が多すぎる」と感じている人は過半数(51.2%)いる。以前メディア環境研究所で行ったインタビュー調査では、情報が多すぎる為、自分にとって必要でないものはコンテンツでも“ノイズ”としてスルーすると話してくれた人がいた。溢れる情報の中、生活者の目に留めてもらい、関心を持ってもらうことの競争は激しくなっていると言えるだろう。このようなメディア環境において、「広告の影響を受けている」と思っている人が増え、広告がキッカケとなった購買が増加していることは興味深い。
生活者の気持ちに広告を届ける
広告に関しては、気になる結果もあるのでご紹介しよう。「広告の出方や内容に不快感を感じることが増えた」は4割(41.9%)である。2018年から4.3ポイント増と年々増加している。どのメディアの広告なのか特定しているわけではないが、デジタルシフトが進むメディア環境を意識して、2018年から聴取し始めた項目である。(図2)
図2
広告は届いているものの、届けた結果、生活者に不快な思いをさせてしまっては、コミュニケーションがうまくいったとは言い難い。不快感を感じることが増えていることに対して、きちんと向き合っていく必要があるであろう。デジタルでは、生活者のプロフィールや嗜好、行動といったものが推測されやすいだけに、生活者にマッチする広告を提示しやすい。ただ忘れてならないのは、マッチしているかどうかは、広告を届ける側ではなく、広告を受け取る側が決めることなのだ。受け取る側が自分に合っていると感じなければ、不快感を招く可能性も出てくる。
広告は企業から生活者へのメッセージだと思う。生活者のことがわかるようになっても、わかるようになってきたからこそ、見えない生活者の気持ちにどう届けるかが大切になってくる。例えば購入した商品のパッケージの中に作り手の真摯なメッセージを見つけた時など、ほんの少し、けれども不思議に深く気持ちが動く瞬間が私は好きである。生活者のプロフィールにどう届けるかではなく、気持ちにどう届けるか、改めて意識していく必要があるのではないだろうか。
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