【MORE MEDIA 2040】マスメディア主力の時代からオンライン常態化へ ~4つの転換点から見るメディアの「これまで」と「いま」~@メ環研フォーラム2022夏

2020年からのコロナ禍を境に、メディア環境、そして生活者のメディアに対する意識は大きく変化しました。これは一時的なものではなく、不可逆的な変化であり、今後はAI、メタバースの登場によって、メディア環境にはさらなる変化が起こっていくでしょう。

メディア環境研究所では、メディア環境の未来を考えるためには現状にとらわれない長期的な視座、視点をもつことが重要であると考えて調査研究を進めています。2022年7月開催のフォーラム「MORE MEDIA 2040 ~メディアは、体験し、過ごす空間へ~」では未来への洞察を深めるべく、メディアの「これまで」と「いま」を知り、「2040年のメディア環境」を着地点として議論を行いました。

フォーラムレポート第1弾では、調査から見えたメディアの「これまで」と「いま」について報告します。発表者は新美妙子上席研究員です。

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メディア環境が迎えた4つの転換点

メディア環境研究所が毎年1回実施している「メディア定点調査」。調査ではメディアの接触時間、イメージ、サービスの利用、デバイスの所有から、メディア意識・態度に至るまで、メディア生活全般を定点観測しています。

今回のレポートでは、過去17回の調査を時系列で振り返り、メディア環境の4つの転換点を軸に2006~2022年に起きた変化を報告します。

メディア環境研究所が調査を始めた2006年のメディア総接触時間は335.2分、接触時間の大半をマスメディアが占めるというマス主力の時代でした。

その中で迎えた1つ目の転換点が2011年の「デジタルシフト」です。「パソコン」の接触時間が80分台を突破し、「パソコン」がデジタルシフトを牽引します。

2つ目の転換点「モバイルシフト」が起こったのは2014年。「携帯/スマホ」の接触時間が、「パソコン」を上回ったのです。この年、定点調査でのスマホ所有率は59.1%と初めて半数を超えました。急速なスマホの普及がモバイルシフトを後押ししたのです。

第3の転換点は2019年、調査開始以来、初めてメディア総接触時間が400分台を突破しました。2006年の調査開始時と比べ、1時間以上も総接触時間が増えています。

さらにコロナ禍のメディア環境を初めてとらえた2021年の調査ではメディア総接触時間は450.9分と過去最高を記録。「携帯/スマホ」の伸びに加えて、「パソコン」が8年ぶりに70分台に回復、「タブレット」が初めて30分台と大きく伸び、第4の転換点であるデジタルすべてが牽引する「オンライン常態化」の時代に突入したと言えるでしょう。

そして、オンライン常態化が続く2022年には、メディア総接触時間の首位が初めて「テレビ」から「携帯/スマホ」へと変わりました。

若年層がデジタルシフトを急速に牽引

続いて、メディア総接触時間の構成比の推移を「パソコン」「タブレット」「携帯/スマホ」のデジタルのシェアに着目して見ていきます。

2006年のマス主力時代は、デジタルのシェアはわずか2割でした。その後、デジタルシフトする2011年には3割、モバイルシフトが加速する2014年に4割、接触400分台になる2019年の前後3年は約50%で定着。

しかし、コロナ禍を境にデジタルシフトは再び加速。2022年は57.2%と前年よりさらに伸びました。

全体ではデジタルシフトが加速していますが、性年代別に見ると、高齢層はテレビのシェアが、若年層は携帯/スマホのシェアが高く、メディア接触には差があります。最もデジタルシェアが高いのが20代男性で、8割に迫る勢いです。

デジタルシフトを牽引してきた20代のメディア総接触時間の構成比を時系列に見てみましょう。まず全体のデジタルシェアが2割だったマス主力時代から20代は3割を超えていたことが確認できます。そして、2011年には半数近くがデジタル。2019年の全体の状況に匹敵しています。

20代のデジタルのシェアは2006年から実に41pt伸長しました。つまり、デジタルシフトは若年層が急速に牽引してきたことが見てとれるのです。

マスメディアへの接触方法が多様化

メディア環境の急速な変化に伴い、マスメディアのコンテンツへの接触方法も多様化しています。メディア接触時間を聞いた後で、各マスメディアについて、その時間に具体的にはどのような利用をしたのかを聞いています。

テレビの接触時間に何が含まれているかを例にとって説明します。この3年間の変化で注目したいのはテレビの接触時間に「有料動画」「無料動画」を入れる人が増加している点。その背景には情報機器やインフラの変化があります。

2022年の調査では、「テレビのインターネット接続率」が初めて過半数に達しました。またコロナ禍を境に「動画をテレビ画面で見られるデバイスの所有」も大幅に伸びています。これらの結果から、テレビは「インターネットに接続されたスクリーン」へと変化したことが感じられます。

テレビはインターネットに接続され、新たなスクリーンへ

では、生活者はテレビのスクリーンで一体何をしているのでしょうか。各項目の利用率を2020年(メディア定点調査ではコロナ禍前)と2022年で比較しました。コロナ禍を境に減少したのは「録画」「ブルーレイやDVD、ビデオ」という所有できるコンテンツ、反対に増加したのは「動画」や「見逃し視聴サービス」といった配信サービスでした。

一方、スマホのスクリーンはテレビのスクリーンで行われるメディア行動に加えて、ショッピングなどの生活行動も見られます。コロナ禍で伸びたトップ3は「無料動画」「有料動画」「テレビ番組」でした。

