定点調査コラム~「メディア欲求はスマホだけにあらず」若年層のリアルなメディア体験欲求~新美上席研究員

Wi-Fiの普及で変わる家庭内メディア環境

昨今の家庭内におけるメディア環境変化の一つにWi-Fi環境が整ったことがあげられる。メディア定点調査では、今回初めて家庭内でのWi-Fi環境の有無を調査したが、「Wi-Fi環境がある」と答えた人は84.3%(東京。以下数字はすべて東京)であった [図1]。Wi-Fiはもはや欠かせない家庭内インフラと言ってもよいだろう。Wi-Fi環境が整ったこととスマートフォンの進化という相乗効果によって、家庭内のメディア行動は変わりつつある。

[図1]Wi-Fi環境の有無

“お風呂スマホ”はあたりまえ!?広がる家庭内メディア行動

メディア行動の変化は若年層で顕著に見られる。「スマートフォンを風呂場に持ち込むことがある」は全体では15.3%だが、10・20代では3割以上と全体平均の倍以上になっている。特に女性は、4割近くが風呂場にスマートフォンを持ち込んでいる[図2]。

[図2]スマートフォンを風呂場に持ち込むことがある

若年女子がいる我が家でも“お風呂スマホ”は日常の風景である。スマートフォンが水に濡れたらどうするのかという私の苦言も、端末の防水性能の向上で終わりを迎えた。いまや、入浴というリラックスタイムにリラックスできるコンテンツを見る視聴スタイルはあたりまえなのだとすら思うようになり、メディア環境の変化は生活者の意識をも変えていくということを実感している。家庭内のあらゆる場所で、生活者はその時の気分に合わせてメディア行動を行うようになった。

より気楽にメディア・コンテンツに触れる様子は次の項目からも伺える。「スマートフォンで映画やテレビ番組を見ることが増えた」は全体では13.4%だが、10・20代の男性は倍以上の3割強、10代女性では43.4%と4割を超えている[図3]。映画やテレビを映画館やリビングのテレビ受像機で見るのみならず、より手軽に手のひらの中で楽しむようになってきているようだ。

[図3]スマートフォンで映画やテレビ番組を見ることが増えた

大画面の臨場感、ライブの躍動感。10代女性のリアルな体験欲求

このように若年層、特に10代女性はコミュニケーションだけでなく、メディア・コンテンツもスマートフォンで楽しむようになっている様子が伺えるが、彼らはスマートフォンさえあれば満足だと思っているのだろうか。興味深い調査結果がある。「良い作品については、映画館で見たいと思う」は全体では52.0%だが、10代女性は約20ポイント高く、71.7%と7割を超えている[図4]。また「音楽はライブで楽しむのが一番だと思う」は全体では22.4%だが、10代女性は41.5%とこちらも20ポイント近く高くなっている[図5]。

[図4]良い作品については、映画館で見たいと思う
[図5]音楽はライブで楽しむのが一番だと思う

スマートフォンでいつでもどこでも得られる体験と、映画館の大画面で得られる臨場感や音楽を大勢で楽しむライブの躍動感は、どちらも必要なメディア体験であると彼らは感じているようだ。若年層はスマートフォンでのメディア体験だけに閉じているわけではないのである。手のひらの中でのメディア体験の充実は、リアルなメディア体験の価値を見直すことにも繋がっているのではないだろうか。日々溢れるメディア・コンテンツに触れている若年層は、良いものを見極める目を持つ手ごわい存在と捉えるべきなのである。

新美 妙子
上席研究員
1989年博報堂入社。メディアプラナー、メディアマーケターとしてメディアの価値研究、新聞広告効果測定の業界標準プラットフォーム構築などに従事。2013年4月より現職。メディア定点調査や各種定性調査など生活者のメディア行動を研究している。「広告ビジネスに関わる人のメディアガイド2015」(宣伝会議) 編集長。

※掲載している情報/見解、研究員や執筆者の所属/経歴/肩書などは掲載当時のものです。