定点調査コラム~「メディア行動のTPO」~新美上席研究員

メディア行動は、TPOに合わせない!?

時と場所、場合に合わせて取るべき行動を選ぶTPO。メディア行動にもTPOがあるとするならば、急速にメディア行動の自由度が高まり、TPOに合わせなくてもよい時代になってきていると言えるだろう。生活者の意識を見てみよう。 「好きな情報やコンテンツは好きな時に見たい」は55.5%と、生活者の半数以上が自分の好きな時に見たいと答えている[図1]。「好きな情報やコンテンツはいろいろな場所で見たい」は29.0%[図2]。「好きな情報やコンテンツはいろいろな機器で見たい」は23.2%[図3]。

[図1] 好きな情報やコンテンツ(音楽、動画、写真、文章など)は好きな時に見たい
[図2] 好きな情報やコンテンツ(音楽、動画、写真、文章など)は、いろいろな場所で見たい
[図3] 好きな情報やコンテンツ(音楽、動画、写真、文章など)は、いろいろな機器で見たい

時・場所・場合(スマートフォンで見る場合、タブレット端末で見る場合など、機器を場合ととらえる)の中では、“時”欲求が強く出ている。これは、それぞれの欲求の度合いを横並びで比較するということではなく、デバイスの多様化によって好きな時に見たい欲求が叶えられ、さまざまな場所で見るようになったことから、このような結果に繋がっていると読み解くのが妥当であろう。生活者はメディアの予定に合わせるのではなく、自分の都合に合わせたメディア行動をとるようになってきているのである。

サブスクリプションサービスは20・30代が支持

「好きな時に見たい」というメディア行動の“時”欲求に応えるサービスの1つとして、サブスクリプションサービスがあげられる。利用状況を見てみよう。定額制動画配信サービスの利用は全体で15.3%。性年代別で見ると、男女共に20・30代が高く、男性は4人に1人程度、女性は5人に1人が利用している計算だ。 [図4]。定額制音楽配信サービスの利用は全体で12.8%、最も高いのが20代男性で、28.8%と約3割[図5]。こちらも20・30代男女が高くなっている。定額制電子雑誌サービスについても同様の傾向が見られる。全体で6.2%に対して、最も高い30代男性は11.8%とほぼ倍である[図6]。

[図4] 定額制動画配信サービス 利用・利用意向
[図5] 定額制音楽配信サービス 利用・利用意向
[図6] 定額制電子雑誌サービス 利用・利用意向

いずれのサブスクリプションサービスも経済的に自立している若い世代に支持されているようだ。ちなみに、動画サービスに関して「CMが入ってもいいから無料の方がいい」かどうかということを聞いているが、全体で56.4%と半数以上が無料を支持している[図7]。概ね若年層ほど高い傾向が見られる。

[図7] 動画サービスはCMが入ってもいいから無料のほうがいい

新たに生まれたメディア行動

近年、サブスクリプションサービスやテレビ・動画のデジタルサービスの登場により、新たなメディア行動が生まれている。「インターネットで動画を見るとき、関連動画を次から次へと見てしまうことがよくある」人は全体で46.2%[図8]。生活者の半数近く、10・20代では6,7割が、次々に見るという行動をとっているようだ。また、「ドラマなどシリーズものは1話ずつ見るよりも、まとめて見る方が好きだ」と答えた人は全体で31.0%[図9]。最も高い30代の男性では、半数がまとめてみるのが好きだと答えている。

[図8] インターネットで動画を見るとき、関連動画を次から次へと見てしまうことがよくある
[図9]ドラマなどシリーズものは1話ずつ見るよりも、まとめてみる方が好きだ

このように新たに生まれたメディア行動から、まとめて一気に見ることを「binge-watching(viewing)」と言うようになり、また、メディア環境研究所では、メディア・コンテンツを次々に見ることを「chain- viewing」と名づけた。「binge」には「極端に〇〇する」、「〇〇し過ぎ」といった意味があり、「binge -watching(viewing)」は「見過ぎ」、つまり一気見、まとめ見のことである。「chain」は「チェーンメール」と言うように、鎖が繋がっていくごとく次々見ていく様子を表現している。さて、次はどのようなメディア行動が生まれるのか、目が離せない。

新美 妙子
上席研究員
1989年博報堂入社。メディアプラナー、メディアマーケターとしてメディアの価値研究、新聞広告効果測定の業界標準プラットフォーム構築などに従事。2013年4月より現職。メディア定点調査や各種定性調査など生活者のメディア行動を研究している。「広告ビジネスに関わる人のメディアガイド2015」(宣伝会議) 編集長。

※掲載している情報/見解、研究員や執筆者の所属/経歴/肩書などは掲載当時のものです。