わざわざ「リアルタイム」で見ることに価値が生まれる? スクリーン利用実態調査2024 @メ環研の部屋
メディア環境研究所では、スクリーンという視点でメディア環境を捉える調査「スクリーン利用実態調査」を2023年から行っています。生活者の各スクリーン(テレビ、パソコン、タブレット端末、スマートフォン)の接触時間やメディアに対する意識など、多様化する「スクリーン×コンテンツ」の実態を把握できる調査です。
今回はその調査を年代別に分析したデータを詳しく紹介します。生活者はどのスクリーンで何を、どのくらいの時間見ているのか? 年代や地域によって違いはあるのか? SNSとマスメディアの情報をどう捉えているのか? 生活者の意識および行動の変化を深堀りしていきます。担当は上席研究員の野田絵美です。
地域によって差はある? スクリーンの接触時間
スクリーン利用実態調査2024では、全国7地区、12~74歳の男女、8400人を対象にWeb調査を行いました。スクリーンは「テレビ」「パソコン」「タブレット端末」「スマートフォン」の4つで、それぞれどういうコンテンツをどのぐらい見ているのか調査しています。
プレミアムフォーラム2024夏のレポート記事でも紹介しましたが、各スクリーンの1日あたりの接触時間は総計で807.6分でした。スマホが最も長く274.3分、テレビが249.2分、パソコン194.7分、タブレット89.4分です。
さらに地域別でわけると、総計は800分前後でそれほど差はありません。テレビは250分前後です。割合で見ると、どの地域も3割ぐらいがテレビ画面となりました。
また、東京50km圏や関西地区は、他地域と比べてパソコンの時間が長くなっています。一方で、名古屋や九州、札幌、仙台、広島はスマホの時間が長くなる傾向にありました。
仕事をしながらYouTubeで音楽を流している人もいるので、その時間も含まれているかもしれませんね。
意外と若者層もテレビスクリーンの前にいる
テレビのコンテンツやサービスの利用時間を細かくみていきましょう。
最も長いのが、リアルタイムのテレビ番組で100.3分、次いで録画のテレビ番組が44.4分、有料動画(NetflixやAmazonプライムビデオなど)が23.4分でした。テレビ番組の合計は159.6分となっています。
「やはりリアルタイムのテレビ番組が一番長いんだな」と改めて確認できる一方で、「合計249.2分のうち、リアルタイムは100.3分しか見られていない」とも言えます。
グラフを割合にすると、リアルタイムのテレビ番組が40.2%、録画が17.8%、見逃しが6.0%で、テレビ番組計は64.0%です。テレビ番組以外に1割を超えているものはありませんでした。
テレビの利用時間を年代別にみると、面白い結果が出てきました。
10~30代のテレビスクリーン時間は約250分で、60代と同じくらいです。40~50代は逆で、テレビスクリーンから少し離れる傾向が出ています。意外と若者層もテレビスクリーンの前にいる、というのが面白いですね。
年代別でどのようなコンテンツを見ているのかもグラフにしてみました。
一番下の「テレビ番組(リアルタイム)」は、若い世代になるほど分数が下がり、10代は54.4分でした。逆に、若い世代になるほど増えてくるのが、TVerなどの見逃し配信です。また、30代以下で急激に増えるのが、ヨコ型無料動画と有料動画です。
今の30代以下は、学生時代からYouTubeなどのヨコ型無料動画を見ていた世代です。そのため、テレビスクリーンでもこのように長時間見ていることが分かります。
各サービスの利用シェアを年代別で見ると、50代以上は7割以上がテレビ番組(リアルタイム、録画、見逃し全体)です。また、30代以上は過半数がテレビ番組ですが、10~20代になると割合が50%以下となります。
スマホの利用時間1位は、40代以上がインターネット、30代以下はSNS
続いて、スマートフォンでのコンテンツ・サービスの利用時間を見ていきましょう。
上のグラフを見て分かる通り、細かく分散しています。その中で最も長かったのは、SNSの40.0分、次いでインターネット、ヨコ型の無料動画です。
スマホの年代別の利用時間はどうでしょうか。テレビに比べると、スマホはかなり年代差が出ています。10代の利用時間が520.0分で、70代の108.6分と比べると約5倍です。
年代別の内訳をみると、30代以下と40代以上で傾向が変わります。赤枠で囲った部分は利用時間が長いサービスで、40代以上はインターネットです。一方、30代以下はSNSでした。
10代はヨコ型の無料動画も83.2分と、SNSと同じくらいの利用時間になっているのもポイントです。
サービス利用時間をシェアでみると、トップは40代以上がインターネットに対して、10~30代はSNSになっています。
2位も興味深い結果でした。70代はニュースサイト・アプリで、情報を得るツールとしてスマホを利用しているようです。40~60代はSNS、30代はインターネット、10~20代はヨコ型の無料動画でした。
スマホ利用の中身を細かくみると、30代以下と40代以上の間で差が生じています。また意外なところでは、10代の「ラジオ・ポッドキャスト」が40.3分とやや長くなっているのも面白いなと思いました。
