若者の「推しドラマ」はこう生まれる! 調査データで見るドラマとの出会いからファン化への過程「ドラマを巡るメディアジャーニー」前編

「実は若者ほどテレビコンテンツが好き」。この傾向は過去数年の調査で導き出されてはいますが、コネクテッドTVや見逃し配信サービスの普及により、テレビコンテンツの見方は多様化。好きな場所で、好きな時間に、好きなスクリーンで、好きなコンテンツを見るのが当たり前になった今、メディア側の情報の届け方にも変化が求められています。

今回のメディア環境研究所のウェビナーでは、「新・視聴者 解体新書 ドラマを巡るメディアジャーニー」と題し、特に若年層のドラマ視聴に着目して、これから求められる情報の届け方を探りました。

前編の記事では、2025年で4回目となる定点調査「テレビ番組視聴意識調査」 の結果をもとに、新番組の認知からファン化までの生活者の情報行動を分析します。モデレーターはメディア環境研究所 上席研究員 野田絵美です。

若年層ほどドラマが好き、スマホで、見逃し配信でと視聴方法が多様化

今回の「テレビ番組視聴意識調査」では、全国の15歳から69歳の男女2496名を対象にインターネット調査を行いました。

まず各世代に聞いた「テレビ番組の好意度」ですが、「とても好き」と答えた人の割合が最も多かったのが10~20代の28.3%。過去の調査から続いている「若者ほどテレビ番組がとても好き」という傾向は今回も変わりませんでした。

テレビ番組の視聴方法に変化はあったのでしょうか。最も多い見方が「リアルタイム」。過去3年と変わらず、71%前後と横ばいです。しかし、「録画」は減少。逆に年々増加し続けているのが「見逃し配信サービス」です。今回の調査では約4割の人が利用していました。

年代別に見ると、若い世代ほどリアルタイムと録画の割合が少なく、代わりに見逃し配信や有料もしくは無料動画配信サービスの割合が増えていました。さらに10~20代はSNSで見ると答えた人の割合が他の年代より高く、テレビ番組への接点が多様化しています。

続いて、「テレビ番組を視聴する機器」について。全体ではテレビスクリーンを挙げた人が約8割、続いてスマートフォン約3割と過去2回の調査と大きな変化はありません。

ここで注目したいのは、10~20代のスマホ利用です。約半数が「テレビ番組をスマートフォンで見る」と回答しています。「テレビ番組を最も見るスクリーン」としてもスマホを挙げる人が約3割いました。

誰かと視聴する「共視聴」が多いのはやはりテレビスクリーンですが、ここで野田上席研究員も「意外だ」と語るのが、スマホでも3人に1人が共視聴をしているという点です。

野田上席研究員
野田上席研究員

タテ型動画やショート動画だと1人視聴が多いのですが、テレビ番組となると「家族や友達とスマホで見てみる」というシーンが増えているようです。

続いて、テレビでの「ながら視聴・専念視聴」について。まず「ながら視聴」は、多かった順に「ニュース・報道」「バラエティ」「ワイドショー」。そして「専念視聴」は1位「ドラマ」、2位「アニメ」という結果になりました。

これを性別年代別で見てみると、男性10~20代を除く全ての年代で「ドラマ」が1位という結果に。ドラマは、集中して見たいコンテンツであると捉えられています。

さらに聞いてみたところ、10~20代は男女は他の年代よりテレビドラマへの関心度が高いことが判明しました。

「認知→継続→ファン化」3フェーズでたどるメディアジャーニー

ここからは「メディアジャーニー」と題し、視聴者と新しい番組がどう出会い、どのように継続的に触れられ、ファンとなっていくのかをドラマを例に探っていきます。

全体を通して重要な「テレビCM」「番宣番組」

ドラマへの接触の際に触れるメディアを「認知」「継続・維持」「ファン化」の3つのフェーズに分けたとき、すべての年代で「テレビCM」「番宣番組」が認知からファン化に至るまで重要な役割を果たしていました。

継続・維持のフェーズでは、「ネットニュース」と「TVer」が効果を発揮。ネットニュースはファン化にも貢献しています。 

認知メディアは、若者になればなるほど広がります。10~20代の認知メディアの1位はテレビCMですが、2位に全体ではファン化メディアだったSNSが挙がりました。また、TVerが認知と継続のフェーズで存在感を高めているのも若年層の特徴です。

