メ環研

2021.03.01

「フジテレビ×あうたび」オンラインツアーで生まれる 新しいコンテンツの楽しみ方・つながり方

「フジテレビ×あうたび」オンラインツアーで生まれる 新しいコンテンツの楽しみ方・つながり方

コラム

Release

このコロナ禍で、新たな旅の楽しみ方として人気の「オンラインツアー」。その中でも話題になったのが、フジテレビと旅行会社あうたびとの共同企画「フジテレビ×あうたび」オンラインツアーです。フジテレビがなぜ今オンラインツアーなのでしょうか?
フジテレビ国際開発局の新たな取り組みについて、お話を伺いたいと思います。

株式会社 フジテレビジョン 国際開発局
川植浩治 氏
亀山哲生 氏
エドアルド・チャンカリオーニ氏

聞き手
メディア環境研究所 野田絵美、小林舞花
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野田:そもそもなぜフジテレビがオンラインツアーを企画したのでしょう? きっかけを教えてください。
川植:
私たち国際開発局は、番組、映画、イベントなどフジテレビが放つあらゆるコンテンツの海外向け広報や、海外からの訪問客の対応および各種プロトコール、駐日大使館との相互コミュニケーション、そして、海外での日本語放送委託業務や高松宮殿下記念世界文化賞のサポート業務など、これまでは社内と海外を繋ぐ業務を中心に行って来ました。ここ数年、政府が「観光立国日本」としてインバウンドに力を入れる中、フジテレビは観光地「お台場」にあり、球体展望室のような観光機能も備えた放送局として、インバウンド向けの情報発信にも力を入れて取り組んできました。昨年1月~3月に、タイで行われた「日本博」にも単独で出展したところでしたが、その矢先にコロナ禍になってしまい、我々もリモートワークとなりました。
さてどうしようかと思っていたところに、あうたびさんとの出会いがありました。あうたびさんは、単に観光地にお客さまを連れて行くだけではなく、酒蔵や農家など現地の方々と触れ合う機会をつくる旅を企画し、地方の特産物を応援されている旅行会社です。彼らが企画するオンラインツアーには、特産物を事前に参加者にお届けし、それを食べたりしながら、生産者と直接オンラインでコミュニケーションするという新しい旅の形がありました。そこで私たちは、これの海外版ができないか?と思い立ったのです。

フジテレビの海外事務所と企画力を活かす発想でうまれたオンラインツアー 

川植:
国際開発局が直轄している海外事務所に、ローマ事務所とベルリン事務所があります。ここにいるエドの母親がローマ事務所の所長を務めています。運のいいことに今彼が日本に来ていますし、ベルリン事務所にも同じく我々の仲間がいます。ローマとベルリンの事務所を使い、あうたびさんのやっているようなその土地の特産物を応援セットとして日本の方々に提供し、それを楽しんでいただきながら、普段は見られないローマの人々の暮らしやコロナ禍のベルリンの街中の様子をお見せできないかと考えました。準備期間は2か月ほどしかありませんでしたが、まずやってみようと決めました。
日本で海外旅行ができない人々に向けてアウトバウンドとして面白いコンテンツを届けてみてはどうかと目線を変えてみることにしました。また、本来はテレビ番組を作る会社ですが、番組コンテンツ以外にも、このような旅行コンテンツをフジテレビの企画力でお楽しみいただけたら嬉しいですし、それがみなさんの中で少しでも話題になればいいなと思いました。
あうたびさんは「その地に住む、“人”に会いに行くツアー」というものに特化して日本国内を紹介していました。これは面白いと思いました。だとしたら、エドの家族がどのような暮らしをしているのか、どのような家に住み、どのようなものを食べているのか、そのような、人に会いに行くツアーなら我々もできそうだと感じました。またベルリン事務所もジモーネの事務所兼自宅なので、フジテレビ×あうたびで海外の人に会いに行くツアーができそうだと発想しました。
野田:ローマツアーは最終的に何名が参加したのでしょう?
川植:
シニアの方やその娘さんなどの参加で、瞬く間に満員になり、有料参加者で107名が参加されました。ですが、世帯で申し込まれているので画面越しにはご家族も見ていらして、最大300名ほどの方が参加されていたような印象です。ローマツアーに参加された方が、次のベルリンツアーにも参加してくださり、多くの方がリピーターになってくれました。

