民放ローカル局の現在地と存在意義とは? TVerと共存していく道のりを考える @メ環研の部屋

テレビをとりまく環境は、TVerなどの見逃し配信の普及によってますます大きな変化の波にさらされています。なかでも、影響を受けていると言われているのがローカル局(地方テレビ局)です。ローカル局は、都市圏のテレビ局が制作した番組を地元住民にも見られるようにすることが大きな役割の一つでもあります。TVerを通して、好きな場所・好きなタイミングで全国の番組を見られるようになった今、ローカル局のメディアとしての存在意義とは何なのでしょうか?

今回のメ環研の部屋ではローカル局に焦点を当て、大きな変化の波の中で今後求められることを探っていきました。ゲストスピーカーはウェブメディア『ビジネス+IT』にて「ローカル局がTVerにない価値を作るための課題」「生き残り策」「再編と統廃合」をテーマにローカル局の現在地と本音を取材したライターの稲田豊史さん、そしてTVer取締役の須賀久彌さん。モデレーターはメディア環境研究所の森永真弓上席研究員です。

稲田豊史
ライター・編集者
1997年、映像配給会社ギャガ・コミュニケーションズ(現ギャガ)に入社。その後、キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経て2013年に独立。著書に『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』(光文社)、『ぼくたちの離婚』(角川新書)、『「こち亀」社会論 超一級の文化史料を読み解く』(イースト・プレス)、『ポテトチップスと日本人 人生に寄り添う国民食の誕生』(朝日新書)など。「現代ビジネス」「ビジネス+IT」「DVD&動画配信でーた」「クイック・ジャパン ウェブ」などで執筆。
須賀久彌
TVer取締役 事業戦略担当
1996年、株式会社電通入社。データ放送事業、放送局担当などを経て、2006年に株式会社TVerの前身となる株式会社プレゼントキャストに出向。2008年代表取締役社長に就任。TVerの立ち上げに携わる。2018年電通へ帰任後、2020年に再出向して現職。
森永上席研究員
森永真弓
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員
通信会社を経て博報堂に入社し現在に至る。コンテンツやコミュニケーションの名脇役としてのデジタル活用を構想構築する裏方請負人。テクノロジー、ネットヘビーユーザー、オタク文化研究などをテーマにしたメディア出演や執筆活動も行っている。自称「なけなしの精神力でコミュ障を打開する引きこもらない方のオタク」。WOMマーケティング協議会理事。著作に『欲望で捉えるデジタルマーケティング史』『グルメサイトで★★★(ホシ3つ)の店は、本当に美味しいのか(共著)』がある。

視聴態度が正反対。TVerとローカル局の相性は悪い?

森永上席研究員(以下、森永):稲田さんは、映画や漫画など、カルチャー系をテーマにした著作が多いというイメージがあります。なぜ、ローカル局、しかもコンテンツではなくビジネスを取材しようと思ったのですか?

稲田豊史のコンテンツビジネス疑問氷解(ビジネス+IT 会員限定記事):
地方局は「オワコン」か? “TVerにない価値”を作るための課題整理
ローカル局は「自分たちの魅力」をわかっていない? 超具体的な生き残り策とは
地方局の行末を決めるのは「この要素」、再編・統廃合が困難なワケ

稲田豊史さん(以下、稲田):以前に、TVerが好調な理由についての記事を2本書いたんですが、関係者取材の中で「地方の視聴者がキー局の番組をTVerで見るようになって、相対的にローカル局の番組が見られなくなるのではないか、広告が取れなくなっているんじゃないか」という話が出てきました。それで、「ローカル局の現状を掘ったら面白いのではないか?」という話になったのがきっかけです。

森永:実際にローカル局を取材し終わってどういう感想を持ちましたか?

稲田:僕は愛知県出身ですが、取材する前は、もしメジャーなキー局番組をTVerで全部見られるなら、ローカル局の番組を見る理由は「好きなタレントさんが出ている」以外に何があるのかと疑問に思っていたんです。ローカル局の存在意義ってなんだろう、と。 でも、実際に取材すると生き残り策のヒントが見えたり、TVerを敵視せず一緒にやっていきたいという意見もあったりして、単純化して考えすぎていた自分を恥じました(笑)。

森永:ある種対立構造として語られやすい立場であるTVerの須賀さんは、稲田さんの記事を読んでどう感じましたか?