野田上席研究員
野田上席研究員

特にTVerは若者にとっての番組表のような役目で認知のきっかけになると同時に、いつでも好きな時に見られるため継続視聴のハードルを下げてくれ、若年層のメディアジャーニーにおいて、大切な役割を果たしていました。

若年層で際立つショート動画での番組認知

続いて、若者が具体的にどのSNSを見てドラマを認知しているのか見てみると、定番の「Xのトレンド」、「番組公式」、「出演者」に加え、10代では41.2%の人がInstagramやTikTokで「たまたま流れてきたショート動画」でドラマを知ると答えています。

今の10代は普段からタイムラインを見ていることもあり、ショート動画での出会いが重要な接点になっていました。

「次も見てみよう」と思ってもらう継続のフェーズではどのようなSNSが見られているのでしょうか。ここでも全体のトップ3は、「Xのトレンド」、「番組公式」、「出演者」。

ここで20代に注目すると、トップ3の他に「友人・知人」「普段フォローの著名人やインフルエンサー」「たまたま流れてきたショート動画」「脚本家やスタッフなど制作者」もそれぞれ約3割の人が注目しています。

野田上席研究員
野田上席研究員

20代は多様な情報源に接触し、ドラマ視聴を継続しているようです。特にショート動画への接触は10代でも高く、若年層において存在感を発揮しています。

では、ファン化するときに接触しているSNSはなんでしょうか? 全体の上位の顔ぶれは認知、継続のフェーズと変わりありません。しかし、10代に注目すると「Xのトレンド」と答えた人は、20代や30~40代が7割を超えているのに対し、10代では48.4%にとどまっています。

反対に10代で他の世代より多いのはショート動画でした。ショート動画を細分化すると「たまたま流れてきたショート動画」だけでなく、「わざわざ検索したショート動画」も他の世代より多く見られています。

野田上席研究員
野田上席研究員

10代はショート動画を「今どんなのが上がってるんだろう、切り抜きはどうなっているんだろう?」とわざわざ検索しているようです。

後追い視聴で放送開始後にもチャンス

見逃し配信の普及により、「すでに数話放送されたテレビドラマを途中から気になって見始める」という行動が広がっています。今回の調査では、全体の約6割が後追い視聴を実施。10~20代に至っては7割超が後追い視聴をしています。

では、後追い視聴は何話ぐらいまでで行われているのでしょうか? 全年代で見ると、最も多かった回答は「3話まで」(37.7%)。10~20代では「4話まで」と答えた人が16.6%もいました。

一方、「1話まで」と答えた人は全体では5.5%に留まりました。別の言い方をすると「1話だけで、継続視聴を決めている」という人は5%ほどしかいないということです。

野田上席研究員
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若年層に「3話までならTVerにある」という情報が浸透している結果ではないでしょうか。かつて1話目だと言われていたドラマの勝負どころが、どんどん後ろ倒しになり、3~4話あたりになっていることも見えてきました。1話放送前の番宣だけではなく、2話、3話と実際に番組を見てくれる視聴者とともに盛り上げていく視点が重要です。

後追い視聴のきっかけについても聞いてみました。どの年代でも多かったのは、「たまたまテレビをつけて面白かった」「ダイジェストを見た」「次週予告が気になった」「1話完結で途中からも見やすかった」です。

一方、10~20代で特徴的に多かったのは、まずは「TVerなど見逃し配信でいつでも見れた」。他にも「TVerのお気に入り登録者数が多かった」、「定額制動画配信のランキングが上位だった」、「TVerのランキングが上位だった」、「TVerの再生回数が多かった」も多くの人が挙げています。

また、10~20代の後追い視聴のきっかけには、ショート動画も大きな役割を果たしているようです。64.6%の人が「切り抜き動画を見た」を挙げていました。

一方で、ショート動画には出し方の工夫が必要です。10~20代では「ショート動画で、ある程度見た気になって満足した」として、結局ドラマを視聴しなかった人が他の世代より多くいました。

野田上席研究員
野田上席研究員

「放送後に見える可視化された評判」が、若年層の心を揺さぶっています。また、ショート動画も重要ですが、満足させすぎてしまうと、逆に離脱のきっかけにもなってしまうようです。ここは要注意ですね。

若年層、興味喚起の4つのポイント

存在を知ったドラマについて、視聴への興味を喚起するポイントも調べてみました。全体では「出演者」「ドラマジャンル」「テーマ」などが多く挙がっています。

そのなかで10~20代で特に高い項目に注目すると、若年層には興味喚起の4つの特徴が見えてきました。

1つ目は「番組選びは動画選び」。若年層で特に高かった興味喚起ポイントが「名シーン、面白シーンがある」。これは切り抜き動画との相性につながります。また「ポスターやサムネ写真」は、YouTubeの動画をサムネイルで選ぶ感覚に似ています。さらに制作陣やテレビ局名も気になるようです。

