動画時代になぜ「音声メディア」が人気?「耳時間」から見るその魅力と可能性 @メ環研の部屋

テレビ番組、動画、SNSとメディアの多様化が進む今、大きな存在感を発揮しているのがラジオ番組やポッドキャスト番組をはじめとする音声メディアです。メディア環境研究所は、2021年の調査で先端的な生活者が活用するメディアとしてポッドキャストに注目しました。それから約5年。さらに音声メディアは10~20代の若年層を中心にその存在感を増しています。

そこで今回あらためて「音声メディア」の魅力について調査を実施。記事の前半では、YouTubeなどの「無料動画」の魅力と比較しながら、調査データから見える音声メディアの魅力を検討し、後半では研究員のディスカッションを通して音声メディアの可能性を探ります。モデレーターはメディア環境研究所の上席研究員の野田絵美と森永真弓です。

若者が好む音声メディア / ポッドキャストと音楽ストリーミング

今回の調査では、全国の15~69歳の男女を対象に、YouTubeなどの無料動画と音声メディアの利用状況を調査し、比較しました。

本調査における音声メディアには、ラジオ、ポッドキャスト、音声SNS、オーディオブックなどおしゃべりが中心の「スポークンメディア」・音楽中心の「音楽ストリーミング」が含まれます。

まずは音声メディア全体の利用状況から見ていきます。「月に1回以上音声メディアを利用している」と回答した人は全体の47.8%、月に1回以上の「耳時間」を持つ人が、約半数にのぼりました。

内訳を見てみるとスポークンメディアが37.2%、音楽ストリーミングは28.9%です。

さらに年代別に見ると、スポークンメディアのうちラジオは年代が高くなるほど利用率が高く、もっとも多いのが35.2%の60代です。同じスポークンメディアでもポッドキャストは10代の利用率が43.7%と突出して多く、20代が28.2%でした。

一方、音楽ストリーミングの傾向もポッドキャストと類似しており、利用率が最も高いのが10代の60.0%、次いで20代の49.4%です。

さて、メ環研では2021年から、音声メディアの中でもポッドキャストに注目して調査を行ってきました。2021年の調査では月に1回以上ポッドキャストを利用していると答えた人が19.1%だったのに対し、2023年では19.5%、2025年では18.8%とほぼ横ばいです。

野田上席研究員
野田上席研究員

調査からポッドキャストと音楽ストリーミングは、「若者メディア」と言える結果が出てきました。さらに、ポッドキャストの利用率は横ばいですがその中で「ほぼ毎日利用している」と答えた人が微増していることは注目です。ユーザーの生活へ定着してきていることが見て取れます。

朝は音声、夜は動画 / 用途で選ばれるメディアたち

では、ここからは無料動画と音声メディアを比較していきましょう。それぞれの利用シーンについて聞いてみました。

YouTubeに代表される無料動画は「見る」という行為が求められることから、「休憩中」「就寝前」「食事中」というある程度まとまった時間が取れるシーンで多く利用される傾向にあります。

一方、音声メディアの利用が特徴的に多かったシーンは「通勤」「通学」「家事の時」「歩行中」「身支度中」など。音声メディアは、日常の活動の中で「ながら聴き」をされている実態が見えました。

また、利用時間帯にも違いがありました。音声メディアの平日利用は朝の7~10時が多く、その後はまんべんなく利用されています。無料動画は平日では夜の19時以降で利用する人が多いようです。

利用時間帯は、音声メディアの中でも違いがあります。ラジオとポッドキャストを比較すると朝によく聴かれる点は共通していますが、ラジオは日中の活動時間帯に広く聴かれるのに対し、ポッドキャストは比較的夜の時間帯に集中する傾向があることが見えています。

野田上席研究員
野田上席研究員

ゆっくりできる夜の時間帯にポッドキャスト利用が増えるということは、この時間に「わざわざ何かを選んで聴こう」と考えて利用していると考えられます。

次に利用時間の長さです。無料動画の視聴時間は約103分なのに対し、音声メディアの耳時間は約85分という結果でした。

音声メディアの内訳では、音楽ストリーミングが最も長く、ポッドキャストが最も短いという結果になりました。これは、ポッドキャストは30分間などの短尺コンテンツが多いためだと考えられます。

野田上席研究員
野田上席研究員

動画の方が利用時間は長いです。しかし、思いのほか耳時間もかなりの長さになっていることがわかりました。耳で楽しめるコンテンツの多様化もその要因の一つだと思います

では、音声メディアはどのような目的で利用されているのでしょうか? 回答の中で最も多かったのは「作業中のBGM(36.1%)」です。作業に集中するためにはやはり「目に見えなくて済むもの」が選ばれています。次いで「リラックスする(36.0%)」「気分転換(31.9%)」「楽しい気分になる(31.5%)」が続きます。気分への効果も期待されているのが音声メディア全体の特徴です。

