「スクリーン×コンテンツ」の掛け合わせがますます多様化 @メ環研プレミアムフォーラム2023夏
2023年7月4日、博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所によるフォーラム「膨張するメディアリアリティ」が開催されました。
レポート第4弾では、新美上席研究員より「メディア定点調査2023」と、新たに立ち上げた「スクリーン利用実態調査」という2つの調査結果から最新のメディア環境をお伝えします。
2023年もオンライン常態化は継続
「メディア定点調査」は、メディア環境研究所が2006年から実施している時系列分析が可能な定点観測調査です。メディア生活全般の現状・変化・兆しを、メディア接触時間やメディアイメージ、メディア意識・態度などの多種多様な観点からとらえています。
メディア総接触時間の推移は? 2023年は443.5分
メディア定点調査を開始した2006年から2023年の間で、変化の大きい年をピックアップしました。
2023年のメディア総接触時間は、443.5分でした。2020年頃にはメディア総接触時間の伸びは止まっていましたが、コロナ禍以降は再び大きく伸びました。
2023年のメディア総接触時間の構成比 デジタルメディアのシェアは57.7%に
2023年、携帯電話/スマートフォンのシェアは34.2%と、全体の3分の1を占めるまでになりました。パソコンやタブレットを含めたデジタルメディアのシェアは57.7%となっています。
2023年の性年代別のメディア総接触時間 男性20代が500分超え
左側が男性、右側が女性のメディア総接触時間です。最も接触時間が長いのは男性20代で、500分を超えています。年代別で変化の大きいメディアは携帯電話/スマートフォンで、10~20代の若年層では200分を超えています。
全体では「オンライン常態化」の傾向ですが、女性60代ではテレビが200分を超えているなど、年代差はあります。また、性別の差はパソコンで顕著に出ており、いずれの年代も女性より男性の接触時間の方が長いという結果になりました。
2023年の性年代別メディア総接触時間の構成比 20代・60代を比較
10~20代を見ると大半がデジタルとなっており、とくに女性は携帯電話/スマートフォンだけで過半数です。ほかに過半数を占めているメディアは、60代女性のテレビだけでした。では、60代がどのようにデジタルシフトしているのか、20代と比較してみましょう。
2023年は、20代のデジタルのシェアが75.6%に対して、60代は36.1%と大きな差があります。しかし、コロナ禍以降の2021年から、60代のデジタルも3分の1を占めており、メディア環境が大きく変わってきたといえます。
「テレビを見る時間」で思い浮かべるものは?
テレビのインターネット接続は、2022年に初めて過半数に達し、今年もさらに伸びています。また、動画をテレビのスクリーンで見られるストリーミングデバイスの所有率もコロナ禍で大きく伸び、2023年は3割を超えました。つまり「テレビスクリーンのネット化」が加速しています。
一方でハードディスクレコーダーの所有率は、2016年の81.4%から2023年は71.0%と10ポイント以上減少しており、「テレビのインターネット接続」との差が縮まりつつあります。
YouTubeに代表される動画共有・配信サイトは、2016年から高い水準で利用されており、2021年以降は約8割で推移しています。定額制動画配信サービスはコロナ禍前から伸びており、2023年は初めて過半数に達しました。他にもTVerは約4割、ABEMAも3割を超えており、配信サービスの利用が伸びています。
2006年と2023年のメディア環境を比較
これまでの調査から、パソコン、タブレット、スマホにテレビのスクリーンも加わり、コンテンツを見ることのできるスクリーンが増え、「コンテンツ×スクリーン」の掛け合わせがより一層増加してきている実情が見えてきました。
メディア定点調査を開始した2006年は、メディア総接触時間の大半をテレビやラジオ、新聞、雑誌といったマスメディアが占めていました。例えばテレビは、リアルタイムか録画のテレビ番組をテレビのスクリーンで見るのが当たり前でした。
2023年のメディア環境は、テレビ番組(見逃し視聴サービス)、有料・無料動画、ABEMAに代表されるインターネットテレビ、SNS上にアップされているテレビ番組、とコンテンツ視聴可能なメディア/サービスが大きく増加しています。そしてそれらのコンテンツは、テレビのスクリーンだけでなくパソコン、タブレット、スマホで見られています。
このようなスクリーンの使われ方の変化の詳細はメディア総接触時間からは見えてきません。たとえば、TVerをスマホで見る場合、それはテレビの時間に入るのでしょうか、それとも携帯電話/スマートフォンの時間に入るのでしょうか?