2つ目は「ドラマに宿るプロのセンスへの注目」。10~20代は、他の世代より「主題歌や挿入歌の楽曲」「ファッションやメイク」への関心も高く持っていました。

野田上席研究員
野田上席研究員

ドラマの放送局や制作チーム、つまり作り手が気になるのは、クリエイターで選ぶYouTubeに似ています。まさに動画世代の感覚ですね。若年層は、さまざまなコンテンツに触れているからこそ、テレビ局ならではのプロのセンスや、最先端を押さえたプロの技に注目しているようです。

そして3つ目は「今の自分のモードにぴったりの選択肢」。10~20代は「みんなで楽しめる」「ながら見にちょうどいい」の項目も他の世代より高くなっていました。

4つ目が「目に見える評判」。10~20代では、他の世代よりも再生回数やお気に入りの登録数などの数字として目に見える評判に注目しています。

野田上席研究員
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若年層は、家族での視聴やながら見など、自分のモードにぴったりな選択肢という視点を持っています。評判を確認するのが「Xのトレンド」「TVerでのランキング」と多面的なのは、複数のプラットフォームで視聴していることの現れです。

若年層、新ドラマへのファン化ポイントとは

若年層のファン化のポイントも4つに分類されます。ここでは興味喚起との共通点も見られました。

1つ目は、「思わず切り抜きたくなるプロのセンス」。心に残るシーン、思わず口にしたくなるセリフが切り抜かれて、SNSで話題になるという現象が起きています。

また、若年層はファン化するときに「世界観」「映像美」「ファッション・メイク」といった、プロフェッショナルの仕事にも注目しています。

2つ目として「みんなで盛り上がる体験」も重要視されています。若年層では「家族や友人知人と盛り上がる」「SNSでみんなと一緒に実況できる」と回答した人が他の世代より多く、リアル、オンラインにかかわらず、誰かと盛り上がる体験が作品への熱につながっていました。

3つ目は、「作り手を含む“みんな”の熱が自分の熱になる」です。若年層ではファン化のポイントとして「制作者や演者の熱意」「チームワーク」「撮影のプロセスや裏側などの作り手の顔」、さらには「ファンの熱いコメント」も挙げられています。SNSなどからこれらの熱を受け取り、自分の熱にしている姿が見えてきました。

最後に4つ目は「本編にとどまらずに多様に推せる仕掛け」。若年層では「スピンオフやサイドストーリー」「二次創作」「関連グッズ」「劇場版」というポイントも、他の世代より高くなっていました。

野田上席研究員
野田上席研究員

そのドラマを見ている時間だけでなく、日常の中で楽しむ時間のシェアが増やせるかどうかも作品にハマる鍵になるのです。

調査結果からは、10~20代のメディアジャーニーでは認知からファン化に至るまでSNSの存在感が大きく、なかでもショート動画が大きな役割を果たしていることがわかりました。

また、タイムラインで玉石混交のコンテンツに日々触れているからこそ気づく「プロならではのセンス」が、興味喚起、ファン化のフェーズで注目。さらにメディアからの、ドラマ本編以外の様々な場で推せる仕掛けも効果を発揮していることがわかりました。

野田上席研究員
野田上席研究員

調査から、若年層のメディアジャーニーにおいてショート動画とTVerが新たなキーになっていることが見えてきました。

ここまで調査データから見える若者を中心として、ドラマのメディアジャーニーをお送りしました。後半の記事では、ドラマ制作や配信の現場からゲストを迎えて、生活者へのアプローチ最前線とこれからの新しい届け方についてディスカッションしていきます。



(編集協力=沢井メグ+鬼頭佳代/ノオト)

野田 絵美
メディア環境研究所 上席研究員
2003年博報堂入社。マーケティングプラナーとして、食品やトイレタリー、自動車など消費財から耐久財まで幅広く、得意先企業のブランディング、商品開発、コミュニケーション戦略立案に携わる。生活密着やインタビューなど様々な調査を通じて、生活者の行動の裏にあるインサイトを探るのが得意。2017年4月より現職。生活者のメディア生活の動向を研究する。



※掲載している情報/見解、研究員や執筆者の所属/経歴/肩書などは掲載当時のものです。