コロナ禍のGWが2回目を迎えました。これまでの日常とは全く異なる、新たな日常が見え隠れしていたように思えます。そんなGW期間中にメディア環境研究所の各研究員が見た、聞いた、感じた、新たなメディアの兆しを紹介します。

有名ゲーム企業とDiscordの統合が加速させる「オンライン同期」の進化

島野 真 MAKOTO SHIMANO
所長
1991年博報堂入社。主にマーケティングセクションに在籍し、飲料、通信、自動車、サービスなど各企業の事業・商品開発、統合コミュニケーション開発、ブランディング業務等に従事。2012年よりデータドリブンマーケティング部部長として、マーケティングプラニングとメディアビジネスを統合した戦略立案・推進の高度化を担当。2017年よりデータドリブンマーケティング局局長代理として、デジタルトランスフォーメーションに対応したマーケティング変革を推進。2020年よりナレッジイノベーション局局長兼メディア環境研究所所長。共著:『基礎から学べる広告の総合講座』(日経広告研究所)

GW中のニュースでGW中のニュースで印象的だったのは、有名ゲーム企業とDiscord社による新たなパートナーシップ締結の発表。Discord社はつい最近大手IT企業による120億ドルでの買収提案が破談となったばかりだったが、有名ゲーム企業が出資をして、ゲーム体験とコミュニケーションサービスが「integrate」されることに。

生活のデジタル化やコロナ禍によるオンライン生活の長期化と共に、コンテンツとコミュニケーション機能と組み合わせたサービスが非常に魅力的なものであることは昨年のメディア環境研究所のウェビナーでも紹介した通りであるが、この両社の共同によってどのように「メディア・コンテンツ体験」が進化していくのか注目される。

コネクテッドテレビは我が家の中心

山本 泰士 YASUSHI YAMAMOTO
グループマネージャー兼上席研究員
2003年博報堂入社。マーケティングプラナーとしてコミュニケーションプラニングを担当。11年から生活総合研究所で生活者の未来洞察に従事。15年より買物研究所、20年に所長。複雑化する情報・購買環境下における買物インサイトを洞察。21年よりメディア環境研究所へ異動。メディア・コミュニティ・コマースの際がなくなる時代のメディア環境について問題意識を持ちながら洞察と発信を行っている。著書に「なぜそれが買われるか?~情報爆発時代に選ばれる商品の法則(朝日新書)」等。


このGWなかなか家の外に出れない中、我が家ではテレビが大活躍。子どもが泣いたらYouTubeで子どもむけ動画を見せる、夕飯時には今の気分にあった番組をTVerから探して見る、子供が寝たら夫婦で定額制動画サービスの映画を見る。こんな「映像」利用はもちろん、このGWからかなり活躍したのが「音楽」利用。

スマホでいまの気分にあった曲のリストを選んで、TVのアプリにキャスト。いわばスピーカーとしてテレビを活用する。リビングに寝ころびながら、子供と遊びながら気軽にスマホ操作一つで気軽に音楽を楽しめる。生活に音楽があるだけで、ステイホーム生活でも気分はけっこう切り替わる。
リアルタイム放送だけでなく、テレビがネットにつながったことで動画という「目で楽しむ」娯楽はもちろん、音楽という「耳で楽しむ」コンテンツも楽しめる。そういえば家族の想い出写真をテレビにキャストしてしてみたこともあったっけ。

動画、静止画、音楽…コネクテッドなテレビ受像機は娯楽のユーティリティプレイヤーとして、お茶の間の「中心」としての存在感を再び増していくのかもしれない。

GWは、プラットフォームで迷子

新美 妙子 TAEKO NIIMI
上席研究員
1989年博報堂入社。メディアプラナー、メディアマーケターとしてメディアの価値研究、新聞広告効果測定の業界標準プラットフォーム構築などに従事。2013年4月より現職。メディア定点調査や各種定性調査など生活者のメディア行動を研究している。「広告ビジネスに関わる人のメディアガイド2015」(宣伝会議) 編集長。


我慢のGW、何か見ようと考えた。HDDは録画で溢れてる。見そびれた映画は何だっけ?定額制やオンデマンドで探しきれずに諦める。見逃し配信で見たものをHDDで発見して、うっすら敗北感。スマホで見始めたのに、いつの間にかSNSを回遊している自分。

「プラットフォームが多すぎる」

好きなものが何でも見られる贅沢な環境なのに、不器用な私はコンテンツを選ぶ手前のプラットフォームで迷い、気がつけば見たい気持ちまで消滅している。

いま欲しいのは、“過去の私好み”からのオススメではなく、見たい気持ちを掻き立ててくれる原動力。

「いまから20分間、何も考えずにワクワクできるコンテンツください」そんな我儘に応えてくれるコンシェルジュはいませんか?

