【メ環研の部屋】位置情報やパスワードも共有? 幸せ家族のコミュニケーションDX

メディア環境研究所の研究員が日々追いかけているトレンドや調査速報などを発表し、ご関心をお持ちの皆さまとカジュアルに意見交換・議論をするオンラインイベント「メ環研の部屋」。7月20日には、新企画「メ環研のメからウロコ」の第2回を開催しました。

今回のテーマは「幸せ家族のコミュニケーションDX」。家族・夫婦はどのようにコミュニケーションを取っているのか。わかっていそうで、意外とわかっていない家族コミュニケーションについての疑問を解消するべく、全国の男女15~69歳、計1207名に「夫婦、家族のコミュニケーションに関する調査」を実施しました。

ゲストは、子育て家族に関する研究を行う博報堂こそだて家族研究所の亀田知代子さん、かつて博報堂キャリジョ研で働く女性の研究をしており、現在は子育てしながら博報堂のマーケティング部門で活動している松井博代さんの2名。メ環研の野田上席研究員、森永上席研究員、山本グループマネージャー(以下、山本GM)とともに調査結果を紐解きます。

34歳以下の夫婦は家族間の情報共有を特に重視

今回のイベントでは、調査結果における“世代別の差”に着目。既婚34歳以下、既婚35〜49歳、既婚50〜69歳の回答を比較し、各世代のコミュニケーションのスタンスや手段の違いについて考えていきました。

今どきの家族が「共有」しているのは、食事・住居・お財布だけではありません。互いの「情報」を共有しあうことで、家庭運営を円滑にしています。

実際に「夫婦で家事や育児を協力しあうためには、情報共有は欠かせない」と回答したのは、34歳以下で75.5%、35〜49歳で64.9%、50〜69歳で66.8%。34歳以下の若い世代の夫婦では、4人に3人がその重要性を意識しています。

注:黄色=「はい」、グレー=「いいえ」

注:黄色=「はい」、グレー=「いいえ」

亀田さんは「共働きの増加とともに、ママだけが情報を持って一人で家庭を運営するというスタイルが変化しつつある」と分析。家族間で密な連携を取り、家事・育児を分担する家庭が増えていることが見て取れます。

子あり既婚者を中心に、家族間で写真や動画をアプリでシェア

アプリを使って写真や動画を共有しあっているのは全体の2割弱。ただし、「子あり」という条件を加えると全世代で割合が上昇します。

特に、34歳以下の子あり既婚者では44.3%が写真・動画共有アプリを利用。野田上席研究員は「コロナ禍によって高齢の親との対面や帰省が難しくなり、アプリを通して思い出を共有するシーンが増えているのでは」と指摘します。

なお、「離れて暮らす家族とも、オンラインでつながることでより身近に感じることができるようになった」という質問に対しては、34歳以下の60.2%が「はい」と回答。

「里帰りするよりも、定期的にビデオ通話や写真共有などオンラインで交流する方が気軽に仲良くなれると思う」には34歳以下の過半数が「はい」と回答しており、家族間交流の形の変化が伺えます。

若い世代ほど互いのスケジュールや位置情報を把握しあう傾向に

今どき夫婦の情報共有は、スケジュールや位置情報などプライベートな領域にも及びます。

「夫婦や子供、祖父母など家族のコミュニケーションのためにやっている事柄」として、「スケジュールを共有するアプリを利用している」と回答したのは、34歳以下が41.8%35〜49歳でも24.4%に。

また、位置情報を共有しているのは、34歳以下で27.6%、34歳以下でも子あり夫婦では34.4%と数字が上がります。


若い世代ほど位置情報を共有する人が多い理由について、野田上席研究員は「そもそも若い人の場合は、恋人や友達同士で位置情報を共有する行為がめずらしくない。また、キッズ携帯などの位置情報サービスを通してお子さんを見守る人も多いのでは」と考察しています。

Amazon Primeやネットスーパーでの買い物には共用アカウントを使用

また、34歳以下の43.4%が、会費制のオンラインショッピングサービス「Amazon Prime」のIDを共有していると回答。全世代でも、およそ5人に1人が家族間で同じIDを使用しています。

「効率的に買い物ができるように『ネットスーパー』のアカウントを共有している」と回答したのは、34歳以下で約2割。買い物で得られるポイントやまとめ買いのセールなどを家族単位で活用するなど、今どき夫婦の家庭運営においては「買い物まわりの情報を共有すると効率的」という考えが浸透しつつあるようです。

