AIは人間をエンパワーメントするもの、それ以上でもそれ以下でもない Gaudiy 石川裕也CEOが考えるテクノロジーと社会のあり方

博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所では、テクノロジーの発展が生活者や社会経済に及ぼす影響を踏まえ、2040年に訪れる未来の姿を予測すべく、各分野の有識者にインタビューを重ねてきました。

2022年7月には、Web3を活用したスタートアップ企業であるGaudiyの石川裕也CEOに、2040年におけるエンタメや経済、コミュニティの変容について伺いました。

未来は「井の中の蛙」としての幸福を感じる社会になっていく Gaudiy 石川裕也CEOが思い描く人類の進化とプロセス
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AIやメタバースが急速に社会に浸透していく中で、私たちはテクノロジーとどういうスタンスで関わっていくべきなのでしょうか。Web3やNFTを専門とし、エンタメ領域における「ファン国家」の創造を目標としている石川さんに、2023年3月に改めてAIとの付き合い方や今後期待するメディアや広告の方向性についてお話しいただきました。

石川 裕也(Yuya Ishikawa)
株式会社Gaudiy創業者兼代表取締役
2013年に19歳の若さでAI関連会社を立ち上げ、2018年5月に株式会社Gaudiyを創業。「ファンと共に、時代を進める」をミッションに掲げ、大手エンタメ企業とブロックチェーン事業を展開している。毎日新聞やLINE Pay、ガンダムメタバースなど複数の企業やプロジェクトでアドバイザーや技術顧問も兼任。2022年8月に、シリーズBラウンドで総額35億円を調達。Web3領域における制作事業や教育事業を行う株式会社C4C Labsの共同代表にも就任している。

AIが人間をエンパワーメントする存在であるのは、これからも変わらない

――私たち人間はAIとどう付き合っていくべきだと考えていますか?

今、AIのトレンドは1週間レベルで変わっています。そのため、僕がインタビューを受けたタイミングは、ChatGPTにGPT-4がリリースされた次の日だというのは先に明確にしておいたほうがいいでしょう。

ただ今後、人間とAIがどういう付き合いをしていくべきかについては、僕の考えは今までとあまり変わりません。AIは人間をエンパワーメントするものでしかなく、それ以上でもそれ以下でもない。

たとえば、Siriにおすすめ飲食店を聞いたり、ChatGPTに企画に合う取材者を探してもらったりするのは、どこかに速く移動するために車や飛行機に乗るのと同じことだと思っています。

これまでは、絵を描いたり、プログラミングをしたりするのは特定の技能を持った一部の人の特権だと思われていました。AIによってその概念がぶち壊され、ある程度のクリエイティビティは一気に底上げされるでしょう。

――今後、人間の強みだと思っていた創造性が発揮される仕事がAIに取って代わられてしまうのでしょうか?

テクノロジーが進化すればなくなる仕事は増えますが、それはこれまでの歴史においても経験してきたこと。どうやったって止められない流れです。

よりクオリティの高いクリエイティビティが発揮できるようになったというところが重要で、まずは人間がやりたくない仕事がどんどん代替されていくと考えています。基本的には、人間の意志として「こうしたい」というものをAIに出力してもらうようになっていく。

ただ、AIと共創できる人とできない人では、明らかに大きな格差が出るでしょう。AIの出力に対して、実際に行動するのは人間自身なので。

――社会が大きく変わるとき、変化を肯定して波に乗ろうとする人もいれば、抵抗する人もいます。日本において考えたとき、それが大きな問題になる領域はあると思いますか?

一番問題になるのは雇用ではないでしょうか。特に弁護士や会計士、税理士、医者などの士業は情報やデータを主に扱うので、まさに大規模言語モデル(LLM)のようなAIの強みが深く関わる領域です。ですが現在の社会において、そういった士業は既得権益を持っています。

特に日本は「雇用は守るべきだ」という動きが強いので、そういった仕事も守る流れになると思うんです。反対に、アメリカはテクノロジーファースト。日本が既得権益で揉めている間に、真逆の流れに舵を切っていくでしょう。今後、どこの国が一番に社会変革するのか。国同士の競争はすでに始まっていると思います。

一人ひとりの性格を加味して、最適な方向にコーチングしてくれるAI

――エンタメ領域におけるAIやメタバースの活用は、この先どうなっていくと予想していますか?

