これまではテレビ中継や現地観戦が中心だったスポーツ観戦。昨今では、SNSなどでハイライト動画を手軽に見られるようになったり、選手やチームがSNSを通じてファンと交流したりするなど、スポーツの楽しみ方が広がってきています。

そこで今回は、「動画配信サービスやSNSでの切り抜き文化など、スポーツの視聴方法が多様化している時代にスポーツを推している生活者の意識・行動を探る」ことを目的に、15~69歳までの男女2394人を対象に調査を実施。

浮かび上がってきたのは、10~20代の若者はスポーツ観戦においても推しへは時間もお金も惜しまない姿でした。彼ら彼女らの出現によりスポーツビジネスはどのように変化していくのでしょうか? 担当は、メディア環境研究所 林祐花研究員です。

10~20代の2人に1人が“スポーツ推し”

まず、スポーツ観戦をしている人の割合を見ていきます。全体では「よくする」「ある程度する」が50.4%であるのに対して、10~20代は57.3%と高く、若者ほどスポーツ観戦をしている傾向があります。

スポーツを観戦すると答えた人に「好きで推しているスポーツはありますか」と聞いたところ、76.6%の方が推しているスポーツがあると回答。全体で見ても、2人に1人が推しているスポーツがあるという予想以上に高い数値となりました。

年代別に見ていくと、15~19歳の男性は85.1%、20~29歳の男性は87.4%、20~29歳の女性は85.8%と突出。若年層ほど推しているスポーツが「ある」割合が高いことがわかりました。

野田上席研究員
野田上席研究員

今の10~20代はコロナ禍で部活動ができない時期を経験するなど、スポーツとの距離があると思っていたので、意外な結果になりました。大谷翔平選手や国際大会での日本人選手の活躍がこの数字を押し上げているのかもしれません。

10~20代はイベント&推し活として現地観戦を楽しむ

では、どのような観戦形式でスポーツを楽しんでいるのでしょうか。どの年代も「テレビでのリアルタイム観戦」が上位を占めました。

30~40代は「現地観戦」「スマホ・タブレット・PCでネット中継をリアルタイム観戦」「テレビでネット中継をリアルタイム観戦」とさまざまな観戦形式を駆使してスポーツを楽しんでいるようです。

さらに、上記の選択肢の中で「どの観戦形式が一番多いか」を深掘りしてみると、50~60代の7割以上が「テレビでのリアルタイム観戦」と答えた一方、10~20代は「現地観戦」の割合が他の年代に比べて高いことがわかりました。

10~20代に「現地観戦する理由」を聞いてみたところ、「友達や恋人と楽しめるから」「旅行が楽しいから」などイベントとして楽しむ項目と、「スタジアム限定グルメ・グッズを購入できるから」「選手と交流したいから」「仲間と会えるから」という推し活的に楽しむ側面が挙げられました。

林研究員
林研究員

10~20代は試合観戦を「手段」にして、旅行やグルメ、仲間とのコミュニケーションを楽しむ傾向が強いように感じました。

新規ファンはスポーツそのものよりも「選手」推し

続いて、推しているスポーツとその推し方を紐解いていきたいと思います。もっとも推しているスポーツは、野球が46.2%とダントツで多く、2位のサッカーの2倍以上という結果に。次いで、バレーボール、バスケットボールとテレビで話題になる球技が上位を占めました。

年代別に詳しく見ていくと、男性は野球に票が集まった一方、女性は「バレーボール」「バスケットボール」「ラグビー」「テニス」「フィギュアスケート」のスコアが全体よりも高い傾向に。

野田上席研究員
野田上席研究員

女性が推しているスポーツは、バレーボールの石川祐希選手、高橋藍選手など、まさに人気選手がいる競技ですね。

そのスポーツを推している期間については、10代の約4割が直近1年未満に推しはじめています。年齢的なものも考慮する必要はありますが、30~40代、50~60代となると、10年以上推しているという方が圧倒的に多くなりました。

注目したいのは、1年未満の人と10年以上推している人ではスポーツ観戦に求めるものが全く異なるという点です。

「スポーツを推し始めた理由」について聞いたところ、10年以上推している層が「スポーツそのもの」に魅力を感じているのに対して、1年未満層の多くが「選手のプレー、見た目、人柄に惹かれたから」と答える“選手推し”な結果になりました。

また、「家族・友人・同僚におすすめされたから」「ネット上でおすすめしている人がいたから」「流行っていたから」という周囲の意見がきっかけになっていることも興味深い点です。

1年未満層の“推し意識”を確認するため、

「A:スポーツに熱狂したいor B:スポーツを推すことを楽しみたい」

「A:選手よりも試合そのものが好きor B:試合そのものよりも選手が好き」

「A:選手が入れ替わってもそのチームを応援し続けるor B:選手が変わったら移籍先のチームを推す」

という3つの質問をしてみました。

すると、いずれの質問も1年未満層は10年以上層と比べBの割合が多い結果に。このことからも、1年未満層はスポーツを推すことを楽しみ、選手推しの傾向があって、選手の移籍にともなって推すチームが変わる傾向があることがわかりました。

野田上席研究員
野田上席研究員

最近のスポーツファンは、個々の「選手」の魅力がスポーツを観る強いきっかけになっているんですね。

林研究員
林研究員

選手ファーストの傾向は今回の結果にも表れていますね。

スポーツにはまったきっかけは「周辺情報の充実」と「観戦ハードルの低さ」

では、選手推しの傾向が強いスポーツファンはどのような行動をとっているのでしょうか。

まずは、そのスポーツを推しはじめるきっかけになった接点を聞いたところ、1年未満のファンは試合の中継だけではなく、「アニメ・ゲーム・漫画」や「SNS」などさまざまなメディアがきっかけになっていることがわかりました。