※図:定額制動画配信サービスは昨年躍進。さて今年は?(メディア環境研究所「メディア定点2021」より)

発見!我が家の「新テレビっ子」

野田上席研究員
野田 絵美 EMI NODA
上席研究員
2003年博報堂入社。マーケティングプラナーとして、食品やトイレタリー、自動車など消費財から耐久財まで幅広く、得意先企業のブランディング、商品開発、コミュニケーション戦略立案に携わる。生活密着やインタビューなど様々な調査を通じて、生活者の行動の裏にあるインサイトを探るのが得意。2017年4月より現職。生活者のメディア生活の動向を研究する。

どこにも出かけられないゴールデンウィーク(2年目)。昨年よりもこなれてきて、オンラインで「こども料理教室」や、離れて会えない「祖父母とのお話会」など親なり工夫をこらしました。我が家の子どもたちが一番喜んだのが5月5日の「ハンターから逃げるゲーム番組」の放送です。

「人気YouTuberが出るー!!!」となると、その後テレビのYouTubeボタンを押し、音声検索で「〇〇さん逃走中」としてゲーム実況を舞台にした番組を見始めました。本物・本番にむけた予習です。放送が始まると地上波にして見始めます。21時までしか見れなかったので、翌日、今度はテレビの「TVer」でまた見れなかった後半戦を見ていました。

テレビの前でYouTube 、地上波放送、TVerを駆使して予習・本番・復習でコンテンツを楽しむ新テレビっ子たちでした。

オンラインでも生まれた一体

小林上席研究員
小林 舞花 MAIKA KOBAYASHI
上席研究員
2004年博報堂入社。トイレタリー、飲料、電子マネー、新聞社、嗜好品などの担当営業を経て2010年より博報堂生活総合研究所に3年半所属。 2013年、再び営業としてIR/MICE推進を担当し、2014年より1年間内閣府政策調査員として消費者庁に出向。2018年10月より現職。


緊急事態宣言で登園自粛のお願いがあり、11連休となった娘のGW。何をして過ごそうかと考えたとき、素敵なプランを発見。子ども向けのGW中ビデオ会議システムでレッスン受け放題!ダンスやヨガ、制作や読み聞かせなどさまざまなレッスンが連休中毎日複数回ずつ催され、多いレッスンでは100名以上が参加。

最初は発言しなかった娘も、先に答えてくれるお姉さん・お兄さんがいるので真似して答える内に、ミュートボタンの操作も覚え、自らマイクをオンにして発言するように。毎日、今日は何のレッスン?と楽しみに過ごしていた。最終レッスンでは、もう終わってしまう、と涙している子どもたちも。

オンラインで授業を聞かせるのは大変なことかもしれない。でも、100人のレッスンでも先生の工夫次第で一体感は感じられる。少人数のものであれば、受講生同士のつながりも生まれるかもしれない。​オンラインでの授業や会議はまだ始まったばかり。オンラインの今後の可能性にワクワクしたGWだった。

クラウドゲームのプラットフォームが、様々なコンテンツの汎用プラットフォーム化する!?

冨永上級研究員
冨永 直基 NAOKI TOMINAGA
上級研究員
1984年博報堂入社。以来様々な業種の商品・サービスのマーケティングリサーチ/プラニングに従事しつつ、2003-2012年博報堂フォーサイト/イノベーションラボ(コンサルタント)、2004-2005年生活総研(研究員)業務にも取り組む。2013年からの博報堂中部支社MD局を経て現職。 著書は「亜州未来図2010~4つのシナリオ」(共著、阪急コミュニケーションズ、2003)「黒リッチってなんですか?」(共著、集英社、2007) 「未来洞察のための思考法」(共著、勁草書房、2016)

昨年、人気アクションゲーム上で行われたアーティストによる音楽ライブが1200万人の同時視聴を獲得し大きな話題となりましたが、このGW中に中国の大手IT企業勢によるクラウドゲーム技術への積極投資が発表されました。これまで家庭用ゲームの主流であったコンソール型ゲーム機、すなわちハードウエアに縛られたものではなく、クラウドにつながるのであればスマホでもテレビでもどのような機器でもゲームが楽しめる方式がいよいよ主流になっていきそうです。

生まれながらにしてハイスペックなゲームを体験してきた世代が今後世界の多数を占めるようになる中、特に5G、6G時代になれば、こうしたクラウドゲームのプラットフォームが、様々な動画/XR系を束ねる汎用プラットフォーム化する可能性を秘めているのではないでしょうか。

アプリで休日夜間も相談&即診療 進む医療サービスの出前

斎藤 葵 AOI SAITO
上席研究員
2002年博報堂入社。雑誌・出版ビジネスを中心としたメディアプロデューサーを経て2016年より現職。現在はメディア・テクノロジー・デジタルマーケティング業界のプレイヤーとのビジネスマッチングやディスカッションの場の企画・運営・プロデュースを行う傍ら、当サイトの編集部員として取材・発信活動も行っている。