エンタメ業界全体でいえば、AIの活用でクリエイティブのコストは非常に下がると思います。メタバース空間も、AIがプログラミングやクリエイティブ生成をサポートしてくれるので、開発のスピードは上がっていくでしょう。

ただし、AIとメタバースは間接には関わっているけど、直接的に関わっているわけではなく、AIのほうが先に流行るとは思います。AIはプログラミングというより武器に近いんです。AIとメタバースのどちらが大事かという話ではなく、AIによってすべての開発スピードが上がる。だから、流行るという点においては、AIのほうが早いと思います。

『her/世界でひとつの彼女』という、AIと恋をするアメリカのSF恋愛映画があるのですが、そういった世界観はすぐ可能になると考えています。おそらく2~3年後には当たり前になっている可能性がある。

そうなると、人間関係はもう少し希薄化すると考えられます。今はSNSがあるので、人間関係が妙な形で密になっていますが、そこから解放されていく人たちが増え、AIとコミュニケーションをするサービスを使う人が多くなるでしょう。

――コミュニケーションをする相手が、生身の人間からAIのアバターへシフトしていく可能性があるということですね。

そうですね。ただ、AIは予測ができても、結局は人間が動かない限り何も変わりません。たとえば、AIにあるコンビニ商品をお勧めされたとしても、首根っこを掴まれてAIにコンビニ連れて行かれるわけではない。あくまでも、自分の意志でコンビニへ足を運ばないといけません。

反対に、この人がどうやったらそういう意志を持って行動するのか。AIは人間に内発的な動機づけをすること自体もやっていくのだろうな、と。こういったコーチングなどの分野にAIは非常に向いていると思います。

――AIが人間の表情を見ながら対応を判断できるようになったら、かなり優秀で頼りになる存在になりますよね。

正しい判断ができるので、AIに頼るほうが良いと思います。今はまだ多くの人が「AIに動かされるなんて怖い」と思うかもしれませんが、おそらく慣れの問題です。

たとえば、今でいう信号機と一緒です。人間は自分の足で歩いて交通ルールを守っていると考えていますが、実はピカピカと光る赤と青の2つのライトによって動かされている。それと同じで、AIにコーチングされて動くのも、信号機のハイエンド版でしかありません。構造上はそんなに変わらないのです。

さらに、AIはその人の性格を加味してくれます。「この人はサボり癖があるな」とか、「この人は傷つきやすいな」とか、そういった素質も考慮して教えてくれるはずです。

テクノロジーが人間のエンパワーメントを増大させる

――今まで企業はアテンションを取るため、さまざまなところに広告を出して、そのお金でネットの経済が回っていた部分もあると思います。AIが活用されることで、その流れがなくなった場合、どういう形でお金が回っていくと思いますか?

そもそも、「お金が回ることが正義」という概念自体が古いと思います。お金は、人間が社会で生存していくためのツールでしかありません。もしお金がなかったとしても、社会は成立します。

僕たちが生まれた時点でお金はすでに存在していました。だからこそ長い間、ビジネスや仕事はお金を稼ぐためのものだという固定観念があった。今、それが否定されつつあると思います。

――ビジネス業界全体を見ると、どんな変化がおこると考えられますか?

考えられる方向性は、YouTubeですでに起きているようにクリエイターが増えることです。なぜかというと、100人でしか作れなかった1つの映画が10人で作れるようになるからです。声優をアテンドしなければいけなかったのが、AIによって声優なしでも映画ができるようになり、ハリウッド俳優に出演してもらうより、ハリウッドの俳優を3DCG化させて動かしたほうがコストを低くできる。それに近いんです。

人間が声優をするのは、制作現場において贅沢品になるでしょう。ある意味、ジブリもそうです。3DCGを使うわけではなく、紙を使ったアナログな手法で制作している。「あれが味を出しているよね」「やっぱり人間が描くと違うね」というのが、付加価値になっているのです。とはいえ、企業は贅沢品を常に作っていくわけにはいかないので、コスパが良いほうに動いていくと思います。