「推しているスポーツによりはまった魅力」として、21項目について「はい・いいえ」で回答してもらったところ、1年未満層と10年以上層との差が10ポイント以上あったものが13項目ありました。

1年未満層が多く挙げたのは、

「過去の試合の切り抜き動画があった」「試合前後のSNSが盛り上がっていた」といった“周辺情報の充実”

「観戦に行った時、試合前に応援の練習があり入りやすかった」「観戦料が安かった」という“観戦ハードルの低さ” でした。この結果は、新規ファンを獲得する上で大きなヒントになりそうです

野田上席研究員
野田上席研究員

最近、バスケにハマった方に話を聞いたら、『最初にチアの方が応援の仕方を教えてくれた。音楽に合わせて手拍子しているだけで仲間になれた気がして楽しかったのでまた観に行きたい』と話していて。エントリー層の気持ちをうまく汲み取っている印象がありますね。

さらに2024年夏のメディア環境研究所プレミアムフォーラムのテーマであった「平要快熱」にも言及。

野田上席研究員
野田上席研究員

試合体験が『熱』だとすると、『快』にあたる、選手のオフショットなどの少しずらした周辺情報が多くあることで、少しずつ『熱』に近づく後押しになる。エントリー層にとって、周辺情報は非常に重要ですね。

10~20代は“スポーツ推し活”にお金を惜しまない

1年未満層と10年以上層では“推し行動”にどんな違いがあるのかも分析しました。

30~40代、50~60代が観戦にまつわる行動が多いのに対し、10~20代は「SNSを見る」「グッズを買う」「同じスポーツを始めた」など観戦以外の行動も総じて高い傾向が見えてきました。

10~20代の推し活の傾向は金額に表れています。1カ月のスポーツ観戦にかける金額(中間値)は8,641円と多く、50~60代と比べると約6,000円の差がある結果になりました。

また、推し関連行動のひとつとして、周りの人に広める「布教活動(ファンを増やす活動)」をしている人が1年未満層で8割以上にのぼっているのも注目したいポイントです。

野田上席研究員
野田上席研究員

スポーツは「基本的にテレビで無料視聴できる存在」でした。しかし、今は比較対象が変化。スポーツ観戦にかかる費用を、アイドルなどの「推しへの投資でかける金額」と比較して見て、お金を使っている印象です。

「推すこと」でスポンサーへの意識も変化

次にスポーツを推すことによって生まれる影響を見ていきました。

約75%が「スポーツを推すことで良い変化があった」と答えています。特に1年未満層の7割弱が新たな交友関係が広がったと回答しています。

スポンサー企業に対する変化を聞いてみると、10~20代は「知らなかった企業を知ることができた」「好感度が上がった」といった認知・好感・信頼といった意識の変化が起こっていました。

さらに、「商品・サービスを買いたくなった」「その企業で働きたいと思うようになった」という行動変化まで影響を与えているという驚きの結果になりました。

野田上席研究員
野田上席研究員

推し行動として「選手・チームが契約している企業の商品・サービスを購入」も10~20代の48.1%が「はい」と答えていましたが、自分の推しを支えてくれる企業も含めて推していこうという心理が働いているのかもしれませんね。

林研究員
林研究員

「スポンサー企業で働きたいと思うようになった」という回答が2割弱もあったのには驚きました。「勧めたい」という人も23%もいて、若い人は推している選手やスポーツについてはそのスポンサー企業に至るまで意識しているようです。

新規ファン獲得・育成のための3つのポイント

これらの結果を踏まえて、新規ファン獲得・育成のために有効なポイントが見えてきました。それは、「観戦へのハードルの低さ」「あえてずらしたコンテンツの充実」「観戦へのイベント感の醸成」の3点です。

SNSなどで選手の魅力を発信して観戦のきっかけを作り、応援練習など初めての観戦でも入り込みやすい雰囲気を作る。さらにグルメ、グッズなどで試合だけでなくトータルな観戦体験をデザインし、試合後もSNSなどで周辺情報を発信してファンとの接点を作り続ける。

こうしたサイクルを回し続けることで、新規ファンを獲得、育成する可能性が高まるのではないでしょうか。

野田上席研究員
野田上席研究員

試合単体ではなく、温泉やおいしい食事などパッケージにすることで交通費の割安感が出てくる。若い人は、そういうパッケージをうまく作って楽しんでいますね。周辺イベントがあることで、友人の誘いやすさにもつながります。

森永上席研究員
森永上席研究員

今、スポーツビジネスに携わっている人の多くが10年以上応援している人の感覚の持ち主なのではないでしょうか。新たなファン層が増えてきている中で、どのような施策を打ち出していくか。考える必要がありそうですね。

スポーツ界では近年、ファンの高齢化が課題となっていました。しかし今回、メディア環境の変化にともなって、若年層を中心に新たな観戦体験を楽しむ層が増えてきていることが分かりました。

長く応援しているファンを大切にしながらも、この新たな新規層や若年層に“推し”続けてもらえる環境を作っていくことが、今後のスポーツビジネスの鍵になりそうです。

(編集協力=山田智子+鬼頭佳代/ノオト)

林研究員
林 祐花
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 研究員
2019年博報堂入社。ビジネスプラナーとして、主に官公庁や独立行政法人を中心とした広告制作業務・メディア業務を担当。 2022年よりメディアプラナーとして、家電・消費財・製薬・旅行・官公庁など幅広い業種のメディアプラニング業務に従事。2024年4月より現職。

※掲載している情報/見解、研究員や執筆者の所属/経歴/肩書などは掲載当時のものです。