2022年から未来へ ~コロナはメディアの何を変え、どんな役割を強めたのか?

みなさま、明けましておめでとうございます。
メディア環境研究所GM/上席研究員の山本泰士です。

さて、オミクロン株の影響でコロナもなかなか落ち着かない状況ではありますが
2022年のはじまり、ということで昨年を振り返りつつ、これからへの展望のようなものを書かせていただければと思います。

昨年、メ環研に着任してから私がやろうとしていたことは「長引くコロナ禍の中でメディア環境、オーディエンスの何が変わったのか?」ということに一つの楔(くさび)を打とう、という試みでした。まずはその活動で見えてきた面白いトピックスをご紹介しましょう。

1 生活者は自分の「好き」に敏感・貪欲になった

(2021年7月発表「Picky Audience」より)


・コロナ禍でメディア環境のデジタル化が急加速
・配信サービスを中心に「好きな時、好きな場所で、好きなコンテンツ」に接触できる環境が整う
・コロナ禍の在宅時間の増加で生活者は「時間の使い方」の見直しを開始。好きなものに容易に触れられるメディア環境を活用しながら「無駄な時間を過ごしたくない」という欲求を高め「今の私が好きな(役に立つ・気分に合う)情報にだけ接したい」という思いを強めた

このような状況の中でもはや「リアルタイムの最新情報・コンテンツ」は必ずしも重要ではなく、生活者にとって「これを見たい」と思えるタイミングでメディア、コンテンツに出会えることが重要になっています。そして「これは好きなコンテンツかもしれない」と思えるきっかけさえあれば、これまで散々「TV離れ」と言われていたにも関わらず、TVコンテンツを愛する若者の姿も見えてきました。

2 SNS経由で「好き」な情報として出会えれば若者にもテレビは愛される

(2021年6月発表「令和のテレビっ子」より)
・若者のテレビ離れが叫ばれる中「テレビ発のコンテンツ」が好きかどうかを聞いたところ、実は10代20代の若者が最も「とても好き」と回答
・リアルタイム視聴はもちろん、スマホやタブレットで様々な配信プラットフォームを活用しながら縦横無尽にテレビコンテンツを楽しむ若者たち
・SNSでの「面白い」という評判で後追い視聴すればハズレがなく好きな情報にだけ接触できる。だから「好き」という気持ちも高まっている。

こう考えるとよく言われている「テレビ離れ」は「テレビ受像機離れ」なのではないかという一面が見えてきます。TVコンテンツであっても「これ好き!」「面白そう!」というきっかけがあれば配信プラットフォーム上でテレビコンテンツは見られる。さらに、SNSの高評価を頼りに視聴するのでハズレがなく楽しめ、深く愛される可能性があるのです。

そしてこの「好き」との出会いがSNSで生まれていることが象徴的なのですが、いまやメディア・コンテンツは個人的に楽しむだけではなく、SNSなどを通して人とつながり、孤独・孤立を回避する手段にもなっているということも見えてきました。

3 生活者は「好き」で人とつながり孤立・不安なオンラインベース社会を生き抜く

(2021年12月発表「推しがあるとうまくいく」より)

・コロナ禍が始まった2020年1月から話題性が加速した「推し」
・いわゆる一部「オタク」層だけではなく、一般的なマス層が「推し活」へと参入。6割以上の人々が「推し」を持つ新局面が到来
・コロナ禍で急速に進んだオンラインベースの生活の中、人間関係は希薄・分散化。オンライン上では炎上、対立が表面化し「安心してできる話題」が減少
・その中で「推し」という好きなものをコミュニケーションツールとして活用し、他者との安心な会話、親密な関係を維持しようとする生活者の姿が見えてきた。

このコロナ禍でメディア・コンテンツは単なる一過性の「刺激・娯楽」であるということだけでなく、そこから人々をつなげ、安心・安全を担保する社会的な役割を大きくしていたのです。

コロナ禍前から「エコーチェンバー」「フィルターバブル」などの偏った情報の中に置かれる生活者の現状は語られていました。
ただ今年研究して見えてきたことは、アルゴリズムに流され受動的に情報を偏らせるだけでなく、意識的に「好き」な情報と過ごす時間を求め、「好き」を使いこなして不安な社会を生き抜くたくましいオーディエンスの姿だったのです。

では、このような「好き」ドリブンでのメディア・コンテンツ接触が加速する中、
これからどのような変化が起こってくるのでしょうか?