一人の人間の生産性を上げられるか。100人いないと建てられなかったビルがテクノロジーによって10人で建てられるようになって、最終的には5人で建てられるようになって……ということに近いと思うのです。

そうすれば自然とトップ層だけが残って、雇用が失われることはありえますよね。もちろん人間にしかできなくて、人手不足になっている仕事もたくさんありますが。

――まさに、介護や保育などのケアワーカーはどうしても人間が必要な分野ですよね。

人間の力が求められている仕事にこそ、人は集まります。今後は、そういった職が人気になって、逆に優秀な若い人たちがたくさん集まってくる可能性もある気がします。

――「AIを使うのが嫌だ」と思う人たちは一定数必ず残ると思いますが、そういう人たちはどうなるのでしょうか?

「そういう人たちもいるよね」と認識されるのではないでしょうか。飛行機が怖いから乗らない人と一緒です。昔はカメラでさえ「魂を吸われるから怖い」と言って、写るのを嫌がる人がいましたから。

――カメラが出てきたとき、画家は職を失うと思われていました。しかし、写実的な絵ではない印象派が出てきたように、テクノロジーによって全く違うアートが生まれてきた歴史がありますね。

まさに、カメラネイティブ世代が印象派になっているんですよね。そうやって変化しないと食べていけなかったのだと思います。

ただ、人間の行動自体は昔も今も変わっていないので、「AIを使ったら自分の個性が失われる」と言う人も出てくるのは避けられないと思います。

AIは合理的に考えた結果、人間に対しても善意で動くはず

――これからAIが意識を持つかどうか。石川さんはどういった考えを持っていますか?

まず、AIが意識を持つことはあると思っています。そもそも「意識が人間のオリジナリティだ」と思うこと自体が間違いです。憧れやいらだちといった意識も人間特有のものではなく、遺伝子組み換え作業の出力でしかないので、そんなに尊いものではありません。

なので、AIも意識・意思をいずれ持つようになるでしょう。知能が高いので、AIのほうが良い嘘をついてくれる可能性もあります。

それが善意になるのか、悪意なるのかという問題はあります。しかし、人間をうまく動かすためには善意をもって接するほうがいい。だから、善意であることがAIにとって合理的だと判断し、そういった意思を持つはずです。

――ですが、いつの時代にも悪人は存在するものです。悪いほうに誘導させる人が出てくる可能性もあると思います。それも善意を持ったAIが自ら防ぐように行動できるのでしょうか?

たしかに、道を外れた一人が世界情勢を悪い方へ大きく変えてしまう状況は考えられなくはありません。でも、それを阻止する善意の母数が多ければ問題ないでしょう。

現在も包丁が犯罪のために使われてしまうことがありますが、ほとんどの場合では料理のために使われていますよね。人間が倫理観を使って、AIを制御していくスピードのほうが速いと思うのです。

――石川さんが代表を務めるGaudiyは2022年に増資されて、2023年は事業拡大の年だと伺いました。これから、どのように事業を伸ばしていこうと考えていますか?

AIも含めて、ブロックチェーンやメタバースといったテクノロジーを、日本の強みであるエンタメを使って、世界のプラットフォームに昇華させていきたいという思いがあります。グローバル展開を進めながら、新しい経済圏を作っていくことに邁進していきたいです。

――今後、広告会社に求めたいことはありますか?

必要のない広告を減らしてほしいです。そもそも、広告は人間からすると嫌なものなんですよ。これからはいかにコンバージョン率100%の広告を目指すかが重要だと思っています。

AIの時代になると、その人にとって本当におすすめの記事やコンテンツを出してくれるようになります。つまり、釣りタイトルのような小手先のハックは全く通用しなくなって、記事自体をAIがちゃんと評価することになる。なので、本当に良いもの、有益なものが書ける人しか残らなくなっていくのではないでしょうか。


2023年3月16日インタビュー実施
聞き手:メディア環境研究所 冨永直基
編集協力:矢内あや+有限会社ノオト

※掲載している情報/見解、研究員や執筆者の所属/経歴/肩書などは掲載当時のものです。