ドラマは“観戦”へ進化!若者が熱狂するSNS、ショート動画、TVerの新潮流「ドラマを巡るメディアジャーニー」後編
コネクテッドTVや見逃し配信サービスの普及により、テレビコンテンツの見方が多様化し、情報の届け方にも新たな潮流が生まれています。「新・視聴者 解体新書 ドラマを巡るメディアジャーニー」の前編の記事では、生活者とドラマとの出会い~ファン化までの過程に注目し、中でも若年層がSNS、ショート動画、TVerでの接触を通して、いかにファンになっていくかを見ていきました。
後編では、実際の現場での最前線の取り組みをお届けします。ゲストスピーカーは土曜ドラマ『放送局占拠』などの占拠シリーズを担当する日本テレビのプロデューサーの尾上貴洋さん、TVerのサービス事業本部PR部副部長の見川佳菜さん。モデレーターはメディア環境研究所の野田絵美上席研究員です。
後追い視聴は当たり前。4話までの盛り上がりが鍵


若年層は後追い視聴が当たり前になっているのを感じています。私たちが運営するTVerでは、再生数のランキングや「再生数が○万回を超えた」という情報を発信しています。それが後追い視聴の呼び水になっているという調査結果は、我々にとってたいへんうれしいデータです。
以前は放送前にリサーチして「次のクールはこれを見よう」と決める方も多かったと思いますが、今は再生数などの周りの評判がドラマ選びの指標になりつつありますね。TVerでは1話より2話、2話より3話と雪だるま式に再生数が増えていく作品も多いです。

SNSでの盛り上がり方に変化を感じますね。ドラマ内で何かが起こると、SNSで逐一コメントがつき、トレンド入りしてどんどん盛り上がっていく。それをリアルに感じたのが『大病院占拠』でした。

『放送局占拠』も『大病院占拠』も、SNSでは「本当に占拠事件が起きた?」と注目されていました。狙ってつけたタイトルだったのでしょうか?

そうですね。占拠シリーズはタイトルだけで「何か事件が起きて、何か派手なことが起こって、事件を解決するドラマであることが想像できるわかりやすさ」を意識しました。

「わかりやすさ」を意識するようになったきっかけは?

コンテンツが非常に多くなっているなかで、何よりまずは目に留めてもらいたい。だからこそ、タイトルで内容をはっきりさせることが重要だと考えました。

ドラマは「視聴」から「観戦」へ

では、情報の届け方にはどんな工夫をされているのでしょうか?

『大病院占拠』では、企画の段階から「刑事vs武装集団」という明確な対立構造を考えていて、スポーツ観戦のように、みんなでワイワイしながらスリリングな感覚を味わっていただきたいと思っていました。
一緒にリアルタイム観戦するという感覚をドラマに取り入れたかったんです。そのために、勝負がわからない展開や、まさかの人物の裏切りなどの展開をたくさん盛り込みました。

視聴中は、本物のスポーツ観戦のようにわざわざリアルタイムで見たくなり、思わず声をあげてしまったり、「あいつが犯人か!」とSNSにコメントしたくなりました。いつでも一人で見逃しで視聴できるからこそ、リアルタイムにみんなのコメントを眺めながら楽しむのが貴重なドラマ体験になりますね。

そういう視聴者の声がSNSに投稿されることで、まだ見ていない人に「盛り上がっているドラマなんだ」と伝わっていけばいいなと思いましたね。
オススメするのもされるのも「4話」までがポイントになる理由

メ環研の調査では「ドラマを見てもらうためには1話目だけではなく3~4話が勝負になる」ということが見えました。4話までを盛り上げていくために、どんな工夫をされましたか?

占拠シリーズの場合、TVerで3話までは常に見られるように設定されていました。だからこそ、「5話周辺でそれまで明かされていなかった主犯のキャストを出そう、そこに向けて盛り上げていこう」と考えましたね。

なぜ「5話」なのでしょう?

漠然と中盤の盛り上げを考えていたところではありました。そしてTVerさんの視聴環境があるという中で、シリーズを重ねていくうちに途中から戦略的な発想になりました。

特に、TVerで3話までが常設されているドラマの場合、4話の配信開始が一気見を促す重要なタイミングになります。私たちもそのタイミングで「今ならまだ追いつけるよ」とSNSなどで発信し、その後の継続視聴に繋げる流れを意識しています。
尾上さんのお話を聞いて、4話のタイミングで、まだ見ていない方に一度追いついてもらった上で、5話での衝撃展開を楽しんでいただくということもできるな、と思いました。

おすすめされるとき、「ここで見られる」という情報があるのはいいですね。視聴者が誰かに勧める場合も、4話が勝負と言えそうです。

本編へ誘うショート動画制作のポイントとは?

