社会課題解決に対してメディアができることは? @メ環研の部屋

SDGsへの取り組みを企業活動の中核に据える動きが当たりまえのことになりつつあります。しかし、具体的なアクションを模索しているメディア企業は少なくありません。具体的に、コンテンツ開発にSDGsをどう活かしていけばいいのでしょうか?

様々なプレーヤーと協業しながら、社会と会社の課題を同時解決するアイデアを提供するクリエイティブブティック・株式会社SIGNINGのStrategist・共同CEO牧貴洋氏をゲストにお呼びし、社会課題解決とメディア企業の成長について考察します。

モデレーターは、「メディアのSDGsって? 事例と調査から考える、次の一手とは」を発表したメディア環境研究所・瀧川千智上席研究員です。

「行動様式の概念化」で社会課題への賛意と行動のギャップを埋める

SIGNINGでは、活動の一つとして、さまざまな社会課題や人々の認識をリサーチし、レポートとして世に送り出してきました。

レポートのテーマはウェルビーイングやポストコロナなど、多岐にわたります。特に、2020年5月に発行したコロナレポートは様々なメディアで取り上げられました。

牧さんは次の4つの切り口で、それらの活動から見えてきた社会課題起点のコンテンツづくりのアプローチを整理しました。

まず、「1:賛同と行動のギャップを探せ」について、2022年春に公開したソーシャルイシューに関わる賛同率と行動率をリサーチした「Social Sign Report」をもとに考えていきます。

「Social Sign Report」は、社会課題に関わる約30項目のアジェンダを設定し、各項目について日本を含めてグローバルでどれくらいの人が賛同して、行動しているかを調査したレポートです。

海外5都市と日本のリサーチ結果を比較したところ、「日本は賛同率と行動率のギャップがもっとも大きい国だ」ということを発見しました。

特に育児休業やワーケーションの取得、地方移住/二拠点生活、フェアトレード、副業、個人情報開示範囲などが賛同率と行動率のギャップの大きいテーマになりました。

「日本では意識レベルではすごく賛同しているが、行動として顕在化していないことがわかりました。このギャップが、コンテンツ開発の切り口になる可能性があります。今の賛意を見える化・概念化することで、行動喚起につながられるのではないでしょうか」(牧さん)

例えば、「就職活動をリクルートスーツではなく私服で行うことも認められるべき」については、「そう思う(62%)」と多数派です。ところが、現実はリクルートスーツが定番のままで、行動につながっていません。そこで、「ドレスコードレス就活」のような概念をつくり広めれば、就活における服装の自由化を後押しできるかもしれません。

そのほかにも、「#ドレスコードレスオフィス」「#ジェンダーレス制服」「#キャンピングオフィス」「#休暇報酬」といったキーワードの提案も。

また、「企業は(家庭の用事に応じて柔軟に休みが取れる)家事休暇の制度を導入すべきだ」には、「そう思う(78.3%)」と圧倒的多数です。これについては、在宅勤務であれば「1日1時間は家事休暇を取れる」といった新しい働き方に対応した休業制度があっても良いかもしれません。

「賛意を定量化した上で、新しい行動様式として概念化し、さらに実例を取り上げることで、社会の大きなムーブメントが生まれます。それが様々な産業を巻き込む新しいテーマになり、ひいてはクライアントの商品が広告・コンテンツとしてコラボレーションしていくニーズにもつながるのではないでしょうか」(牧さん)

ニューノーマルのアリナシ議論を喚起する

続いての切り口は、「2:ニューノーマルの賛否両論に切り込め」。SIGNINGがまとめた在宅勤務に関するレポート「HOME BIZ Report」では、リモートワークのビジネスマナーにまつわる「これってアリなの?ナシなの?」を調査しました。

例えば、「オンライン会議中の画面ONの要求」。アリが若干上回ったものの、ほぼ半々。一方、「オンライン会議時の発言に対する拍手やいいねマークでの反応」は、年代ごとに差はあるものの、ナシが若干多かったことがわかりました。

そのほかの問いでは、「業務時間ギリギリまでの睡眠」は賛否が拮抗し、「上司からの指示による始業時間前・就業時間後のオンライン会議」には否定的な意見が多く集まった。

「コロナ禍のニューノーマルな生活様式における慣習やマナーは、ほとんどルールが整備されず、個人の判断に委ねられています。今後は、アリ派・ナシ派双方の立場や考えに対する理解を深めることも必要になっていくはずです。その議論を呼び起こし、社会的なコンセンサスを取っていくこと自体が、コンテンツづくりの切り口になると考えています」(牧さん)