須賀久彌さん(以下、須賀):すごくよく取材されていると思いました。総務省の会議でもある放送局の方が「オンデマンドであるTVerとローカル局のコンテンツの相性はよくない」と話していたんです。それは単に埋もれるかどうかではなく、「そもそもTVerとローカル局のコンテンツでは視聴態度が異なるのではないか」という指摘でした。

森永:メ環研でも、家にいる時はテレビがつけっぱなしで、受動的な視聴スタイルの場合には「キー局制作の人気番組が流れた後、地方局の情報番組が流れる」とそのまま見てもらえることがローカル局の強みの一つだよね、という話になります。一方で、「特定の見たい番組の時間だけテレビをつける」という能動的な「わざわざ視聴」となると厳しいという話が出ています。

須賀:TVerによって、ドラマのような「わざわざ視聴」のDXはだいぶ進んだと思います。ですが、TVerをなんとなく視聴したり、朝の情報番組のように習慣としてつけたりする人はあまりいない。その辺が全部できないと、そもそもテレビと同じ領域にたどりつけないと思っています。

TVerとローカル局の違いを生かした組み合わせ方とは?

森永:稲田さんは若い方のインタビューも多いと思いますが、若い世代の視聴態度は、インタビューをされていてどう捉えていますか?

稲田:やはり「わざわざ視聴」が非常に多いですね。流し見が多いニュースでさえ意識の高い学生は動画で全部狙って、それも倍速で見ています。その影響か、特に若者向けの新作邦画に関しては“電波ジャック”(ここでは、出資している映画の出演者が、情報番組やバラエティ番組などに番宣目的で1日じゅう出演すること)の宣伝効果が薄くなりました。

若者につけっぱなし視聴の習慣があった頃は、電波ジャックが初日の観客動員を積み上げる効果がもっと見られたんです。けれど、今は電波ジャックによって俳優の顔と名前がすり込まれるような状況は起きにくいんです。

森永:テレビ局の方からも、ドラマの宣伝は電波ジャックをした上で、その様子をSNSで報告という二段構えにしないと誘引が足りないという話が出ています。

稲田:TVer上でつけっぱなし的な状況を作って、その中にローカル局制作の番組を地域別に割り込ませることができるなら、ローカル局側のメリットが生まれるかもしれません。

須賀:最近、ローカル局の中で「FAST(Free Ad-Supported Streaming TV)」が話題になっています。オンラインストリーミングでありながら、コンテンツを編成してチャンネルっぽく流す形態のサービスです。 たとえば、ニュース番組はFASTのような形式にして、バラエティはTVerに10チャンネルほど並べておく。すると、ザッピングで面白い番組に気づいたり、間のニュースで生活情報をとれたりする。こういう話も次のユーザー体験として出てくると思いますね。

ローカル番組、若者に見てもらうには?

森永:事前に興味を持ち、あらかじめ見ると決めた番組を見るためだけに「わざわざ」アクセスする、若者にはそんな視聴スタイルが根付いています。テレビがつけっぱなしで、今たまたまやっている番組を何となく見る、という視聴スタイルを若者から聞けることは多くありません。また、稲田さんは『ビジネス+IT』の記事で、Z世代は失敗を嫌う傾向にあると指摘しました。若者の「わざわざ視聴」は「自分に直接関係があること」に対し、失敗の可能性を排除したいという心理から生まれた視聴スタイルだと言えそうです。

Z世代にローカル局発のコンテンツを「わざわざ」見にきてもらうにはどうすればいいのでしょうか?

稲田:あるワークショップでの意見が参考になります。「ECサイトでスマホケースを買おうとしても多すぎて選べない。なので、こちらの嗜好を汲んでサイト側で3つくらいに絞り込み、それ以外は表示されないようにしてほしい」というものでした。

これをローカル局の話に置き換えると、求められるのは地域の人がその生活空間で欲しい情報をちょうどよく厳選して流すこと。「隣町に面白いお店ができました」「通勤経路に東京で話題のショップがオープンした」といった超ローカル情報の集約ですね。ローカル局が「キー局がつくっているもののコピー」を作って勝負するのは、得策ではないと思います。

では、「ローカル局によい感じで編集された情報があること」を、どうやって知ってもらったらいいのでしょうか? ここで、須賀さんはローカル局の情報発信の場として名古屋の民放5局が運営し、さまざまな取り組みを行っている見逃し配信サービス「Locipo(ロキポ)」を例に挙げました。

