メディアは生活者と共創していく α世代のキーワードから読み解く未来のメディア像 @メ環研フォーラム2022冬

メタバースやAI、Web3.0など、新たなテクノロジーの登場によりメディア環境は大きく変化しています。メディアは見る・聞くだけのものではなく、体験して過ごす空間になっていくのではないか。そんなテーマで発表したのが、2022年夏に開催した「MORE MEDIA 2040~メディアは体験し、過ごす空間へ」です。

2022年冬のフォーラム「MORE MEDIA 2040 ~未来への3つのチャンス~」では、2040年に向けたメディア環境の変化をさらに掘り下げました。

第2部のテーマは「α世代のメディアリアリティ」。前半でメディア環境研究所上席研究員の野田から「α世代のメディア生活調査」の報告を行い、後半ではα世代のキーワードである「共創」の国内実践例としてテレビ東京の「テレ東ファン支局」の取り組みを紹介します。

ゲストは、テレビ東京総合マーケティング局総合マーケティング部副部長兼ファンコミュニティ事務局 事務局長の曺絹袖(ちょう・きょんす)さんです。

α世代のメディアリアリティ

「α世代」とは、2010年~2024年頃までに生まれる、Z世代の次の世代のことを指します。彼らの大きな特徴は、「スマホ、タブレットが既に世にある世界に全員が生まれている」ということ。そして、「小学校から必修科目としてプログラミングを学んでいる」ことです。まさに真のデジタルネイティブ世代だと言えます。

現在のα世代最年長は小学校6年生。彼らはちょうど2040年頃に社会進出し、社会の中核を担います。そこで、2040年の未来を考えていくために、メディア環境研究所では彼らのメディア生活を調査。見えてきた4つのキーワードを紹介します。

キーワード1:α世代は「真の」デジタルネイティブ


生まれた頃からスマホやタブレットなどが当たり前にあるα世代。日頃からテレビ、スマホ、ゲーム機、そしてタブレットという4種類のスクリーンを使いこなす姿が見えてきました。

注目したいのは、初めてスマホやタブレットに触れた年齢。Z世代もデジタルネイティブと言われますが、彼らが初めてスマホ・タブレットに触れたのは中高生。一方、α世代では幼児前期(1~3歳)が最多となりました。

インタビューを実施したある家庭では2歳から動画を視聴しているそう。何も教えていないのにYouTubeの使い方や暗証番号を覚え、自分で操作するように。α世代は文字を覚える前から、デバイスを直感的に使いこなしているそうです。

キーワード2:遊びながら直感で身につけるデジタルクリエイティビティ

続いて、α世代のスマホの使い方を調査してみました。ここで注目したのは「画像編集をする(3人に1人)」、「動画編集をする(4人に1人)」、そして「プログラミングをする(5人に1人)」の実施率です。上位に挙がった写真や動画の撮影、ゲームという行動を経て、自分で手を加えて「作ってみる」というデジタルクリエイティビティを育んでいる姿が見えたと言えるでしょう。

ここで実例を紹介します。神奈川県にお住まいのTさん(9歳)は、YouTuberのHIKAKINさんの動画に興味を持ち、3カ月前から映像編集を始めたそうです。

Tさんは動画の撮影・編集にスマホを利用。お母様によると、何も教えていないのに音声の後付けや効果音までつけていて大変驚いたそう。Tさんは映像編集の魅力を「家族が笑ってくれる」と話してくれました。

「インタビューでは、Tさんが作った動画も見せてもらいました。インタビューのために何日もかけて作ってくれたのかと思いきや、スマホを用いて撮影に5分、編集に10分で制作したそうです。教わらなくても、遊び感覚でちゃちゃっと作ってしまうことに驚きました」(野田)

インタビューでは、他のα世代も同様に「マークや文字を見れば、何の機能があるかわかる」「教わらなくても簡単にできる」と話していました。

キーワード3:メタバースネイティブ!? オンラインがもう一つの遊び場

続いて、オンラインとの付き合い方。オンラインゲームというと、「知らない人と繋がってしまう」という点を心配している保護者も多いのではないでしょうか。まずα世代のオンラインゲーム実施率からみていきます。オンラインゲームを小学校低学年の4割がプレイしています。さらに高学年になると半数近くに及びます。まさにメタバースネイティブです。

実際のプレイスタイルを見せてもらったところ、ゲームをしながら、別のデバイスでZoomを開き、友人とおしゃべりをしていることがわかりました。ゲーム内で一緒にプレイするだけでなく、音声を同期することでリアル感を補足しているのです。

なおインタビューしたα世代の多くは、宿題などの平日やるべきことが終わった夜8時ごろ、友達とメタバース空間に集合する約束をしているとのことでした。

オンラインゲームをしているα世代のうち、友達とゲームの中に集合して遊ぶという人は低学年、高学年いずれも6割以上。ZoomやDiscord、LINE通話などを使って、友達とオンラインでおしゃべりしながらオンラインゲームをやっている人も過半数でした。

オンラインゲームをしない人を含めたα世代全体で見たとしても、3割がこのようにメタバース空間で友達と集合していることになります。α世代にとって、オンラインゲームは、みんなと遊ぶ第二の公園にまでなっているのです。

α世代がオンラインゲームに感じている魅力を尋ねてみました。調査結果からは、α世代はゲームに対し、ゲームそのものよりも、コミュニケーションツールとして魅力を強く感じていることがわかります。

一方で、保護者はこの状況をどう感じているのでしょうか?

