あなたは退屈してない?!「コロナ禍で模索される生活者のメディアライフ」

緊急事態宣言後のあの不安と緊張感。そこから事態は長期化の様相を呈しています。私たちの心にも見えないストレスが積み重なっています。その中で実施したインタビューから見えてきた、生活を前向きにシフトさせている、生活者の行動についてご紹介します。

メディアライフの変化:緊急事態宣言以降の、不安をベースにした退屈やさみしさ、鬱陶しい気持ちを解消すべく、次のようなメディア行動をとる生活者が増えています。

(1) 接触コンテンツの変化:新しいものにチャレンジしつつ、古い良作を振り返って楽しむ
・未体験のアプリをダウンロードして試す
・ファンタジーやサスペンスものなど日常生活とかけ離れた物語の作品を視聴
・旧作ドラマを久しぶりに見る

(2) 新しいオンラインコミュニケーション方法
・みんなで同じコンテンツを見ながら、テレビ電話をつなぎっぱなしにし、リアルに音声やチャットを楽しむ

(3) オンライン状態を前提とした自然にいられる居場所の模索
・仕事中やプライベート時間、テレビ電話をつなぎっぱなしにする
・VRアバターを用いてフラットに話せる環境を楽しむ

 緊急事態宣言解除後、約4割の方が「退屈さ」を感じている

野田:緊急事態宣言解除後、インタビューに応じた方にステイホーム期間中のことを振り返ってもらいつつ、解除後から今の動きについてご報告します。インタビューの対象者は男女20代~50代(13名)です。手法としてはzoomでのインタビューで聞いています。

取材者は、リモート研修から社会人生活を始めた新入社員たち、女子大生、リモートワークで子育て中のワーママたち、単身赴任のご夫婦など機縁法でインタビューしています。

緊急事態宣言下の4、5月には、外出できず急に生まれた自分の時間を工夫しようと、zoomやYouTubeを見ながらヨガやランニングを始めたり、日頃しないことを特別にやり始めた人が多くいました。しかし緊急事態宣言解除後の6月以降も学校や業務は再開したけれど、いまだに以前の暮らしに戻ることはありません。こうして長期化するコロナ禍にある生活者はどのような気持ちを抱えているのでしょうか。

そこで参加者にアンケートです。皆さんの今の気分を聞いてみたいと思います。
野田:結果を見てみると「退屈さが増している」がトップで4割ですね。次いで、「変わらない」という人も約3割います。意外と「不安」と「幸せ」が一番少ないという結果になりました。

緊急事態宣言下は不安がものすごくて、それとともに緊迫感というか緊張感がありました。生まれた時間を何かで埋めたくなり、「10キロ痩せるダンスをやってみました」、「みんなでzoom飲みやzoomで人狼やってました」特別な行動をするようになったのですが、6月くらいからだんだん、「不安はあるけど退屈だよね」と、じんわりと寂しい気持ちが募りました。

「スマホがマンネリ化」とスマホ疲れを感じ始めた20代生活者は未体験のアプリをやってみた

野田:さて、生活者にインタビューをしたところ、まず女子大生から出てきた言葉が「なんかスマホがマンネリ化し始めたんですよね。あんなに大好きだったスマホなのに」どういうことなのかと詳しく聞くと、「ずっと居すぎて」と答えてくれました。

まだ体験していないアプリをとにかくダウンロードしてみようと、彼女は子どもっぽいものと思っていたTikTokをダウンロードしてみました。

彼女は、TikTokには離脱点がないと言います。インスタグラム、Facebook、Twitterは投稿をみたら終了という離脱点があるのですが、TikTokの場合は、次の動画がどんどん推奨されてくるので離脱点が無くてなかなか終われずに居続けてしまうという風に言っていました。

