メディア定点調査連載コラム2021-⑨ メディアの価値のカタチ

メディア環境研究所が2006年から実施しているメディア定点調査。「メディア定点2021」は初めてコロナ禍のメディア環境をとらえた。コロナ禍でメディア環境はどう変化しているのか、生活者のメディア意識や行動にはどんな兆しが見えてきているのか、本連載コラムでご報告していく。

メディアイメージは生活者にとっての価値

メディアイメージは、生活者がメディアに抱く価値である。メディア定点調査では、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・パソコン・携帯電話/スマートフォンの6つのメディアイメージを2006年から聴取している。メディアイメージは2016年に20項目を追加して、全部で42項目ある。メディア毎のトップ5を見てみよう。

テレビのトップ5は、「世の中の出来事が分かる」「分かりやすく伝えてくれる」「習慣になっている」「なんとなくだらだらと見る」「気分転換になる」である。世の中のことを分かりやすく伝えてくれて、なんとなく見てしまうテレビは、生活者の習慣として組み込まれている。例えて言うなら、いるのが当たり前の家族のような存在である。

ラジオのトップ5は、「好感が持てる」「生活者の声に耳を傾けてくれる」「癒される」「気分転換になる」「ゆっくり楽しめる」である。好意を持ったり、癒されたりと生活者は情緒的な価値を感じている。心許せる友達に近いかもしれない。

「勉強になる」「世の中の出来事が分かる」「情報が信頼できる」「社会に提言する役割がある」「質の高い情報が多い」は新聞のトップ5である。世の中のことが分かるという点ではテレビと同じ価値を生活者は抱いているが、「勉強」「社会に提言」といった知識・教養の源であり、信頼や質の高さなど一目置かれる先生のような存在として受け止められているようだ。

雑誌のトップ5は、「明確な個性や特徴を持つ」「ゆっくり楽しめる」「センスがいい・カッコいい」「リラックスして読む」「楽しい情報が多い」である。際立つ個性が評価されると同時にくつろぎや楽しさを感じさせる情緒的価値もある。目立つ存在の、人気者のクラスメイトといったところか。

パソコンのトップ5、「知りたい情報が詳しく分かる」「情報が早くて新しい」「情報が幅広い」「自分にあった情報に会える」「新しい情報を仕入れる」からは、情報の新しさや領域の広さといった機能的な価値を生活者が感じていることがわかる。常に新しく、あらゆる種類の情報があるパソコンは、特定の誰かではない、不特定多数の“みんな”と言えるだろう。

図1 メディアイメージ ランキング トップ5




携帯電話/スマートフォンは“コミュニケーションツール”から“メディア”へ

携帯電話/スマートフォンのメディアイメージを時系列で見てみよう。トップ5である「すばやく情報に触れることができる」「すきま時間に見る」「情報が早くて新しい」「情報が手早くわかる」「習慣になっている」はいずれも急速に増加している。2006年から聴取している「情報が早くて新しい」は、21.2%から78.1%まで増加。コミュニケーションツールである携帯電話/スマートフォンが情報メディアに変化した過程が浮かび上がってくる。(図2)

図2 携帯電話/スマートフォンのメディアイメージ トップ5

いまや、ちょっとしたすきま時間に最新の情報を得ることは生活者の習慣になっている。携帯電話/スマートフォンは、不特定多数の“みんな”が常に傍にいる状況と言えるだろう。

不特定多数の“みんな”の存在で、価値の形が変化する

メディアのデジタル化は、パソコンや携帯電話/スマートフォンの価値をどのメディアも強みにできるということを意味するが、忘れてならないのは不特定多数の“みんな”という存在である。世の中の出来事の種類も信頼のとらえ方も楽しさの幅広さも気分転換の内容も、メディアだけが情報発信していた時代とは様変わりしている。各メディアが持つ価値を“みんな”というフィルターを通して見つめた時に、新たな価値のカタチが見えてくる可能性を感じている。

新美 妙子
上席研究員
1989年博報堂入社。メディアプラナー、メディアマーケターとしてメディアの価値研究、新聞広告効果測定の業界標準プラットフォーム構築などに従事。2013年4月より現職。メディア定点調査や各種定性調査など生活者のメディア行動を研究している。「広告ビジネスに関わる人のメディアガイド2015」(宣伝会議) 編集長。

※掲載している情報/見解、研究員や執筆者の所属/経歴/肩書などは掲載当時のものです。