メディア環境から読む新潮流〜日本の広告費2021×メディア定点2022 @メ環研の部屋

メディア環境研究所の「メディア定点調査2022」では、メディア接触時間の首位が「テレビ」から「携帯/スマートフォン」に。

そして、2022年2月に電通が発表した「2021年 日本の広告費」で、調査開始以来、初めてインターネット広告費がマスコミ四媒体広告費を上回るなど、日本はまさにデジタルシフトの転換点を迎えたという調査結果が次々に出ています。メディアはこの時流をどう捉え、生活者にアプローチしていけばよいのでしょうか?

今回の「メ環研の部屋」では「メディア環境のいまを読み解く 日本の広告費2021×メディア定点2022」と題し、メディア環境のいまとこれからを議論しました。ゲストスピーカーは電通メディアイノベーションラボの北原利行氏、モデレーターは新美妙子上席研究員です。

まずは「メディア定点調査2022」から見えた、コロナ禍2年目のメディア環境を考察します。(本調査は2022年1月末〜2月にかけて実施されました)

メディア接触時間は「テレビ」を抜いて「携帯/スマホ」が首位に

メディア総接触時間は、生活者が各メディアに一日あたりどれだけ接しているか実感値を調べたもの。今回の調査では445.5分となり、昨年からやや減少したものの、コロナ禍以降、高止まりしています。

牽引したのはやはり「携帯/スマホ(146.9分)」。「テレビ(143.6分)」を抜いて調査開始以来、初めて首位となりました。

メディア総接触時間に占める「携帯/スマホ」「タブレット」「パソコン」のデジタルのシェアは57.1%。デジタルシェアはここ数年50%前後で推移していましたが、コロナ禍を境に増加しています。

スマホ所有率が全ての性年代で9割超え

また、スマホ所有率が全性年代で初めて9割超えに。現在はテレビ番組をスマホで見逃し配信サービスを使って視聴することも可能になり、その時間が「テレビ」にも「携帯/スマホ」にもなり得るメディア環境になりました。

本調査ではマスメディアの接触時間について、特に条件を設けることなく、判断を調査対象者に委ねています。メディア接触時間を回答してもらった後、各マスメディアの時間の中に何を入れたのかを聞いたところ、例えば「テレビ」の場合、動画視聴をテレビの接触時間と回答した人が約3割いました。これはテレビの概念の拡張を示しています。

約半数の世帯が「テレビをネットに接続」

テレビの概念拡張の背景には、メディアのインフラ状況の変化が挙げられます。テレビをネットにつないでいる人が51.4%と今回初めて過半数となり、動画をテレビ画面で見られるデバイスの所有はコロナ禍で伸びました。

情報の「たしからしさ」を求めてメディアを使い分け

注意したいのは、生活者のデジタルシフトが「マスメディアからデジタルへの完全乗り換え」を指すわけではないことです。「マスメディアもデジタル化しているからです」と新美研究員。

生活者のメディア意識ではトップ3に「インターネットの情報はうのみにはできない」「情報は伝える速さより内容の確かさだと思う」「気になるニュースは複数の情報源で確かめる」が上がりました。

「トップ3はメディア環境研究所が『たしからしさ』と呼んでいるものです。絶対的なメディア発のたしかさではなく、生活者一人ひとりがそれぞれの方法で『たしからしさ』を確保しようとしているのです」と加えます。

「日本の広告費2021」から読み解くメディアの動き

続いて、電通メディアイノベーションラボの北原利行さんが、広告費の推移からメディアの動きを分析します。

2021年の総広告費は6兆7998億円、前年比110.4%です。2020年にコロナ禍で非常に落ち込んだところから、かなり回復しています。しかし、北原氏は「まだ2019年の水準には戻っていません」と話します。

コロナ禍で各媒体の広告費は軒並み減少しました。しかし、調査の中でインターネット広告だけはひたすら伸び続けていたことがわかりました。

そして2021年、「インターネット広告費」(39.8%)が、新聞・雑誌・ラジオ・テレビの「マスコミ四媒体広告費」(36.1%)を上回り、トップに躍り出たのです。

ここで北原氏は「一概にインターネットが全てを奪っているという構図ではありません」と指摘します。広告費の推移には景気、業界の構造変化、生活者がメディアに求める役割の変化など複雑な要因が絡み合っています。各領域で何が起きたのか、詳細を見ていきましょう。

マスコミ四媒体広告費の推移と展望

新聞広告費

新聞の発行部数の減少にともない、新聞広告費も減少傾向にあります。2020年のコロナ禍の最初の緊急事態宣言の時期は新聞のページも減少しました。

しかし、2021年は反動増。巣ごもり・在宅需要で通信販売の「流通・小売」「化粧品・トイレタリー」などの出稿が増え、全体がプラスになりました。

雑誌広告費

女性誌に支えられる雑誌広告費は「ファッション・アクセサリー」と「化粧品・トイレタリー」の構成比が高いのが特徴です。しかし、2021年はいずれも減少。これは雑誌広告の影響力の低下ということではなく、出版社の戦略の影響です。

現在、多くの雑誌は電子版にシフトしています。広告費も出版社が取り組むインターネット広告は順調に伸びているのです。紙媒体では減少するもその分デジタルが盛り返しています。

ラジオ広告費

ラジオは非常に生活に密着したメディアであり、リスナーが固定的なのが特徴です。2021年の広告費はプラスに転化したものの、これまでよく出稿されていた「食品」などが減少。「外食・各種サービス」「情報・通信」などが増加しました。

