メ環研

2022.01.24

「推しがあるとうまくいく オンラインベース社会の生存戦略」ウェビナーレポート【後編】「推しをビジネスの味方にする」4つの視点

「推しがあるとうまくいく オンラインベース社会の生存戦略」ウェビナーレポート【後編】「推しをビジネスの味方にする」4つの視点

フォーラムレポート

Forum Report

生活環境のオンライン化が急速に進んだコロナ禍。そんな状況下の2021年、流行語大賞にノミネートされるほど話題になったのが「推し」です。

特定の人物や作品を熱烈に支持し没入していくという行動は、これまで一部の人々のものと考えられてきましたが、コロナ禍を経て幅広い年代のマス層に広がっています。生活者は今、なぜここまで推し活へ向かっているのでしょうか?

前編では、データから推し活が広がった背景を、中編ではインタビューを交えながら推し活が迎えた新局面について考察しました。そして後編では、推しで生まれる新たなチャンスとビジネスへの活用法について議論します。

●推しで生まれた新たなチャンス

かつて推しとは「1人で愛で、深めるもの」でした。しかし、このコロナ禍で生まれた新局面「推し2.0」における推しは、かつての概念に加えて「コミュニケーションツールとして活用するもの」へと変化しています。

コロナ禍で社会がオンライン化したことで、実生活で人とつながる機会が減り、相手が何を考えているのか、自分が何を考えているのかが互いに見えづらい環境になりました。そこで、仲間を見つけ、つながりを深めていくツールとして推しが注目されたのです。
メ環研が行った調査では全体の6割の人が、10〜20代に至っては4人に3人が推しを持つまでの広がりを見せていることが分かりました。


推し
表明、広大なオンラインの世界において価値観表明になり、仲間を引き寄せます。仲間同士で推しを贈り合うことで関係を深め、さらに「推しがある」を共通点に推しの相違にかかわらず交友を広めていく、推しには架け橋のような活用法も見えてきたのです。
 

本レポートの前編と中編では、推しを持つことがオンラインベース社会で平和に生きるための生存戦略であることを確認しました。

前編へのリンク
中編へのリンク

このように生まれた新たなスタイルの推しを、どのようにメディアコンテンツや広告ビジネスの味方にすればよいのでしょうか。
推し2.0において、非常に重要なのは、かつての非オタク層が、推し活動へと参入してきことです。非オタク層が重視するのは、推しを愛するということだけではなく、推しを通した仲間作りと安心のコミュニケーションです。メディアコンテンツ制作に関わるならば、この欲求をしっかり捉える必要があります。この「非オタの推し仲間づくり」を推進、支援することがチャンスになり得るのではないでしょうか。その鍵となる4つの視点を見ていきましょう。

1.「推しガイド」を推進しよう

いわゆる非オタ層とは、推しを自ら見つけ出して深く掘り下げるのではなく、人から勧められて教えてもらう中で自らの推しを発見するタイプです。ここでメディアコンテンツが果たすべき役割は、推しの魅力への補助線を引き、背中を押していく「推しガイド」の推進です。

今、生活者はどの推しをどう楽しめばいいのか、そこにどんな楽しみがあるのかを自発的に教え合って、推しへの入口を作っています。この役割をメディアコンテンツが担うことで推しをビジネスの味方にできるのではないでしょうか。


たとえば本レポート中編で紹介したVチューバー推しの方が、推しを持つようになったきっかけは、Vチューバーが持つ多くの要素の中から、歌声という切り口を勧められたことでした。

コンテンツが持つ様々な側面、属性をそのカテゴリーが好きそうな人々に向けて発信すれば、1つのコンテンツであっても多様な入口をつくることができます。ここにエントリーの可能性があると言えるでしょう。

2.「推しギフト」を推進しよう

生活者が推しの世界に入った後、次にメディアコンテンツが担う重要な役割は、推し仲間との関係を深めるお手伝いをすることです。
仲を深める推しの贈り合い、「推しギフト」を推進しましょう。今回のインタビューでも街中や駅ナカで推しが写っている広告をみつけたら、友達に写真を撮って送るという方がいました。推し仲間にとっては、広告もギフトになり得るのです。


推し2.0では広告やスポンサーによるタイアップ企画さえも、推し活の一部に取り入れられます。
オンライン共有されることによって街中の掲示物や動画が、仲間同士で贈り合える、つまり自然拡散する広告媒体になる可能性が感じられます。推しギフトの推進は、推し活の活性化だけでなく、結果として、推しを使ってくれた広告主へのエンゲージを深めることにもつながるでしょう。

3.「推しエディット」を推進しよう

贈り合いで仲を深めた後、次に重要なのはその関係を維持することです。関係の維持とは、みんなの力でコンテンツの供給を増やすことを指します。インタビューでも出ましたが、今や「コンテンツの切れ目が縁の切れ目」なのです。
現状では、ファンが二次創作や許諾を得ていないコンテンツの切り抜き画像や動画を公開することで、供給量が支えられています。このような生活者独自のコンテンツ供給を、メディアコンテンツサイドが権利を守りながら盛り上げることに、ビジネスのチャンスがあるのではないでしょうか。


