テレビドラマの新しい挑戦! 日曜ドラマ「あなたの番です」(日本テレビ)鈴間プロデューサーに聞く“新しい「メディア満足」”のつくり方

メディア環境研究所の生活者研究から、スマホもテレビもあらゆるメディアに触れる時には“時間に見合った満足が欲しい”という「メディア満足」への欲求が高まっていることがわかりました。(メディア生活フォーラム2019新しい「メディア満足」のつくり方」


では、そのような生活者に向けて、私たち情報の送り手はどうしたらいいのでしょうか? そのヒントを探るべく、様々な企業やメディアの“新しい「メディア満足」のつくり方”を取材しています。
今回は、最終話の視聴率19・4%を記録し、テレビドラマに新しい満足を作り出した、日曜ドラマ「あなたの番です」(日本テレビ)の“新しい「メディア満足」”のつくり方に注目し、番組プロデューサーである鈴間広枝さんにお話をうかがいました。


メディア環境研究所が注目!

野田:
よろしくお願いします。「あなたの番です(以下、あな番)」(日テレ)が大きな話題を呼びました。どのように「あな番」は生まれたのでしょう?

鈴間さん:
最初に企画・原案者である秋元康さんと今回の企画について話したのは、2017年秋「愛してたって、秘密はある。」(日テレ)を撮り終えた後です。次は何やろうか?という話の中で秋元さんから「お互いよく知らないけど、家を共にするマンション住人の管理組合で交換殺人ゲームをするのはどうか?」という提案があったんです。そんなアイデアを話している時、たまたま社内で「2クール全20話のドラマに挑戦してみないか」という話がありました。「やれる!」というのがその時の私の直観でした。



野田:
日本のドラマは「1クール10話完結」が王道ですよね。なぜ「2クール 20話完結」でやれると思ったんですか? なんだか、ドラマのストーリーが中だるみしそうな気がしてしまうんですが。

鈴間さん:
海外ドラマでは、10話どころか数シーズン続くものが多くありますよね。決してドラマで「2クール20話完結」ができないわけではないと思いました。


私がこれまで担当したドラマでも、ストーリーが進行する中で最終話に近くなってようやくバズるというのが結構ありました。でも、ようやくバズったところで終わってしまうんですね。それが残念でもあったんです。もう少し話を重ねられたら、もっと話題になったなと思うんです。


そんな自分の経験とともに、秋元さんから「マンションの住民交換殺人ゲーム」というアイデアをもらったのも大きいです。マンション管理組合という舞台設定ならば、登場人物が多くなるわけです。通常、私の感覚では1クールで本編に関われる主な登場人物は多くても7人です。マンション管理組合という舞台なら、7人ではすまない。実際、「あな番」の最初はレギュラーで登場人物は36人でした。さらに、それぞれの登場人物の個性を活かして“みんな怪しく”描くなら、やはり1クールでは足りないと感じました。

①毎回約束された驚き

野田:
2クールのドラマ企画にあたり、実際にはどのような工夫があったのでしょう?

鈴間さん:
最初から「主人公の一人が死ぬ」というのは決めていました。意外な人の死によって、前半の盛り上がりをつくり、後半は「反撃編」として真犯人との戦いに挑むという構造にしたんです。

野田:
たしかに、私たちは「主人公は死なないものだ」となんとなく思い込んでいますよね。それを見事に裏切られて驚きました。そして、見ている側も主人公とともに突き止めたい気持ちに拍車がかかったように思います。

鈴間さん:
また、今回の話題につながったのは、やはり秋元さんの細部までのアイデアも大きいと思います。本当に天才です。

野田:
「企画・原案 秋元康」とありましたが、原案ってどこまでなんでしょう? 「マンション管理組合での交換殺人ゲーム」というところですか?

鈴間さん:
それももちろんですが、各回の、特にラストの“引っ張り”のアイデアはかなり出していただきました。たとえば、「ゴルフバックから突き出る片足」など、どのような状態で死体が発見されるのかもほとんど秋元さんですし、「尾野ちゃんの口から吐き出る緑の液体」なんかもそうです。見ていただいている方が「あれはなんだったんだろう!?」と驚いて心がザワついて、次週を楽しみにしていただけるようなドラマを目指しました。

野田:
「ゴルフクラブ、すごかったね!」と思わず周囲にも語りたくなる驚きがありましたね。
さらに、その驚きが毎回必ずあるという約束のような形で、「毎週、死にます。」という番組キャッチコピーが話題になっていましたが、どのように考えたのですか?

鈴間さん:
あれは実は後付けなんです。宣伝部のデザイナーさんがポスターのコピーとして考えてくれたんです。私もこのコピーはとてもいいなと思いました。通常、ポスターのコピーがここまでみなさんの話題になるというのは滅多にないので驚いています。(第9話では死なないので、毎週でなかったのは申し訳なかったです。その一方で、第7話では2人死ぬのですが……)

野田:
このコピーがここまで私たちの話題になるということは、原作がない中で毎回ドラマを見る価値の保証、必ず何か驚きがある保証に感じられていたのではないでしょうか。

②何度も繰り返し見たくなる「考察」へのいざない

野田:
回を重ねるごとに真犯人の「考察」がネット上で繰り広げられていきましたが、それは狙っていたんですか?