インタビューを実施したところ、「以前はゲームに反対でした。けれど、コロナ禍で友達と遊べなくなるなか、仲のいい友達とゲームをしながら世間話もしている。だから、やることをやって時間も守るのであればゲームもいいのかな、と思うようになりました」など、友達との貴重なコミュニケーションの時間としての価値を感じるようになったという意見が出ていました。

キーワード4:双方向が当たり前 ゲームは遊ぶだけでなく、作りたい

次に、α世代とZ世代のオンラインゲームユーザーのゲーム制作欲求を聞いてみたところ、特にα世代では7割近くがゲームを作ってみたいと考えていることがわかりました。

そのうち、実際に制作したことがあるのが4割。小学校のプログラミングの授業で制作したという人もおり、非常に制作欲求の高い世代だと言えます。

小学校でも学ぶビジュアル言語Scratch(スクラッチ)でゲームを制作歴がある京都府にお住まいのDさん(11歳)にきっかけと魅力を聞いてみました。

「ゲームが好きなので作ってみたいと思いました。ゲームを作るにはプログラミングが必要と知って、インターネットで『プログラミング 簡単 方法』と検索したのがきっかけです。作ると達成感があって、みんなに面白いと言ってもらえると嬉しいです」(Dさん)

「周りが喜ぶのが嬉しい」というのは、先ほど紹介した映像編集にチャレンジしているTさんの話にも共通しています。

α世代は自分の達成感だけでなく、周りに面白いと思ってもらえることに大きな喜びを感じています。

野田上席研究員は「α世代はとZ世代では、デジタルメディアにおける原体験に差があるのではないでしょうか」と指摘します。

Z世代は思春期である中高生のときにスマホユーザーになり、SNSに触れ、個性を磨き、表現することに長けた世代。一方、α世代はSNSより先にオンラインゲームやプログラミングでみんなと共創することの喜びを体験している世代です。

この世代の原体験の違いがこれからどのようになっていくのでしょうか。引き続きウォッチしていきます。

未来は生活者とメディアが共創関係に

与えられたもので遊ぶよりも、作りたい。そんなα世代が中心となる未来で、生活者は企業のつくったものを一方的に見る、聞く、消費するという関係だけでは満足できないのではないでしょうか。

未来の生活者が観客(Audience)から共創者(Co-Creator)へ変化したとき、メディアはどのような関係作りをしていけばいいのでしょう。海外ではすでにいくつかのブランドでメーカーと消費者という関係から、ファンと共にブランドを創造していくという取り組みが行われています。

日本国内の事例として、ファンを次々に巻き込み、様々な共創でつながりを作りだしている、テレビ東京の曺絹袖さんに、「テレ東ファン支局」という取り組みについて伺います。

野田絵美(以下、野田):曺さんが担当している「テレ東ファン支局」とはどんな活動ですか?

曺絹袖(以下、曺):2019年末に立ち上がった「テレビ東京としてファンを育んでいく」というプロジェクトです。2021年10月にオンラインコミュニティとしてスタートしました。ファンの方にテレビ東京の一員になってほしいという想いを込めて、「ファン支局」という名前をつけました。

曺:サイト内では、ファンに喜ばれる情報を一元化して発信しています。コミュニケーションの場としてスタッフやアナウンサーによる連載も。ファンのコメントには本人が返信しますし、番組スタッフへの質問企画、ファン同士でコミュニケーションできる参加型コミュニティもあります。

野田:一般的に番組単位のコミュニティはありますが、テレビ局全体でコミュニティを作るのは珍しいですね。どのような経緯で誕生したのでしょうか?

曺:背景にあったのは、テレビを取り巻く環境の変化です。調査の中で、「テレビ東京の視聴者は、特定の番組ではなく、テレビ東京が好きという理由で見ているという人が多い」とがわかりました。そこで、ファンを大事にして、視聴を継続していただくことが重要だと考えたのです。

コミュニティの中ではファン同士で自由に交流できるので、そこでお互いに番組をオススメしあったり。少しずつ輪の広がりを感じています。

放送局の役割は、全ての視聴者に情報を届けることですが、「テレ東ファン支局」が対象としているのはテレ東のことを本当に好きな方々。そんなファンの方の熱量をさらに上げて、その方々を通じて、まだ見たことがない方にテレ東の番組に触れていただければいいなと思っています。

野田:ファンとの共創とは、どんな取り組みをしているのですか?

