Z世代に響くメディアコンテンツのあり方とは? ~情報との関わり方にある意外な姿勢【メ環研の部屋】

おおむね1990年代後半~2000年代前半に生まれた若者を指す「Z世代」。その特徴はなんと言ってもデジタルネイティブ世代であることです。彼らは中高生、早くは小学生の頃からデジタルデバイスやインターネット、ソーシャルメディアの存在を前提とした生活をし、オンライン授業が本格化した最初の世代となりました。

そんなZ世代のメディアコンテンツとの関わり方について、メディア環境研究所では過去に「令和のテレビっ子」「倍速視聴」という観点で考察してきました。今回はさらに範囲を広げ「Z世代のトレンドキャッチ!情報行動とコンテンツの兆し」と題し、Z世代がとる情報行動の現在と未来について議論しました。

スピーカーに若年層の情報行動のアナリストであり、自身もZ世代であるお二人を迎えました。モデレーターはメ環研の野田上席研究員。Z世代の生の声をお聞きください。

イベント前半では、若者コンサル事業を行う株式会社ネオレアが実施した高校・大学生4名を対象としたヒアリング調査と中高生1500名を対象としたアンケート調査を元に、若者の情報行動における、押さえておきたい6つのポイントを考えました。

戎 光璃 (えびす・ひかり)
株式会社ネオレア 代表取締役
 1998年7月24日生まれ。高校3年生からフリーランスとして活動し、大学3年生で株式会社ネオレアを起業。 高校生時代は毎週原宿に通いながら、雑誌「HR」やKADOKAWAで活動。大学生になり若者向けのインフルエンサーイベントを主催して2500万円の売上を記録した経験をもとに、若年層向けのマーケティングを身につける。その後、若年層の企画やマーケティングを約30社で担当。若者コンサルの女子大生チーム『neorare』を2019年6月に開始し、約2ヶ月後の令和元年8月21日(ハニーの日)に株式会社ネオレアを設立。

ポイント1:YouTube視聴方法の新常識

調査からまず見えてきたのは、Z世代がYouTubeの倍速視聴やながら見を広く活用していて、10分以上の動画の場合、集中して全編を視聴することはないという姿が見えてきました。

しかし、コメント欄は必ずチェックし、他人の反応から動画の見どころをキャッチアップしています。面白いところだけを効率よく見るという行動をとっているのです。

ポイント2:2020年から若者のアニメ好きが増加

アニメ好きについて「2020年から」とつけた理由は、『鬼滅の刃』のブーム。ここを境に若者のアニメ視聴の習慣が定着したと言えます。

調査では『鬼滅の刃』を見始めた理由として、「友人との会話が盛り上がるから」を挙げる若者が一定数存在していることがわかりました。話題性だけでなく、見ていることを前提に話が進む場面も。人気アニメは、令和における「月9ドラマのような存在」とも言えるのです。

野田の「なぜアニメが月9的存在になったのか?」という疑問に対し、戎さんは「動画配信サービスにより、好きな時間や隙間時間に視聴できるようになったことの影響」を挙げました。

アニメ視聴の習慣は、『呪術廻戦』『東京リベンジャーズ』に引き継がれ、定着しています。

ポイント3:TikTokが「かなり」若者の情報収集の中心に

今回の調査では、中高生の70%がTikTokを利用していることがわかりました。TikTokが若者に好まれるのには、2つの理由があります。

1つ目の理由は、Z世代の若者の言葉を借りると「脳みそが完全に溶けている状態でも認識できる情報の解像度」。基本的に15秒から30秒という短尺動画が多いため、「脳みそが溶けている」すなわち「受動的な状態」でも必要な情報がスッと入ってくるのです。

例えば、レストラン紹介の動画では、15秒の中でおいしそうな食事と、食べた人の感想と値段、場所、店内の雰囲気というすべての情報が収まっています。

2つ目の理由が、最近追加された「セーブ」と「共有」機能。収集した情報を、友人に向けて発信しやすくなっているそうです。

そんなTikTokの情報収集、拡散力が顕著に現れているのが音楽です。新曲やトレンド曲の発信の担い手はテレビ番組が中心でしたが、若年層ではそれがTikTokに置き換わりつつあります。今回の調査でも84%が「TikTokで新曲やトレンド曲を知る」と回答しました。

データからはTikTokが若者にとって「かなり」情報収集の中心になっていることが見えます。

一方、利用していないと回答した人たちは、その理由に「依存が怖い」を挙げています。否定的な意見にも見えますが、裏を返せば、TikTokがそれだけ若者を夢中にさせるメディアコンテンツであるということなのです。

