メディア定点調査連載コラム2021-④ 世の中の情報の発信元は?

メディア環境研究所が2006年から実施しているメディア定点調査。「メディア定点2021」は初めてコロナ禍のメディア環境をとらえた。コロナ禍でメディア環境はどう変化しているのか、生活者のメディア意識や行動にはどんな兆しが見えてきているのか、本連載コラムでご報告していく。

世の中の情報の発信元について、生活者はどう考えているのだろうか。

私自身、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌などのマスメディアだと思っている。同時に、急速に存在感を増しているSNSやニュースサイトなどのインターネットメディアもそうであると考えている。私にとって、マスメディアもインターネットメディアも世の中の情報の発信元なのである。

「世の中の情報の発信元はマスメディアである」は3割強

「メディア定点調査2021」によると、3割強(33.7%)が「世の中の情報の発信元はマスメディアである」と思っている。3人に1人の割合である。(図1)

一方、「世の中の情報の発信元は、SNSやまとめサイトなどのネットメディアである」と思っている人は2割(21.2%)。徐々に増加しており、4年前の2017年(11.9%)の倍近くになっている。(図2)

両方を単純に足し上げると過半数になるが、私のようにマスメディアもインターネットメディアも世の中の情報の発信元だと思っている人も一定数いると思われるため、当然重なりはあるであろう。そうなると、世の中の情報の発信元がマスメディアでもインターネットメディアでもないと思っている人は相当数いることになる。

情報の信頼は不特定多数のみんな

「世の中の情報量は多すぎる」と思っている人は51.2%。2017年に急伸して以降、過半数で推移している。(図3)

 

情報量が多すぎて、情報の発信元をいちいち気にしていられないと考えている人もいるであろう。また、情報の発信元を気にすることに思い至らない人もいるであろう。最近、メディア環境研究所で実施したインタビュー調査では、ニュースサイトで接したニュースの情報源がテレビや新聞などのマスメディアであることに気づいていない社会人もいた。溢れる情報の中で、生活者の情報に向き合う態度に変化が表れている。「情報が溢れているので、自分で主体的に何の情報が欲しいのか意思がないと、情報に埋もれてしまう」という声もインタビューでは聞かれた。「情報に埋もれないように、自分が興味を持てるか、自分に役立つかどうかで選択している。情報の発信元が地方なのか全国なのか、マスメディアなのか個人なのかは関係ない」という。興味や役立ちが情報の選択基準になったことで、誰が情報の発信元であるかの相対的な重要性が下がっているように感じる。ただ、関係ないとしつつも信頼するかどうかの尺度はあるようだ。SNSであればどれだけの人がシェアしているか、動画配信サイトであれば何人がチャンネル登録しているのかという不特定多数の“みんな”の存在である。不特定多数の“みんな”が接することによって、信頼性の低い情報は淘汰されるという自浄作用も期待できるのであろう。また、自分が信頼している人からシェアされたかどうかも情報を信頼する基準になっているようだ。世の中の情報の発信元以上に、不特定多数の“みんな”や自分が信頼できる“人”から支持されているかが選ばれる情報の要件になりつつある。本来情報の媒介であるメディアに、更に媒介となる人の存在が感じられる。情報過多社会を生き抜く生活者の知恵と言えるのかもしれない。

新美 妙子
上席研究員
1989年博報堂入社。メディアプラナー、メディアマーケターとしてメディアの価値研究、新聞広告効果測定の業界標準プラットフォーム構築などに従事。2013年4月より現職。メディア定点調査や各種定性調査など生活者のメディア行動を研究している。「広告ビジネスに関わる人のメディアガイド2015」(宣伝会議) 編集長。

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