プライバシーや情報共有意識には世代・男女で差が見られる

これまでの調査結果から、若い世代の夫婦ほど情報を積極的に共有する傾向が見えてきました。しかし、同時に気になるのがプライバシーに対する意識ではないでしょうか。

「夫婦といえど互いのプライバシーは尊重したほうがいい」という質問には、34歳以下で72.4%、35〜49歳で75.6%、50〜69歳で86.1%が「はい」と回答。

すべての世代で7割以上の人がプライバシーの尊重を大切だと考えており、特に世代が上がるほどその割合は上昇しました。

注:黄色=「はい」、グレー=「いいえ」

なお、34歳以下で「はい」と答えた人の割合は男性80.0%、女性68.3%と、この世代ではとりわけ男性がプライバシーの尊重を重視する傾向が見られました。

さらに、「配偶者にスマホの中身を見られることに抵抗を感じる」人は、34歳以下で54.2%、35〜49歳で39.8%、50〜69歳で44.5%。若い夫婦では、過半数を超える人がスマホを見られるのに抵抗を覚えることが明らかに。

注:黄色=「はい」、グレー=「いいえ」

その一方で、「配偶者のスマホの『パスワード』を知っていて、いつでも見ることができる」には34歳以下の56.6%、35〜49歳の28.3%、50〜69歳の22.5%が「はい」と回答。

34歳以下の多くが「配偶者にスマホの中身を見られたくない」と感じる反面、いつでも配偶者のスマホを見られる関係にある事実が見えてきました。

注:黄色=「はい」、グレー=「いいえ」

若い世代は「スマホの中身を見られること」には抵抗を抱きながらも、他の世代よりもスマホのパスワードや位置情報、スケジュールなどあらゆる情報を家族間で共有する、という傾向が明らかになりました。

家族でアカウントを共有するメリットは?

このように、家族間の情報共有が進む理由について、亀田さんは「時代の移り変わりとともに、結婚して子どもを持つことの必然性が薄れて家族になること自体が選択的になっている。そのため、あえて家族としてのイベントを増やしたり体験を共有しあったりして、『私たち家族だよね』『家族になってよかったよね』と確かめあいたいのではないか。パスワードを共有するのも、もしかすると『パスワードを共有できるくらい仲がいい』という信頼感の表れなのでは」と分析しました。

実際に、亀田さんは、家族共有のアカウントでネットショッピングをするので、夫の名前で女性ものの化粧品を買っているそう。

一方で、山本GMからは、「タスクの共有はまだしも、位置情報やスマホのパスワードまで共有するのは違和感。Amazonで何を買ったか、Prime Video(Amazon Primeに付帯する動画視聴サービス)で何を観たかまで共有することにも抵抗がある」という意見も。

また、松井さんは「私が働く女性の研究をしていたときには『三共』つまり『共通、共有、共感』が結婚相手に求める条件として挙げられていた。我が家も夫婦揃って実家が遠く、お互いしか頼れないので、私にしかできないことがあるのはリスキー。なんでも共有する重要性を感じている」と話しました。

野田上席研究員は「送料無料のお急ぎ便やPrime VideoといったAmazon Primeの特権を家族と共有できるなら、プライバシーの問題はそれほど気にならない。ECサイトも、アカウントを共有するとポイントが貯まりやすい。こうした“何かを共有した先にある喜び”が、プライバシーの扉を開くカギになっているのかもしれない」と話しました。

また「AmazonやFacebook、Google Mapのアカウントを家族で共有することで、何を買いたい、どこに行きたい、何をしたいといった家族の欲求をプールする場所ができるのが面白い。最終的には家族投票でどれにするかを決められる」と野田上席研究員。

山本GMはこれを「ゆるやかな家族会議が常に行われている状態」と表現。共有アカウントを通して家族のメンバーそれぞれの好きなこと、やりたいことを可視化し合意形成するプロセスは、まさに家族のコミュニケーションDXの象徴と言えそうです。

「世帯アカウント」を作れば管理の煩雑さを軽減できる?

