AIが前提となる時代に企業に求められるもの~メ環研はCES2026をどう見たか?【後編】

前編でのAIをめぐる全体俯瞰、そして続く中編では、AIが個々のデバイスに溶け込み、具体的にどのように実装されようとしているのか?その進化を詳しくお届けしてきました。
後編では、いよいよ社会にAIを実装したプロダクトやサービスが普及していくときに何が重要になるのか?そしてそれらの商品が普及し、便利と効率化が実現する中で重要になるものとは何か?について考えていきたいと思います。

のAIは生活者が「使いたくなるのか?」

今回のCES2026で強く感じられたのは、新たな企業間競争が始まる予感だった。それはAI技術を使って「出来る/出来ない」という競争ではない。もはや「出来る」ことを前提に、生活者が生活の中の実用として「本当に使いたくなるか?」という競争が始まる近未来が見えてきたのだ。

・ロボティクスは、「かわいい」「見守る」だけでなく、家事や作業の“負担そのもの”をどれだけ具体的に減らせるのか。
・スマートグラスは、装着の違和感や疲れといった“日常のストレス”をどれだけ抑え、長時間駆動でき、AIを使った翻訳などの生活サポートをしてくれるのか?
・記録デバイスは、操作が直感的であることに加えて、記録した情報をどう守り、活かして、私たちの認知や判断をサポートしてくれるのか?
・健康計測デバイスは、高度なデータを取れる、その測定は継続しやすいのか?そして長寿化につながる専門的情報へのアクセス、サポートまで得られるのか?
・AIバーチャルヒューマンは、ただ言葉が返ってくるだけでなく、ユーザーの感情に寄り添い、共感できる表情や反応を持っているのか?

今回のCES2026で見られたプロダクトの多くは、まさにこうした「使われやすさ」の競争を意識していたように見えた。
AI技術はもちろん重要だ。その運用を支えるデータセンターや半導体といった基盤の重要性も、今後さらに高まっていくだろう。だが「生活者」という視点に立てば、「AIで可能になるから」といって、すぐに使われるわけではない。生活者の暮らしをつぶさに見つめたうえで、どうすれば“使いたくなる”のか、どうすれば“使い続けられる”のか、その価値づくりこそが、これからの企業にとって重要になっていくだろう。AIが「行動するAI」として日常に入ってくるからこそ、その「実装の質」が問われる段階に入るのだ。

■さらにその先にある「人間中心のAI」のデザインとは?

今後AI技術の進歩と共に、いま述べたような「使いたくなる/使いやすく続けられる」プロダクト・サービスデザインもどんどん進化を遂げ、生活者に浸透していくだろう。
そうすると何が起きるのか?今回のCES2026を見て筆者が感じたのは「人類に時間ができる」という強い問題意識だった。
今後、全世界で長寿化は進み、家事や産業労働の負荷は減っていく。日常の中での理解・記憶・認知の負担も減っていく。つまり「人生は長くなり、負担は減っていく」のだ。すでに過去20年で多くの先進諸国(OECD等)で労働時間は減少傾向にあるが、AIの進歩によりこの傾向は強まり、さらに家庭内における「家事労働」の時間も減少していく。この新たに生まれる時間を企業は、技術はどのようにサポートしていけばいいのだろうか?

■求められる「主体と自信」を後押しするデザイン

今回取材をする中でそのヒントを与えてくれた展示・プレゼンテーションを紹介したい。

調理への喜びをAIとセンサーで後押しするボッシュのスマートキッチン

ドイツの大手家電メーカー、ボッシュがCES2026で発表した「Bosch Cook AI」と、それに連動するスマート調理家電群は、調理体験を一段引き上げる明確なビジョンを示していた。
それは、熟練の料理人が無意識に行っている微細な判断や火加減を、AI、センサー、独自の家電技術の組み合わせによってキッチン環境そのものに組み込むという発想だ。現在でもAIがレシピを考え、その手順を見ながら料理することはできる。しかし、ボッシュが提示したのは、「AIがレシピを教える」段階から「AIとセンサーが調理道具や環境を直接コントロールし連携させる」段階へと進化した。

AIが「失敗の要因」を物理的に排除する

ひとつのユースケースを紹介しよう。例えばステーキを焼こうとするとき、フライパンの熱を正確に測るセンサー、肉の芯まで温度を逃さないワイヤレス肉芯温度計が食材の調理状況を把握。さらに目指したい特定の調理結果(焼き加減など)にむけてオーブンと編成・連携する。これらから集まる情報を、料理の達人のような「エージェント型AI」が瞬時に判断し、コンロの火力を自動でコントロールする。例えば、火加減ひとつで味が決まる分厚いステーキや、わずかな温度差で分離してしまう繊細なソース作り。Bosch Cook AIは、フライパンの表面やお肉の内部で起きている変化をコンマ一秒単位で読み取り、コンロとオーブンの熱量を、指先ひとつ触れずとも調節し続ける。

