若者はテレビを「有意義な時間」と感じている? リアルタイム配信視聴意識調査@メ環研の部屋

地上波放送と同時にスマホ・PC・タブレットでテレビ番組を視聴することができる「リアルタイム配信」。2020年から「NHKプラス」、2022年4月からは民放キー局の「TVer」がリアルタイム配信を始めました。

現在放送中のテレビ番組を、スマホなどのデバイスからリアルタイムで視聴するこの新しいスタイルは、生活者の“リアルタイム”をどのように変化させているのでしょうか?

そこで、メディア環境研究所では「リアルタイム配信視聴意識調査2022」を実施。全国15~69歳の男女(1956サンプル)を対象に、視聴実態や意識を調べました。

今回の「メ環研の部屋」は、この調査結果からテレビ受像機でのリアルタイム視聴と、スマホ・PC・タブレットでのリアルタイム配信視聴の違いを探ります。担当はメディア環境研究所の野田上席研究員です。

リアルタイム番組視聴の現状は?


テレビ受像機の保有率は93.9%。2台以上を保有している人は半数を超えています。

また、「若者はテレビを見ていない」「そもそもテレビを持っていない」という声もありますが、10~20代に絞っても93.2%がテレビ受像機を保有していることが分かりました。

スマホやタブレットで見られるリアルタイム配信の認知率は70.8%、実際に視聴した経験がある人は25.1%となりました。

今回の調査の実施時期は2022年5月末。「TVer」のリアルタイム配信スタートから1カ月半の段階で、4人に1人が実際に視聴したことになります。この結果に野田は「予想以上に多い印象」と語ります。

年代別のデータでは、リアルタイム配信を見たことがある割合は10~20代が最も多く、50~60代でも7割以上がリアルタイム配信の存在を知っていました。

この認知度の高さについて、「NHKが放送内で『NHKプラスで配信中』と常に伝えているのが大きいのでは」と野田は指摘します。

リアルタイム配信を利用した状況について自由回答で聞いたところ、「見たい時間帯に家にいなかった」「家事をしたかった」「パソコン作業をしながら見たかった」など、利便性を評価する声が挙がりました。

一方で、「いち早く見たい」「リアルタイムで見ることに意味がある」「ネタバレを防ぎたい」といった、“リアルタイム“に価値を感じている回答も目立ちます。

そのほかに、「推しの姿をリアルタイムで見る」「友達に誘われて一緒に見る」「SNSで感想が飛び交う前に確認する」といった、新しいテレビの楽しみ方が生まれているようです。

リアルタイム配信を利用するデバイスは、いずれの年代でもスマートフォンがトップ。PCやタブレットを利用する層は、50~60代が最も多い結果となりました。細かい文字が見えづらくなる世代には、より大きな画面を使うニーズがあることがうかがえます。

リアルタイム配信を見る層は、テレビに対してどれくらい好意を持っているのでしょうか。調査の結果、リアルタイム配信を視聴した経験がある人で、「とても好き」「やや好き」を合わせると8割以上がテレビに好意を持っています。

「知っているが視聴経験なし」「知らない」という人たちに比べて、リアルタイム配信視聴経験者はテレビに対する好意度が高く、「現時点では、テレビ番組ファンがリアルタイム配信を活用している」という結果となりました。

視聴スタイル別に見ると、「テレビだけを見る人」よりも、「リアルタイム配信だけを見ている人」のほうが、テレビに対する好意度が高くなっています。

「リアルタイム配信だけを見ている人」は、YouTubeやTikTokといったさまざまなスマホコンテンツの中から、テレビのリアルタイム配信を選んでいると言えそうです。

リアルタイム視聴は「何を」「どこで」「どんな気分で」?

ここからはリアルタイム視聴が「何を」「どこで」「どんな気分で」利用されているかを見ていきます。

「テレビのリアルタイム視聴」と「リアルタイム配信視聴」では、視聴されている番組ジャンルも異なっています。

年代別では、10~40代はバラエティを、50~60代は報道やスポーツをよく見ていることがわかりました。なお、TVerのリアルタイム配信はゴールデン・プライムタイムに時間帯が限られており、これが結果に影響している可能性も考えられます。

リアルタイム視聴の場所について、テレビはリビングが圧倒的に多く、88.7%。複数台ある場合は自分の部屋で見ている人もいました。

リビング以外の場所では、リアルタイム配信視聴の割合がテレビを上回っています。「キッチン」「お風呂場」「洗面所」「トイレ」など、自宅内のさまざまな場所で視聴されている実態が見えてきました。

地方別に見ると東京では「外出先」が18%とやや高めの値に。野田は「電車通勤などライフスタイルの違いも表れたのでは」と考察しました。

では、リアルタイム視聴はどのようなシーンで行われているのでしょうか。

「休憩」はテレビ・リアルタイム配信視聴ともに高く、「食事」「何もすることがない」「家族団らん」「地震などの災害」ではテレビが高い数値を示しています。家族が集まる場所でゆったりとリラックスしながら見る、もしくは緊急性があるときにテレビをつける、といった様子がうかがえます。

一方、リアルタイム配信視聴は「入浴」「通勤通学」でテレビを上回りました。移動中や水回りなど、テレビを持ち込めないシーンが挙げられているのが特徴だと言えるでしょう。

リアルタイム視聴をするときの気分も、テレビのリアルタイム視聴と配信では少しずつ傾向が異なることがわかりました。

Z世代はリアルタイム視聴を「有意義な時間」と感じている

「リアルタイム視聴をする理由」についてもたずねました。「あなたがテレビ受像機で、録画・無料動画・定額制動画配信サービスではなく、リアルタイムのテレビ放送をみる理由はどのようなことですか」という質問には、下記のような結果がでました。