これをスポークンメディアと音楽ストリーミングに分けて見てみると、音楽ストリーミングは全体の傾向と同様で、「リラックス」や「気分転換」などが多く、いわゆる右脳的な目的で使われているようです。

一方のスポークンメディアは「情報収集」「好きな人の話を聴く」といった「ながら聴きによる効率的なインプット」が期待され、左脳的な目的での利用が好まれていました。

森永 上席研究員
森永 上席研究員

私が注目したのは、スポークンメディアの利用に「目的はない」「なんとなく」と答えた人が10%を超えているという点です。テレビが元々「目的はなくても、なんとなくつけるメディア」で、最近はここにタイムラインも加わっていましたが、スポークンメディアも「なんとなく開く対象」になっている点から生活者に広がっていることを感じます。

野田上席研究員
野田上席研究員

イヤホンとスマホを使って、いつだって聴けるという状況になったのも要因として大きそうですね。

無料動画との相違点から見る音声メディアの魅力

ここからは音声メディアと無料動画の魅力を比較していきます。

まず共通点としてあげられるのは、「繰り返して、目的・気分で楽しめる」という点です。音声も動画もDX化が進んだことで、場所や時間を選ばずに楽しめるようになったことが影響しています。また「ここでしかない話を効率的に得られる」という点も共通して多くの人が魅力に感じています。

では、無料動画が優位となった魅力は何かというと、「暇をつぶせる」「短時間でサクッと楽しめる」「知りたいことが詳しくわかる」「ぱっと直感的にわかりやすい」の4項目があがりました。視覚的な刺激と、内容の詳しさ、わかりやすさが好まれているようです。

一方、音声メディアが優位となったのは、上位から「気分転換できる」「リラックスできる」「長時間でも疲れずラクに楽しめる」「前向き・元気になれる」と、気分への作用が好まれているようです。

野田上席研究員
野田上席研究員

日々、スクリーンで視覚から刺激を浴びている今、目が疲れることなくラクに気分転換ができることが好まれるということのありがたさは共感できるのではないでしょうか。

また、視覚を用いないからこそ「時間を有効活用できる」「集中できる」という点も魅力的に映っているようです。家事など日々の行動をはかどらせるために、音声メディアを利用している姿も見てとれます。さらに距離の近さや、誰かと一緒にいるような感覚も魅力としてあがりました。

野田上席研究員
野田上席研究員

二人がしゃべっているポッドキャストの番組だと、自分が第三の仲間として聴いている感覚がありますね。イヤホンを使うと特に身近な存在に感じます。

森永 上席研究員
森永 上席研究員

昔、ラジオでパーソナリティが交代した時、「番組をお聴きのあなた」という呼びかけが「番組をお聴きの皆さん」に変わってしまった時、リスナーから「違和感がある」という声が多く寄せられたというエピソードを思い出しました。今回のデータからも音声メディアには近さが求められているのがわかりますね。

音声メディアの魅力を、スポークンメディアと音楽ストリーミングに分けてみると「疲れずにラクで心に効く」という魅力は音楽ストリーミングが優位、「日々がはかどる」「近くで深くつながる」魅力はスポークンメディアが優位という結果になりました。

また、無料動画との共通の魅力もスポークンメディアと音楽ストリーミングは異なります。「繰り返し、目的・気分で楽しめる」魅力は音楽ストリーミングに、「ここでしかない話を効率的に得られる」魅力はスポークンメディアの方に強く感じられているようです。

音声メディアは無料動画と共通の魅力を持ちつつ、ユニークなポイントも数多く持っていることが見えてきました。気分をリラックスさせたり、楽しい気分にしてくれたりするだけでなく、辛い作業時間も充実した時間に変わっていく、音声メディアはまさに心に寄り添うメディアとしての魅力を持っていると言えそうです。

さてここまで「動画視聴時間」と「耳時間」で分けて議論しましたが、一つ興味深いのが動画を音声だけで楽しむ「無料動画リスナー」の存在です。

今回の調査で無料動画ユーザーの「動画を目を使わずに耳だけで聴くことの有無」をみてみると、全体の約半数が「よくある」「ときどきある」と回答。10代では7割にのぼり、若年層ほど無料動画を耳で楽しんでいるという実態が見えてきました。

無料動画リスナーの主な利用シーンは、「家事中」「勉強中」「歩行中」というながら聴きがメインです。

主な理由は「映像を見なくても楽しめるコンテンツだから」「日頃からよく利用しているから」です。

野田上席研究員
野田上席研究員

日常的に何かを見聞きしているため何もないと耳が寂しくなる。動画すら聴くものになっていると考えると、今後ますます耳時間にはチャンスがあると言えるのではないでしょうか?