(プレスカンファレンスではAIによる調理サポートを実演)

ユーザーに求められるのは、「今、裏返してください」というAIからのライブ指示に従うことだけ。その結果、これまで経験や勘が必要だった高難度の料理でも、初めて挑戦する人がプロの仕上がりを安定して再現できる。ここで実現しているのは「作業の代行」ではない。プロが持つ「失敗しない環境」そのものを家庭に持ち込むという、物理レイヤーでのサポートなのだ。

AIを使って行う、人間中心のエンパワーメント

「製品のシームレスな機能と強化されたデジタル機能を組み合わせて、人々を力づけ、できることを増やしたい」プレスカンファレンスでこう語ったボッシュ。シェフがBosch Cook AIを使って手際よくステーキを焼くデモンストレーションを行った後「私たち誰もが、友人や家族のために、このような感動的な料理を作れるようになる」とも語り「自らの手で料理する喜びを加速する」AIプロダクトデザインを示した。

温度管理や焦げ付きへの不安といった、心理的負担の大きい部分をAIが肩代わりすることで、人は「味付けの工夫」や「美しい盛り付け」、あるいは「家族との会話」といった、より創造的で人間的な喜びに集中できるようになる。「失敗しない」という確信があるからこそ、人は新しいレシピに挑戦する勇気を持てる。成功体験が積み重なることで、料理に対する「主体性と自信」が育まれ、調理は単なる家事という義務から、自分を表現する楽しみに変わっていくかもしれない。

「働く自信」をテクノロジーで育む―:Doosan BobcatのAI重機

このような考え方は、韓国の重機メーカーDoosan Bobcatのプレゼンテーションからも感じられた。Doosan Bobcatは工事現場などで使われるショベルカーなどの重機をつくるメーカーだ。現在このような重機を扱う熟練技術者が引退し始める中で、AIと共に重機を操作し、修理し、働く人の自信を高めるプロダクトを今回発表した。CES2026のステージで同社が強く打ち出したのは、AIによって「操作の難しさ」をほどき、経験の差を縮め、働く人にJobsite Confidence(現場での自信)を取り戻すというビジョンだった。

同社CEOのScott Park氏は、重機操作がいかに熟練を要するかを、あえて自分の例で語った。溝を掘るだけでも、幅や深さ、直線性を規格通りにそろえるのは難しい。狭い場所を通り、土をこぼさず運び、思った通りに整地する「機械が体の延長になったように扱う」職人技は、年単位の経験で磨かれてきた。だからこそ、熟練オペレーターの大量退職が見込まれる(同社は米国建設労働者の40%超が2031年までに退職見込みと説明)なかで、現場はすでに人材不足の影響を受けており、これから一段と厳しくなる。そこでBobcatは、「誰でも早く上達できるほど直感的な機械」を“いま実現する”と宣言した。

現場に「熟練の知恵」を載せる:Bobcat Jobsite Companion

(プレスカンファレンスより)

その中心に据えられたのが、同社の説明ではコンパクト建機領域で“初”のAI音声操作として紹介された Bobcat Jobsite Companion である。オペレーターは機械に向かって話しかけ、作業意図を伝え、設定や操作について質問できる。たとえば、重機の腕の先に取り付けたアタッチメント(土をすくうショベルや、岩を砕くハンマーなどの交換器具)に対して「どの設定が適切か分からない」という場面では、Jobsite Companionがその道具の種類と作業環境に合わせて機械の設定を最適化すると説明された。そしてステージ上で同社は、音声コマンドによって50以上の自動化操作(engine speed、油圧モード、ライト、ラジオ等を含む)を起動できると明言している。つまり「手はレバーに置いたまま、口で機械を動かす」未来を、デモとして見せた。

さらに重要なのは、これが「クラウド頼みのAI」ではない点だ。工事現場は山の中なども多く、通信が不安定になりやすい。だからJobsite Companionは、同社説明では 機械内で処理を完結するオンマシン(オンボード)AIとして設計され、リアルタイムに応答することが強調された。

「自分でも出来るかもしれない」気持ちを動かし「できる自信」を育むAI

Bobcatのプレゼンが繰り返したのは、「誰が仕事をするかを変えるのではない。どう仕事が行われるかを変える」という立場だ。音声で機械を動かし、故障対応を速め、さらに自律・電動化へ。機械は“鉄と鋼の塊”から、会話でき、学び、支援し、ときに自律する存在へ変わる。CES2026でDoosan Bobcatが見せたのは、AIを“効率化”で終わらせない姿勢だ。AIを、現場の重機を動かす人の手元に置く。あくまで「働く人間」を中心におきそこで「速く」「正確に」「自信を持って」働ける状態をつくろうとしているのだ。これから新たに重機の操作をしてみようか、と考え始めた人であっても「これなら自分でできるかも」と思わせ、さらに現場で「できる」という経験と自信を積み重ねることができる。人の主体性を後押しし、行動を起こさせるデザインがここにもあった。