小林:私も、Facebookが全部不安を煽る話題ばっかりなのでTikTokを始めました、とアメリカの30代の友達複数人のフィードにあがっていました。

ステイホーム期間中は再放送と見逃し視聴サービスで旧作の面白さを再発見

野田:見るコンテンツとして、新作でなく旧作の面白さを発見という意見も多く聞こえてきました。今回のコロナ禍で地上波でドラマの再放送が多く視聴されました。「このドラマは昔よく友達とみていたけれど今見てもやっぱり共感できる」「このシーンはあの時の気持ちまで思い出させてくれる」と熱く語ってくれた人もいます。

TVerは基本的には見逃し配信用のアプリとして使っていた人が多くいたような感じなのですが、ここ最近は、旧作ドラマが常にランキング上位にいるようになっています。そうすると目的が無くても、旧作だけど当時話題だった作品を見てみようかなと、新しいコンテンツの入り口にTVerはなってきているのが興味深いです。

小林:今までより時間が出来たことと、新作も旧作も同じプラットフォーム上で同じようにアクセスできるようになったことで、その時の気分に合うものを見たい気持ちが増したかもしれません。

その時の気分に合わせてコンテンツを選別する

最近インタビューで増えているキーワードが、「逃避」と「励まし」です。

コンテンツを観ることで現実から逃避したいという意見が多くありました

Netflixを見ているある40代のワーママは「ドラマのオフィスシーンはもはや今のわたしにとってリアリティがなく共感できない。コロナ禍になった今の私たちの現実の方がドラマティックかも。」と言っていました。それで今何を見ているのかというと、「明らかに自分の生きる時代とは背景が違うから素直に見れる時代劇もの」や「ファンタジーなどの空想的なもの」だそうです。彼女はアメリカに住んでいるんですけど、Netflixのランキングの上位を見てみても、インドの婚活を特集した番組などが流行っていたりするようです。日本で流行したのは「愛の不時着」ですが、自分とは違う国の背景とファンタジーの要素が生活者の心を捉え、話題を呼んだのではないかという気がします。

アメリカでは自動車通勤が減ったことによって、ポッドキャストの利用が一時期減ったという情報が出てたのですけど、また盛り返しています。インタビューの中で話を聞くと、彼女も自動車通勤はなくなったが、代わりに朝にランニングする時にポッドキャストの「ながら聴き」をはじめたそうです。生活の中でポッドキャストの新しい組み込まれ方がうまれています。

オンライン飲み会に疲れた生活者が続出

オンライン飲みがトレンドワードになって一気に話題になりましたが、インタビューの中で振り返っていただくと、「すぐ飽きちゃった」みたいな感想がたくさん出てきました。なぜかと聞くと、やっぱりオンライン飲みが、結局面談みたいな感じになったり、画面の中でみんなが1つの話題しか話せないこと自体が不自然だったりします。対面の時のように場の空気を共有していないので、その沈黙の間が怖かったと教えてくれました。

小林:アメリカでも#zoomfatigueや#zoomedoutという、Zoomに疲れ切ったというハッシュタグが結構話題になりました。

さて、オンラインのコミュニケーションに疲れた人たちは、どのようにそれを乗り越えているのでしょう。

同時性、音声、チャットで「一緒にいる感じ」を創り出す三重奏

野田:あるインタビュー対象者の30代男性は名古屋に単身赴任中で、奥様は妊娠中で東京にいらっしゃるという遠距離生活をしてる中でも、ラブラブな感じなので、Huluや地上波のテレビを観ながら、LINE通話をいつもしています。若年層が友人とLINE通話つなげっぱなしで「一緒にいる感じ」を共有するのがありましたが、結構上の年齢層まで手探りでやってみた人が増えました。

小林:そうですね。家に帰ってきたら、そこからもうLINE通話を始めて、常にキッチンとか他の部屋に行く時にも一緒に行動してみたいな感じにしているようです。

また、友達とNetflix パーティーをしながらLINE電話していた人もいました。Netflixで同じコンテンツ、映画を観ながら、「一緒にいる感じ」を醸成したい思いがあります。同時にチャットをしながら、LINE通話でくすくすと吹き出してしまったのが聞こえたり、何かを食べていたり、ちょっとした息遣いも聞こえたりするようにし、そういうリアクションの声が良かったと実際にやった20代の女性数名が言っていました。

