メ環研

2022.01.17

「推しがあるとうまくいく オンラインベース社会の生存戦略」ウェビナーレポート【中編】 コロナ禍で推しが安心のコミュニケーションツールに化けたワケ

「推しがあるとうまくいく オンラインベース社会の生存戦略」ウェビナーレポート【中編】 コロナ禍で推しが安心のコミュニケーションツールに化けたワケ

フォーラムレポート

Forum Report

生活環境のオンライン化が急速に進んだコロナ禍。そんな状況下の2021年、流行語大賞にノミネートされるほど話題になったのが「推し」です。

特定の人物や作品を熱烈に支持し没入していくという行動は、これまで一部の人々のものと考えられてきましたが、コロナ禍を経て幅広い年代のマス層に広がっています。生活者は今、なぜここまで推し活へ向かっているのでしょうか?

前編では推し活が広がった背景と、コロナ禍で新たに生まれた推しの活用法を取り上げました。中編では推し活の新局面を、インタビューを交えて考察します。

●新時代の推し活は何が違う?
コロナ禍を経て、従来オタク層が中心だった推しを持つ人が、急速に非オタク層まで拡大。
前編では、推しはかつてのように「愛し、深めていく」という対象であるだけでなく、コロナ禍で不足した安心できるコミュニケーションを実現させるためのツール、そしてオンラインベース社会をラクに生きるための生存戦略として活用されていることを紹介しました。
「推しがあるとうまくいく オンラインベース社会の生存戦略」ダイジェストレポート【前編】

では、実際にはどんなコミュニケーションが行われているのでしょうか? メ環研では新たに推しを見つけた生活者31名に「推しライフ・インタビュー」を行いました。 このインタビューから、新たなメディアコンテンツの役割について3つのポイントが見えてきました。

●推しの新たな役割1「価値観の表明」
仕事や学業、友人との付き合いまでもがオンラインベースになった昨今、リアルなコミュニケーションができていた頃と比較すると、その人が今何に関心があってどんなことが好きなのかが見えづらくなりました。
そこでオンライン上で価値観を示す便利なツールになっているのが推しです。前編でも紹介した常に複数の推しを持つ「常時マルチ推し」のAさん(大学生、東京都)の話からは推しを発信することで周りはAさんの興味関心を知ることができ、オンラインでの会話の糸口になっている姿が見えてきました。 「私がTwitterで推しの話題を発信すると、フォロワーだけでなくリアルで面識のある友達がLINEに推しの情報を送ってくれるようになりました」Aさん

続いてユーチューバー推しのIさん(38才、東京都)は、コロナ禍で人とのリアルなやり取りが減った結果、推しを利用してオンラインでも一緒に楽しくなれる人を増やしたいと考えていました。「コロナ禍で人とのつながりが生まれる機会が減りました。推し活をすることで、オンラインで一緒にいて楽しくなる人を増やしたい、なくなった機会を埋めたいと思っています」(Iさん
アイドルグループ推しのYさん(31才、東京都)は、推しがテレビに出ているとTwitterで実況しているそうです。推しが同じなら、オンラインでもすぐに打ち解けることができると教えてくれました。「大人になるにつれ友人関係は限られてくるものですが、同じものが好きだと無限につながっていられます。逆に知らない人でも、好きなものが同じであれば5分話すだけでとても仲良くなれます」Yさん
このような推しの活用方法は、「価値観の表明」と表現できます。推しによる価値観を表明は、闇の中のたいまつのように、広大なオンラインの世界で仲間を引き寄せることができるのです。

では、その仲間同士はオンラインベース社会でどのように交流しているのでしょうか。インタビューからは非常に興味深い交流の様子が見られました。

庭園推しのMさん(51才、東京都)は、コロナ禍をきっかけにオンラインで推し庭園の紹介を始めたところ、興味のある人同士での安心できる交流が生まれたと話してくれました。「僕は都内にある庭園を皆さんに勧めています。Instagramをきっかけに今はLINEグループで約130人の仲間と交流しています。庭園が好きな人は結構いるので数珠つながりのように仲間がどんどん増えました。グループはおだやかな雰囲気で、普段はSNSに投稿しない方も気軽に会話に参加し、皆さん楽しそうです。普段はどんなに密を避けていても、誰もが人とのつながりは持ちたいと思っていること、そのつながりを大切にしたいと願っている気持ちが伝わってきました」Mさん 

