今、ポッドキャストに先端的な生活者が集まるワケ ~ユーザー像とマインドを読み解く~ @メ環研の部屋

にわかに活況を呈しているメディア「ポッドキャスト」。ラジオ局や新聞社制作の番組から個人の配信まで、さまざまな音声コンテンツを楽しめるプラットフォームで、日本では2005年にサービス開始。

一時はブログやSNSに押されていましたが、2021年、若年層も取り込み盛り上がりを見せています。なぜ、ポッドキャストに人が集まりはじめているのでしょうか?

メディア環境研究所では10月21日、オンラインイベント「メ環研の部屋~第4回 メ環研のメからウロコ」にて、「ポッドキャストユーザーってどんな人?」をテーマに議論を行いました。

ゲストスピーカーは、先端的な生活者のリサーチを日頃から行っているSD G株式会社アナリスト/執行役員の佐々木健眞(ささき たつま)さん。モデレーターはメディア環境研究所の野田上席研究員です。

ポッドキャストユーザーってどんな人?

2021年10月に実施した、メディア環境研究所「ポッドキャストユーザー価値観調査2021」では、ポッドキャストユーザーを「月1回以上利用しているユーザー」と定義。その実態と価値観を調べました。

本調査におけるポッドキャストユーザーの割合は、男性が55.6%、女性が44.4%で、男性がやや多め。年代は男女ともに20〜40代が中心です。

まずポッドキャストユーザーの主な利用シーンを見てみましょう。1位「休憩中(49.3%)」、2位「家事中(39.0%)」、3位「運動中(32.4%)」がほとんどの年代で三大聴取シーンであることがわかりました。

全体のポッドキャストユーザーに対し5pt以上高い項目を「黄」、10pt以上高い項目を「オレンジ」、5pt以上下回っている項目を「水色」、10pt以上下回っている項目を「青」で色づけしている

年代別の特徴を見ると、10〜20代は「通勤・通学」、30〜40代は「家事中」、50〜60代は「休憩中」「就寝前」が他の年齢層より割合が高くなり、それぞれの年代のライフスタイルを反映していると言えます。

その中で意外だったのは30〜40代の「家事中」の割合。女性が43.1%に対し男性が45.1%と、差はわずかです男性の方が高い割合を示したことは、今回の調査における「メからウロコ」でした。

続いて利用目的です。全体のトップ3は1位「音楽を聴くため(36.9%)」、2位「情報収集のため(34.6%)」、3位「アイドル・俳優・芸人・声優など好きな人の話を聴くため(32.6%)」です。

年代別の特徴を見てみると、10〜20代ユーザーで「目を休めるため(23.7%)」の回答が全体に比べて5pt以上高いことがわかりました。特に男性ユーザーに高い傾向があり、スマートフォンで酷使しがちな目を休めるためにポッドキャストの時間をつくるという姿が垣間見えます。

30~40代ユーザーでは、特に男性で複数の利用目的が高く出ています。「情報収集のため(41.5%)」「専門的な知識を得るため(38.3%)」、「ニュースを知るため(33.8%)」、「教養を得るため(32.4%)」という情報のインプットと「暇つぶしのため(34.3%)」です。

30~40代の女性では「音楽を聴くため(45.1%)」「気分転換のため(35.3%)」が高く、50~60代ユーザーは「ラジオ番組を聴くため(26.0%)」が他の年齢層と比べて高いのが特徴でした。そんなユーザーが感じるポッドキャトの魅力とは何なのでしょうか?

ポッドキャストの魅力とは?

ポッドキャストユーザーにその魅力について聞いてみました。1位「好きな時、どこでも自分のペースで聴ける(56.3%)」、2位「ながら聴きで、効率良く情報を得られる(37.9%)」、3位「家事や運動など、生活をはかどらせてくれる(31.3%)」が挙がりました。

ユーザーはポッドキャストの、自分のペースに合わせて視聴でき、かつ情報のインプットが効率的で、さらに生活行動の効率も高めてくれる点が魅力的だと感じているようです。

4位の「きちんと話の内容説明があるので、気分や目的によって選べる(25.2%)」は、ラジオの生放送と違って、「どんな話が聴けるのか」「その聴きどころはどこか」を事前に知ることができるポッドキャストの特徴がプラスに働いた形です。次いで、「短時間でためになる情報が得られる(24.0%)」も高く支持されています。

別の質問で、ポッドキャストのイメージについて聞いてみたところ1位に「情報が幅広い(33.3%)」。同率2位で「情報が早くて新しい(28.0%)」、「分かりやすく伝えてくれる(28.0%)」が挙がっています。

