2023年5月8日に新型コロナの感染症法上の位置付けが5類に移行し、私たちの暮らしやメディアとの付き合い方も、行動制限のあった時期から変化しています。

新型コロナの「5類感染症」への移行を見据えた3月に、メディア環境研究所ではコロナ禍がメディア意識・行動に与えた変化を探る調査を実施しました。今回は調査をもとに、メディア環境研究所の新美妙子上席研究員、薗田和斉研究員、平塚元明フェローの3名がそれぞれの視点で気になったポイントをディスカッション。アンケート調査の結果と生活者インタビューを読み解き、コロナ禍で変わったこと、変わらなかったことについて総括します。

1200名にコロナ禍でのメディア意識・行動の変化をアンケート

今回のアンケート調査対象は、東京都内在住の15〜69歳、男女1200名。全50項目の意識・行動に関して、「コロナ禍で強くなった」かどうか、また「今後も強くなっていく」かどうかなどを回答してもらいました。調査期間は、2023年3月9日~14日です。

「コロナ禍で強くなった」と答えた人の割合が最も大きかったのは「メディアで触れる情報について、その情報源が確かかどうかが気になる(33.4%)」という情報の確からしさへの意識。

続く「癒される・心地いいコンテンツに触れたい(32.8%)」「不安や悩みを解消してくれる情報・コンテンツに触れたい(31.5%)」といった心の安寧を得ようとする項目のほか、「新しいことを始めるキッカケになる情報・コンテンツに触れたい(25.7%)」といったポジティブな変化を志向する解答も上位に登り、メディアに対する意識や求める内容の変化が伺えます。  

メディアを横断して情報の信頼性を確かめる

続いて、調査への回答を年代によって4つの層に分け、それぞれ上位から10種を並べてみます。その中でも、新美上席研究員が注目したのは、情報の信頼性に関する回答項目です。

「メディアで触れる情報について、その情報源が確かかどうかが気になる」は全ての年代に含まれており、コロナ禍で明確に強くなった志向と言えるでしょう。さらに、触れるメディアの差による違いも浮かび上がってきました。

15〜19歳男女のT層では、「何の情報を信じてよいかわからない(33.1%)」が9位に入っています。「これは常日頃からSNSに触れ、多くの情報が入ってくるからこそ感じた変化と言えるでしょう。この世代にとって、情報の確からしさを意識したのは初めての体験だったのかもしれません」と新美研究員は考察します。

対照的に、20代以上の回答では「情報は自分で取捨選択したい」という項目がランクインしています。メディアからの情報を鵜呑みにしない人たちが、主体的な取捨選択を始めようとしている姿勢が感じられます。

生活者インタビューに答えた40代女性は「テレビで言っていることを信用していいのか、という気持ちが芽生えてきた。SNSにアップされる情報を見て、テレビの内容を真に受けない方がいいと思い始めている」という変化を語りました。

一方で、30代男性は「SNSでは過激なデマやセンセーショナルな情報が流れてくるので、取材の過程もしっかりと追い、情報を検証しているテレビ番組を見て、オールドメディアが輝いている感じがあった」と対照的な意見を持っていました。

両者へのインタビューからは、どんな情報源であっても鵜呑みにせず、距離をとって俯瞰するという変化が見て取れます。この構造は、マスメディアとネットメディアの単純な対比にはとどまらないものでしょう。

地域に根差したメディアの事例として、鳥取県西部のケーブルテレビ局「中海テレビ放送」の上田和泉さんにもお話を伺いました。中海テレビ放送では、地域の不安に情報で答えていくこと、正しい情報を素早く出して安心させることを意識した体制づくりや活動に取り組んでいました。

具体的には、県知事の生の声や議会の様子など、公的な情報源となるものを意識して取り上げて放送。また、2021年5月から2年間にわたって70本放映された「新型コロナ時代を生きる」というシリーズでは、飲食店や医療現場などさまざまな現場で働く方々を直接取材。いわれのない差別や中傷をなくすことにもつながっています。

また、放送だけにはとどまらず、地域課題を共有して解決まで導く取り組みも。取材を通じ、手話通訳のコミュニケーションに欠かせない、表情を見せる透明マスクの重要性を伝えたことで、県内組織での受注生産が始まったり、中海テレビ放送として市役所や学校に贈呈したりと、具体的な変化につながっています。「情報を届けるだけでなく、一緒に解決まで進めたのは初めての感覚だった」という若手記者もおり、情報の送り手側の記者にとって貴重な経験となったと上田さんは振り返ります。