ここで野田は10~20代で「有意義な時間が過ごせる」という回答の割合が高いことに着目。「タイムパフォーマンスに厳しいZ世代はテレビでリアルタイムに番組を見ることに価値を感じている、とわかる面白い結果だ」と指摘します。

加えて、10~20代は「友達や同僚との翌日の話題にできる」「SNS等でみんなと盛り上がってみたい」が他の年代と比べて高くなっており、Z世代はリアルタイムのテレビ番組をコミュニケーションツールとして活用していることがうかがえます。

次に、スマホ・PC・タブレットでリアルタイム配信を視聴する理由を聞いてみると、「最新の情報を知れる」「番組が好き」に続き、「有意義な時間が過ごせる」が3位になっています。

野田は「インタビューをしていると『SNSをだらだら見ていたらなんとなく時間が無駄に過ぎてしまった』という話が出てくる。その対極にあるものとして、リアルタイム視聴を『有意義な時間』と捉えているのでは」と分析します。

また、テレビではランクインしなかった「リアルタイムでみるとワクワクする」「番組が生中継」も上位に挙がりました。「先が読めない展開を、みんなで固唾を飲んで見守る。そのワクワク感が結果にそのまま表れているのは面白いですね」と付け足します。

テレビではなく、スマホ・PC・タブレットでリアルタイムのテレビ番組を視聴する理由について、いずれの年代も「好きな場所で見たい」「1人で見たい」「じっくり集中して見たい」がトップ3となりました。

10~20代では「SNSで話題になっている番組を見やすい」「SNSで情報や感想をシェアしやすい」が理由に挙がっており、SNSと連携した楽しみ方もうかがえます。

リアルタイム配信によっておこる「5つの変化」とは

最後に今回の調査を踏まえて見えてきた「リアルタイム配信によっておこる5つの変化」を紹介しました。

1つめは、スマホが「サブスクリーン」として機能すること。30~40代で「ひとりでテレビ番組を見ることが増えた」、10~20代で「家の様々な場所でテレビ番組を見ることが増えた」が高く、リアルタイム配信によって視聴機会が広がっています。

2つめは、「SNS活用」による盛り上がり。特に10~20代は、SNSが番組を見るきっかけになっていたり、SNSでつぶやきながら番組を見たりすることが増えており、SNSが番組視聴の盛り上がりに貢献していると言えるでしょう。

3つめは、番組リンクよる「誘い合い」。10~20代はもちろん、30~40代でも、SNSでシェアされた番組リンクをきっかけにリアルタイム配信を見る人が増えています。

TVerなどは番組をSNSにシェアする機能があり、推しが出演する番組のリンクをシェアして“リアタイ視聴“を呼びかける、といった使われ方をしています。シェアをしたり、されたりといった「誘い合い」が生まれ、それが視聴機会につながっていると考えられます。

4つめは、家族や友人との「共通話題」。家族や友人というリアルのつながりのなかで、テレビ番組が共通の話題として機能しているようです。

最後の5つめは、テレビ受像機でも視聴増が見られること。スマホで番組を見たことによって、テレビでも見たくなるという流れが、10~20代で起きているようです。

まとめ

どこでも自由にテレビ番組を楽しむことができ、SNSとの連携により“誘い合い”が起こるリアルタイム配信。何が起こるかわからないワクワク感のなか、みんなと気持ちを共有し、SNSでも家族でも盛り上がれる。そうした体験が「テレビ受像機でも見たい」という好循環につながっていく……というサイクルが、今回の調査で見えてきました。

メディア環境研究所の山本GMは「若者の中でリアルタイム配信が『有意義な時間』と感じられているのは面白い。有意義やワクワクといった面で、YouTubeやTikTokとしのぎを削るチャンスも見えてくる。スマホでリアルタイム配信を見た人たちが『逆にテレビっていいよね』となるかもしれない」と、今後に期待を寄せました。

また、野田は「タイミングも良かったのはないか」と分析します。コロナ禍で定額制動画配信サービスが増えた一方で、「選択肢が多すぎて自分で選ぶのが面倒」「一人でじっくり見るのもいいが、リアルタイムでみんなと感想を言い合えるのも楽しい」という気づきがあったのかもしれません。

野田は「見逃し配信から定額制動画配信、無料動画、SNSまで、いろいろな選択肢があり、人々の分散化が進んだからこそ、テレビが人々の関心をリアルタイムに集め、コミュニケーションをはかる大きな装置となっている。一緒に共感しながら視聴することも、視聴後に“反省会”をすることも価値となっている今、このテレビの強みをどうさらに活かしていけるか考えていけたらと思います」とコメントし、イベントを締めくくりました。

※こちらで発表した資料はダウンロードいただけます。

(編集協力=井上マサキ+鬼頭佳代/ノオト)

登壇者プロフィール

野田 絵美
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員
2003年博報堂入社。マーケティングプラナーとして、食品やトイレタリー、自動車など消費財から耐久財まで幅広く、得意先企業のブランディング、商品開発、コミュニケーション戦略立案に携わる。生活密着やインタビューなど様々な調査を通じて、生活者の行動の裏にあるインサイトを探るのが得意。2017年4月より現職。生活者のメディア生活の動向を研究する。

※掲載している情報/見解、研究員や執筆者の所属/経歴/肩書などは掲載当時のものです。