伝統的メディアが新領域のテック業界へ参入 “草の根運動”で味方をつけたテレビ朝日の挑戦 @メ環研の部屋

放送局や新聞社、出版社などの伝統的メディアは、新しいテクノロジーをもつ企業とのコラボレーションを年々増やしています。そんななか、2023年3月25日〜4月22日にかけて、株式会社テレビ朝日主催のハッカソン「WEB3 x Entertainment Creative Hackthon/Ideathon」が開催されました。これはエンタテインメント領域とWEB3に特化したもの。

今回は、イベントの主担当を務めたテレビ朝日ビジネスソリューション本部 IoTv 局の増澤晃氏に、イベント実施に当たって凝らした工夫や得られた知見、伝統的メディアが新テクノロジーに携わる事業者とコミュニケーションをとる際に大切なことなどについて、メディア環境研究所上席研究員の森永真弓が伺いました。

4部門に120以上のエントリー、59作品の応募。想定を上回るクオリティの高さが際立つ

「WEB3 x Entertainment Creative Hackthon/Ideathon」は、株式会社テレビ朝日が主催となり、株式会社テレビ朝日メディアプレックス、国内最大規模の「東京web3ハッカソン」を運営したtreavry株式会社とともに開催したハッカソンです。

ブロックチェーンを基礎としたWEB3領域のプロダクトやビジネスを開発エンジニアやクリエイターから募集し、コンテスト形式で受賞作品が選考されました。ジャンルは「GAME」「NFT」「Music &Global」「DAO &Community」の4種類。「エンタテインメント」×「クリエイティビティ」を掲げるさまざまなプロダクトが集まりました。

3月25日のキックオフイベントを皮切りに、4月22日の最終審査DEMO DAYまでの参加者数は220人、オンライン視聴者数はのべ3000人超えに。企画当初の想定を大きく上回る結果となりました。増澤氏も、「数の多さだけではなく、全体的な質の高さとしても予想を超えてくる作品が多く出揃った」と感想を述べました。

テレビ朝日ビジネスソリューション本部 IoTv 局 増澤晃氏

エントリー数は目標の100を超え120以上も集まり、最終的に提出されたプロダクトは合計59(延べ数)作品。

その中から、「GAME」部門では、ChatGPTとLINEを活用した語学学習ゲームで、ステージをクリアしていくとNFTが貯まる「GOGAKU !!!~LINE English learning game~」がBLOCKSMITH&CO.賞を受賞。

「Music &Global」部門では、スマートコントラクトを活用した音楽の著作権管理プロトコルを作成した「Music Copyright Management Protocol」がテレビ朝日ミュージック賞を受賞しました。そのほか7作品がスポンサー賞(PRIZE)に輝いています。

プレイベントやプレスリリースを最大限に活用

民放キー局であるテレビ朝日ですが、今回のイベントは他社による持ち込み企画ではなく、新領域を探索すべく自社発で行ったものであるため、集客や認知獲得に関しては意識的に行った施策がいくつもあると増澤氏。以下で解説します。

多くのサブイベントの実施

3月16日のプレセッションに始まり、最終審査の4月22日までに、オンライン・オフライン含め計6回のサブイベントを行いました。NFT領域の有識者による講演会や、WEB3初心者に向けた技術勉強会や質問コーナーを設けたイベントなど内容は多岐に渡り、参加者が様々な視点で興味を持つ仕組みを多く取り入れています。

3月25日に開催したキックオフイベントでは、スポンサー各社およびブロックチェーンパートナーなど総勢15名が登壇し、アイデアワークショップやプレゼンテーションが開催されました。このイベントでは、現地参加者が約100名、オンライン視聴回数が1000回を超えるなど、想定以上の反響となりました。

3月25日に開催したキックオフイベントの様子

参加者やパートナーによるSNS発信を促す

これらのイベントの参加者やスポンサー企業には、できるだけ活発にSNSで発信してくれるよう促しました。メインイベントを盛り上げるためには、それまでいかに良い雰囲気で応募しやすく気軽に参加をできるかが肝になってきます。実際に多くの参加者がTwitterでの話題作りに貢献してくれたため、熱気を保ったまま4月22日のメインイベント当日を迎えることができました。