須賀:Locipoにはロケマップという、「情報番組で紹介しているお店の映像に、メタデータを付けて、地図上にマッピングする機能」があります。既存の地図アプリやグルメサイトとの競合という課題はありますが、テレビで紹介された店を探せる、というのは一つの価値です。一方、同様のサービスを東京の局でやるのは意外と難しい。関東には一都六県があるので東京ばかりやるわけにはいきませんから。

出典:総務省デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会資料 2023年10月よりメ~テレ(名古屋テレビ放送)が加入し、現在、5局で運営している>

稲田:Locipo以外にも各地のローカル局では番組を別の形で情報を出すという試みが行われています。アプリで情報発信して、面白そうだったら番組を見にきてもらう。ポイントは、放送のPRを放送でやっても結局気づかれないので、放送以外のメディアで情報出しするということ。でも、こういった情報発信先として今のままのTVerは向かないんですよね。

出典:総務省デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会資料

ローカル局が抱える2大問題。そのときTVerは?

森永:別プラットフォームに情報を出すには、コストも人手も必要ですよね。番組の存在を知ってもらうためのPR活動にもコストと人手がかかります。そんなコスト面が解決できない、その結果取り組めない、だから番組が知られない……というループにはまっている部分がある気がします。

稲田:PRもそうですし、番組そのものを配信する際にもコストと人手がかかります。取材でも「局内にできる人がいない。かといって外注コストは捻出できない」という話を聞きました。実際、配信のための権利処理について、各局に担当者の人数のアンケートを採ると、本当に少ないかゼロです。

出典:総務省デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会資料

稲田:また財務状況では、広告収入の主力であるスポット出稿が減少しています。人もいない、お金もないとなると制作能力が限られてしまう。放送している番組のうち、自社制作比率が10%ほどしかない局も多いんです。

出典:総務省デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会資料
出典:総務省デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会資料

稲田:そうなると自社制作の情報番組を作るスキルはキープされるけれども、それ以外の番組を作る人員・ノウハウが蓄積されないという問題が出てきます。ローカル局の集客問題が「面白いものを作って、視聴者が来ればいい」では解決できない理由はここにあります。

森永:この問題にTVerはどうかかわっていくか、須賀さんはどう考えられていますか?

須賀:局が地域の人達が満足する番組作りに注力できるよう、TVerでは集客と仕組み作りを担う、みたいなことができれば良いと思っています。そのためにも、エリアのニーズはきちんと捉える必要があると思っています。

公共放送との棲み分けと統廃合問題を読む

地方はNHKさえあればいい?

稲田:僕の記事に「地方はNHKだけあればいい」という意見も寄せられました。でも、NHKは具体的な店名や商品名を出せないので、市民が求めている「この商品がお買い得」とか「このお店がおいしい」という情報発信ができません。こういう点から、地域の放送インフラを公共放送だけで担うのは無理があります。

森永:これは局同士の役割分担にもつながる話だと思います。テレビは災害情報を除けば、各局がまるまる同じネタを流すと「またテレビはみんな同じことやってる」などと批判されがちです。バリエーションが必要ですね。

稲田:同じ話題でも、各局なりの切り口で取り上げればいいと思います。各局が同じ話題を扱うということは、その話題がその地域にとって重要であるという証ですから。1箇所のシネコンで人気の映画が何スクリーンもやっているのと同じですよ。

ローカル局の統廃合と再編

稲田:今回、各地方局の方に投げた質問の中で、口々に「それ聞きますか……」と意味ありげにリアクションされたのが、地方局の統廃合問題です。議論にはなっていますよね。でも、たとえば経営難の局をなくして残った局が広域を任された場合、果たして広い範囲の情報を取りきれるのか、広域分の設備の負担をどうするのかなど課題は山積みです。

須賀:同規模で同じ課題を抱える局同士なら一緒に踏み出せるかもしれません。ただ、局の間での強弱がすごくはっきりしていたら、一方がもう一方に飲み込まれると感じてしまうかもしれない。すごく難しい問題だと思います。会社の統廃合などより、まず、インフラや報道拠点の共用など、協調領域を設定することから始まるのかも知れません。

森永:統廃合はローカル局の地域経済圏への影響力を考えても悩ましいですね。地方でのプロモーションを担当すると、東京で企画をしたものをスタッフとともに地方に送り込むよりも、地方局と組んで企画から行った方がうまくいくことが多いんです。人脈もあるし、交渉力もあるし、場所も知っているし、PR手段も持っている。明らかにその地域を人たちの気持ちを掴む力があるんです。そんな地域経済を担っているキーマンである地方局を統廃合で消してしまえば、地域全体に悪影響を及ぼすのではないかという不安もあります。

須賀:人口が多くなくて、複数の局が成り立つのが厳しいエリアであっても、そのエリアの人からすれば、チャンネル数を減らすとなるときっと大問題でしょう。統廃合といっても、チャンネルを減らす、という選択肢は無いのではないかと思います。また、地域の人とつながっていくためにどうするかを考えたら、やはり番組を作り続けるしかないと思います。

「TVer対ローカル局」、本当のところは?