ニュースを届けたことで、行動する人たちが現れたという事実は、送り手の自信にもつながっていきます。新美上席研究員は「メディア環境研究所でもこれからのメディアの役割は『情報源から行動源になる』と話していたのですが、まさにそれを体現した事例と言えるでしょう」と評しました。

メディア環境研究所が毎年実施している「メディア定点調査」でも、情報の信頼性に対する生活者の意識はどんどん高くなっています。確からしさを保証する要素としては、中海テレビ放送の例で言えば、県知事の生声や議会の様子といった「公からの発表」や、2年間にわたって取材を続けた「当事者の見解」が該当します。

今や、複数の情報源にあたって確かめることは当たり前。生活者は多様なメディアから必要な要素を組み合わせ、自分なりの情報の確からしさを意識するようになったと言えるでしょう。

メディアが“コト”化し、行動を促す

薗田研究員が着目したのは、自身と年代の近いT層、MF1層の上位に含まれた「新しいことを始めるキッカケになる情報・コンテンツに触れたい」「ひまつぶしになる情報・コンテンツに触れたい」という項目。コロナ禍で始めたことや、それらが今後も続いていくかという視点でデータを深掘りしていきます。

生活者インタビューでは「ひまつぶしになる情報・コンテンツに触れたい」という項目に関して、単に時間が余っているから見るものと、主体的に見るものとの充実感の差を感じるようになったという声がありました。

30代男性は、「コロナ禍で行動制限がある時期にスマホでダラダラと眺めていたコンテンツは、30分後には内容を忘れてしまうようなものが多く、充実感はほとんど感じられなかった」と振り返ります。コロナ禍が明けて時間の使い方も元に戻るいま、「見たいから見る」時間を重視したいと意識が変わってきているようです。

また、20代男性は新しい行動のきっかけとしてのメディアについて言及。行動制限があるなかでも、料理や音楽などを楽しんでいる人たちの様子をSNSで見たことによって、自分でも何かを始めてみたくなったそうです。

「自分の周りでも、SNSでの情報発信やHowTo動画が増えたと実感した」と語る薗田研究員。在宅時間の増加や環境の変化も相まって、こうした情報に触れて新しい行動を起こす人が増えたのではないか、と考察を深めます。

コロナ禍における「ひまだから見る」行為は、パッシブ(受動的)な情報接触の時間と言い換えられます。そのパッシブな情報接触の中で、料理やゲーム、家でのトレーニングなど、時間があればやってみたいと思っていた行動をたまたま目にしたことが、在宅時間の増加も相まって始めるきっかけになったようです。

また、Instagram Liveのようなタレント自身によるSNS発信が増えたことによって身近さを感じ、それが推し活に繋がったという声もありました。他にも、人との接触が減ったため、これまで抵抗のあったマッチングアプリを始めるなど、環境の変化をきっかけに新しい“コト”をスタートさせるポジティブな楽しみ方も見て取れます。

しかし、そうした新たに始めた“コト”への意識が「今後も強くなっていくと思う」か、という問いへの回答にはバラつきがありました。料理に挑戦して食事の満足度が高まった人は続けていきたいと答えた一方で、単にひまだからやっていたゲームや、成果があまり感じられなかった筋トレは止めてしまう人もいるなど、余る時間が減るなかでの取捨選択が起き始めています。

他方で、行動制限がなくなることで、より活発になる活動もあるようです。推し活を始めた人が生のライブに参加したり、ソロでのサウナやキャンプを始めた人が知り合いと一緒に楽しむようになったり。オンラインだけでは経験することのできない体験や、共通の趣味や興味を持つ仲間との繋がりが、コロナ禍を経て改めて求められているのかもしれません。

スターツ出版の滝瀬美穂さんによれば、お出かけや寄り道を提案する雑誌「オズマガジン」も、コロナ禍で“コト”を促す存在へ変化したそう。

たとえば、文章で丁寧に伝える今までのスタイルに加え、店員さんの笑顔の写真を大きく載せて「ここのお店に行ってみたい!」と思えるような、行動喚起につなげていく誌面づくりに着手。ただ書店で買ってもらえるのを待つだけでなく、取材した街に訪れた人の手に届けるために、美容院などの場所に雑誌を置いてもらうなどの施策も展開しています。