また、インタビューからは仲間との会話が安心できるよう様々な工夫をしているという声も聞かれました。
 

音楽アーティスト推しのYさんは、Twitter上で好きなものだけがタイムラインに流れるよう工夫をしています。例えば、「誹謗中傷」「辛い」「しんどい」などのネガティブな言葉や、人を傷つけるいわゆる「チクチク言葉」を全てミュートしています。これらの言葉が目に入るのは精神衛生上よくないと考えているためです。
また、会話の中身に気をつけるという意見もありました。音楽アーティスト推しのRさんは平和な会話を心掛けているそう。アーティストへの真摯な意見も、悪口っぽくつぶやいてしまうと、仲間から分断されてしまいます。Rさんは平和な会話を通じて、仲間に意見を伝えられるようになりたいと話していました。

インタビューから、推しは価値観の表明になっていること、そして、それによって生まれた推し仲間同士の世界は非常に平和な会話で満たされ、オンラインでも安心できる場になっていることがわかりました。次は仲間同士でどんなコミュニケーションが行われているのか具体的に見ていきましょう。

●推しの新たな役割2「推しは仲間への贈り物」
Nさん(23才、東京都)は、Vチューバー好きの友人から勧められたことをきっかけにVチューバー推しになりました。 「友達が最初に紹介してくれたのがVチューバーの歌動画。私は歌や声を気に入ったのをきっかけに、どんどん動画を見るようになりました。今では視聴が習慣になり、友達とはお気に入りの二次創作を贈りあったりしています」(Nさん

友人から推しをもらったNさん。友人もNさんは絵より歌の方に興味があるかもしれないと想像して、Nさんの関心が高まる形で推しの情報を贈りました。Nさんは推しを得たお陰でいい時間が生まれ、そして友人とも以前に増して仲良くなれたそうです。推しは会話の糸口になるだけでなく、「贈り」合うものでもあるのです。
 

さらに贈る相手も旧知の友人にとどまりません。Nさんは「推しに飽きるのは、コンテンツがなくなったとき」を前提に以下のように話してくれました。 「この界隈で特徴的だと思うのがファンアートの多さです。Vチューバー本人がコンテンツを生産しなくても、ファンがコンテンツを出しているんです」(Nさん同様のことをジャニーズなど、マルチイケメン推しの(60歳)も話しています。 「ファンが作ったイベントのレポートを見ると、私もイベントに参加したような気持ちになります。お互いに推しの情報を共有しあっています」(Oさん

推しを持つ人は、ファンアート、切り抜き動画、イベントレポートなど推し仲間同士で絶えずコンテンツを供給しあうことで、みんなで推しを楽しんでいる姿が見えてきました。推しは、同じ推しを持つ仲間への贈り物なのです。

推しへ向ける思いは、コンテンツの寿命が長いと続きますが、寿命が切れてしまうと離脱してしまうものです。推し2.0では二次創作を含めたコンテンツを仲間同士で贈り合うことで、推しへの熱を維持するという循環が起きていました。
例えば、この推しの贈り合いをビジネスにうまく取り入れた例として、韓流アイドルの活動が挙げられます。韓流アイドルは公式動画について、ファンによる独自の編集を許しています。ファン推しの登場シーンだけを切り取って編集した動画を公開することが可能。それぞれのファンが『私の推しを見て』と友達に布教する、そんな推し活動の生態系ができあがっています。コンテンツの寿命を伸ばし、さらにファンを増やすことができているというのは、非常にうまいやり方だと言えます。

●推しの新たな役割3「推しは新たな架け橋」
さて、推しを贈り合うのは、同じ推しを持つ仲間同士だけではありません。本レポート前編で述べたように、推しを持つ人たちは推しが違っても「何か推しがある」というだけでコミュニケーションがうまくいくと考えています。
コロナ禍でBTS推しになったMさん。時同じくして、リモートワークで会う機会が減った職場の同僚はSEVENTEENという韓国のアイドルグループを推すようになっていました。2人の推しは異なりますが、推しがあるという共通点から仲が深まったといいます。 「推しがあるというだけで気持ちの高さが合うんです。推しが違ってもお互いに関心を持っていて、全く推しがない人より話が合いそうな気がします。私はBTS推しですが、ジャニーズのファンの方の話も聞いてみたいです」Mさん  

  推し2.0では、推しがあるというだけでテンションを一緒の高さまでもっていき、共通点を見つけ新しい仲間を広げています。つまり、推しは新たな仲間との架け橋になっているのです。ここには非常に強い「多くの人とコミュニケーションしたい」というモチベーションが見られました。 
 