これまで見てきたように、家族でのアカウント共有にはさまざまなメリットがあります。一方で、個人アカウントを家族みんなで使うことで、アカウントを管理する人の負担が大きくなるという問題点も。

「若者から『サークルやゼミのアカウントを作るときは、みんなで管理できる共同体アカウントがあればいいのに』という声を聞くことがある。誰か一人の名義でアカウントを作ると管理者の負担が大きく、万が一その人が管理できなくなったときに引き継ぎが大変だそう」と森永上席研究員。家庭内でもこれと同じことが起こっています。

こうした場面で求められているのが、誰か一人だけではなく、みんなで共同責任を負うことのできる無人格のアカウントです。家庭においては、夫や妻といった個人ではなく世帯人格に紐づいたグループIDが発行されれば、管理の負担を分散できるでしょう。

山本GMによると、世帯単位でアカウントを持ちたいというニーズは日本特有で、あらゆるアカウントが個人に紐づく欧米では見られない傾向だそう。理由については「明治時代からの伝統で、日本の戸籍が世帯単位であることと関係しているのではないか」と考察します。

また、そんな日本人の意識を象徴するサービスとして、日本発の写真・動画共有アプリ『みてね』に言及。同サービスは個人ではなく世帯単位で使うことを前提として作られており、家族として登録されたメンバーは自由にコメントを付け合いながら、交流ができます。

特徴の一つは、“家族”に誰を含めるかを自分たちで決められること。野田上席研究員も、自身の妹を家族としてメンバーに加えているそうです。

個人アカウントを世帯アカウントに転用するコツは?

しかし、「みてね」のように世帯単位で使うことを前提にしたサービスはまだまだ数が少ないのが現状です。実際の情報共有には、やむを得ず個人アカウントを使っている家庭が少なくありません。個人アカウントを世帯アカウントとしてうまく機能させるには、どのような工夫が必要なのでしょうか。

「我が家では、家族全員がアクセスできるアカウントを作って共有しているサービスもある。そこにみんなの予定を入れたり、写真をアップしたり、タスクを書き込んで管理したりすることで、家族間での情報共有がスムーズになる」と森永上席研究員。

世帯アカウントの考え方が一般的になれば、個人に紐づく情報が不要になるため、いっそう複数人で使いやすくなるはずです。

野田上席研究員は「世帯アカウントが浸透して情報共有が進めば進むほど、みんなが主体的に動けるようになるはず。また、家族みんなで一つのアカウントを使うことで、家族向けのレコメンデーションできるようになる。こちらも情報の送り手として、新たなターゲティングができるチャンスかもしれない」と指摘。世帯アカウントの持つ可能性に期待を寄せました。

まとめ


今回の「メ環研のメからウロコ」では、「今どき夫婦はアプリやサービスを活用し、あらゆる情報を共有する」ということが明らかに。

食卓を囲みあって同じ時間を過ごすだけでなく、行きたい場所や買ったコンテンツ、さらにはスケジュールや位置情報までを共有し、家庭の円滑な運営に努めているようです。

そのほかにも、さまざまな話も飛び出し、大きな盛り上がりを見せた今回のイベント。次回の「メ環研のメからウロコ」にもぜひご期待ください。

(編集協力=小晴+鬼頭佳代/ノオト)

登壇者プロフィール

野田上席研究員
野田 絵美
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員
2003年博報堂入社。マーケティングプラナーとして、食品やトイレタリー、自動車など消費財から耐久財まで幅広く、得意先企業のブランディング、商品開発、コミュニケーション戦略立案に携わる。生活密着やインタビューなど様々な調査を通じて、生活者の行動の裏にあるインサイトを探るのが得意。2017年4月より現職。生活者のメディア生活の動向を研究する。
山本 泰士
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 グループマネージャー兼上席研究員
2003年博報堂入社。マーケティングプランナーとしてコミュニケーションプランニングを担当。11年から生活総合研究所で生活者の未来洞察に従事。15年より買物研究所、20年に所長。複雑化する情報・購買環境下における買物インサイトを洞察。21年よりメディア環境研究所へ異動。メディア・コミュニティ・コマースの際がなくなる時代のメディア環境について問題意識を持ちながら洞察と発信を行っている。著書に「なぜそれが買われるか?〜情報爆発時代に選ばれる商品の法則(朝日新書)」等
森永上席研究員
森永 真弓
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員
通信会社を経て博報堂に入社し現在に至る。 コンテンツやコミュニケーションの名脇役としてのデジタル活用を構想構築する裏方請負人。 テクノロジー、ネットヘビーユーザー、オタク文化研究などをテーマにしたメディア出演や執筆活動も行っている。自称「なけなしの精神力でコミュ障を打開する引きこもらない方のオタク」。 WOMマーケティング協議会理事。共著に「グルメサイトで★★★(ホシ3つ)の店は、本当に美味しいのか」(マガジンハウス)がある。

※掲載している情報/見解、研究員や執筆者の所属/経歴/肩書などは掲載当時のものです。