曺:弊社には「ナナナ」というキャラクターがいるのですが、2022年4月に「ご当地ナナナ」という47都道府県ごとのナナナが誕生しました。これはファン支局員から、アイデアを募集してできあがったキャラクターです。

また、ファン支局1周年記念のオンラインイベントには、立候補したファン支局員10名が企画、チラシ作成、当日の運営まで携わってくれました。何度もオンライン会議を重ねて企画や台本を練りましたね。当日は、ファン支局員から司会者にカンペを出してもらったり。

曺:そして、現在は番組グッズ開発会議を行っています。ファンが本当に欲しい番組グッズを一緒に作ろうという企画です。どの番組のどんなグッズを作るかを、投票やアンケート、イベントで決定し、2023年3月以降の販売を目指して動いているところです。

野田:ファンと共創関係を作る際に、難しかったことは何でしょうか?

曺:社内調整など、私達だけでやるのとは違った苦労がたくさんありましたね。しかし、ファンの皆さんに本当に喜んでもらえていることが感じられる試みになりました。

これまでテレビは、ファンに対して積極的にコミュニケーションしてきませんでした。しかし、今はファン支局という形で、ファンとコミュニケーションしながら一緒に何かを作り上げられる。この点が、喜んでもらっている大きな要素だと思っているので、ぜひ継続していきたいですね。

野田:テレビ局は番組作りのプロフェッショナルです。一般人であるファンとの共創を制作現場ではどう捉えているのでしょうか。

曺:確かに番組制作者は職人気質の方が多い傾向があります。だからこそ、そこに視聴者の方が入ることへの抵抗感はありましたね。

けれど、実際にファンとのやりとりを体験してもらうことで、「ファンを信じていいんだ」と社内にも理解者が少しずつ増えてきました。

ファン支局は社員全員の活動でもあります。制作現場だけではなく、経理や人事などバックオフィスの人も含め、番組の裏側や作り手の素顔を届ける連載「テレ東『中の人』ファイル」で自己紹介記事を書いてもらったり、ファンミーティングに参加してもらうなど、社内をどんどん巻き込んでいます。

野田:ファンを信じるってすごくいい言葉ですね。社員の方達も共創を体験することで、組織が変わっていくのですね。

曺:そうですね。実際にファンに会うと熱量の高さに圧倒されます。ファンミーティングに参加して、「テレ東で働いていてよかった」と思ったと話してくれた社員もいますし、一人ひとりの社員の体験を少しずつ重ねていくことで、会社全体として変わっていければいいなと思っています。

野田:未来では、α世代からよりアクティブなCo-Creatorが登場してくると予想されます。曺さんは今後の活動をどうしていきたいと思っていますか?

曺:α世代の子ども達にとって、デジタルもリアルも対等。デジタルの方が自由度は高いので、α世代が大きくなった時にはできることがすごく広がっていると思います。

テレビ東京は、2024年に開局60周年を迎えます。ぜひファンと一緒になって番組やコンテンツ作りたいです。

また現在行っている、放送や配信、グッズ、メタバースの運営でも、ファンが関与できるところを、どこまで提供できるかが鍵だと思っています。ファンにもっと関わっていただいて、もっと好きになっていただいて、視聴者に近いテレビ局でありたいと思っています。

まとめ

すでにリアルとバーチャルの境目を持たずに生きていると言われるα世代。彼らが中心となる未来では、メディアと生活者が一緒になって共創を生み出す体験づくりを行うことが当たり前になり、そこにビジネスチャンスが生まれていくのではないでしょうか。

この記事で紹介した資料含め、「MORE MEDIA 2040 ~未来への3つのチャンス~」で発表したスライドは下記ページからダウンロードできます。ぜひ、詳細なデータをご覧ください。

(編集協力=沢井メグ+鬼頭佳代/ノオト)

登壇者プロフィール

曺絹袖(ちょう・きょんす)
テレビ東京 総合マーケティング局 総合マーケティング部 副部長 兼 ファンコミュニティ事務局 事務局長
2000年テレビ東京入社。報道局での番組制作を経て、2018年にマーケティング部へ。番組のデータ分析やファンマーケティングを担当。2019年末に“視聴者に一番近いテレビ局”を目指し、“テレ東ファンプロジェクト”を立ち上げる。
野田上席研究員
野田 絵美
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員
2003年博報堂入社。マーケティングプラナーとして、食品やトイレタリー、自動車など消費財から耐久財まで幅広く、得意先企業のブランディング、商品開発、コミュニケーション戦略立案に携わる。生活密着やインタビューなど様々な調査を通じて、生活者の行動の裏にあるインサイトを探るのが得意。2017年4月より現職。生活者のメディア生活の動向を研究する。

※掲載している情報/見解、研究員や執筆者の所属/経歴/肩書などは掲載当時のものです。