現地参加とオンライン参加で感じた違いとは? 日テレR&Dラボと振り返るCES2022【メ環研の部屋】
2022年1月3日より7日間、開催されたCES。長引くコロナ禍により直前まで混乱しましたが、各社のプレゼンテーションや展示内容からは、今後の成長に向けた展開が進んでいることを感じさせられました。
2月10日開催のメ環研の部屋のテーマは「CES2022」。ラスベガスの会場でプロダクトの出展も行った日本テレビ放送網株式会社/社長室R&Dラボ(以下、日テレR&Dラボ) 加藤友規さんと、オンラインでCESに参加したメディア環境研究所所長の島野が対談。現地で感じた雰囲気や反応について伺いました。
ラスベガスでの開催が復活したCES2022
世界最大級のハイテク技術見本市CES。毎年1月にラスベガスで行われており、今年で55回目となります。昨年はオンラインのみでの開催でしたが、今年はオンラインとリアルのハイブリッドでの開催に。(参考:「CES2022 レポート「内省から攻勢へ」コロナ禍を乗り越え、いかに価値創造による成長につなげるか」)
この中でも触れましたが、主催者であるCTA(Consumer Technology Association)のゲイリー・シャビロ氏は「新しい取り組みをしている企業や組織がCESのようなリアルの場で、実際にプロトタイプを披露し、新たな顧客や投資家が見つかるというサイクルが大事。だから我々も万全の準備をしてリアルでも開催することにした」という信念を示しました。
共同開発のスマートミラー「ミロモ」展示のため現地へ
感染状況を踏まえギリギリまで参加方法を迷った結果、オンラインでの参加となった島野でしたが、加藤さんはゲイリー・シャピロ氏の信念にも応える形で現地参加。日テレR&Dラボとパナソニックと共同で開発した、ストレスが見えるスマートミラー「ミロモ(MiRRORMO)」を出展。スタートアップが集まるエリア「Venetian EXPO」の2階、Japanパビリオンにブースを構えました。
展示の詳細はこちら。日テレR&Dラボnote「CES2022「ミロモ」を出展しています!」
ミロモの開発期間は1年〜1年半。特にアイデア開発に時間をかけプロトタイプを開発。プロダクトが大きいため、現場では4人がかりで設置を行いました。
「いつものCESと比べると若干閑散としていますが、ミロモにも人が集まっていましたね。CESのガイドツアーでも立ち寄ってもらえたり、海外のメディアにも取材していただいたりと、いろいろな反響がありました。アメリカ国内でのニーズをたくさん聞けたことが、何よりの成果だったと思います」(加藤)
現地の参加者に対しては、「プロフェッショナルな人が多かったという印象」と加藤さんは話します。「例年と違って、リサーチや研修を目的に日本から来た、という方はいませんでした。日本人を見かけても、もともとシリコンバレーに滞在していて、ベンチャーキャピタルやCVCの立場で参加している人が多かったですね。あとは、プロダクトをちゃんと見つけにこようとしているなど、コアな方が多い印象を受けました」(加藤)
CES2022注目の技術 5ワードをチェック
続いて、今年のCESを語る中での注目のテーマを二人よりピックアップ。選んだのは「モビリティ」「サステナビリティ」「ヘルステック」「プレミアムなエンタメ体験」「スタートアップ」の5つです。
1.モビリティ
今年のCESはソニーのEV発表のように自動車関連の様々な出展が話題になり、モビリティのビジネスモデルの変革を感じさせる年に。自動車会社からのEV化に関する発表も相次ぎ、GMからはアメリカ人の魂とも言えるピックアップトラック「シルバラード」の電動化が発表されるなど、各社がEVへ舵を切る様子が浮き彫りになりました。
別の切り口で加藤さんが現地で注目したのが、車体の色がボタン一つで変わる車「BMW iX Flow」です。公式サイトでは、カーデザインの進化、あるいはパーソナライゼーションの新しい形という言い方で紹介されていました。「Amazon Kindleと同じE-Inkという技術を使っているのですが、丁寧にフィルムが貼り付けてあり、非常に手作り感が溢れていました。ただ、今回の展示によって『色が変わる車といえばBMW』と強く印象づけたと感じました。BMWのアイデア勝ちですね」(加藤)
2.サステナビリティ
今回、大企業やグローバル企業も含めて広くうたわれていたのが「サステナビリティ」です。
「サステナビリティに関するブースは、かなり多かったですが、特にインパクトがあったのはサムスンです。『コンシューマーエレクトロニクスの世界のリーダーとして、環境保護とより良い未来を築く責任がある』と話していて、すべての活動の中心になるものがサステナビリティだと説明していたのが印象的でした」(加藤)