他にも、デパ地下のパン屋さんとのコラボなど、「オズマガジンというメディアを使って、どのように社会に切り込んでいくか」へと思考が変化したそうです。メディアの情報に触発されて行動に移してもらうという生活者の変化が、雑誌というメディアのあり方にも影響を及ぼしています。

「とりわけ若い層にとってのコロナ禍は、メディア接触を経た新たな“コト”へのチャレンジ期間だったと言える」と総括する薗田研究員。

コロナ禍が明けてからは、ひまつぶしに留まったものや成果が出なかったものは継続せず、便利さや満足感、人との繋がりを感じたものは継続していくといった差異もありました。人との繋がりによって喜びを増やしていくようなものであれば、新たなことにチャレンジしたいという意識は、今後も継続していくことが予想されます。

増えた時間はどこへ? ギア比の異なるタイパのあり方

平塚フェローがハイライトしたのは、「前向きな気持ちになれる情報・コンテンツに触れたい」というメンタルに関するものや、「ネットで不快な情報は見聞きしたくない」という、意図的にメディアの接触時間を減らすような項目。

コロナが5類に移行するなかで、再び使える時間が増えていくことの見方について検討していきます。

増えた時間についてのインタビューに応じた30代男性は、以前よりも早く帰宅するようになるなかで、単純にテレビやゲームをするよりも、違うことをした方が充足感を得られるだろうと答え、可能であれば大人数でのスポーツなども楽しみたいと答えました。

20代女性は友人からの勧めで太宰治の関連本を読み、その世界に入り込む感覚に満足したそうです。SNSから離れ、まとまった時間を使ったのが良い体験だったと振り返ります。

「メディアに触れない時間をつくりたい」「本をじっくり読みたい」という意識が強くなったという回答も一定数ありました。本も広義のメディアに含まれますが、映像や音声としてなだれ込んでくる情報の波を止め、何かに集中したり没頭したりする体験は、年齢を問わず求められているようです。

最近よく取り沙汰されるタイパ(タイムパフォーマンス)は、限られた時間でたくさんの情報をチェックしたいという欲求が現れたもので、倍速視聴のような効率追求型の情報摂取がイメージされます。

しかし、「逆にゆっくり時間をかけ、深く没頭して充足感を得ることも、ギア比を変えたタイパのあり方と言えるかもしれない」と平塚フェローは考察します。

薗田研究員も「いわゆるタイパが意識されるのは、情報を摂取するシーン。体験の摂取においてはむしろ、自分の内側まで向き合うための没頭を優先して、他の情報とは切り離したいと感じるのではないか」と、タイパの対象となる体験やその深さの違いについて言及しました。

映像や文書などメディアのデジタル化が進んだことで、スナック感覚で瞬間的に人を惹きつけるコンテンツだけでなく、時間や場所を横断しながら長尺のコンテンツにも触れられるようになりました。

情報を効率よく抑えていくのはAIが得意とするところですが、人間が大事にするべきなのは、深く没頭して心が満たされる、マインドフルネスのような時間の使い方なのかもしれません。

(編集協力=淺野義弘+鬼頭佳代/ノオト)

登壇者プロフィール

新美上席研究員
新美 妙子
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員
1989年博報堂入社。メディアプラナー、メディアマーケターとしてメディアの価値研究、新聞広告効果測定の業界標準プラットフォーム構築などに従事。2013年4月より現職。メディア定点調査や各種定性調査など生活者のメディア行動を研究している。
薗田 和斉
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 研究員
2017年博報堂DYメディアパートナーズ入社。入社初年度に博報堂DYアウトドアへ出向し、ODM領域でのオーディエンスデータ取得手法の検討、アドテクノロジーを活用したデジタルODMやプランニングシステムの開発などのDX推進業務に従事。2020年10月よりメディアプランナーとして、様々な業界の統合メディアプランニング業務を行う。
平塚 元明
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 フェロー
1989年博報堂入社。マーケティング局を経て、ネット×広告の実験部署「博報堂電脳体」に参画。2003年より、フリーのマーケティングプラナーとして活動中。株式会社博報堂プラニングハウスフェロー。著書『ポスト3.11のマーケティング』(共著・朝日新聞出版刊・2011)、連載『マーケターのためのブックガイド マーケボン』(読売新聞ADレポートOJO・2009~2017)など。

※掲載している情報/見解、研究員や執筆者の所属/経歴/肩書などは掲載当時のものです。