今、音声メディアが強い! 異業種参入で激変したポッドキャスト最前線 @メ環研の部屋

コロナ禍で活況になった音声メディア。メディア環境研究所が2021年に行った調査では、音声メディアの一つ「ポッドキャスト」に先端的な生活者が集まっていることがわかりました。

それから約2年。2023年現在のポッドキャスト利用状況を調査したところ、環境が激変していました。ポッドキャストは、若い世代を中心にラジオとも動画とも異なる価値を生み出そうとしていたのです。

今回はポッドキャストユーザーの調査報告から、ビジネスに役立てるための方法を議論していきます。モデレーターはメディア環境研究所の野田上席研究員です。

ここ2年でポッドキャストが激変

ポッドキャストとは、iPodとbroadcastを組み合わせた造語で、音声コンテンツをスマートフォンやパソコンにダウンロードして楽しむことができるサービスです。聴取プラットフォームはSpotify、Apple Podcast、Amazon Music、Audible、Google Podcastなどが挙げられます。

日本では2005年にサービス開始し、コロナ禍で再ブレイク。そして2023年の今、メディア環境研究所が改めて注目した理由は、ポッドキャストを取り巻く環境に3つの大きな変化が見られたからです。

かつてポッドキャストは、「ちょっとニッチでよくわからない番組が多い」というイメージが持たれていました。しかし、ラジオやテレビ番組のポッドキャストが登場したことで、広がりを見せています。この変化の中で、ラジオユーザーがポッドキャストに入ってくるという流れも生まれました。

今、この流れの中でポッドキャストはどのように活用されているのでしょうか。

意外と多い10代のユーザー

本調査では、「月1回以上ポッドキャストを使っている人」とポッドキャストユーザーと定義しました。ポッドキャストユーザーの割合は、全体で19.5%。コロナ禍の21年(19.2%)と比較すると、ほぼ横ばい。

ユーザーを年代別で見ると、10~20代で33.0%、30~40代で22.5%、50~60代で9.0%。若年層になるほど多くなっています。特に10代は38.6%がポッドキャストを利用し、ラジオの28.6%を10ポイント上回っており、音声コンテンツの入口がポッドキャストであるとも言えそうです。

そして、10代の半数以上が音楽ストリーミングも同時に利用しています。ユーザーへのインタビューでも「Spotifyにポッドキャストというタブがあった」とコメントが出ているように、音楽ストリーミングをきっかけにポッドキャストに流入している層が一定いると考えられます。

なぜポッドキャストを聴くようになるのか? 聴き始めたきっかけは?

生活者はなぜ、ポッドキャストを聴くようになるのでしょうか。ポッドキャストユーザー歴を尋ねたところ、3年未満が7割弱。コロナ禍になって聴きはじめた人が非常に多いことがわかりました。

特に、きっかけの圧倒的1位は「音楽アプリで聴けるようになった(64.5%)」です。ここでも「音楽アプリにポッドキャストのタブがある」ことが、接触のきっかけであったことが見えてきました。

では、ポッドキャストの利用目的は何なのでしょうか。ポッドキャストユーザーの利用目的をラジオユーザーと比較しながら見ていきます。実はトップ3の顔ぶれは、ポッドキャストとラジオ共に「音楽を楽しむ」「気分転換」「暇つぶし」でした。

一方、ポッドキャストの利用目的でラジオより高かったものは、「自分の趣味を楽しむ」「教養を深める」「語学学習」「自分の関心分野の専門的な知識を得る」。

ラジオは「作業中のBGM」「ニュースを知る」と受け身的、偶然的な利用目的が多く挙がるのに比べて、ポッドキャストユーザーは明確に目的意識をもって利用していることが多そうです。