放送局として伝えたい。現地に生活しているからみえる街の魅力とコロナ禍のリアル

野田:ツアーの企画はどこまでがフジテレビが担当されているのでしょう?
川植:
企画はほぼすべてこの3人で担当しています。「集合場所はフジテレビにしてみよう」とか、「球体展望台に乗って海外に出発するオープニングにしてみよう」などアイデアを考えました。ローマはエドの勝手知ったる場所ですし、多くのアイデアを考えてくれました。ここに行ったらワインフェスがあるとか、自分のお姉さんがカルボナーラの達人だからつくり方を教えてもらおうなど。さらには、文化遺産に指定され、ローマ帝国の名残りのある彼の実家も紹介してくれたりもしました。
(写真)球体展望室「はちたま」に乗り込み出発するオープニングで始まる

野田:普段現地で生活している人が、自分たちの住む街を紹介するからこそ、オリジナルで面白いツアーになるんですね。
川植:
旅行ガイドに載っていない魅力を、みんなで知恵を出しあって考えました。有名観光地はすでに他の旅行社が紹介してくれていますしね。それに加えて、やはり今のコロナ禍のリアルな街の様子をいかに紹介するかも意識しました。

野田:わたしも、参加させていただいたベルリンツアーで見たコロナ禍の街の様子に驚きました。クリスマスマーケットがまったくありませんでしたね。また、完成したばかりのベルリンの地下鉄を実際に乗車しながら中継していたのも面白かったです。
川植:
ちょうどベルリンの目抜き通りに地下鉄が開通したと聞き、紹介しようと思いました。他に、紹介した空港は2011年の着工から9年かかり、ようやくツアーの1か月前に開港したんです。これも1つの時事ネタです。少しでも皆さんが知らないベルリンをお見せしたかったんです。
(写真)ツアー中継の様子(左・中央)とベルリン応援セット(右)

実際にやってみてわかった。単なるリアルな旅行の代替ではない価値

野田:では、ローマ、ベルリンとオンラインツアーをやってみていかがでしたか?
亀山:
我々もあうたびさんの別のオンラインツアーに参加してみたりお話を伺ったりして、なるほどなと思ったのは、最初はリアルな旅行の代替品だと考えていたのですが、いざ始めてみるとオンラインだからこその良さがたくさんあったということです。例えば、リアルの旅行とは違い、直前に思い立っても参加もできるし、高齢者の方や足が悪い方も気軽に海外旅行ができるなど、実際やってみると色々な発見があるんだと学びました。
あうたびのツアーに参加されている方々は、リピーターが非常に多く、このオンラインツアーを通じて参加者同士の新しい横のつながりもできているそうです。そして、参加者同士で「次はどのツアーに参加しようか?」と気軽に誘い合えることもオンラインツアーならではだと感じました。さらに今回は、この企画が弊社の番組『とくダネ!』の中で取り上げてもらえたため、それをご覧になった方々が新規のお客様として参加してくださいました。
ただ、中にはやはり「オンラインツアー!? そもそもZoomって何ですか?」という方もいらっしゃったようで… 問い合わせを受けていただいたあうたびさんは、けっこう大変だったようです。
亀山:
事前準備の段階、そしてもちろん当日も含め、色々なことがありましたが、結果的にテレビ局として新しいかたちのコンテンツを世の中に提供できましたし、参加してくださった方や周囲からも「フジテレビ、新しいことやってるんだね!」と言われるような話題も提供できたことはよかったと思います。現に今こうしてみなさんにも興味を持ってお話を聞いていただけているわけですから。とても光栄です。

