コネクテッドTVでのコンテンツ選択は? スマホでは? @メ環研の部屋

メディア環境研究所の「メからウロコ」では、昨今のメディアを取り巻く旬なテーマを取り上げ、リアルなユーザーの声を元にした分析をお届けしています。

コネクテッドTVや見逃し配信など各種サービスの普及により、インターネットとテレビ放送の垣根はますます低くなり、あらゆるスクリーンで多様なコンテンツが楽しめるようになりました。

コネクテッドTVでは、リアルタイムのテレビ番組はもちろん、見逃し配信のテレビ番組、さらにはネットの無料動画も、何を見るか自由に決められるようになったわけですが、生活者は何を基準にコンテンツを選んでいるのでしょうか。また、同様にスマホではどうでしょうか?

今回は、15~69歳の1846名を対象に「スクリーン別選択モード調査」を行いました。担当は、上席研究員の野田絵美です。

最もよく見られているスクリーンとは?

まずは全体の視聴状況を見ていきましょう。各スクリーンでのコンテンツ視聴実施率を調べたところ、最も多かったのはTVスクリーンでのリアルタイム放送の視聴で87.2%、毎日視聴する人も過半数という結果でした。TVスクリーンのリアルタイム放送は、今も多くの人が習慣的に「毎日見るメディア」の筆頭だと言えます。

続いて、実施率2位は「スマホで無料動画を視聴」の66.5%、スマホのタテ型動画の視聴も過半数に達しています。

年代別に見ていくと、50~60代では7割がTVスクリーンのリアルタイム放送をほぼ毎日視聴していると回答。この割合は若いほど下がり、30~40代では約5割、10~20代では約3割という結果になりました。

10~20代にとって毎日見る3大メディアは、「スマホの無料動画」「スマホのタテ動画」、そして「TVスクリーンでリアルタイム放送」であることも見えてきました。

野田上席研究員
野田上席研究員

今回の調査結果では、10~20代のうちスマホの無料動画やタテ型動画を毎日見ていると回答した人は、いずれもテレビと同じ約3割でした。TVスクリーンのリアルタイム放送がスマホの動画と互角に戦っていることが見てとれます。

コネクテッドTVにより、誰かと一緒に見る「共視聴」が拡大

続いて、それぞれのスクリーンでコンテンツを誰と見ているかについて聞いてみました。

TVスクリーンにおいては、リアルタイム放送での共視聴が52.9%と最も多く、「家族と見ている」と答えた人が49.3%にのぼりました。見逃しと無料動画では、単独視聴が過半数を占めています。

一方、スマホではいずれのコンテンツも単独視聴が圧倒的多数です。両スクリーンのデータを比較してみると、「リアルタイム放送」だけでなく、「見逃し配信」「無料動画」もTVスクリーンだと共視聴が増える傾向にあることが見えてきました。

コネクテッドTVの登場で、インターネットを用いたサービスである「見逃し配信」や「無料動画」がTVスクリーンで見られるようになりました。従来は自分だけで選んで見ていたコンテンツを「誰かと一緒に見る」という選択肢が増え、その結果、共視聴が広がっていったと考えられます。

野田上席研究員
野田上席研究員

コネクテッドTVによって、見たいものを一緒に選ぶという共視聴シーンが拡大しています。年代別に見ると、特に40代以下で無料動画・見逃し配信を共視聴する割合が高くなっています。親御さんやお子さんと一緒に、ファミリーで見ている人がいることが想像できますね。

コンテンツを選択するときの気分は?

実際にユーザーはどのように視聴するコンテンツを選んでいるのでしょうか? 「あらかじめ見るものを決めているかどうか」「視聴時の集中度」「視聴時の気分」を軸に調査を進めました。

TVスクリーンの場合

まずは、コネクテッドTV。「あらかじめみるものを決めてみる」と「あらかじめ決めずなんとなくみる」の割合を比較すると、前者の方が多いという結果になりました。

続いて「視聴時の集中度」。「しっかり集中してみる」「ぼーっと何も考えずにみる」「何かしながら横目でみる」「あまりみておらずなんとなく流しておく程度」のどれに当てはまるか聞いてみました。

各コンテンツで最も多かったのは、テレビのリアルタイムの放送で「何かしながら横目でみる」(39.9%)。見逃し配信は「しっかり集中してみる」(40.8%)、無料動画は「ぼーっと何も考えずにみる」(40.2%)でした。

次に視聴する気分について聞いてみたところ、全体の傾向としては「リラックスしたい」が最も多く、テレビに対する大きなニーズになっていることがわかります。

リアルタイム放送は「リラックスしたい」が最多、無料動画はリラックスも求められつつ、「気分転換をしたい」いう気持ちが高くなっています。見逃し配信は「ワクワクしたい」と「感動したい」が他に比べて高いという結果になりました。

野田上席研究員
野田上席研究員

「手短に気分転換したいから無料動画を見よう」「ちょっとワクワク気分を高めたいから見逃し配信でドラマを見ちゃおう」「疲れてリラックスしたいけど今テレビで何かやってるかな?」という感じで、スクリーンを選んでいることがわかりますね。

さらに、見るコンテンツの選び方についても聞いてみました。

各コンテンツを比較すると、リアルタイム放送はやはり「習慣」や「ながら見」に、そして「最新情報」と「情報が信頼できる」という点が他にはない特徴です。続いて、見逃し配信は「好きな人が出ている」「繰り返し見たい」、無料動画は「気分転換にちょうどいい」「有意義な時間を過ごせる」が特徴として出てきました。