ポイント4:媒体で好きになる新しい好きの形

かつては誰かのファンになったら、その人のSNSは全てチェックするという推し方をするのが一般的だと考えられていました。しかし、Z世代の場合は「この媒体ではこの人が好き」という推し方をする人が増えているそう。

TikTokで特定のインフルエンサーを推していても、その人のInstagramやTwitterまではチェックしないという現象が起こっているのです。

野田はその理由について「媒体ごとの作法や、自分の気分で求めているものがマッチするかどうか重きを置いているのではないか」と考察しました。

ポイント5:Instagramへの意識の変化

「インスタ映え」という言葉が生まれるほど、ブームになったInstagram。Z世代のInstagramへの意識は、上の世代とは少し異なるようです。

Z世代は用途によって、いくつかのアカウントを持っているケースが見られます。いわゆる表の顔である「本垢」は、リアルな知り合いとの連絡先交換の受け皿として利用されています。

調査でも「本垢は多くの人の目に触れるから、自分ブランディングをちゃんとしたい」というコメントが見受けられました。自分をブランディングして、Instagramの世界観をちゃんとつくっていきたいという理想があるからこそマメに投稿する人がいる一方で、フィード投稿へのハードルが高いと感じる人も少なくないようです。

ポイント6:テレビは切り抜きで見る時代?

ポイント1〜5を通して、Z世代は情報収集や発信において、タイムパフォーマンスを気にしながら、楽に、効率よく行っている姿が見えてきました。テレビ視聴においても同様の傾向があるようです。

調査では、中高生の89%が「SNSでテレビの切り抜き動画をよく見る」と回答していたことがわかりました。

戎さんは「テレビ番組の無断転載はNGである」と前置きした上で、調査の中で「転載されているものは面白い証拠だから見る」という意見が出たことを紹介。野田も「切り抜きが、『絶対面白い場面』というオススメだと解釈されるのですね」と着目しました。

また、切り抜き動画が好まれる理由として「YouTubeは課金すれば広告を消せるし倍速で見られるから、テレビよりもYouTubeの切り抜きの方が圧倒的に見やすい」が挙げられました。

後半では、Z世代のうち、より先進的な価値観を持っている層を中心とした調査報告を行います。

牧島夢加(まきしま・ゆめか)
博報堂ミライの事業室みんなの事業チーム
慶應義塾大学法学部を卒業後、大手広告代理店のビジネスデザイン部門でのインナーアクティベーション開発を経て、2020年にSEEDATAに入社(その後、博報堂ミライの事業室に転籍)。専門領域は「若者」で、現役の大学生らと一緒に、日々Z世代を中心とした若者の思考回路や消費行動を分析し、その知見をもとにクライアントの次世代攻略プロジェクトに活用している。これまで日用品・化粧品・飲料・食品などのFMCC領域を中心としたプロジェクトを担当。現在はクライアント企業とのJV設立を目指した事業共創業務に従事している。

牧島さんの調査では8名の学生を対象に「テレビ視聴について」「情報収集」についてのオンラインインタビューが行われました。調査からは7つの特徴が見えてきました。

本レポートでは、7つの特徴を3つのグループに分けて紹介します。

Z世代で起きた情報の取り方における変化

世の中で起きていることを広くキャッチアップできるニュース番組。調査では、YouTubeでニュース番組を視聴している若者が複数見られました。

若者にYouTubeのニュース番組が好まれている理由の1つが、コメンテーターがいないこと。Z世代はフラットな部分を大事にする価値観が強く、あくまでファクト重視。中立ではない議論を好まない傾向にあります。

そのため、淡々とニュースだけを流すYouTubeのニュース番組とは相性がいいようです。またコメンテーター同士の議論が始まると「蚊帳の外」にいるような感覚に陥るという声もありました。

一方で、コメント欄はしっかり見ていますよね?」という野田の疑問に対し、牧島さんはニュースと共に視聴者のコメントを見ることができるTikTokでのニュース視聴を例に挙げ、「コメントからは大まかな世論を知ることができます。検索する以上の手軽さを感じているのではないでしょうか」と考察しました。

ではTikTokで知ったニュースをさらに深掘りしたいときは、どのような行動がとられるのでしょうか? 使われるツールは検索エンジンではなく、Twitterです。

Twitterで「アメリカの選挙」と検索すれば、「話題」のタブに著名人や専門家の投稿が上がってきます。Z世代は大量の情報の中から信用できる情報をどう探すかという根本の課題に対し、Twitter検索でスクリーニングをかけて対応していました。