プレスリリースの積極的な配信

従来、放送局が発信するリリースというと、新番組発表などオンエアに関わるものや資本提携などのIR関連にまつわるものが大半。そもそも、自社のデジタルの取り組みを伝えるプレスリリース自体をあまり重視していない局も少なくありません。森永氏も、「BtoC向けに発信された情報はよく見かけるが、toBに向けられたテレビ局のプレスリリースは確かに目にすることが少ない」と頷きます。

一方、増澤氏は「テレビ朝日ではデジタルニュースサイトへの広がり・話題化を視野に入れ、PR TIMESなどのプレスリリース発信サイトを積極的にトライアル活用してきました。今回のイベントでも、テレビ朝日の新事業部門として正式にプレスリリースが配信された結果、複数のテック系メディアに掲載されたほか、『日経クロステック』など数社から取材を受けることにつながった。こうした仕掛けは、今後より一層効果的に働くのではないでしょうか」と、その重要性を改めて認識したと語りました。

スポンサーとの関係づくりをみずから率先して行う

参加者が応募したくなるテーマを設け、一緒に楽しく取り組み、共創してくれるスポンサーについていただくことによって、さらにイベントが活性化します。しかし、今回のように新たな領域に踏み込む際に理解や興味を示してくれる企業を集めるためには、これまでの放送局の営業窓口以外での対応も検討していくことが望ましいのかもしれません。

「今回は、私自身がゆかりのある企業に声をかけたのに加え、WEB3領域に興味のありそうなスポンサー企業を探りました。基本的にイベント主催チームが主体的に動く形です。ただし、営業サイドには現状どの企業とどんな話を詰めているかといった情報をこまめに提供し続けながら進めていきました」と増澤氏。加えて、「得意先全体にとって新たな領域推進支援を放送局が行うことも重要」と言います。

森永氏も「そもそも放送局の営業サイドが普段対峙している取引先の宣伝部には、新領域への協賛メリットと元々のミッションが合わないことも多い。イベント主催側が協賛メリットの理解促進のために、宣伝部以外とのコミュニケーションを行うことは、非常に大事な動きではないか」と考察しました。

メディア環境研究所 森永上席研究員

そして当然、スポンサー企業側にもメリットが提供できなくてはなりません。そのひとつとして、テレビ局とタッグを組むことで得られるニュースバリューが挙げられます。

「テレビ朝日とハッカソンイベントを開催するといったプレスリリースは、特に新進気鋭のテック企業にとっては価値ある情報になるはずだと考え、実際に実施しました」(増澤氏)

そして二つ目は、スポンサー企業の人材採用におけるメリットです。このハッカソンを通して優れたテクノロジー人材と出会うことで、将来的に良い採用につながることも見込んでいます。どの企業もデジタル・テクノロジー人材を欲している状況にあるからです。

臨機応変な社外スタートアップと協業して、イベントをより一層盛り上げていく

今回のハッカソン成功の裏には、協力してくれる社外パートナーの存在がありました。イベント参加者のケアやフォローアップ、プロダクト提出などの足回りを担ってくれたハッカソン・プラットフォームの運営企業です。「過去に1000人規模のWEB3ハッカソンを開催した経験があり知見が豊富な会社でした。細かなところまで目が行き届くという点で非常に助けられました」と増澤氏は振り返ります。

臨機応変にスピーディーにDEMO DAYの映像記録を委託したVlogを得意とする映像制作会社と、よりイベントのムードを体感できる映像を目指しました。

4月22日DEMO DAYで撮影されたVlog

映像を見た森永氏も、「記録撮影にとどまらず、しっかりと映像にまとめあげられていることは放送局ならでは」と語ります。記事用の写真だけではなく、多くの人に空気感までが伝わる魅力的な映像を記録として残しておくことは、今後のイベント運営にも有効であると言えるでしょう。