テレビ受像機でテレビ番組を見ることが当たり前だった時代から、スマホでテレビを見る時代へ。つまり、メディアのハードとソフトは分離傾向にあると言えるのです。

メディア行動は、主体的に「好きなものを、好きな時に、好きなだけ」

続いて、情報に関する変化を見ていきましょう。

まずメディアイメージに関する調査結果を2つ紹介します。生活者が「情報が早くて新しい」と考えているメディアの首位が「テレビ」から「携帯/スマホ」に取って代わったのは2015年でした。

次に「知りたい情報が詳しくわかる」の首位が「パソコン」から「携帯/スマホ」に取って代わったのは2019年。その時に起こったことは、膨大な情報量がいつも手元にあるようになったということです。常に新しく膨大な情報量にいつも手元でアクセスできる環境に変化していきました。

そして生活者はSNSという新たな情報源を手に入れました。SNSに関する意識・態度を見ていきましょう。「SNSは自分の暮らしに必要」と回答した生活者はこの6年間で20pt以上伸びました。「SNSの情報がキッカケでテレビを見ることがある」という意識も増え、2022年には4割を超えました。拡散や共有など情報の出口として使われていたSNSですが、近年では、SNSがキッカケとなってメディア行動につながるという情報の入口としての利用が増えています。

その一方で「SNSだけでニュースを取得するのは不安」という意識も高まっており、SNSを冷静にとらえている様子も伺えます。

「インターネットの情報はうのみにはできない(85.1%)」から「気になるニュースは複数の情報源で確かめる(72.1%)」という生活者の情報戦略も年々高まっています。情報が溢れるいま、絶対的にたしかな情報を得るのは難しく、複数の情報源で生活者は自分なりの“たしからしさ”を得ているとメディア環境研究所ではとらえています。

メディア意識64項目を2022年と2021年の差分でランキングしたところ、2022年最も高まったメディア意識は、「テレビ番組や動画など気に入ったコンテンツは何度でも繰り返し見たい」でした。2021年から7.1 pt上昇して2022年には64.1%でした。この意識は初めて調査した2017年から22.3ptアップと急速に伸びています。

同時に新美上席研究員は、2021年首位だったメディア意識「好きな情報やコンテンツは好きなときに見たい」にも言及しました。

「調査から、生活者はなんとなく何かを見るということではなく、自分が気に入ったものを好きなときに何度でも繰り返し見たいという欲求を持っていることがわかります。オンライン常態化という環境の中で、生活者のメディア接触は、より意識的にそして主体的になっていると言えるでしょう」(新美)

コロナ禍で生まれたメディア行動は若年層に顕著

調査からは、コロナ禍で生まれた新たなメディア行動が若年層に顕著であることも見えてきました。1つ目は「つなぎっぱなしのオンラインコミュニケーション」。音声やビデオ通話を使って、家族や友人と数時間つなぎっぱなしで過ごすことがあると回答したのは、全体では1割強、若年層は3割を超えました。

2つ目は「オンラインでのコンテンツ同時視聴」。別の場所にいる家族、友人と、同じコンテンツをオンラインで同時に楽しむことがあると回答したのは、全体では1割、20代では3割に迫り、若年層で高い傾向が見られます。

コロナ禍では、オンラインを介して空間をつなげ、別の場所にいる家族・友人と同じコンテンツを楽しむという新たなメディア行動が生まれました。

コロナ禍でオンラインの時間が長くなる中で、生活者は「オンラインの生活とオフラインの生活の境目」をどう捉えているのでしょうか。調査の中で「境目がない」と回答したのは全体で21.0%、20代では28.6%でした。

新美上席研究員は「2022年のいま、オンラインとオフラインの生活の境目がない人が既に2割もいることは想像以上であった」と言及しました。

まとめ

「マス主力」から「オンライン常態化」まで、17回にわたるメディア定点調査からはメディア環境の大きな変化が見えてきました。「つなぎっぱなしのオンラインコミュニケーション」や「オンラインでのコンテンツ同時視聴」などの新しいメディア行動の登場によって「メディアの行動と生活行動の境界がどんどん溶けていく」という兆しがあると新美上席研究員は分析します。

最後にコロナ禍で「つなぎっぱなしのオンラインコミュニケーション」や「オンラインでのコンテンツ同時視聴」を実践した20代女性のインタビューを紹介します。

「オンラインは何かの代替ではなく、選択肢が増えたという感覚」と話す彼女は、コロナ禍で生まれたオンライン行動はコロナが収まった後も元に戻ることはないと言います。その理由をこう話しました。

新美上席研究員は「デジタルシフトが加速した結果、メディア上に自分の居場所があると生活者は自然に考えるようになり、オンライン生活とオフライン生活を自由に行き来していることが見えてきました」と話します。生活者を取り巻くメディア環境は大きく変化しているのです。

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こちらで発表した資料はダウンロードいただけます。

(編集協力=沢井メグ+鬼頭佳代/ノオト)

登壇者プロフィール

新美妙子
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員
1989年博報堂入社。メディアプラナー、メディアマーケターとしてメディアの価値研究、新聞広告効果測定の業界標準プラットフォーム構築などに従事。2013年4月より現職。メディア定点調査や各種定性調査など生活者のメディア行動を研究している。

※掲載している情報/見解、研究員や執筆者の所属/経歴/肩書などは掲載当時のものです。