例えば、太陽電池リモコン「SolarCell リモコン」は、電気だけでなくWi-Fiなどの電波も使って充電できます。これを利用することで、2億個以上の電池を削減するという目標を掲げています。
「どの企業もサステナビリティにおける目標とアクションを示した上で、本業がそれに資することを、具体的なプロダクトとともに示していました。私も日本テレビのサステナビリティ戦略を考える部署を兼務しておりまして、非常に関心を持って見てしまいました」(加藤)
3.ヘルステック
島野が「自動車産業と同様に変革が起こっている領域」と感じたのが、ヘルステックです。その中でも注目されたのが、キーノートを実施した3社のうちの1社であるアメリカの医療機器メーカーAbbott。体の状態を常時把握するためのヘルステックプロダクト「Lingo」から、彼らの姿勢が見えてくると言います。
「さまざまな医療や健康に関する企業がある中で、Abottはヘルスケアのデジタル化を通して、『自分たちでゲームを変えようとしている』と話していました。様々な産業で、デジタルデータの活用で従来以上の価値創造が進められていますが、同じことが健康の分野でも急速に進んでいます。また、モノ単体、サービス単体ではなく、仕組みやプラットフォームを提供していく重要性も、改めて強調されていたと感じます」(島野)
4.プレミアムなエンタメ体験
「会場ではプレミアムという言葉がよく出てきていた」と加藤さん。基調講演でも、生活者のプレミアム志向について話題が出ていました。
「コロナ禍によって家庭内で過ごす時間が増え、特にアジア太平洋地域で、美術製品や耐久消費財がプレミアム志向になっているという話を、CTAがデータを元に発表していました」(加藤)。コロナ禍で消費の機会が限られる中で、「せっかく買うならいいものを」という意識が、世界中に広がっているようです。
数あるアイテムの中で、加藤さんの目を引いたものの一つが、サムスンのポータブルプロジェクター「The Freestyle」。韓国内では、売り切れが起こる人気のアイテムだそうです。
ほかにも、韓国のセンサーメーカーが展示していた、プロジェクターを部屋全体に拡張して使える「AR SMART HOME」のデモンストレーションも目を引いたとのこと。「指の動きをセンサーでキャッチし、それに合わせて家全体をプロジェクションマッピングして、コンテンツを楽しめる空間にすることができるんです。未来の家は、ひょっとしたらこうなるのかもと感じました」(加藤)
5.スタートアップ
今回、出展者全体におけるスタートアップの割合が過去最高。経済産業省が推進するスタートアップ企業の育成支援「J-Startup」からの参加社数も過去最高数でした。しかし、オミクロン株の影響で無人展示のブースもあったそうです。そんな中、勢いがあったのは韓国でした。
「スタートアップのイベントなのかと思うくらい、CESの現地会場には熱気がありました。特に注目したのは韓国スタートアップです。日本企業の出展が77社なのに対し、韓国からは400社以上が参加。大学や国、ソウル市などがこぞって助成金を出して後押ししているとも言われており、熱量がかなり異なりました」(加藤)
「韓国では、CES参加によってコロナに罹ってしまった方も多かったとニュースになっていました。一方で、『リスクを負ってでも世界で勝負するんだ、伝えに行くんだ』という積極的な姿勢には、学ぶべきところもあると感じました」(島野)
デジタルだけではわからない体感、リアルの重要性
最後に、2022年のCESはどのようなイベントだったのかを二人が総括します。「会場に行くことで、各ブースの人気の差がわかります。体験された方の表情含めて、本当にいいものなのかといった情報は、リアル参加でないと理解できません」と加藤さん。自分たちのプロダクトと共に現地参加できたのは、本当に良かったなと思いますと語りました。
島野からは「今回加藤さんから現地の様子をお聞きして、やはり行ってみないとわからない部分が多いことを改めて実感しました。今、話題のメタバースについてある有識者の方にお話を伺った際に、『リアル世界の豊富な情報量はまだまだデジタルには置き換えきれない』という話がありましたが、まさにそれを実感しました」と総括。
キーノートや各社のセッションへの参加のしやすさや、多言語字幕対応などオンラインならではのメリットはある一方で、人がリアルに集まることで五感で共有される情報の価値を改めて実感しました、とまとめました。
(編集協力=ミノシマタカコ+鬼頭佳代/ノオト)
登壇者プロフィール
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