そこで2020年からは、新たな調査項目として、「『テレビを見る時間』と聞いて、あなたは何を思い浮かべますか?」という質問を追加。「テレビを見る時間のとらえ方の推移」を調べました。
「テレビを見る時間」のとらえ方の推移 見逃し・動画もテレビに
テレビ番組(リアルタイム、録画)を思い浮かべる率は依然として高いものの、録画は今年減少傾向にあり、ハードディスクレコーダー所有の減少と併せて考えると、興味深い結果となりました。一方、ここ数年で無料・有料動画が伸びてきました。2023年の大きな変化は、見逃し視聴サービスの増加です。これらの結果から、「テレビを見る時間」のとらえ方が多様化しているといえるでしょう。
20代・60代の「テレビを見る時間」のとらえ方 若年層ほど多様化
年代で比べてみると、多様化の状況が顕著に出てきます。左側が20代、右側が60代です。
60代に比べると、20代はリアルタイム視聴が少なく、見逃し視聴サービスや有料・無料動画が多くなっています。テレビを見る時間のとらえ方は、若年層でより多様化していることが分かりました。
スクリーンに触れていない時間は3時間25分
「大きく変わりつつあるメディア環境を、違う視点から見てみたい」という考えのもと、2023年は新たな調査に挑戦しました。それが、「スクリーン」という視点からメディア環境をとらえる「スクリーン利用実態調査」です。2023年4月、12〜74歳の男女を対象に調査しました。
はじめに、「スクリーンに触れていない時間は、1日あたりどれくらいですか?」という質問をしました。結果は、1日あたり/週平均で3時間25分。これは睡眠時間を除いて答えてもらっているので、起きているとき3時間25分以外はスクリーンに触れていることになります。
性別・年代別で見る「スクリーンに触れていない時間」
10代を除き、若年層ほどスクリーンに触れていない時間が短いとわかります。スクリーンに触れていない時間が最も長いのは女性の70代で、逆に最も短いのは男性の20代でした。両者の差は倍以上です。10代がやや長いのは、学校があり、保護者のもとで生活していることが影響していると思われます。
入浴のとき、スクリーンに触れていない人は7割以上ですが、逆にいうと約3割は「入浴中もスクリーンに触れている」ということになります。
家族や友人と食事をしているときにスクリーンに触れている人が6割弱、外出時は7割以上です。つまり、生活者は四六時中スクリーンに触れているのではないか、と推測できます。
スクリーンで「何を」「どのぐらいの時間」接触しているのか?
下の図にある円グラフは、各スクリーンの占める割合を表しています。
テレビスクリーンは、リアルタイムのテレビ番組視聴にかける時間が圧倒的に長く、続いて録画、有料動画がトップ3でした。プロジェクターは利用している人が少ないため、他と比べて接触時間は短くなっています。スクリーンごとの接触時間は、スマホとテレビがほぼ同じで240分弱、5つのスクリーンの合計は731.2分でした。
リアルタイムのテレビ番組を見るスクリーンも多接点に
「テレビ番組(リアルタイム)」をピックアップすると、スマホやパソコン、タブレットなどテレビスクリーン以外でも見られており、多接点になっています。「テレビを見る時間」が多様化していることが分かります。
SNSは、スマートフォンでの接触時間がもっとも長くなっています。また、ニュースサイト・アプリも同様にスマートフォンでの接触時間が長いという結果が出ました。テレビや動画だけでなく、ニュース、ラジオなどの音声、雑誌・コミックなど、すべて「スクリーン×コンテンツ」が多様化していることが見えてきました。
スクリーン総接触時間は合計12時間超
スクリーン接触時間を長い方から順に挙げると、テレビ番組(リアルタイム)が137.6分、無料動画が101.1分、動画以外のインターネットが99.1分でした。ゲームが1時間以上で、有料動画やSNS、テレビ番組(録画)と続きます。
スクリーン接触時間の合計は731.2分。重複は考慮していませんが、時間に直すと12時間11分です。前述のようにスクリーンに触れていない時間は3時間25分、総務省の社会生活基本調査によると日本人の平均的な睡眠時間は7時間54分です。3つを合計すると23時間30分、ほぼ1日になります。
私たちは起きているとき、様々な場所で様々な行動をしています。入浴や家事、食事中も含め、1日の約半分はスクリーンに触れ、コンテンツに触れているという、スクリーンとコンテンツ、時間、場所の掛け合わせが多様化したメディア環境にいるのです。
※本記事は、2023年8月1日開催のダイジェストウェビナーで発表した「スクリーン利用実態調査」の内容もあわせて紹介しています。
(編集協力=村中貴士+鬼頭佳代/ノオト)
<登壇者プロフィール>
※掲載している情報/見解、研究員や執筆者の所属/経歴/肩書などは掲載当時のものです。
メディア別で見ると、携帯電話/スマートフォンのモバイルが牽引するだけでなく、パソコンやタブレットが伸びており「オンライン常態化」が進んでいます。
携帯電話/スマートフォンの接触時間は、2022年に初めて首位になりました。今年、携帯電話/スマートフォンが伸び、2位であるテレビの接触時間が減少したことで、その差は開いています。