森永:須賀さんはこの2年で全国70局を訪問して、お話されたと聞いていますが、地方局で「TVer 対 ローカル局」はどうとらえられていましたか?

須賀:2021年には、冗談も含めてでしょうが、「敵(キー局)の手下ですね」なんていう話もあったりする状況でした。当時は、TVerに配信をするローカル局はポツポツある程度でしたが、今は全国の70以上の局(東阪名をのぞく地上波局は117局なので、半数以上)がレギュラー番組を配信しています。その中で、多くの課題をお預かりしているので、それを解決していきたいというところです。

一見、TVerがテレビの視聴率を奪っているように見えますが、TVer以上に、テレビ番組との接触の頻度を下げているのは、定額制動画配信サービスなどの視聴時間やソーシャルメディアなどの可能性があります。テレビの使い勝手が悪いから、動画配信サービスへ流れてしまうのなら、テレビ自体を放送とTVerで進化させる必要がある。その方法の一つに、ローカル局とのコラボがあると考えています。

なぜローカル局にDXが必要なのか

稲田:僕からお二人に質問ですが、広告費の減少について、これはローカル局だけが落ちているのでしょうか? それともテレビ業界全体が落ちている中で、ローカル局のほうが辛いという状況なのですか?

須賀:後者ですね。顕著な例を挙げるとビジネスツールなどのBtoBの広告などでは、東京と大阪など大都市圏だけに出稿するケースも多く、キー局とローカル局で差が出てきているように思います。BtoCの広告でもその広告主の対象エリアの大都市圏だけに投下されることもあります。

稲田:つまり、「このエリアはうちのサービスの展開がほとんどないから、出稿はやめておこう」ということですか?

須賀:そうです。サービスをやっていれば広告を投下はすると思いますよ。あと、広告費は見ている人口に応じて決まるものなんです。県内人口によって、投下されるマーケティングコストが決まる部分は否定できないとおもいますし、先ほども話にありましたが、その県に何局あるのか、というのが大きいのもこの視点です。

森永:どうしても大都市から始めたいというスポンサーは出てきますよね。予算や手間の配分の問題です。そのため、広告予算がローカル局まで下りてくるのに時間がかかる場合もあります。

出典:総務省デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会資料
議論も終盤となったところで、ある地方局に勤める参加者からこのような意見が出ました。

ウェビナー参加者:ローカル局のDXで求められるのは、データで判断する文化だと思います。今、若者がテレビ放送を見ないと言われます。しかし、「確かに地上波では50代しか見ていないけれど、TVerでは10代もたくさん見ていた」という事例が出てきているんです。TVerのデータをどう地上波の方に活かしていくか、地上波の番組だけで完結しないループをどうつくるかを組み立てていく必要があると考えています。

須賀:これまでのテレビは、「きっと見てくれているだろう」と信じて放送し、終わった後に、どうもこの世代が多かった、少なかったと言っているだけとも言えます。しかし、例えば、TVerユーザである視聴者にはアプリのプッシュ通知やメールで、こちらから声をかけることもできます。確かにデータの活用には個人情報をどう扱うのかなど難しさもあります。しかし、長い目で見たとき、この視聴者とのテレビ番組のCRM(Customer Relationship Management / 顧客関係管理)への取り組み方は放送局1局1局、そして放送業界全体としても大きなテーマになるのではないでしょうか。

まとめ

TVerや定額制動画配信サービスの躍進で、誰もが全国の番組を好きなときに見られるようになったことで、ローカル局の存在意義が浮き彫りになったでのはないでしょうか。いかに地域の情報集約的な番組作りを展開し、それを周知できるかが生き残りの鍵なのかもしれません。TVerやアプリなど身近なサービスを味方につけた取り組みが期待されます。

(編集協力=沢井メグ+鬼頭佳代/ノオト)

※掲載している情報/見解、研究員や執筆者の所属/経歴/肩書などは掲載当時のものです。