メディア定点調査連載コラム2021-⑩ スマホとマスク~令和のメディアニューノーマル~

メディア環境研究所が2006年から実施しているメディア定点調査。「メディア定点2021」は初めてコロナ禍のメディア環境をとらえた。コロナ禍でメディア環境はどう変化しているのか、生活者のメディア意識や行動にはどんな兆しが見えてきているのか、本連載コラムでご報告していく。

電車内はメディア行動で溢れている

1列7人掛けの電車の座席。目の前に座っている人達は皆マスクをして、スマホをいじっている。会話をしている人はいない。「携帯電話での会話はお控えください」という電車内アナウンスが懐かしいとすら感じる。これが、令和のニューノーマルな電車内の風景なのかもしれない。マスクで表情は読み取れないが、手の動きを見ていると、何をしているのかおおよその見当がつく。「目は口ほどに物を言う」ではなく、「手は口ほどに物を言う」といったところだろうか。

スマホを横にしてスクリーンを凝視している人は動画視聴。スマホ上で指先をせわしなく滑らせている人はおそらくゲーム。スマホの一角を小刻みに触っている人はテキスト入力しているのであろう。スマホのスクリーンを規則正しく下から上に指を動かしている人はニュースかSNSをチェックしているのではないか。イヤホンをつけて目を閉じている人は音楽を聴いているのだろうか。デバイスの進化とサービスの充実によって、スマホでできることは格段に増えた。メディア定点調査では、スマホでどのようなことをしているのかを聴取している。ざっくりと大まかに「スマホで何をやっているのか」を把握する為に、項目は11個に絞っている。コミュニケーションからショッピングまで、生活者はスマホでさまざまなメディア行動や生活行動をしていることがデータから見えてくる。スマホは声を発さなくてもコミュニケーションの場になっているし、メディア行動の場や買い物の場になっている。(図1)

図1

「電車やバスなど乗り物の中ではスマホを見ていることが多い」は増加傾向にあり、2020年は約7割。中でも10~20代は顕著であり、9割前後となっている。身体は電車内にあっても、各人がまったく違う体験の場にいるのだ。(図2)

図2「電車やバスなど乗り物の中では、スマートフォンを見ていることが多い」
                               ※「はい」と答えた割合

オンラインもオフラインもリアル

コロナ禍以降、リアルでコミュニケーションを取ることが容易ではなくなった。マスクをしていても、会話している生徒達を「ソーシャルディスタンス!」と注意して引き離さなければならない学校の先生の複雑な思いを耳にする。「黙食」と貼り紙された大学や高校の学生食堂を目にして、切ない気持ちになることもある。それでもコミュニケーションはなくなるわけではない。形が変わるだけである。 SNSは “盛ったり”“演じたり”という空間としてよりも、“本音”で“等身大”のコミュニケーションの空間としての役割が増していくのではないだろうか。身体性を伴うオフラインの生活だけでなく、オンラインの生活も生活者にとって益々リアルな場になっていくであろう。電車に乗って移動する自分もリアルだし、電車内でオンラインショッピングしている自分もリアルなのだから。

メディア定点調査では、「オンラインの生活とオフラインの生活の境目があるかないか」について聴取している。「オンラインとオフラインの生活に境目がない」は2割強、「オンラインとオフラインの生活に境目がある」は3割強、最も多いのは「どちらともいえない」の4割強であった。境目があるということをどうとらえていいのかわからなくて「どちらともいえない」が多くなったのではないかと推測しているが、「境目がない」という人が既に2割以上いることが興味深い。(図3)

図3

コロナ禍でデジタル化が加速し、今後、益々私達の生活はオンラインとオフラインが複層化していくであろう。生活者とつながり続けられる環境が整いつつある中で、どうしたら「このメディアと」あるいは「この企業・ブランドと」つながりたいと思ってもらえるのか。つながる手段よりも気持ちの動機をつくることが、いま問われているのではないだろうか。

新美 妙子
上席研究員
1989年博報堂入社。メディアプラナー、メディアマーケターとしてメディアの価値研究、新聞広告効果測定の業界標準プラットフォーム構築などに従事。2013年4月より現職。メディア定点調査や各種定性調査など生活者のメディア行動を研究している。「広告ビジネスに関わる人のメディアガイド2015」(宣伝会議) 編集長。

※掲載している情報/見解、研究員や執筆者の所属/経歴/肩書などは掲載当時のものです。