野田上席研究員
野田上席研究員

「その番組やコンテンツが好き」というベースの選び方の上に、習慣・ながら見・最新・信頼・繰り返し見たい・有意義な時間という価値が乗っていると言えますね。

気分を縦軸、集中度を横軸に取ったポジショニングマップに整理すると、以下のように整理できました。

スマートフォンの場合

スマートフォンについても、リアルタイム、見逃し、無料動画(ヨコ型)、タテ動画で同様の調査を行いました。

「あらかじめ見るものを決めているかどうか」では、リアルタイム視聴は「あらかじめ決めている」(38.5%)と「あらかじめ決めずなんとなくみる」(36.5%)がほぼ同じ割合になりました。

見逃し配信と無料動画では、「あらかじめ決めている」が優勢。しかし、タテ動画になると「あらかじめ決めずなんとなくみる」の方が多く、過半数を超えました。

続いて「視聴時の集中度」では、やはり見逃し動画は「集中してみる」が多く、リアルタイム、無料動画、タテ動画は「ぼーっと何も考えずにみる」を回答した人が多いという結果に。なかでもタテ動画は「ぼーっと何も考えずにみる」が52.5%と過半数に達しています。

続いて、気分についての調査結果です。テレビとの違いを挙げると、テレビでは「気分転換」というポジションをとっていた無料動画が、スマホでは「リラックスしたい」が最多となり、他と比べても頭一つ分抜けた多さとなっています。

見逃し動画は「気分転換をしたい」「集中したい」「ときめきを感じたい」の割合が高く、リアルタイム配信は「感動したい」というプラスの価値観から「やる気がしない」「やる気を出したい」「さみしさを紛らわしたい」まで気分に幅があるのが特徴だと言えます。

スマホでの見るコンテンツの選び方について聞いてみました。

スマホの場合、全体的に「気分転換にちょうどいい」「好きな人が出ている」に加え、各コンテンツへの好意が見られます。また、タテ動画では「何となく流れている」点も特徴として表れています。

気分を縦軸、集中度を横軸に取ったポジショニングマップに整理すると、以下のようになります。

野田上席研究員
野田上席研究員

スマホにおいて、テレビのリアルタイム配信に「曜日や時間帯の気分にあう」が入っているのはテレビの編成が効いているのでしょう。一方、タテ動画には完全受け身で委ねている感覚が生まれています。

コネクテッドTVとスマートフォンを比べてみると?

TVスクリーンとスマホのポジショニングマップを比較すると、興味深いことが見えてきました。たとえば、リアルタイムのテレビ番組はTVスクリーンではリラックスという価値観が大きく見られましたが、スマホになると感動やときめきというプラスに働きかける作用が高くなっているのです。

そして、TVスクリーンではリアルタイムのテレビ番組が担っていたリラックス作用を、スマホだとタテ動画が担っているのも興味深い点です。

野田上席研究員
野田上席研究員

気分という観点では、昔、TVスクリーンでリアルタイム放送をぼーっと受け身で見ていた感覚が、スマホの中のタテ動画に生まれているようです。タテ動画はスマホの中でも独自のポジションを築いています。

また、無料動画と見逃し配信にも価値観の変化が見て取れます。従来はスマホでの視聴が中心だったところ、TVスクリーンで見られるようになったことで価値がアップしているのです。見逃し配信は「ワクワク」や「感動」という気分をプラスにする力が増大し、無料動画は「有意義な時間」という時間価値が高まっています。

野田上席研究員
野田上席研究員

ユーザーインタビューでは「昼と夜では見る気分が異なる」という声が多くあがりました。時間帯によって、「有意義」の意味も変わってくるということです。今後、無料動画にもテレビの編成のようなものが生まれると、無料動画の評価はさらに変わるかもしれません。

まとめ

今回の調査では、スクリーンの選択肢が増えたことで新たな価値が生まれていることが見えてきました。同じコンテンツでも、スクリーンによって共視聴か単独視聴のされやすさが変わり、視聴中の集中度や感じる価値が異なります。 これらの状況を踏まえ、広告の出し方も変わっていく可能性についても議論が及びました。

野田上席研究員
野田上席研究員

集中度が高い場所だからこそ気持ちよく見てもらえる広告もあれば、反対に集中度が高いからこそ邪魔だと思われる可能性もある。広告を見られているからOKではなく、気持ちや気分に合った出会いを生み出すことが必要だと感じます。

ユーザーは何を求めてそのスクリーンを選んでいるのか、誰と見ているのか。スクリーンの向こう側の気分や状況をキャッチすることが映像コンテンツにおける広告ビジネスの鍵の一つになっていきそうです。

※本ウェビナーの配布資料は、別途、メディア環境研究所のサイト内で公開予定です。

(編集協力=沢井メグ+鬼頭佳代/ノオト)

野田上席研究員
野田絵美
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員
2003年博報堂入社。マーケティングプラナーとして、食品やトイレタリー、自動車など消費財から耐久財まで幅広く、得意先企業のブランディング、商品開発、コミュニケーション戦略立案に携わる。生活密着やインタビューなど様々な調査を通じて、生活者の行動の裏にあるインサイトを探るのが得意。2017年4月より現職。生活者のメディア生活の動向を研究する。

※掲載している情報/見解、研究員や執筆者の所属/経歴/肩書などは掲載当時のものです。