TVerでは、ドラマ情報を届けるときにどんな工夫をしていますか?

先ほど見せていただいた調査でも、若年層向けには「認知」と「維持」と「ファン化」それぞれのフェーズでSNSが大きな役割を果たしているとありましたが、私たちもこの3つのフェーズを意識しています。
例えば、ショート動画。TVerでは公式の切り抜き動画を発信していますが、私たちの調査でも若年層ではショート動画だけ見てある程度満足してしまう傾向にあることがわかっています。「面白いな」とまでは思っても、わざわざ動画アプリをTVerに切り替えて本編を見にいくまでには大きな壁があるのが実情です。
そこで2025年10月にTVerのアプリにショート動画機能を実装したんです。タテ型動画プラットフォームで見るような感覚でショート動画を視聴でき、かつ気になったものはワンタップで本編に直接飛べるようになりました。
TVerのショート動画機能では、ユーザーの動画滞在率が高く「じっくり」見られている傾向にあります。また本編遷移率も、当初の目標値を上回りました。


素晴らしいなと思います。ただ、やはり「ショート動画で、ある程度見た気になって満足する」という若年層の声がとても気になります。同時にショート動画だけで満足せず、本編を見てもらうにはどうしたらいいのかということを考えさせられますね。
私たちのショート動画では、あらすじのまとめではなく、主人公の「嘘だろ」という決め台詞や、敵がかぶっているお面などの目を引く要素の順番を入れ替えて作ることを意識しました。そしてPRのVTRでは「最後までご覧ください」というスーパーを必ず入れました。

この先に何かあるらしいと言うことを、最初に示唆しておくのですね。ショート動画制作には若手が活躍されたと聞きました。

TikTokの流行りのムーブや音楽、編集はリアルタイムで変わっていくと聞いたので、普段からショート動画に親しんでいるチームに入ってもらって、その流行りにドラマの要素をはめ込んで作ってもらいました。

実際に『放送局占拠』のショート動画についているコメントを見てみると、「公式さんの編集力凄まじい」というプロフェッショナルな部分を褒めているコメントもあれば、「公式さんなのにこれやるんだ!」という身近な仲間意識を感じているコメントもありますね。

ファン目線というか、視聴者が作りそうなもの、流行っているものを逆にこちらが取り入れたのだと思います。そのセンスがチームとして非常にうまく働いたと感じています。

プロフェッショナルとして送り手であり、同時に視聴者のフォーマットに合わせる。制作も観戦仲間として一緒にやっていくことが大事なのですね。

実は、もう「ただ切り抜いただけ」のショート動画は見てもらえなくなりつつあるんです。
TVerの調査では、ティーン層はテレビコンテンツは好きなのですが、テレビコンテンツと触れる場がタテ型切り抜き動画にシフトしてきています。そして「どの放送局の何の番組かはわからないけれども、見ている」という現象も起きています。ここには危機感を覚えました。
そうなると違法アップロードの動画で作品を網羅できてしまう恐れがあります。ワンシーンだけで満足せず、本編を配信しているプラットフォームを探してもらうことが、私たちにとって大きな課題だと感じています。
ファンといい関係を作るヒントは「みんなで楽しむ」

続いて、ファンとのいい関係の作り方についてお聞かせください。ドラマを好きになってもらったら、他の作品も見てもらいたいものです。ドラマ好きの縁を広げてもらうために、どのような工夫をしていますか?

常にSNSで話題を提供して、舞台裏も含め、楽しんでいただく。さらに先ほどの観戦の話にもつながりますが、SNSで「視聴のお供に何を飲みますか?」などと発信して、「みんなで一緒に同じ時間を楽しみましょう」という空気を作ろうと努めていました。
また占拠シリーズの武装集団のお面を、ホームページ上からダウンロードできるようにもしました。実際、子供たちがお面を作って遊んでくれたり、お面をつけながら見てくれたという話も聞いています。