●まとめ
コロナ禍で人とのつながりがオンラインベースに変化し、安心してコミュニケーションすることが非常に難しくなっていることを背景に、新たなコミュニケーションツールとして推しが注目されるようになりました。本調査から、推しが以下の3つの用途で活用されていることが見えてきました。
1】「推しは価値観の表明」
推しがあると、自分や相手の価値観が見えにくいオンラインの中でも、暗がりの中のたいまつのように価値観を明るく照らし、周囲への表明になります。表明した価値観は仲間を引き寄せて、仲間同士の平和なコミュニケーションの場が生まれていました。

【2】「推しは仲間への贈り物」
推しを贈ることは、いい時間を贈ること。推しがあると仲間の絆も深まっていきます。

3】「推しは新たな仲間への架け橋」
推しが違っても、何らかの推しがあれば、人との新たな共通点がみつかり、仲間が広がっていきます。 

このように生活者は、オンラインベース社会で推し、すなわちメディアコンテンツを安心できるコミュニケーションを確保するためにたくみに活用しているのです。
また、差別化や差異化が進んでどんどん世の中がセグメントされている一方で、推し2.0には共通項探しということ見えてきました。みんなに賛同してもらえるような呼びかけにもなっているし、何か一緒に楽しめる動きになっているところもオーディエンスの分散化が進む時代の中での興味深い現象であると言えそうです。
個を大切にし多様化に向かう社会ですが、今はコロナ禍で、つながりが失われている状態だからこそ、共通項探しという価値が求められているのかもしれません。
さらに、「昔ながらのオタク」と比較すると今回の「推し2.0で見えてきた動きにはどんな特徴があるのでしょうか?メディア環境研究所の中で長年オタク文化を観察している森永研究員はこう語ります。文化的にも変わったと思えるのは、以前は推しのコンテンツをめぐってその解釈や評論で議論を戦わせる方もいましたが、今は、平和な状態を維持するために、つまり自分楽しい気持ちを維持するために、意見の合わないものとは距離を置きながらのうまい関係性を構築している方が多い、というところです。それが推し活の楽しい広がりにもつながっていると感じます」(森永) そして、メディアと推しを持つ人の関係性の変化にも注目しています。「昔だとテレビ番組がオタク対象のものを扱うことにオタクが警戒していたこともありました。しかし、今はむしろ『紹介してくれてありがとう』『テレビの中のあの人は同じ推し仲間』という雰囲気で捉えられることが増え、この点がすごく変わったと思います」(森永)  推し2.0は仲間、そして仲間と贈り合える豊富なコンテンツが不可欠です。森永の考察は推し2.0ではマスメディア、ひいては広告スポンサー広告ビジネスも推し仲間として受け入れられる可能性を示唆するものではないでしょうか。後編では、推し2.0のビジネスへの活用を議論していきます。 

 なお、本ウェビナーのプレゼンテーション資料と動画はメ環研のウェブサイトにて公開しています。より詳しいバックデータをご覧になりたい方はぜひご活用ください。 

 <プレゼンテーション資料 >
https://mekanken.com/news/1929/ 
<プレゼンテーション動画>(動画は2022年1月31日までの期間限定公開です)
https://mekanken.com/news/1931/  

(編集協力=沢井メグ+鬼頭佳代/ノオト)

 ●登壇者プロフィール
山本 泰士
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 グループマネージャー兼上席研究員
2003年博報堂入社。マーケティングプランナーとしてコミュニケーションプランニングを担当。11年から生活総合研究所で生活者の未来洞察に従事。15年より買物研究所、20年に所長。複雑化する情報・購買環境下における買物インサイトを洞察。21年よりメディア環境研究所へ異動。メディア・コミュニティ・コマースの際がなくなる時代のメディア環境について問題意識を持ちながら洞察と発信を行っている。著書に「なぜそれが買われるか?〜情報爆発時代に選ばれる商品の法則(朝日新書)」等 

野田 絵美
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員
2003年博報堂入社。マーケティングプラナーとして、食品やトイレタリー、自動車など消費財から耐久財まで幅広く、得意先企業のブランディング、商品開発、コミュニケーション戦略立案に携わる。生活密着やインタビューなど様々な調査を通じて、生活者の行動の裏にあるインサイトを探るのが得意。2017年4月より現職。生活者のメディア生活の動向を研究する。

森永 真弓
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員
通信会社を経て博報堂に入社し現在に至る。 コンテンツやコミュニケーションの名脇役としてのデジタル活用を構想構築する裏方請負人。 テクノロジー、ネットヘビーユーザー、オタク文化研究などをテーマにしたメディア出演や執筆活動も行っている。自称「なけなしの精神力でコミュ障を打開する引きこもらない方のオタク」。 WOMマーケティング協議会理事。共著に「グルメサイトで★★★(ホシ3つ)の店は、本当に美味しいのか」(マガジンハウス)がある。 

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