情報の幅広さについて、野田は「SNSではアルゴリズムにより流れてくる情報の範囲が狭くなっていくのに対し、ポッドキャストには広い種類の情報との出会う機会があります」と補足しました。

ポッドキャストから見えてきた新しい消費者像

次に、これらのポッドキャストユーザーの価値観のなかで生活全般について当てはまる項目を一般の生活者と比較しました。その結果、「時間を無駄にせず有効活用することを心掛けた生活をしている」という人の割合が一般より非常に高いことが判明しました。

また調査項目では、「好きな趣味や勉強をしている」「家事をてきぱきこなしている」「経済的なゆとりのある生活をしている」の回答率も高く出ました。ここから見えてくるのは、ポッドキャストユーザーは生活充実派で、経済的なゆとりもある消費者像でではないでしょうか。

生活の中の価値観・願望を見てみても、6割近くが「あくせくせず、時間をかけることを楽しみながら暮らしたい」、5割近くが「家事や育児など手間暇かけて日々の暮らしを楽しみたい」と答え、いわゆる丁寧な暮らしを希望する人が多いようです。

また「常に新しいものから刺激を受ける暮らしがしたい」「未体験のことにチャレンジして自分を成長させていきたい」という回答もそれぞれ約5割。ポッドキャスト自体は、15年以上前から存在するプラットフォームですが、2021年のユーザーは決して保守的ではなくチャレンジ志向が高い層だと言えます。

ポッドキャストユーザーは、時間を効率的に使い、日々の暮らしを楽しみたい、新しいものを取り入れたい「暮らしの先端層」という人物像が見えてきました。

先進的な生活者を「TRIBE(トライブ)」から分析

続いて、音声メディアユーザーを定性的に分析した佐々木さんのレポートから、ポッドキャストユーザーが持つマインドを考察していきます。

佐々木さんは先進的な生活者を「TRIBE(トライブ)」と名付けて調査、分析しています。今回は音声メディアからの情報収集の効率化や、快適化を進めるTRIBEを「コンフォートリスナー」と定義し、その9つのプロファイルを元に議論を進めました。

あえて音声メディアを選ぶワケ

SNSが多様化する現在、情報の種類やアクセス方法も多様化し、知りたい情報をピンポイントで探し出すことが容易ではなくなりました。私たちは情報収集に大きなストレスを抱えるようになったと言えます。

その点、先進的なマインドを持つ「コンフォートリスナー」は、音声メディアを活用することで情報過多によるストレス環境を快適に過ごせるよう心がけているようです。

佐々木さんによると、「コンフォートリスナーは、当たり前のような普通の日常生活を送りながら、必要な情報に自分でアクセスしに行くのではなく、音声で取り入れて生活とうまく両立させています。ストレスなく、かつ情報もしっかり取り、精神的な安心感を得ることに価値を置いています」

情報収集の効率化や快適化がコンフォートリスナーの価値観を考えるポイントなのは確かですが、ここで1つ疑問がわきます。効率重視ならなぜ短時間で読めるテキストではなく、音声メディアを選ぶのでしょうか?

佐々木さんは、そもそもコンフォートリスナーは、客観的事実を表層的に入手することを音声メディアには求めていないと話します。コンフォートリスナーの9つのプロファイルのうち「音声メディアに求める機能」を例に議論は進みました。

佐々木さんによると、コンフォートリスナーは音声メディアから「こういう考え方もあるのか、一方で別の考え方もある」という新しい認識、価値観をインプットしていく体験に価値を感じているといいます。

つまり、何か情報収集をするときに、一般の生活者は客観的な事実を知ることへ重きを置き、コンフォートリスナーは複数の第三者の考え方を借りながら多角的に情報への理解を深めていくことに魅力を感じているということです。

野田も、「情報にただアクセスするだけならテキストでいいですが、多角的に理解を深めるとなったときには、考える時間をうまく取り入れられる音声の方が適していますね」と同意します。

ポッドキャストに耳を傾け、思考しながら、手を動かして家事などのタスクをこなす。再生するコンテンツによっては、同時に取り組むタスクへの集中力やモチベーションのコントロールにも繋がるでしょう。

情報を得ながらタスクも完了。野田は、ポッドキャストを聴きながらの「ながら作業」には「いい時間が過ごせた」という満足感があるのではないかと考察します。

佐々木さんはこの状態を「ほどよく全てのところに波風を立たせない快適な環境」だと表現。コンフォートリスナーを考える上での重要な価値観であるという認識を示しました。

仲良くなれそうな配信者のコンテンツが好まれる

また、コンフォートリスナーにとって新たな観点を取り入れるには配信者の人間性も重要です。

コンフォートリスナーの声として「音声メディアで、リアルに会っても仲良くなれそうな配信者と出会うと、興味のなかった分野の情報も気持ち的に受け入れやすくなっている」という発言もあるそう。