グッズがファン同士のコミュニケーションツールとなるのは、ファンにとって嬉しいことですね。TVerの方はいかがでしょうか。

TVerでは各SNSに公式アカウントを持ち、情報発信しています。
Xの場合は、情報のリアルタイム性や網羅性を意識していて、Instagramの場合はおすすめ・流行のテレビコンテンを視覚的に訴求するキュレーションメディアやマガジン的な役割、TikTokはコンテンツとの接点を広げるTVer視聴の呼び水的存在、といったように、アカウントごとにきちんとコンセプトを決めることがファン化に繋がると考えているためです。
「見るかどうか迷っているとき」の最後のひと押しになる情報発信や、より熱量を高めていくための情報の提供をとても意識していますね。
例えば、Xでトレンド入りをした番組があったら、私たちからもアナウンスする。「今、この番組がすごく見られています」という情報をお伝えするようにしています。

僕たちの番組もTVerさんに「再生数○万突破」といった発信をしてもらいました。客観性という点で、数字での発信はとてもわかりやすいと思います。

『放送局占拠』では、「TVerの再生数を上げよう」というムーブメントをファンが起こしてくれたと伺いました。

そうなんです。ファンの方々が放送日の後に「TVerで同時視聴をしましょう」と呼びかけてくださったんです。これは私たちが仕掛けたものではなく、ファンによる自発的なムーブメントなんです。

テレビでリアルタイム視聴や実況をした後で、みんなでTVerも見るということですか?

そうです。「ドラマを見ながらSNSで共有する」という時間を大切にしてくれていると感じています。

TVerでは公式SNS主導の「TVerウォッチパーティー」も実施しています。
バラエティ番組の例ですが、一般的に再生数は配信開始直後にピークを迎え、以降は右肩下がりになるところ、ウォッチパーティーのタイミングで再生数のスパイクが起きました。また参加者が同タイミングでSNSに投稿されるので、トレンド入りもしています。
SNSで話題となり、再生数アップに効果があった。そんなウォッチパーティーを私たちは重要な施策ととらえていますが、これが自発的に起きているのは本当にすごいことだと思います。

ドラマでウォッチパーティーを企画するとしたら、視聴者が様子見をしている1~2話ではまだちょっと早いですよね。

そうですね、やはり3話、4話あたりですかね。

今、私たちは日々さまざまなコンテンツに触れている割には、みんなで分かち合う機会は多くはありません。
誰かと「あれ、見た?」と話す時間が貴重になっているからこそ、若年層はSNSでの会話のきっかけになりやすいドラマに興味を持っているのかもしれませんね。そういった点でウォッチパーティーはいい施策だと感じました。
ファンこそ強い味方、若年層ほど情報の拡散に貢献
最後に、「ドラマを巡るファンアクション」についての調査結果を紹介します。面白いと思ったものは周りに拡散、おすすめをしたくなるものですが、若年層ほどその傾向が強いことがわかりました。

具体的なおすすめ方法を見てみると、どの世代も1位は「家族や友人との会話」。10~20代は加えてTVerのリンク、公式アカウント、切り抜き動画などのシェアと回答。ドラマの味方になってくれる世代だと言えます。

また若年層は楽しみ方も幅広いようです。好きなシーンを繰り返し見るのは当たり前、公式SNSなどをフォローして自然とドラマ情報が入る状況を作り、中には積極的にファン同士で交流をしている人もいます。
ドラマに関連した消費も活発で、グッズ購入や聖地巡礼、役の着用アイテムや食べたものを真似する人も他の世代より多い。そして二次創作や切り抜き動画作成というドラマ起点の創作活動も活発でした。

今回の調査とディスカッションからは、いくつかの新しい潮流が見えてきました。やはり、一番のポイントは、視聴者獲得の勝負のタイミングが3~4話にまで伸びているということ。つまりチャンスが広がっているということです。
また尾上さんから「観戦」というキーワードが出ました。ドラマを中心に「このシーンが面白い」という考察や、「推しのいい写真をありがとう!」という応援の声が波紋のように広がっていく。みんなでワイワイと「観戦」しながら、5話あたりで「リアルタイムに見たい」と思ってもらえる熱を作ることが新しい潮流の中で大切になってきていると言えるでしょう。
そして今後、視聴者と「コンテンツとの出会いの場」、もしくは「推しの場」としてSNSやTVer、ショート動画が大きな役割を果たしてくれそうです。
(編集協力=沢井メグ+鬼頭佳代/ノオト)
※掲載している情報/見解、研究員や執筆者の所属/経歴/肩書などは掲載当時のものです。
今回の調査では、10~20代では男女ともにドラマに強い興味を持っていることがわかりました。お二方は、何か変化を感じられていますか?