新領域で活路を見出すには、地道な草の根運動が肝

今回のWEB3ハッカソンに関する社外の反応はとても良好でした。しかし、「『門外漢の大手放送局が参入してどれほど充実したイベントになるのか』『流行りのテクノロジー領域に乗っかりたいだけではないか』といった疑問の声もあった」と増澤氏。

社内からも、「ハッカソンを通して、今後どれだけのビジネスモデルが生み出せるのか」といった疑問の声も上がったといいます。これらの不安を少しでも払拭するためには、地道な草の根運動が必要不可欠です。そのために、以下のような工夫を取り入れました。

トライアル的に他社のハッカソンへ参加

2023年はじめに、ブロックチェーンのプロジェクトや仮想通貨決済を手掛けるベンチャーが行ったハッカソンに、協賛パートナーとして参加しました。この際に得られた知見としては、集まるプロダクト数はそこまで多くはなくとも、質が高く、熱意のある参加者が多いイベントは構築できるということでした。この協賛パートナーは、たしかな手応えを感じられる経験となりました。

大規模展示会に参加し、そのあとも関係・ネットワーキングを大切につなぐ

幕張メッセやビッグサイト等で開催される大規模な展示会へ積極的に参加し、そこで出会えるテック系人材との関係構築に努めました。親しくなると、少人数のネットワーキング会に参加する機会も得られるので、その場を活用し、さらに人脈を広げて仲間を増やしました。

スタートアップ企業とコンテンツを活用したコラボレーションを実施する

正直なところ、スタートアップへの出資がどれだけの儲けにつながるのかはわかりません。しかし、ある程度の研究開発費等を活用したコラボレーションを生み出すことは未来につながります。

まとめ

ハッカソンのようなクリエイター・エンジニアやスタートアップのコミュニティ活動に、テレビ朝日のような大手メディア企業が取り組む際に問われること。それは、「場づくりの活性化・演出力」「一緒に盛り上げて好奇心旺盛なスポンサーを巻き込む力」「プレスリリースなどによるPR発信力」など。どれも決して容易いものではないことが増澤氏の体験談から汲み取ることができました。

そして、期待に応えるためには、地道に足を使って協力者を増やしていくことが最重要。この労力を惜しまないことが、より熱量が高いイベントをつくりだすための肝になってくると言えそうです。

「TVerのように複数の放送局を取り組む仕組みが、これまで主に競争一辺倒だった放送局業界に『協調領域』という概念を生み出した」と語る増澤氏。今回のWEB3エンタメハッカソンを通してテレビ朝日が得た知見をもとに、今後様々なクリエイターやスタートアップとのコラボレーションの場が放送局業界に広がっていくのかもしれません。

※PR TIMESなどのプレスリリース発信
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000094.000030888.html

※テレビ朝日の公式HP&エントリー募集サイト
https://web3entertainmenthackathon.akindo.io/

(編集協力=波多野友子+鬼頭佳代/ノオト)

登壇者プロフィール

増澤 晃(ますざわ あきら)
テレビ朝日 ビジネスソリューション本部 IoTv 局
2007 年(株)ドリコムにエンジニア入社し、Ruby on Rails コンテストや出資業務等を通じスタートアップコミュニティを学ぶ。2011年に(株)ミクシィと(株)博報堂 DY MP とのJV・(株)フレンゾ取締役 COO。その前後に(株)博報堂 DY MP にてスタートアップ連携や新規事業、データマーケティング、グローバルマーケティングを担当。2019 年より現職、インターネット・オブ・テレビジョン局にて先端コンテンツビジネス班に従事。
森永上席研究員
森永 真弓
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員
通信会社を経て博報堂に入社し現在に至る。コンテンツやコミュニケーションの名脇役としてのデジタル活用を構想構築する裏方請負人。テクノロジー、ネットヘビーユーザー、オタク文化研究などをテーマにしたメディア出演や執筆活動も行っている。自称「なけなしの精神力でコミュ障を打開する引きこもらない方のオタク」。WOMマーケティング協議会理事。共著に『グルメサイトで★★★(ホシ3つ)の店は、本当に美味しいのか』(マガジンハウス)がある。

※掲載している情報/見解、研究員や執筆者の所属/経歴/肩書などは掲載当時のものです。