鈴間さん:
もちろん、一部のコアな方たちが「考察」をしてくれたらいいなと、作る側としてもヒントを仕込みました。脚本家の福原さんも、すごく上手にみんなを怪しく描いてくださって、監督陣も役者さんもその“怪しさ”の具合を話し合いながら、楽しんで作っていました。何度も見て、きっとヒントを見つけてくれるだろうと。

でも、予想を上回る人たちが、鋭い「考察」をしてくれたので私たちも驚きました。ほとんど仕込んだヒントはみなさん見つけてくれたと思います。原作がないからこそ、次の展開がわからないし、真犯人は誰も知らないからこそ、みんなが「考察」をしてくれたんだと思います。想像以上に精緻に「考察」がなされたので、こちらのミスのところも余計な憶測を呼んでしまったり、反省点も多くあります。

野田:
何度も見て楽しめるものにする工夫があったからこそ、「考察」という新しい「メディア満足」が生まれたんですね。

鈴間さん:
何度も繰り返し見てもらう、という点ではもう一つあります。妻が殺されてしまうことを知った後で、再び一話から見返す、ということも考えました。そうして見返したときに、よりせつなくなるように、福原さんが夫婦の素敵なセリフをたくさん書いてくださいました。

野田:
最初は単なるラブラブ夫婦のセリフでも、これが限りある時間だったのかと思いながら見ると違う意味を持ちますね。

さらに、回を追うごとに視聴者が広がっていったわけですが、その途中から見てくれる人を増やし、ファンを広げる工夫はありましたか?

鈴間さん:
どんなきっかけであれ見てもらえればと、本編でのバズ以外にも、周辺で話題になりそうな施策はいろいろとやってみました。主人公(田中圭さん)の歌う楽曲「会いたいよ」は、最初クレジットを入れず放送しました。放送後SNSでは「誰が歌っているんだ?」「田中圭では?」と話題になり、その後のTHE MUSIC DAY(日テレ音楽イベント)で手塚翔太として歌う楽曲であると公表すると、「キャラソン」として話題になりました。

その他「AI菜奈ちゃん」や、当然ながらSNSでの情報発信もやっています。

野田:
あの手この手で番組への接点を作っていったんですね。

鈴間さん:
そうです。そしてあとから見た人もキャッチアップできるように、5話ごとにYouTubeの「まとめ動画」を作りました。また、ホラーのイメージが強くてとっつきにくさを感じている方のことも考えて、その動画には声優の山寺宏一さんに面白くナレーションを入れてもらったりしています。

③古くて新しい「日曜日の夜」の過ごし方

野田:
最後に、日テレの日曜・夜10時半は話題のドラマが続いていますね。「今日から俺は!!」「3年A組」、そして「あなたの番です」。この日曜の夜をどのように捉えてドラマを制作しているのでしょうか?

鈴間さん:
「エッジが立っていて、話題になり、中毒性がある攻めた企画」ということを方針として掲げています。そしてドラマを見た人同士が月曜日に、会社や学校などで話題にしたくなることを目指しています。

野田:
翌日に話したくなるというのはオーセンティックな姿ですね。

鈴間さん:
たしかにそうかもしれません。ドラマはリアルタイム視聴というよりも、録画やTVerなどで「自分の見たいときに見る」という視聴スタイルが増えている今、なかなか難しい目標でもあります。でも、今回「あなたの番です」の最終回は、真犯人をみんなで同時に見ようという動きがありました。

特に序盤からティーン層でこの傾向は見られたんですが、時間差があるとSNSのタイムライン上に真犯人の情報が流れてしまうからかもしれません。スポーツの試合中継を見るように、ライブ感をもってみんなでテレビの前で見てくれた人が多かったようです。ティーンにとってはもしかしたら“ドラマを見るために、この時間になったらテレビの前に家族で集まる”という体験はこれが初めて、という人もいたかもしれません。そのように見ていただいたのが作り手としてもうれしいことでした。

野田:
最後の質問です。様々な挑戦をした「あな番」を終えて、鈴間さんはこれからどのようなドラマに挑戦したいですか?

鈴間さん;
難しい質問ですね(笑)。いつか、ミステリーではなく恋愛ものや人間ドラマなど、人が死なないストーリーで“来週が楽しみで仕方ないドラマ”が作れたら良いなと思います!

やっぱり、謎があると「この先どうなっちゃうの!?」という展開が作りやすいと思うんです。でも、海外ドラマでは、ただのご近所のいざこざや、若者の恋模様がテーマでありながら、何シーズンも続いているようなドラマがたくさんあります。私も、そんなドラマに挑戦できたらいいなと思います。がんばります!!

野田:
それは楽しみです。応援しています!

日曜ドラマ「あなたの番です」が視聴者にもたらした「メディア満足」は、鈴間さんをはじめとする作り手の方々が考え抜いた、思わず驚いて翌日みんなに話したくなるようなインパクトのあるアイデアと、何度も繰り返し見て探りたくなる緻密な仕込みから生まれていることがよくわかりました。インパクト×緻密さが縦糸と横糸のようにコンテンツの強度をつくり出しています。

それが、ドラマを見る日も、それについて語り合う翌日も、そして次を心待ちにしながら繰り返し見る時間もいい時間にし、新しい「メディア満足」につながっていました。

どれだけ多くの人が見たかという視聴率はもちろん、どれだけ多くの人が満足したのか、「メディア満足」を高められたのかが今後ますます重要になる中で、情報の送り手の我々にヒントをくれました。どうもありがとうございます。

※掲載している情報/見解、研究員や執筆者の所属/経歴/肩書などは掲載当時のものです。