続いて、聴取ジャンルをラジオと比較して見ていきます。ポッドキャストのトップ3を見てみましょう。1位「音楽」、2位「トーク・雑談」、3位「お笑い・コメディ」です。

ラジオの1位は「トーク・雑談」。続いて2位「音楽」、3位「ニュース」です。また、ラジオで特徴的なのは「地域情報」。改めて、ラジオの強みが確認されました。

一方、ポッドキャストはトップ3以外に目立った特徴がありません。つまりジャンルが多岐にわたっていること自体が特徴なのです。

続いて、聴取シーンをラジオと比較してみましょう。ラジオの聴取シーンで多かったのは「休憩中」「家事中」、そして「車での通勤・通学」「運転中」です。これはカーラジオでの利用が反映されています。

ポッドキャストの聴取シーンもラジオに似ていますが、その中でラジオより多いのが「運動中」でした。「ウォーキングを30分するから、30分の番組を聴こう」というように、時間が決まっている運動時間と同尺の番組が選べて、なおかつ耳を傾けるだけでいいという理由から運動中の利用が伸びているようです。

「聴く」の先にある楽しみ方とは?

ここまでの調査から、ポッドキャストは生活者の興味関心に合わせて、深掘りするのにぴったりなメディアだと捉えられていることが見えてきました。その一方で、単に「聴く」だけでなく、生活者の行動を喚起する「アクティベーションメディア」、リスナー同士がつながり交流する「コミュニティメディア」としても成長しています。ポッドキャストユーザーにその楽しみ方も聞いてみました。

「ポッドキャストでアクティベーションが加速する」とは、どういう意味なのでしょうか。まず、ユーザーのポッドキャストならではの楽しみ方を聞いてみたところ、約6割が「気に入ったエピソードを繰り返し聴く」を挙げました。これはラジオではなかなかできない楽しみ方です。

その他、パーソナリティをSNSでフォローしたり、人に勧めたりといった楽しみ方が挙がりましたが、注目したいのは聴取の先で「お金を使っている」という点です。

「番組で紹介した商品の購入」はラジオユーザーと共通して見られる楽しみ方ですが、ポッドキャストユーザーで特に高いのが、「番組で紹介していた場所を聖地巡礼する(44.2%)」「番組の公式本やオリジナルグッズを買う(43.6%)」、さらに「番組やパーソナリティの有料サロンに入る(42.6%)」。「番組のイベントにも参加する」も4割弱と、これだけの人が番組聴取の先でアクティブにお金を使っています。自分が番組をより楽しむためだけでなく、番組を応援する気持ちも背景にはあるのではないでしょうか。

さらに、他のメディアと比較してリスナー同士の交流が活発だとわかりました。ポッドキャストユーザーの39.8%がSNSでリスナー同士の交流をし、さらに30.5%の人がオフ会をしていると回答しました。いずれも他のメディアより高い比率です。

ポッドキャストは自分の興味にぴったりの音声コンテンツが見つかる場であると同時に、共通の趣味関心を持つ仲間が集まる場でもあるのではないでしょうか。

ポッドキャストはラジオと動画の長所を持ち合わせたメディア

続いてユーザーにポッドキャストの魅力を聞いたところ、次のような結果になりました。

ちなみにラジオの魅力1位には「ながら聴きで効率よく情報が得られる」など情報効率が挙がり、無料動画の魅力1位には「好きなとき、どこでも 自分のペースで聴ける」をはじめとする自分最適の項目が挙がっています。

そんなポッドキャストの魅力をより具体的に聞いてみました。

まずは、「ラジオと違って好きな人の声を何回もきける」。ポッドキャストには番組をストックでき、連続でまとめ聴きがしやすいという特徴があります。これが生活者は心に灯った「面白い、好き」という熱を持ったまま楽しみ尽くせるように機能しています。

また「ラジオ等に比べて専門的な内容やミュージシャンのコアな話題がテーマになることが多く、好きな内容をより深く楽しむことができる」という声もあり、ポッドキャストにはよりニッチで専門的な話が聴けるイメージもあるようです。