若年層ほど多種多様なコンテンツに触れているため、テレビ番組のシェアが下がる
スクリーンの要素を抜いて、コンテンツ・サービス別で利用時間を集計してみます。
一番長く見られているのはリアルタイムのテレビ番組で127.1分、次いでヨコ型無料動画が100.7分という結果でした。テレビ番組計が217.2分で、録画と見逃し配信はほぼ同じぐらいの時間です。
利用時間のシェアは、リアルタイムのテレビ番組がトップで15.7%、ヨコ型無料動画が12.5%、インターネットが12.2%です。テレビ番組計は26.9%で、スクリーン接触全体の約4分の1という結果になりました。
さらに、コンテンツ利用時間を年代別で詳しくみてみましょう。テレビ番組のリアルタイム、録画、見逃しを合計してみると、どの年代でも一番長く見られています。ついで、40代以上はリアルタイムのテレビ番組、30代以下はヨコ型の無料動画がよく見られていました。
ただ割合でみると、若年層ほどさまざまなコンテンツに触れているため、テレビ番組のシェアは少なくなります。
スクリーンやコンテンツを行き来している若年層をつかむためには、さまざまな場へ出向いていく必要がある、といえます。
10代にとっては、SNSもマスメディアも大事
スクリーンとメディアに関する意識についても調査しています。
「好きな情報やコンテンツは、そのときの気分や状況にあわせた速度や画面の大きさ、長さで見たい」という意識は、若年層ほど高くなっています。10代では6割以上が「形式も自在に見たい」と思っているようです。
10代は「自在な形で見られるのが当たり前で、見られないことがストレス」くらいになっているのかもしれません。
「好きなテレビ番組はできるだけリアルタイムで見たい」という項目では、40代が一番低い数字で、V字型のような傾向が出ました。「わざわざリアルタイムで」という意識が若年層を中心に生まれているようです。
上の世代に比べると見る番組数は減るけど、「これは見るぞ」と決めたものはリアルタイムで没入して見たい、ということでしょうか。
自由に見られる環境だからこそ、「わざわざリアルタイムにはせ参じる」という感覚ですよね。
マスメディアとSNSに対する意識も聞きました。「世の中のことを知る上で、テレビや新聞などマスメディアの情報は重要だ」は青、「SNSの情報は重要だ」がオレンジです。
「SNSの情報が重要だ」という意識は若年層ほど高く、年代が上がると「SNSはそれほど重要ではない」という結果です。一方で、「マスメディアの情報は重要だ」という意識は70代から20代に向けて減りますが、10代はやや上がります。
「世の中を知るためには、SNSもマスメディアも大事」という新たな世代が生まれているようです。
10代はメディアリテラシー教育も受けてきた世代なので、「情報の偏りには気をつけなきゃいけない」という意識があるのでしょう。SNSとのバランスを取る意味で、マスメディアの意義を認識し始めている気がします。
情報やコンテンツにお金をかける許容度をグラフにしました。「必要な情報やコンテンツにはお金を払っても構わない」が左側のピンク、「情報やコンテンツにはなるべくお金をかけたくない」が右側の青です。
年代が上がるほど情報やコンテンツにお金をかけたくない、逆に若い世代ほどお金を出すことを許容しているという結果になりました。
若い世代ほど「欲しい情報やコンテンツが得られるなら、ちゃんとお金をかけよう」という意識が強いようです。情報やコンテンツに対して使える時間が限られている、というのもあるかもしれません。
何となくボーっと見るのではなく、集中度も熱量も高い「リアルタイム」が生まれています。リアルタイムの価値がアップしているともいえますね。
ウェビナー参加者からは、「リアルタイムで視聴しないと、SNSの熱狂に参加できなくなってしまう」「SNSが盛り上がれば、それをテレビのワイドショーが拾ってさらに大きくなっていく。そんなイベント感がある」といった意見も挙がりました。
スマホで利用するコンテンツやサービスが分散化し、共通の「あれ見た?」という話題がなかなか見つけにくい状況が垣間見えます。その中で、リアルタイムで共通のコンテンツを見ることがコミュニケーションの場になる、というのはありますね。
デジタル化が進んだことで、「わざわざリアルタイム」という新たな現象が出てきている。とすると、そこの価値をちゃんと広めていくことが重要になりそうです。
かつてテレビ番組は、リアルタイムで見ることが当たり前でした。ところが、現在は録画や見逃し配信などもあり、時間を選んで自由に見ることが可能になってきています。
もちろん自由自在に見られることは便利ですが、そこを一旦見直して「わざわざリアルタイムで見るって、こんなに面白いんだよ」「SNSの盛り上がりに参加すると楽しい」などと伝えることで、新たなチャンスが生まれるかもしれません。
(編集協力=村中貴士+鬼頭佳代/ノオト)
※掲載している情報/見解、研究員や執筆者の所属/経歴/肩書などは掲載当時のものです。
仮説ですが、東京や大阪は在宅勤務の人が多く「仕事の合間や休憩時に、パソコンでYouTubeやコンテンツを見ているのではないか」と考えられます。