いまひとつ私がぼんやりと考えているのは、
メディア・コンテンツは生きるための「居場所」になる
のではないか?ということです。

いま生活者は「好きな情報」を求め、そこから人とつながり、交流しながら「好きな情報」と接する時間を増やし続けています。

いつでも、どこでも配信サイトで好きなコンテンツと接触し、
アルゴリズムを活用して「好き」な情報を常時引き寄せ、
まとめ動画やファンアートなどコミュニティで日々創作されるコンテンツを楽しみ、
SNSやメッセージアプリを通じて仲間同士でコンテンツにまつわる会話、コメントを交わし…

いまや「好き」を求めて生きる人々は、コンテンツそのものだけでなく周辺情報も含れば延々と愉快な時間を「過ごす」ことが可能です。
これは、どのデバイスを使って、どのメディアに接触しているのか?というデバイスやメディア、チャンネルを「切り替える」感覚でのメディア接触ではありません。
もはや、どのコンテンツをベースに日常を生きているのかという感覚に近いのではないでしょうか。
正にコンテンツそのものが「居場所」的な空間になっているのです。

そして、このような動きは、2021年バズワードとなった「メタバース」へもつながるのではないかと考えています。

VR空間内でアバターをまとって集い、交流をするメタバース空間。
その中で人々の交流のコアになっているのがアーティストのライブやゲームなどのコンテンツです。ユーザーは疑似的な肉体を持ちながら「好きな情報」の世界に没入し、その中で過ごしています。

最近、私たちが行った有識者インタビューで聞いた話では、すでに先端層の中には、VRゴーグルをつけ1日のうちの5時間~6時間をこの空間のなかで生きる生活者が出てきているそうです。VR空間の中でユーザーはアバターに着せる服などのバーチャルアイテムも購入できます。VRプラットフォームであるフォートナイトではこのアイテムだけで30億~50億ドルの売り上げがあるというのですから驚きです。

また、この空間の中ではお金を「使う」だけでなく「稼ぐ」ことも可能です。バーチャルアイテムをユーザー自身が制作し売ることで稼ぐこともできますし、NFTを活用したゲームの中ではゲーム内でキャラクターを育て、そのキャラクターを売却し利益を得るPlay to earnというスタイルも生まれています。

このように考えると「推し」から見えてきた「自分の好きな情報空間で多くの時間を過ごす」という現象は大きな可能性を秘めていることがわかります。情報やコンテンツを「好き」という気持ちで人と人とを結び、「好き」なメタバース世界に没入させ、その中でお金を使い、稼ぐことまで出来る。いわば「生きるための居場所」としての未来が見えてくるのです。

その時に生まれる経済圏はメディア・コンテンツ企業はもちろん、多くの企業にとって見過ごすことのできない存在になるに違いありません。

ここに一体どのようなビジネスチャンスがあるのか?
日本のメディア・コンテンツ企業が飛躍するヒントは何なのでしょうか?

寅は千里往って千里還る、と昔から申します。
今年も躍動する寅のように激しい変化の年になりそうですが、この変化を好機ととらえる皆様に役立つ未来像をメディア環境研究所は洞察し、発信してまいりたいと思います。

本年もメディア環境研究所を何卒よろしくお願い申し上げます。

山本グループマネージャー
山本 泰士
グループマネージャー兼上席研究員
2003年博報堂入社。マーケティングプラナーとしてコミュニケーションプラニングを担当。11年から生活総合研究所で生活者の未来洞察に従事。15年より買物研究所、20年に所長。複雑化する情報・購買環境下における買物インサイトを洞察。21年よりメディア環境研究所へ異動。メディア・コミュニティ・コマースの際がなくなる時代のメディア環境について問題意識を持ちながら洞察と発信を行っている。著書に「なぜそれが買われるか?〜情報爆発時代に選ばれる商品の法則(朝日新書)」等

※掲載している情報/見解、研究員や執筆者の所属/経歴/肩書などは掲載当時のものです。