野田:音声を掛け合わせることで気配や雑談の生っぽさを感じ、色々な声が伝えてくれる情報というのを三重奏にするところがほんとに手作り感は半端ないですけれども、今の新しい視聴スタイルとして手探りで始まっているなというのが直近の発見です。

世代を超えて、手探りながら最適なコミュニケーションを試みる生活者

小林: 10歳の息子を持つ30代女性の事例ですけれども、小学校がずっと自粛で休みでした。そうすると、クラスメイトとどういう風にコミュニケーションしてるかと聞いてみたら、あつまれ動物の森の中にみんなで集まっています。クラスメイトの島に集まってそこでZoomもつなぎながら、声でつながった状態で鬼ごっこをしていると言っています。

フォートナイトもこの学校では流行ったみたいですけど、小学生でも普通にやっていて、フォートナイトの中ではお互いのお姉ちゃんやお兄ちゃんの友達とも勝手につながっていて、そこでは学年関係なく、名前も呼び捨てで呼び合ったりする子もいます。実際に会うと時々、呼び捨てが出てしまったりし、ゲームの中での会話みたいな会話になってしまったこともあります。現実とゲーム世界が入り乱れてきているような感じがしています。小学生たちはもうオンラインもオフラインも全部融合していて、どっちが主従とかがないような感じになってきていると感じました。

野田:小学校くらいの1年生差でも結構上下感ありますが、ゲームのアバターになってしまえば、背格好、男女の違いはあれど、タメぐらいになった時に言葉もため口になって許されるというか、そこのパーソナリティが生まれてくるところが面白いと思いました。

音声や手探りで一緒になって繋がっていくみたいな、その場の気配を共有していく、その動きは小学生までも、大人の方もやっているような広がりが急に拡大してきた感じがしています。

生活者はオンライン上の「自然にいられる居場所」を模索

野田:最後に生活者がじんわりと感じたさみしい気持ちについてお話しします。集まることになった時に、今やオンラインとオフライン状態の切り替えが頻繁になってきており、結構色んな人が入り乱れています。それがまたさみしいという声を聞きます。

「外出しているの?今家にいるの?つなげられるの?」みたいなところも多く、雑談は色んなツールを使ってできるけど、馬鹿話を自然なタイミングでないとできないことが多く、いつもいられる居場所、いつでも寄れば集まれる場みたいな場づくりがすごく大事になってくるけれど、それがまだ見つけられていない生活者もいます。

Googleハングアウトで繋がり続けている働き方もあります。常時接続していたらいつの間にか自然と音だけでその場にいる感じになるのかもしれないですし、先ほどゲームがプラットフォーム化の話もありましたけど、やってみてもよさそうです。

今、全体的な世の中的なコミュニケーションの課題もあるので、あつまれどうぶつの森の中で自分の第二人格みたいなのがいて、時々ちょっと喋ったりすることもありえます。先端的なVR法人HIKKYのVR出社ニュースですが、アバターになれば社長にでもフラットなコミュニケーションができるようになって、男女の違いの差別がなくなった副次的な作用も期待できます。

まとめ

緊急事態宣言解除後、生活者の気分は緊迫感から、徐々に退屈やさみしさを感じるようになりました。インタビューを通じ、鬱陶しい気持ちを解消すべき、視聴コンテンツやアプリを変えてみたり、アプリの通話機能を常時接続させ、友人と家族とコミュニケーションをしてみたりする生活者が増えてきたとわかりました。

その時の気分に寄り添えるコンテンツやサービス、テレビ電話のデメリットを解消してくれるテクノロジーや工夫以外、オンライン状態を前提とした「自然にいられる居場所」の模索にも注目されています。オンラインゲームやアバター出社のようなヒトの分身と場所の接続、テレビ電話常時接続でヒトとヒトをつなげるサービスなどがいまの生活者に求められています。

※掲載している情報/見解、研究員や執筆者の所属/経歴/肩書などは掲載当時のものです。