デジタル時代に人の「やりたい」を駆動する:レゴグループ、約50年ぶりの“新商品”

このような人の主体性を後押しし、行動を起こさせるデザインを「遊び」の領域において提案し大きな話題をさらったのが、レゴグループによる発表だった。同社が「レゴ®ミニフィギュア以来、約50年ぶりの大きなイノベーション」と位置づけるその新製品は、デジタルが前提となる社会において、テクノロジーがいかにして人の「遊びたい」「想像したい」という主体性を駆動できるか、という問いへの鮮やかな回答だった。

画面の中に閉じない、「触れる」デジタル体験

レゴグループが発表したのは、見た目は従来の2×4ポッチのレゴ®ブロックと変わらないが、その内部に高度なセンサーと通信チップを搭載した「レゴ®スマートブロック」だ。

(変幻自在に光り音を出す新世代レゴ®ブロックを発表)

この開発の背景には、同社の「子供たちのスクリーンタイム(画面視聴時間)の増加」に対するレゴグループの想いがある。デジタルネイティブ世代の子供たちは、ゲームや動画の中で没入的な物語を楽しんでいる。そんな中でレゴグループが目指したのは、デジタルの持つ「双方向性」や「没入感」を、画面(スクリーン)を使わずに、物理的、生身の体を使うブロック遊びの世界に取り戻すことだった。

「レゴ®スマートブロック」が実現する、直感的なインタラクション

筆者が驚かされたのは、その技術が徹底して「黒子」に徹している点だ。レゴ®スマートブロックには電源ボタンも設定画面もない。「振る」だけで起動し、すぐに遊び始められる。
この小さなレゴ®スマートブロックには、以下の機能が凝縮されている。

・高度なセンシング: 色、光、動きに加え、レゴ®ブロック同士の「距離」や「方向」、さらには「お互いが向き合っているか」までを認識する。
・分散型ネットワーク: スマートフォンやタブレットをホストにする必要がない。レゴ®ブロック同士が自律的に通信し合い、連携する。
・スマートタグとスマートミニフィギュア: 特定のチップ(スマートタグ)を組み込むことで、レゴ®スマートブロックは「自分はエンジンのパーツだ」「自分はドラゴンだ」と認識する。また、レゴ®スマートミニフィギュア(小さな人型の人形)にもチップが搭載され、例えば「誰が運転席に座っているか」によって反応が変わる。

これらにより、例えば戦闘機のセットを作れば、機体の動きに合わせてエンジン音が変化し、敵の機体が近づけば警告音が鳴る。しかし、それらはすべてレゴ®ブロック自体から発せられ、画面を見る必要は一切ない。

「レゴ®スマートブロック」が、車にも飛行機にも変身する

このレゴ®スマートブロックの真骨頂は、その驚くべき「適応力」にある。プレス向けのデモンストレーションで見せたのは、たった一つのレゴ®スマートブロックを使い回すだけで、遊びの世界が一変する様子だった。
プレゼンターが、レゴ®スマートブロックをレゴ®ブロックでつくられた「車」にパチリとはめ込んだ。するとその瞬間、クルマに仕込んである「クルマのスマートタグ」に反応しブロックは「自分は今、車だ」と認識する。その瞬間、クルマのエンジンをかける音と「ブルルル・・・!」というエンジン音がレゴ®スマートブロックから鳴り響いた。手で走らせればエンジンの回転数が上がり、カーブを切るように動かせば「キキーッ」とタイヤが軋む音が鳴る。車を逆さまにすると「ドカーン!」というコミカルなクラッシュ音がして、会場の笑いをさそった。そしてそのレゴ®スマートブロックをクルマから外し、ブロックで作った「飛行機」にはめ直した。特別な設定やスマホ操作は一切ない。ただ乗り物を移しただけだ。しかし、今度は飛行機のジェット音が鳴り響き、機体を裏返して背面飛行をさせると、それに合わせた風切り音へと変化した。

なぜそんなことが可能なのか? その秘密は、モデル側に埋め込まれた小さな「スマートタグ」にある。レゴ®スマートブロックはこのタグを読み取ることで、自分が「車」なのか「飛行機」なのか、あるいは「アヒル」なのかを瞬時に判断し、その役割になりきるのだ。「車を作りたい」「次は飛行機を飛ばしたい」。子供の移ろいやすい興味に合わせて、レゴ®スマートブロック一つがカメレオンのように役割を変え、その想像の世界に音と動きで寄り添う。これこそが、画面(スクリーン)に依存しない、直感的なプレイ体験の正体だ。