メ環研では、米中やASEANで日本よりも進む生活を変える数々のサービスを数年前から追いかけています。2年前、中国の保険会社が運営する、ちょっとした身体の不調を医者に直接24時間相談できるアプリのサービスを取材し、検索では解決しない悩みから即、解かれ安心が得られる魅力に感心しました。と同時に日本での導入は時間がかかるのではないかと感じたことを覚えています。

そしてコロナ禍の今、ちょっとした「風邪」がもはや心配でならない非常時。そんな折、筆者はこのGWに、自分自身と娘の深夜の体調不良に出くわしました。平時であれば一晩待って、病院へ行けばよいものの、今は病院に行くことすら不安が大きいご時世。しかも、これがコロナなのかただの風邪なのか、すぐにでも知りたい、でも信頼できる情報はない・・・そんな切実な悩みにも即答えてくれたのが、夜間休日の往診サービス。

アプリで呼び出してものの数分で自宅に医師が来てくれ、検査や処方もしてくれる。その日のうちに解決。身も心も即安心を得られました。デジタル化や様々なテクノロジーの浸透により、コロナ禍で数年かかって訪れる変化が加速度的に来ているといわれていますが、医療といった身近な生活サービスも大いに進化していることをこのGWで実感させられました。進化のスピードが速まる生活を変えるサービス、引き続き注視していきます。

「人出」を気づかいながら「我慢」の1週間

関沢 英彦 HIDEHIKO SEKIZAWA
顧問
1969 年博報堂入社。コピーライターを経て博報堂生活総合研究所。現在、東京経済大学名誉教授。日経産業新聞「関沢英彦の目」連載中。著書『女と夜と死の広告学』(晃洋書房)『ひらがな思考術』(ポプラ社)『偶然ベタの若者たち』(亜紀書房)『生活という速度』(新宿書房)『現代社会学第 13 巻成熟と老いの社会学』 共著・岩波書店 『分衆の誕生』 共著・日本経済新聞社 他。

4月29日〜5月5日の1週間、地上波の97番組がタイトルに「GW/大型連休/連休」という言葉を含んでいた。日別には、GW初日4月29日が20件と高く、30日17件、5月1日9件、2日9件と土日に減少。3日16件、4日10件、5日16件と終盤にまた増えた。


上の図は、局別の番組数。該当番組の説明文で頻出した言葉は、1.緊急事態/宣言、2.人出/人流、3.我慢、4.感染、5.おうち/巣ごもり/自宅。おうちで我慢しながら、人出を気にする視聴者の姿が浮かぶ。

一方、「巣ごもり連休楽しみ方」(おはよう日本・4月29日)、「おうち時間を有効活用」(news every・4月29日)、「家族で遊べるテーブルゲームベスト10を大発表」(ラヴィット!・4月29日)、「意外続々と新しい過ごし方」(真相報道バンキシャ!・5月2日)、「おうち時間が“進化”」(news every・5月4日)、「家スッキリGWの不用品買い取り活況!」(WBS・5月4日)、「産直魚介類6倍!想定外GW消費」(WBS・5月5日)など、巣ごもりを前向きに捉えたコーナーは、「心配モード」の中、貴重であった。

〝要らない・捨てる〟の技術

平塚 元明 MOTOAKI HIRATSUKA
フェロー
1989年博報堂入社。マーケティング局を経て、ネット×広告の実験部署「博報堂電脳体」に参画。2003年より、フリーのマーケティングプラナーとして活動中。株式会社博報堂プラニングハウスフェロー。著書『ポスト3.11のマーケティング』(共著・朝日新聞出版刊・2011)、連載『マーケターのためのブックガイド マーケボン』(読売新聞ADレポートOJO・2009~2017)など。

ステイホームの影響で、リユースショップが大繁盛。家を片付けて不用品を持ち込む人が増えているらしい。自分の部屋で場所をとっているといえばこのCD棚。よほど偏狭なことを言わなければ音楽配信サービスで十分生きていける時代になった。大抵の音源はネットにある。

すでにこれらの音盤に手を触れなくなって久しく、GWにいくらか中古店にひきとってもらうことにした。一枚一枚に買った時分の記憶が蘇って、箱詰めはなかなか捗らない。いつの間にか結構な量を買い込んだものだ。思えばレコード屋はおろか本屋もないような田舎育ち、文化ソフト(いつの間にかコンテンツというようになったな)にひもじい思いをしたその復讐みたいに買い込んできたような気がする。

世代論をやる気はないが、〈ない〉からはじまることと、すでになんでも〈ある〉からはじまることは、どんな違いを生むのだろう。〈ない〉から〝欲しい・手に入れたい〟となるが、〈ある〉からはじまるとどうなるか。絞ってほしい? それって裏返すと〝要らない・捨てる〟の技術かもね。

※掲載している情報/見解、研究員や執筆者の所属/経歴/肩書などは掲載当時のものです。