音声メディアが持つ可能性とは?

ここからは上記の調査データを踏まえた上で、研究員のディスカッションを通じて、音声メディアの可能性を探っていきます。

森永 上席研究員
森永 上席研究員

音声メディアの活用では副音声に注目しています。私はスポーツ観戦の時、ラジオとテレビを組み合わせて副音声的な使い方をすることがあるんです。具体的にいうと、駅伝の中継番組を見ながら、ラジオも同時につけて、音声を調整しながら両方楽しんでいるんです。ラジオをラジオ機器で聞いていると、実は地上波より一瞬だけ放送が早いので、ラジオから「今、抜きました」という声が聴こえると、テレビ中継の方に目を戻すなんてことをやったりもします。

野田上席研究員
野田上席研究員

音で先にひろって聞いて、目で確認ですね。

森永 上席研究員
森永 上席研究員

また、ラジオ中継では地上波とは別にインタビューをすることもあり、違うエピドードが聴けたりするんですね。なので、そういったインタビューが多く入りやすい区間の切り替えタイミングにはラジオに多めに耳を傾けてみたりもします。音声コンテンツが何チャンネルもあってもいいのではないかと思いますね。例えば、野球の試合の副音声に「フラットな解説」「Aチーム寄りの解説」「Bチーム寄りの解説」などそれぞれの好みの解説者が選べるといいなと思います。

野田上席研究員
野田上席研究員

自分がどのスタンスで見るかを、音声によって自分のモードをチェンジできるのはすごく面白いですね。逆に、今は「Vodcast」と呼ばれる動画つきのポッドキャストも広がりはじめていますね。ポッドキャストに、収録風景などの動画も併せて配信するというものですが、動画を無料公開することで、無料動画リスナーへの接点が増え、リスナー獲得の機会になっています。加えて、収録風景の動画があると、合成音声やAIによる読み上げコンテンツも増えているなかで、「確かに人が話している」という証明にもなりますね。深くつながるという魅力にプラスして間口が広がることで、音声メディアのチャンスになるのではないかと思います。

森永 上席研究員
森永 上席研究員

音声には体験のホスピタリティを上げる使い方もあると思います。例えば、人気テーマパークなどの行列前提の場で、事前音声コンテンツがあれば、待ち時間や移動時間も楽しんでもらうことが可能ではないでしょうか。イヤホンをつけっぱなしが習慣化しつつある今、実施しやすくなってきたと思います。

野田上席研究員
野田上席研究員

街歩きでも音声メディアは活躍できそうです。音声には、目に見えているものだけではわからない情報を補完し、景色の見え方を変えてしまう力がありますよね。

森永 上席研究員
森永 上席研究員

旅行していると「ただの原っぱだと思っていたら実は有名な古戦場だった」というようなこともありますよね。何もしないと情報が空白になってしまうところに、音声が寄与してくれる可能性を感じます。

今回の調査から、音声メディアが「既存のラジオの延長」ではなく、生活の隙間時間を埋め、心に寄り添い、深いコミュニケーションを生むメディアとして親しまれていることが見えてきました。

さらに音声と動画の境界は溶けつつあり、ビデオ付きのポッドキャストである「Vodcast」の導入が進むなど、何かとかけ合わせることで音声メディアは新しいフェーズに入りつつあるといえるでしょう。

動画全盛の時代と言われるなかで、耳時間へのリーチは確実に広がっています。今後、動画と音声の融合や副音声の活用が進めば、その可能性はさらに広がっていくのではないでしょうか。

(編集協力=沢井メグ+鬼頭佳代/ノオト)



野田 絵美
メディア環境研究所 上席研究員
2003年博報堂入社。マーケティングプラナーとして、食品やトイレタリー、自動車など消費財から耐久財まで幅広く、得意先企業のブランディング、商品開発、コミュニケーション戦略立案に携わる。生活密着やインタビューなど様々な調査を通じて、生活者の行動の裏にあるインサイトを探るのが得意。2017年4月より現職。生活者のメディア生活の動向を研究する。
森永 真弓
メディア環境研究所 上席研究員
通信会社を経て博報堂に入社し現在に至る。 コンテンツやコミュニケーションの名脇役としてのデジタル活用を構想構築する裏方請負人。 テクノロジー、 ネットヘビーユーザー、オタク文化、若者研究などをテーマにしたメディア出演や執筆活動も行っている。 自称「なけなしの精神力でコミュ障を打開する引きこもらない方のオタク」。 クチコミマーケティング協議会(WOMJ)運営委員。 著作に「欲望で捉える デジタルマーケティング史」「グルメサイトで★★★(ホシ3 つ)の店は、本当に美味しいのか(共著)」がある。

 




※掲載している情報/見解、研究員や執筆者の所属/経歴/肩書などは掲載当時のものです。