パーソナルな課題にヒントあり。自分の声に耳を傾ける

「3:パーソナルイシューから考えろ」は、個人の暮らしと結びつきの深い社会課題から切り口を見つけようという提案です。

例えば、「働き方改革」は社会的な関わりが非常に大きなテーマです。その大きなテーマを、「個人のウェルビーイングをいかに高めるか」という生活者起点で見ると、一気に自分ごと化しやすくなります。

SIGNINGで実施した別の調査結果を見ていきましょう。10・20代の男女に「マイノリティ意識」を尋ねたレポート「Silent Minority Report」を参考にしてみます。

約6割が、「人から変わっていると言われて傷ついた」「人と違ってコンプレックスに感じている」と回答しました。多くの若者が孤独や悩みを感じており、言い換えれば、誰もがマイノリティと言える状況でしょう。

「世の中には声を上げない多数派『サイレントマジョリティ』という言葉がありますが、同時に声を上げない少数派『サイレントマイノリティ』が存在すると考えています。他人にとっては些末に見える問題も、本人にとってはすごく深刻で人には言えなかったりする。しかし、そのマイノリティ意識は特殊なものではなく、言わないだけで誰もが持っているものなのかもしれません。そういった悩みから普遍的なエッセンスを抽出することで、新たなソリューションやサービスをつくることができるのではないでしょうか」(牧さん)

社会課題にゲーム性・エンタメ性を盛り込み、共感を呼び起こす

最後の視点は、「4:その企画は笑えるかどうか」です。社会課題はどうしても重くて深刻になってしまうので、共感を得にくい場合があります。そこで、NHKで『プロフェッショナル 仕事の流儀』『クローズアップ現代』などのドキュメンタリー番組を制作していた小国士郎さんは、明るく楽しくポップに伝えることを大事にしているそうです。

参考:コロナ、がん、認知症など重い社会課題に”太陽のアプローチ”を。「注文をまちがえる料理店」小国士朗さんが起こした『笑える革命』(スーモジャーナル – 住まい・暮らしのニュース・コラムサイト 2022/8/1)

その考え方に近いのが、2022年にCANNES LIONSでブランド・エクスペリアンス&アクティベーション部門ゴールドを獲得したコロナビールの事例です。海洋プラスチックゴミの増加で業務に支障をきたしている漁師の方に対して、プラスチックゴミの回収量を競う「プラスチック・フィッシング・トーナメント」という企画を開催。取り組みが評価され、世界各国で展開されました。

また、SIGNINGでも「社会問題を重く・硬く・真面目にとらえすぎない」という観点での商品作りにも取り組んでいます。

江ノ島のエシカルフード「ZACO YAKI(ザコヤキ)」。漁獲量の少ない、知名度が低い魚種、形が悪い・傷がついているなどの理由から価値が付かない「未利用魚」を利用した。

「結婚の定義や家事労働への問題提起をしたドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』が大きな話題を呼んだように社会課題に関するテーマをエンタメに昇華させることは、日本のテレビ業界が得意としてきたことではないでしょうか。こうやって社会課題解決の取り組みにゲーム性やエンタメ性を盛り込むことで、誰もが気軽にエントリーできるようになります」(牧さん)

カテゴリーを横断するキーワードで需要を創出

ソーシャルイシューの重要性は理解できる一方、その取り組みにクライアントがなかなかつかないことは広告業界の課題の一つでした。ここからは、社会課題というテーマに広告主をどう巻き込むかについて考えていきます。

牧さんは、この問題にアプローチするヒントとして、次の3つの視点を掲げました。

まず、「1:統合型の市場創造で新しい広告需要を作る」とはどういうことなのでしょうか? メディアが得意とするのはいろいろな市場にまたがる共通の要素を見いだして、カテゴリー横断の新しいマーケットをつくる、いわゆる「統合型」の需要創造モデルです。

例えば、国から発信された「クールビズ」は、温暖化対策という課題に紐づくメッセージですが、その言葉のもとで百貨店に専用の棚ができたり、アパレルで新しい商品が生まれたりしました。このように、複数産業・カテゴリーにまたがる「新市場キーワード」を生み出していくことが重要です。

このように考えると、さまざまなアイデアが考えられます。例えば、日本人の平均通勤時間「39分」を切り口に、在宅勤務化で1日39分の余剰時間が生まれたと捉えてみましょう。そこに対して「在宅勤務化で浮いた39分を自分のために使ってみませんか?」という提案をする「39ミニッツ」というキーワードもつくれるかもしれません。