今後の展望としては、デジタル広告費になりますがSpotifyをはじめとする音声サービス系のオーディオアドに注目が集まりそうです。

テレビメディア広告費

2021年はプラスで1兆8393億円、うち衛星メディアは1200億円ほど。広告費の大部分を地上波が占めている状況です。

地上波では、景気に敏感な「スポット広告」で飲料や嗜好品といった従来から多く出稿されてきた領域がプラスになりました。

「タイム広告」ではオリンピックの開催、またスポーツイベントが戻ってきたこともあり、スポーツ番組系を中心に顕著に推移しています。

インターネット広告費の推移と展望

ここでいうインターネット広告費には、マスコミ四媒体の事業者によるデジタル広告も含みます。インターネット広告費は2020年こそ伸び率は減少しましたがプラス成長を維持。非常に高い伸びを見せています。では2021年の3つの傾向を見ていきましょう。

インターネット広告は運用型広告が主体

インターネット広告には大きく分けて3つの取引方法があります。そのうち主体となっているのがターゲットの属性や関心によって表示される運用型広告で、2021年現在はインターネット広告全体の約85%を占めています。

存在感が増すマス四媒体由来の広告

インターネット広告費の中で存在感を増しているのがいわゆるマス四媒体由来のデジタル広告費で、2021年に1000億円を超えました。マス四媒体はインターネットの中でもコンテンツの強みと信頼性があり堅調です。インターネット広告費全体に占める割合はまだ3.9%ですが、伸び率は全体より大きく、今後も順調に成長すると期待されます。

動画広告が5000億円を突破

もうひとつ注目したいトピックが動画広告の伸びです。2021年は5128億円で、前年比で132.8%。インターネット広告媒体費全体の23.8%を占めています。動画広告費は今後も成長を続け、2022年に6000億円を突破すると見られます。

種別ではYouTubeの広告に代表されるようなインストリーム広告が57.0%とアウトストリーム広告(43.0%)を上回りました。

以上が2021年の日本の広告費の概況です。北原氏はコロナ第6波の影響、そして2月に勃発したウクライナ危機による世界経済への影響を懸念しつつも、2022年も総広告費には引き続き伸長する兆しがあることを示しました。

その背景には堅調なインターネット広告による業界全体のけん引、そしてテレビメディアの順調な滑り出しがあります。

北原さんは「広告とはメディアのパワーに依存している部分があります。広告はメディアがどう使われているか、メディアがどれくらい効力を持っているか、つまり、メディア企業が全体をどう盛り上げていくのかに関わっているのです」と締めました。

メディアと広告と、生活者行動の今

では、生活者のメディア意識はどのように変化しているのでしょうか?

メディア環境研究所が行った「メディア定点調査2022」によると、この1年で最も高まったメディア意識は「テレビ番組や動画など気に入ったコンテンツは何度でも繰り返し見たい」でした。昨年最も高まったメディア意識は「好きな情報やコンテンツは好きな時に見たい」で、今年も昨年と同スコアです。メディア接触はより能動的になっており、生活者の主導権がますます強まっています。

デジタル化が加速する中で、メディア環境はこれからどのように変化するのでしょうか。2つの兆しをご紹介します。1つ目は5人に1人が「オンライン生活とオフライン生活の境目がない」と考えていることです。通勤電車の中でスマホで買い物するなど、オンライン生活とオフライン生活の複層化は益々進み、境目がないと考える生活者は増えていく可能性があります。

また、コロナ禍で新たなメディア行動が生まれ、若者に顕著です。それは、音声やビデオ通話を使って家族や友人とつなぎっぱなしで過ごす「つなぎっぱなしのオンラインコミュニケーション」と、別の場所にいる人との「オンライン コンテンツ同時視聴」です。異なる空間をつなげて一緒に過ごすメディア行動は、今後、定着していくのではないかと思われます。

「メディア定点調査2022」からは、生活者はコロナ前のメディア行動に戻るのではなく、新しい行動をとり始めていることが見えてきました。

それらは生活者にとって「テレビvsインターネット」「オフラインvsオンライン」といった対立関係ではなく、両者の境目は曖昧で、目的によってうまく使い分けるものなのです。

新美はこの状況を「マスか、デジタルかの二者択一のように捉えていた時代があったと思いますが、今回の結果からその考え方はもう終わったと感じました。オンラインとオフラインの境目がない、それはどちらも生活者にとってのリアルであるということです。今後、メディアがオンライン・オフライン問わず空間をつなぐ役割を期待されるのではないでしょうか」とイベントを締めくくりました。

(編集協力=沢井メグ+鬼頭佳代/ノオト)

登壇者プロフィール

北原利行
電通メディアイノベーションラボ 研究主幹
電通メディアイノベーションラボ 研究主幹 情報システム部門、経営計画部門を経て研究開発部門に所属する。2011年から現職。マスメディアやコミュニケーションの研究、メディア企業のコンサルティング、組織人事制度コンサルティング、広告および関連市場・業界動向調査などに従事。「日本の広告費」『情報メディア白書』を担当。『情報イノベーター~共創社会のリーダーたち~』(共著、1999年 講談社)など、著書論文多数。また、地方紙を中心とした新聞社に関わるさまざまな調査、プロジェクトに従事する。
新美妙子
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員
1989年博報堂入社。メディアプラナー、メディアマーケターとしてメディアの価値研究、新聞広告効果測定の業界標準プラットフォーム構築などに従事。2013年4月より現職。メディア定点調査や各種定性調査など生活者のメディア行動を研究している。

※掲載している情報/見解、研究員や執筆者の所属/経歴/肩書などは掲載当時のものです。