大切なのは、完璧であることではなく、きちんとハートがあり、皆の気持ちのベクトルが合っていること

野田:普通はテレビコンテンツの制作側の人と話す機会はないのですが、ツアーでフジテレビの皆さんの顔が見えるのも親しみを感じますね。
川植:
ローマも、ベルリンも、ツアーに登場した事務所員はみなテレビの業界で長く働いているので「オンラインツアーはできそうにない…。完璧な物を作らなくちゃいけないんでしょう?コロナ禍だし無理だ…。」と彼らの中にテレビの映像に対する矜持があり、ネガティブなところから入っていったんです。そこで、あうたびさんの他のツアー映像を送って見てもらいました。オンラインツアーは想定外のこともたくさんあります。突然wi-fiが遮断されたり、音声が聞こえなくなったり。それでも、参加者はそこもひっくるめて楽しんでくださっていたんです。それを目の当たりにすると、彼らも肩の力が抜けたようで「今は、完璧ではないコンテンツでも愛される時代なのか!」と思ったようです。それは、彼ら自身の目覚めでもあり、私たち自身の気づきでもありました。私たちも「映像に狂いや乱れがあってはならない。そういうものはクレームがくる」とか「お金をとる以上、失敗があるようなものは見せられない」という不安もあったんです。しかし、リアルでなかなかできない今、オンラインの楽しみ方、そこで楽しまれる映像コンテンツのあり方も、ダイバーシティになってきていると感じています。そして何より、きちんとハートがあって、楽しみたいという気持ちのベクトルが同じならば、クオリティが多少完璧でなくても許容されるんだという手ごたえを感じました。

ライブだからこそ、送り手と受け手で反応しあい有機的にコンテンツが生み出される

野田:実際参加してみたベルリンでも、ライブ感を感じました。参加者の反応に対して、送り手側も臨機応変に反応しながら自由に旅する感じがしました。
川植:
そうなんです。メディアから完璧なコンテンツを送り、受け手側だけが柔軟に見方を変えるというだけではない時代が来たと思います。一人で見るのか、みんなでチャットしながら見るのかという受け手の見方の違いだけではなく、ライブだからこそ、我々の届けている情報への皆さんからの即反応があり、さらにそれへ我々が反応し返す。そのようにして有機的に生まれる新しいコンテンツが受け入れられる時代になっていると思います。

これから持続可能な新しい旅の形のはじまり

野田:ローマ、そしてベルリンと、事務所のある地のツアーは終了しましたが、今後はいかがでしょうか?
川植:

オンラインツアーは基本的に薄利多売ということもあり、どの旅行会社さんもいつかまたリアルが戻ってくる時へ向けての宣伝期間というか、企業のブランド力を上げていくための期間ととらえているかと思います。我々も今回こういったかたちでコラボレーションすることにより、新しい放送外コンテンツを考えるきっかけになりましたし、またフジテレビとして良いかたちでPRさせていただくことができました。現在はまた次の企画として、サステナビリティなどをテーマにした、メディア企業ならではの新しい旅のかたちの提案を考えはじめているところです。それは、将来的にはもともと我々が取り組んでいたインバウンドの取り組みにも生かせると思っています。その際は、日本全国にある我々の系列局(FNS)などの様々なネットワークの力を生かすことで、日本の魅力の再発見もできるのではないか、と思いを巡らせています。

野田:メディアのコンテンツを創り出す企画力や地域の系列ネットワークの力が、業界を超えて新しい旅の形を創造する可能性を感じました。今日はどうもありがとうございました。

< 最後に > ―インタビューを終えてー

オンライン上にも関わらず参加者みんなが大いに盛り上がり、次々にファンをうみだしているこのオンラインツアー。このお話には、密なつながりを生みだすコンテンツ作りへの多くのヒントがありました。普段はなかなか会えない生産者やメディア企業で働く「人」と直接つながりあえることが一つの大きな魅力です。そしてその送り手だけで完成するのではなく、同じ気持ちのベクトルをもった参加者との「ライブのやり取り」で有機的にうまれるコンテンツだからこそ、さらにつながりを密にしてくれるのです。今回は旅行コンテンツでしたが、スポーツ観戦やコンサートなど様々な領域にも応用して、オンライン上の密なつながりを生みだすヒントになるのではないでしょうか。

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