プレスカンファレンスでは大人気映画の世界をレゴ®スマートブロックで作れるシリーズの発売を発表。劇中に出てくる戦闘機同士のドックファイトを映画さながらの迫力の飛行音と射撃音で楽しめる様子が紹介された。

テクノロジーは「人間の想像力」のために

このようにレゴグループは高度なセンサー技術を「子供の想像力と創造性を駆動する」ために捧げている。ここで重要なのは、デジタル技術が「遊びの主役」ではないということだ。あくまで主役は人間の手と想像力であり、テクノロジーはそれを拡張するための触媒として、レゴ®ブロックの中に静かに埋め込まれている。

人が本来持っている「作りたい」「動かしたい」「物語りたい」という根源的な欲求を、テクノロジーがいかに邪魔せず、かつ強力にエンパワーメントできるか。CES2026で見られたこれらのプロダクトは、その先に広がる豊かで人間らしい未来を予感させるものだった。

■時間が生まれる時代の「主体性を後押しする」デザイン

ここまで見てきたように、CES2026で提示された数々のプロダクトは、AIやロボットが家事や仕事の負担を軽減し、AI駆動の様々な製品が健康管理、認知や記憶といった領域で人をサポートしてくれる未来が、すでに現実の射程に入り、実装されつつあることを示していた。AIが前提となった社会で、まず当面始まるのは、生活をつぶさに見つめたうえで「どうしたら生活者が使いたくなるのか?使いやすく続けられるのか?」という実装段階における競争だと考えられる。

だからこそ次に問われるのは、その先だ。
仕事と生活の負担が軽減され余暇が生まれ、長寿化により人生時間に余白が生まれることは素晴らしいことだ。では、その時に私たちはその時間をどのように使えるようになるのか。その時間を活かし、人が「やってみたい」「挑戦してみたい」「創りたい」と思う気持ちを後押しする存在へとAIを進化させられるかどうかが、次の課題となる。

CES2026で印象的だったのは、こうした“次の段階”を見据えたプロダクトがすでに現れ始めていたことだ。
調理の失敗を物理的に防ぎ、初めての人にも成功体験と自信を与え「もっと作ってみたい」を後押しするスマートキッチン。
熟練者の知恵をAIとして重機に宿し、「自分にもできるかもしれない」という感覚と自信を現場にもたらす建機。
画面に閉じずに、子どもの想像力と遊びたい気持ちを駆動するブロック。
いずれも共通しているのは、「やってみたい」という主体性と「できる」という感覚を後押しするデザインである。

AIが社会と生活の基盤となり、人類に時間が生まれる時代。企業に求められるのは、時間を生む技術の先に、その時間を「意味のある行為」へとつなげる体験をどう実装するかだ。人が前を向き、全身を動かし、誰かと関わり、自分の人生を充実させていく。そのプロセスを静かに、しかし確かに支えること。それこそが、これからの「人間中心のAI」デザインに求められている役割なのかもしれない。

メ環研はCES2026をどう見たか?【前編】はこちら

メ環研はCES2026をどう見たか?【中編】はこちら

山本 メディア環境研究所 所長
山本 泰士
メディア環境研究所 所長
2003年博報堂入社。マーケティングプラナーとしてコミュニケーションプラニングを担当。11年から生活総合研究所で生活者の未来洞察に従事。15年より買物研究所、20年に所長。複雑化する情報・購買環境下における買物インサイトを洞察。21年よりメディア環境研究所へ異動。メディア・コミュニティ・コマースの際がなくなる時代のメディア環境について問題意識を持ちながら洞察と発信を行っている。著書に「なぜそれが買われるか?〜情報爆発時代に選ばれる商品の法則(朝日新書)」等。2025年6月よりメディア環境研究所所長。
Researcher Asamoto
朝本 美波
研究員
2021年博報堂DYスポーツマーケティング入社。 プロ野球などスポーツコンテンツのプロデューススタッフとして、広告制作や企画運営業務を担当。 その後、官公庁や教育機関に対するコンサルティングといった新規事業推進や、 スポーツを通した生活者インサイト調査などに従事。大型スポーツイベントのメディア接触実態などの調査分析にも従事。 2024年12月より現職。元ダブルダッチ日本代表。
鵜飼 大幹
メディア環境研究所 所外協働メンバー/テクノロジーコンサルタント/作編曲家
京都大学農学部応用生命科学科卒。 株式会社博報堂を経て、テクノロジーコンサルタントとして、ゲーム業界や半導体業界における量子センサー活用のコンサルタントを行う一方で、作編曲家としての活動も行う。これまでにアーティストへの数多くの楽曲提供を行う。また、企業のコンセプトムービー等への楽曲提供等にも関わる。

※掲載している情報/見解、研究員や執筆者の所属/経歴/肩書などは掲載当時のものです。