ほかにも、快適な在宅勤務を支える新市場として「ホームビズ」というキーワードを掲げれば、アパレルや家電、フィットネスのようなカテゴリーを横断した需要を想像できるのではないでしょうか。

ブランディングや採用でもSDGsの比重は高まると予想

次に「2:高まる企業ブランディングのニーズに対応する」について。

帝国データバンクが約1万社の企業を対象にした調査によると、「SDGsへの貢献によって向上が期待している企業価値」について、「企業好感度(53.3%)」で、続いて「社員のやる気(35.1%)」「株価(12.7%)」と回答し、さまざまな面で期待を寄せているのが読み取れます。

昨今、学生は「仕事を通して社会貢献できるかどうか」を重視する傾向にあるため、SDGsが新卒採用のリクルーティングメッセージの中心にもなっていくことも考えられます。

また、一般生活者との接点を持ちづらく、人材不足の課題を抱えるBtoB企業からは、SDGsを起点に企業の知名度やブランドイメージを高めたいという引き合いがたくさんあるそうです。

こういった状況から、メディア企業は、知名度はそんなに高くなくても社会課題解決に挑戦する知られざる企業を紹介するような番組・コーナー・連載企画を用意するのも、一つのアプローチになるはずです。

株価対策の観点からもSDGs広告は重要なファクターになる

最後の視点は「3:SDGs広告を『やらないリスク』に着目する」。帝国バンクデータによると、企業の12.7%は「SDGsへの貢献で株価が上がる」と考えているそうです。

現時点ではまだ、SDGs経営で株価が上がるという学術的なコンセンサスは得られていないものの、欧州ではESGスコアが高い銘柄のうち、上位20%はコンスタントにパフォーマンスが良いこともわかってきました。反対に、SDGsに取り組まないことで、大口の機関投資家の投資を見込めなくなったり、株価指標の銘柄に組み込まれなくなったりというリスクも発生するかもしれません。

こうした背景から、今後は株価対策の観点でSDGs広告を行う企業が増える可能性があります。

「現実問題、TVCMを打つことが難しい企業も数多くあります。そんな企業の受け皿として、直近で株価に大きなインパクトを与えるようなトピックを持つ企業が、その狙いや背景をメディアで世の中に発信できるIR型/報道型の広告枠や記事・番組枠があるといいのではないでしょうか」(牧さん)

まとめ

今回のメ環研の部屋は、
・社会課題をコンテンツ開発にどう活かせばいいのか
・社会課題をテーマにして広告主をどう巻き込んだらいいのか
の2つのテーマについて掲げ、それぞれにおいて重要な視点を事例や提案とともに見てきました。

メディア環境研究所の瀧川千智上席研究員は、「SDGsへの認知度が高まり、今はより細かいテーマ設定をしていくフェーズに入っています。しかし、社会課題をまじめに取り上げすぎると、なかなか伝わらないもの。エンタメ化も含めて、SDGsに高い関心をも一部のエバンジェリストだけではなく、まだ行動につながっていない中間層に動いてもらう仕掛けが必要です。作り手も変わっていく必要がある時代になっていると思います」と加えました。

生活者のソーシャルイシューに関する意識が高まる中で、企業は何に取り組み、またどのように伝えればいいのか。施策とコミュニケーションの両方に課題を抱えているものです。その課題を解決に導くメディアコンテンツの事例や切り口を知っておくことは、クライアントのビジネスチャンスを広げる一助になるはずです。

(編集協力=末吉陽子+鬼頭佳代/ノオト)

登壇者プロフィール

牧貴洋
株式会社SIGNING  Strategist/共同CEO
2007年博報堂入社。2020年4月の、Social Business Studio「SIGNING」設立時から関わる。社会・暮らし・市場の「キザシ」を捉えながら、事業・ブランド・商品の成長の構想と実装に従事。
瀧川千智
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員(複属研究員)
2005年博報堂入社。マーケティングプランナーとしてトイレタリー、化粧品などを担当。2012年より働く女性マーケティング組織「キャリジョ研」を共同創設。2013年より博報堂DYメディアパートナーズ雑誌局でメディアプランニングやプロデュースを担当し、2020年には編集部活用ソリューション開発組織「博報堂DYメディアパートナーズMATCH」を創設し、メディア・女性の立場からインサイト開発やプランニングを行う。

※掲載している情報/見解、研究員や執筆者の所属/経歴/肩書などは掲載当時のものです。