野田は「しかもTwitterなら140字で情報が出てきますね」とTwitterで読むことの利点を示しました。確かさだけでなく手軽さが求められた結果、Twitter検索が支持されていると言えそうです。

新しい情報は友達のTwitterのいいね欄から

アルゴリズムの発達により普段から関心を持っている情報は自然に引き寄せられる一方で、ハッとするような新情報はかえって取得しづらくなっています。これをフィルターバブルと呼びますが、Z世代はその対策にTwitterのいいね欄を活用している様子が見えてきました。

例えば、スキンケアに興味がある場合、漠然と検索するのではなく、スキンケアに詳しい友人のTwitterアカウントのいいね欄をチェック。Z世代にとって、いいね欄とは、詳しい人の目利きによる情報が集まる場所なのです。

さらに調査では「ある人の思考を学びたいとき、その人のいいね欄にあるツイートを同じようにいいねする。そうすることで自然に情報が集まる」という活用法も。

牧島さんも、このTwitterのいいね欄の活用法にはびっくりしたそう。続けて、野田からも「自分のSNSのアルゴリズムを、なりたい人の思考で育てていくということですね」と驚きの声が挙がりました。

Z世代がテレビに寄せる期待とは?

次にZ世代とテレビとの付き合い方を調査したところ、さらに驚きのワードが飛び出しました。それが「テレビ視聴は親孝行のため」というもの。

牧島さんは「Z世代全員ではない」と前置きしながらも、親との共通の話題を得るためにテレビを見るという視聴行動が生まれていることを指摘しました。

さらに戎さんは自身の「好きな芸能人がドラマに出ていることを、母親に教えてもらって初めて知った」というエピソードを紹介。

ここで野田が「母親から流行を取り入れることはありますか?」と質問。牧島さんは「よくあります。母親がテレビを見ているからこそ“逆流”が起きていると言えます」と回答しました。Z世代は、テレビに慣れ親しんでいる親を通して情報を得ていると言えるかもしれません。

Z世代のテレビとの関わり方について、もう1つ面白い傾向が見えてきました。彼らが世の中の全体のトレンド情報のキャッチに利用するのは、InstagramでもTikTokでもなく、テレビだったのです。

調査では、「世の中の流行をテレビで初めて知った」という意見が寄せられました。Z世代は、普段から興味関心のあるトピックをフィルターバブル状態のSNSを通して収集しています。言い方を変えれば、世の中の流行が自身の興味関心以外にある場合、SNSだけでは情報をキャッチアップしづらいのです。

その点、テレビは大きい情報をまとめてトレンド化し発信しています。Z世代はSNSだけで集めきれない世の中の大きな流れを知る機会として、テレビに期待を寄せていることが見えてきました。

牧島さんは「Z世代は自分が知りたい情報に関しては能動的に取りにいって、トレンドになっていそうな全体的な話題に関しては受動的という傾向にあります。能動と受動を使い分けて情報収集しているのが面白いですね」とし、後半パートは締めくくられました。

まとめ

登壇をした牧島さん(左)、戎さん(右)はどちらもZ世代の当事者

アルゴリズムを駆使した「情報引き寄せ行動」が広まっています。しかしその結果、新しい情報を取りづらくなっている現状も見えてきました。

情報の洪水の中で新しい興味を広げたいとき、私たちはどうすればよいのでしょうか。Z世代はその欲求を叶えるための、楽でかつ確かな方法探しに長けているのかもしれません。

広げたいときは、友人、テレビ、母親から。押さえたい情報はTikTokで楽に集め、Twitter検索からエキスパートの意見を読む。そして深めるには面白さが保証されている切り抜き動画。

野田は「新しい情報の渦の中で、エラ呼吸をうまくしながら水陸両用で生き抜いていく生き物」とZ世代をたとえます。

デジタルネイティブであるZ世代は、新しいメディアコンテンツにすぐ馴染んでいきます。その一方で、シーンや目的に合わせてマスメディアともうまく付き合う。メディアコンテンツに対して、かつてないほどの柔軟性を持つのがZ世代の特徴なのかもしれません。

(編集協力=沢井メグ+鬼頭佳代/ノオト)

登壇者プロフィール

野田上席研究員
野田 絵美
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員
2003年博報堂入社。マーケティングプラナーとして、食品やトイレタリー、自動車など消費財から耐久財まで幅広く、得意先企業のブランディング、商品開発、コミュニケーション戦略立案に携わる。生活密着やインタビューなど様々な調査を通じて、生活者の行動の裏にあるインサイトを探るのが得意。2017年4月より現職。生活者のメディア生活の動向を研究する。

※掲載している情報/見解、研究員や執筆者の所属/経歴/肩書などは掲載当時のものです。