そのほか、「ラジオよりも短時間で聴けて手軽」、「ながら聴きできる、目が疲れない、作業がサクサク進み、はかどりつつも、ニュースや知識教養まで得られてお得な感じがあります」と、情報摂取の「いいとこどり」ができるとまで感じている声もありました。

調査から、ポッドキャストは情報効率、生活効率、自分最適を満たすことができるメディアに成長している姿が見えました。端的に言えば、ラジオと無料動画それぞれの長所を持ち合わせているのです。

野田上席研究員は「ポッドキャストは、ラジオの本来持っている音声によるエンゲージメント力がさらにパワーアップしたメディア」と表現します。ユーザーは気に入った番組ができると、人に勧めたり、グッズを買ったり、コミュニティに参加したりというアクティベーションが加速し、その結果、リスナー同士のコミュニティが育まれていました。ポッドキャストとは、アクティベーションを促進するメディアでありコミュニティを育成するメディアでもあるのです。

ポッドキャスト広告における高いエンゲージメント

ポッドキャストには人にお勧めしたり、商品を購入するなどのアクティベーションを促進したりする力もあることがわかりました。では、ポッドキャストユーザーは広告へはどのようなアクションを取っているのでしょうか。

各サービスで広告宣伝を聴くという人たちに、その後の行動と印象を聞いてみました。まず、「紹介されていた商品・サービスを検索することがある」という人はポッドキャストもインターネットラジオも無料動画も6割強。ラジオ放送は、スマホが手元にないシーンも含まれるため、検索ではやや数字が低くなっています。

「紹介されていた商品・サービスを購入したことがある」は、ポッドキャストでは過半数。他のメディアよりも高いという結果になりました。

「商品・サービス名が記憶に残りやすい」では、ポッドキャストとインターネットラジオが約7割。よく音声メディアは動画メディアに比べて情報が少ない分、記憶にストックされやすいと言われますが、それがデータに現れていました。

まとめ

テーマを絞り、自分の興味にピンポイントに深く刺さるポッドキャスト。ビジネスでは、ポッドキャストをファンコミュニティの装置として活用していくことでより多くのチャンスが生まれそうです。

そんなポッドキャストをもっと広げていくにはどうすればいいのでしょうか? インタビューの中から3つのヒントが見えてきました。

1つ目は、番組の方からYouTubeのようなテーマに興味や関心のある人たちのいるプラットフォームに出向き、ポッドキャストの番組を知ってもらう仕掛けを作ること。

2つ目は、リスナーに「切り抜き音声」のような周囲に魅力を伝えやすい素材を提供するということです。

そして、3つ目は「リスナーの存在を見える化」。ポッドキャストは自分の関心に深く刺さっているがゆえに、「自分の好きなジャンルはニッチなのでは?」と考えがちです。そこを配信側がSNSでの参加型プロジェクトの実施などを通じて、リスナーの存在を見える化し、「好きな人が結構いるんだ」と認識してもらうことで、お勧めしやすくなるのではないでしょうか。自分以外にもリスナーが多くいるという自己肯定感は、番組を聴き続けていてもいいのだ、という継続にもつながります。

「周囲に勧めやすい土壌を作り、ユーザーの肯定感を育てることは大事なポイントだと思います」と野田上席研究員。分散化した生活者の興味にコミットし、コミュニティの中で人と経済が回り始めているポッドキャストには、まだ多くの可能性が残されていそうです。

※こちらで発表した資料はダウンロードいただけます。

(編集協力=沢井メグ+鬼頭佳代/ノオト)

登壇者プロフィール

野田 絵美
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員
2003年博報堂入社。マーケティングプラナーとして、食品やトイレタリー、自動車など消費財から耐久財まで幅広く、得意先企業のブランディング、商品開発、コミュニケーション戦略立案に携わる。生活密着やインタビューなど様々な調査を通じて、生活者の行動の裏にあるインサイトを探るのが得意。2017年4月より現職。生活者のメディア生活の動向を研究する。

※掲載している情報/見解、研究員や執筆者の所属/経歴/肩書などは掲載当時のものです。