コンフォートリスナーは、生身の人間が話している温度から得られる信頼感を重要視しているのです。

野田も、「テキストだとどういう気持ちでした発言かは分かりません。でも、音声メディアなら声に感情が乗るので、どういう気分で、どういう文脈で考えているのかが伝わりやすい。聴いている方も、声を通じて心を開いて聴けるところがいいです。違う意見でも受け入れやすい面がありますね」とコメント。

さらに野田の「もともとラジオがもっている価値にも繋がりますね」という感想に対し、佐々木さんは「コロナ禍で深夜ラジオを聴く人が非常に増えているんです。1人でいることの寂しさや孤独感があるなか、人間性が伝わる音声メディアのニーズが今後も高まっていく兆しだと思います」と述べました。

情報は「有益性」から「快適性」へ

「時間を有効に使いたい」「気分を上げたい」「快適に暮らしたい」「自分の身になる考え方を心地よく取り入れたい」……これらの欲求をスマートに満たす最適な手段として、ポッドキャストが選ばれていると言えるでしょう。

では、そのような先進的な価値観が将来的に一般生活者に広がった場合、一体どういう行動が生まれるのでしょうか? 佐々木さんは「情報は有益性重視から快適性重視に変化していく」と分析。

佐々木さんは、情報の正確性だけではなく、「視聴スタイルとしての快適さ」、「精神衛生としての快適さ」、「情報選別の取捨選択におけるストレスのなさ、快適さ」を重視する価値観へのシフトが起こると考えています。

ポッドキャストは、会話ベースでストレスなく情報を得ることができるメディアです。すでに、「視聴スタイルとしての快適さ」へのシフトは起こりつつあると言えます。

そして、その過程でいかに楽しく情報収集していけるかを行動軸に置くことは、一種の「情報選別の快適化」です。例えば、今まで新しい知見を得るために時間など何かしら代償を払っていたところ、新しい価値観では知識を得る過程にもさらなるエンターテイメント性を求めていくことになるでしょう。

まとめ

今回の2つの調査から、ポッドキャストユーザーは、時間を無駄にせず有効活用することを心がけて生活を楽しむ先端層だということがわかりました。

ポッドキャストでは耳を傾けるだけで楽に情報が入ってくる、つまり情報のインプットが快適化されます。

ユーザーはポッドキャストを聴くことでスマホ画面に奪われる時間を極力減らし、同時に積極的にタスクとの「ながら時間」にすることで、やらないといけないタスクを楽しい時間に変え、生活の効率化をはかっているのです。

また、そこで耳に入れる情報も表層的な知識だけでなく、自身の思考のアップデートにつながる「多様な考え方」、それも興味関心のない分野からも幅広く取り入れようとしています。

その根底には、ストレスがない状態にしておきたい、精神的に豊かでありたいというマインドが存在すると言えるのではないでしょうか。

野田は、「今のポッドキャストユーザーとは『聴きながら、知識より考え方、ピンポイントの検索より幅広い情報をキャッチ』という日常行動の中で、情報も生活もはかどらせようという人物像だと言えそうです」とイベントを締めくくりました。

今後の調査と、次回以降の「メ環研のメからウロコ」にもご期待ください。

※こちらで発表した資料はダウンロードいただけます。

(取材協力=沢井メグ+鬼頭佳代/ノオト)

登壇者プロフィール

佐々木健眞(ささき たつま)
SD G 株式会社 アナリスト / 執行役員
1995年生まれ。東京外国語大学言語文化学部ベトナム語専攻卒。2019年よりSEEDATAにインターンとして参画し、2020年海外生活者のデータプラットフォームをSaaSとして提供するSD G株式会社 執行役員に就任。国内では家電、モビリティ、飲食料品の事業開発・サービス開発に従事するほか、ブランディング業務にも携わりながら、海外生活者のリサーチやインサイト分析を行っている。専門地域は東南アジア、特にベトナム。トライブデータ作成チーム運営責任者。
野田上席研究員
野田 絵美
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員
2003年博報堂入社。マーケティングプラナーとして、食品やトイレタリー、自動車など消費財から耐久財まで幅広く、得意先企業のブランディング、商品開発、コミュニケーション戦略立案に携わる。生活密着やインタビューなど様々な調査を通じて、生活者の行動の裏にあるインサイトを探るのが得意。2017年4月より現職。生活者のメディア生活の動向を研究する。

※掲載している情報/見解、研究員や執筆者の所属/経歴/肩書などは掲載当時のものです。