コンテンツ供給量の増加は生活者にとっても楽しみ方が続くので、結果的にコンテンツからの離脱防止にもつながります。

4.「推しインテグレーション」を推進しよう
ここまで推しのビジネスにおける活用として「推しガイド」「推しギフト」「推しエディット」の3つの視点を紹介しました。

これらは主に単独の推しを入り口にしたものでしたが、よりマスを意識したターゲットの拡大という方法はないのでしょうか。実はインタビュー調査から、生活者のなかに単独の推しの枠を超えて大きくする動きが見えています。

メ環研では、この動きを「推しインテグレーション」と名付け、メディアコンテンツホルダーと広告主が、広く生活者を捉える上で重要なポイントになると考えています。

インタビュー調査で推しインテグレーションを体現していたのが、キュン俳優推しのKさん(福岡県、38歳、主婦)です。Kさんは誰か1人を推しているのではなく、「キュン」をキーワードに推しを増やし、広げています。
「TBSの火曜日10時のドラマの枠がキュンキュンタイプだと聞き、見てみたところハマりました。主演だけでなく、相手役、友達役の俳優も好きになり、彼らが出ている作品をどんどん見ています。作品を見ながらリアルタイムでTwitterを見るだけでも楽しいと気づきました。同じ気持ちの人が世界中にたくさんいることを実感し、専業主婦だからって一人ぼっちみたいな気分が全くなくなりました」(Kさん)
Kさんは、メディアの枠や編成をうまく活用して推しを広げていました。野田は、「推しを増やしたい、広げていきたいという心理の裏には推しを失うことへの不安感があるのではないか」と指摘します。特定の推しに留まらず、その枠を超えて束ねることで推しを増やすことは、すなわち一緒に楽しむ仲間を増やすことにつながるのです。

メディア側が推しインテグレーションを推進すれば、生活者は「キュン俳優」「韓国ドラマ」などの大きな枠の中で継続的に推し仲間との楽しい空間を維持し続けることができます。それは生活者とメディアコンテンツホルダーの、さらには広告主との関係を継続的に維持することにもつながるのではないでしょうか。

●まとめ

なぜ生活者は今偏ってもいいと思うほどに「好き」を求めているのでしょうか。今回、推しという切り口から好きを求める理由を掘り下げた結果、あることが見えてきました。それは、生活者が推しという好きな情報から仲間をつくり、安心できるコミュニケーションを確保することで、時に不安なオンラインベース社会を生き抜こうとしていたということです。
先に紹介したKさんは、SNS上で自身と同じくキュン俳優にときめく仲間をみつけたことで、「専業主婦でも一人ぼっちじゃないと感じた」と語っていました。推しの情報は、オンラインベース社会を生きるために必要な、人との絆を感じるための基盤になっていたのです。

今やメディアコンテンツは、単純にその刺激を楽しむだけのものではなくなりました。オンラインベース社会の中で分散し、孤立し、孤独感を強めかねない中で、メディアコンテンツは人間関係を結ぶという重要な社会的使命、目的を持ち始めています。

メ環研ではこの生活者の新しい推し行動を意識していくことが、メディアコンテンツ、そして広告ビジネスにとってのチャンスになるのではないかと考えています。

本ウェビナーのプレゼンテーション資料と動画はメ環研のウェブサイトにて公開しています。より詳しいバックデータをご覧になりたい方はぜひご活用ください。

<プレゼンテーション資料>
https://mekanken.com/news/1929/

<プレゼンテーション動画>(動画は2022年1月31日までの期間限定公開です)
https://mekanken.com/news/1931/

(編集協力=沢井メグ+鬼頭佳代/ノオト)

●登壇者プロフィール

山本 泰士
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 グループマネージャー兼上席研究員
2003年博報堂入社。マーケティングプランナーとしてコミュニケーションプランニングを担当。11年から生活総合研究所で生活者の未来洞察に従事。15年より買物研究所、20年に所長。複雑化する情報・購買環境下における買物インサイトを洞察。21年よりメディア環境研究所へ異動。メディア・コミュニティ・コマースの際がなくなる時代のメディア環境について問題意識を持ちながら洞察と発信を行っている。著書に「なぜそれが買われるか?〜情報爆発時代に選ばれる商品の法則(朝日新書)」等

野田 絵美
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員
2003年博報堂入社。マーケティングプラナーとして、食品やトイレタリー、自動車など消費財から耐久財まで幅広く、得意先企業のブランディング、商品開発、コミュニケーション戦略立案に携わる。生活密着やインタビューなど様々な調査を通じて、生活者の行動の裏にあるインサイトを探るのが得意。2017年4月より現職。生活者のメディア生活の動向を研究する。

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